国際フィーダー航路の集貨力に関する基礎研究 -西日本 - 日本航海学会

第131回講演会(2014年10月31日, 11月1日) 日本航海学会講演予稿集 2巻2号 2014年9月30日
国際フィーダー航路の集貨力に関する基礎研究
-西日本からの輸出コンテナ流動を中心として-
正会員○永岩 健一郎(広島商船高専)
正会員 新谷 浩一(東海大学)
正会員 松尾 俊彦(大阪商業大学)
非会員 田中 康仁(流通科学大学)
要旨
内航フィーダーの輸送量を増加させるには、次のような方策が考えられる。①陸上輸送されているコンテ
ナ貨物を海上輸送へシフトする。②海外の港湾でトランシップされている我が国の輸出入コンテナを戦略港
湾経由とし、地方港との国際フィーダー航路市場に取り込む。
(国際コンテナ戦略港湾と国内各港を結ぶ内航
フィーダー航路を「国際フィーダー航路」とよぶ。
)③内国貨物を内航フィーダー市場に取り込む。本研究で
は、国際コンテナ戦略港湾政策に資する②に着目し、海外においてトランシップされているコンテナ、特に
釜山港でトランシップされているコンテナを内航フィーダーにシフトするために、集計ロジットモデルを構
築し分析を行った。
キーワード:物流・海運、国際フィーダー航路、国際コンテナ戦略港湾政策、集計ロジットモデル
1.はじめに
トモデルにより分析を行い、サービスの向上により
戦略港湾と地方港を結ぶ国際フィーダー航路の
港湾利用の頻度が大きくなることを示している。し
活性化を図ることは、国際コンテナ戦略港湾政策に
かし、モデルの説明変数の t 値が示されておらず、
寄与するばかりでなく、我が国の海上・陸上ネット
どのような説明変数が経路選択に一番大きく影響す
ワーク全体の競争力を強化し、物流コストの低減及
るかについては考察されていない。
びモーダルシフトの推進等にも資すると考えられる。
また、津守(3)は日本のコスト構造から考えるなら
奥田ら(1)は、荷主等が我が国の港湾利用の定時性
ば、かつて神戸港が持っていたような全国ネット
や取扱いの信頼性といった物流の品質を重視し、最
ワークを再構築することは不可能であり、西日本で
寄り港よりも遠くても、拠点的な港湾(例えば阪神
は神戸港、大阪港を国内ハブとしてせいぜい瀬戸内
港など)を利用するものと推測している。このこと
圏のサービス重視型貨物で、中型船の寄港が困難な
は定性的な表現ではあるが、戦略港湾の優位性を示
地方港の後背地の貨物を集荷できる可能性があると
しているものと考えられる。
している。しかしながら、数理モデルを用いるよう
な定量的な検討はされていない。
そこで、本研究ではわが国のコンテナ流動分析を
通して、国際フィーダー航路の輸送量拡大といった
さらには、奥田ら(1)は精密機器など価格の高いも
観点から、西日本より釜山港トランシップ(以下 TS
のや食料品など定時性が強く求められる品種が、定
とする)を利用して輸出されるコンテナを、戦略港
時性・安全性に優れた国内ハブ港で TS され易い傾
湾に奪還する可能性について検討を行う。そのため
向にあると仮定し、神戸港 TS 輸出貨物を数理モデ
に集計ロジットモデルを構築し、航路選択要因の抽
ルにより分析している。ただし、説明変数は品目の
出や航路選択に影響を与える変数の弾力性効果を計
みとなっており、貨物価値の高い金属機械工業品が
測し、国際フィーダー航路利用の促進と戦略港湾の
神戸港を志向する品目としている。しかし、貨物価
取扱量を増加させる方策について、定量的な知見を
値の変化による神戸港 TS の弾力性変化は示されて
得ることを目的とする。
いない。
筆者ら(4)(5)は、これまで環境問題や外部不経済の
2.先行研究の内容と本研究の特徴
是正に資するため、陸上輸送から海上輸送へのモー
ダルシフトを意識した数理モデルの検討を行ってき
これまでの海外 TS と国内ハブ港湾との選択に関
して、数理モデルを使って検討したものはあまり見
た。
(2)
られないが、古市 らは、海外諸港経由と中枢港経
そこで、本研究では、国際コンテナ港湾政策に資
由の TS に関する競争関係について、
多項選択ロジッ
する国際フィーダー航路の取扱量の増加を検討する
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ため、釜山港 TS と阪神港 TS の選択モデルを構築し、
4.モデルの構築
モデルの再現性を実証するとともに、定量的に阪神
4.1 データと変数
港 TS 利用の促進を分析する点が特徴となっている。
前章で述べた基礎的分析をもとに、本研究では
2008 年の全国輸出入コンテナ貨物流動調査(一ヶ月)
3. 日本の内航フィーダー市場の概要
データを用いた。
わが国の内航フィーダー輸送は、日本内航海運組
生産地(県単位)と最終の船卸港が同一で、はし
合総連合会の調査によれば、2011 年度に 13 社 54 隻
け、船舶、フェリーを主な輸送手段として阪神港 TS
によって行われ、その量は約 60 万 TEU であった。
を利用しているデータと、阪神港以外の地方港から
一方、釜山港において TS されたコンテナの全量
釜山港 TS されている 290 の競合データを分析対象
は、2012 年に約 810 万 TEU もあり、その内、日本の
とした。
輸出入コンテナは約 120 万 TEU であった。この 120
輸送機関を選択する要因としては、国内における
万 TEU をどれほど戦略港湾に奪還できるかが今問わ
貨物輸送機関選択ではあるが、輸送コストや輸送時
れている。
間が大きな影響を与えることを田中(6)や尹(7)らの先
そこで、瀬戸内海に面する各県からの輸出入コン
行研究が示している。しかし、内航フィーダー船と
テナの内、釜山港での TS の状況をみると、四国地方
海外フィーダー船は大きさも様々であり、配乗して
側が 59.3%と高い TS 率となっており、中国地方側
いる船員数も当然異なる。加えて、内航は全員日本
においても 48.2%と高い数値となっている。また、
人である等、輸送コストを確定することは容易では
戦略港湾である阪神港においても 36.6%の TS が利
ない。したがって、明確な輸送コストや運賃をモデ
用されている。
ルに与えることは難しい。
さらに、広島県を発生地とする輸出コンテナの流
輸送時間については、入手したデータに掲載され
動状況を 2008 年全国輸出入コンテナ流動調査(一ヶ
ている生産地から船積み港(阪神港又は地方港)ま
月調査)からみると、広島港から直接海外に輸出さ
での輸送距離から、陸上は文献(8)より平均 30k/m、
れたコンテナは 23,670 フレートトン(以下、FT と
海上は文献(9)より平均 14 ノットと仮定し求めた。
する)であったが、神戸港まで運ばれて海外に輸出
今回は、神戸港までの距離が港湾選択に大きな影響
されたコンテナは 28,362FT であった。さらには、福
を与えるとする川崎(10)の研究の結果から、表2に示
山港、北九州港、岩国港などからも輸出されている。
すように阪神港までの距離によって、生産地を3つ
なお、広島港・岩国港・徳山下松港から海上フィー
のグループに分け、最終仕向け港についてもアジア、
ダーによって神戸港まで運ばれ、そこで TS されて
北米、欧州の3つに分けて、それぞれのデータにつ
海外に輸出されたコンテナは 4,522FT であった(表
いて集計を行った。
さらに、家田(11)や尹(7)らが注目した貨物のロット
1参照)。
これに対して、
釜山港 TS は 7,001FT であっ
た。なお、陸送フィーダーで神戸港に運ばれたもの
の代わりに FT も変数として使用した。
は 23,840FT と多く、国際フィーダー輸送の問題は釜
さらには、神戸港利用の要因となっているとされ
山港 TS のみならず、モーダルシフトの観点から見
る港湾統計品目と、申告価格も運賃負担力として影
ても課題を残している。
響があると考えられるので変数として与えた。
表1
広島県からの輸出コンテナの流動経路
(単位:FT)
発生地
主な輸送機関
発港
TS 港
釜山港
広島港
広島県
(78,989FT)
海上フィーダー
岩国港
徳山下松港
陸送フィーダー
神戸港
出所)2008 年全国輸出コンテナ貨物流動調査データより筆者作成。
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トン数
(FT)
消費地
7,001
3,236
1,142
144
23,840
海外
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表2
生産地と目的地別の阪神港までの平均距離
目的地
生産地
岡山、香川
愛媛、広島、山口
福岡、大分、宮崎
注)単位は km
アジア
北米
欧州
216.0
310.8
777.0
217.0
404.5
769.3
217.0
410.5
777.0
表3
各モデルのパラメータ
説明変数
モデル1
モデル2
-0.08859015
-0.08462321
時間差
(-16.1571)
(-3.69649)
-0.00168413
-0.00410024
FT 差
(-4.89278)
(-4.69408)
0.00000866
0.00000904
申告価格差
(18.46427)
(4.661706)
-2.99979802
化学工業品
------(-7.66734)
-3.53617643
雑工業品
------(-9.08415)
-0.38990944
0.06393020
定数項
(-3.26441)
(0.141921)
補正 R2
0.98512
0.7388
注)下段の()内はt値を示す。
4.2 モデル
離散型経路選択モデルとしては、判別モデルやロ
ジットモデルが利用されるが、最近では、個体の選
択が選択肢から得られるランダム効用に基づいて確
率的に行われるとするロジットモデルがよく利用さ
れる。生産地から最終の船卸港までの輸送経路とし
ては、阪神港利用、釜山港利用を対象とし、以下の
ような集計2項ロジットモデルを用いることとした。
なお、パラメータは最尤推定法により統計解析ソフ
5.感度分析と考察
トを用いて推定した。
生産地から阪神港までの輸送時間の変化と、FT 当
りの申告価格の差を変化させたときの、阪神港 TS に
P1n=1/(1+exp(V1n-V2n))
(1)
対する効果を品目が含まれないモデル2から求める
P2n=1-P1n
(2)
ことにした。申告価格と FT については、釜山港 TS
Vin=ΣθkXink
(3)
と阪神港 TS のデータの平均値を用いている。現状
ただし、
では、阪神港までの輸送時間が 35 時間であれば、釜
Pin:コンテナnが TS 港 i を利用する確率
山港 TS の選択確率が 90%強となることを示してお
Vin:TS 港 i に対する貨物nの効用
り、7時間でようやく両者が 50%となる(図1の赤
θk:説明変数kのパラメータ値
線参照)。
Xink:貨物n、TS 港iのk番目の説明変数
運賃負担力を変化させたケースとして、FT を 0.5
倍し、申告価格を 1.5 倍した場合の結果を図1の青
4.3 モデルのパラメータ
線で示している。この場合は、輸送時間が 35 時間で
モデルの推定結果を表3に示す。説明変数として
は釜山港 TS の選択確率が 70%に低下し、25 時間で
は、「輸送時間差」、「FT 差」、「申告価格差」と「品
選択確率が 50%と拮抗し、それ以下の時間になれば
目」とした。品目については、輸送 FT の割合の差を
神戸港 TS の選択確率が大きくなることを示してい
品目ごとに求めて変数として用いた。但し、相関係
る。例えば、広島から阪神港までの輸送時間は平均
数の高い品目と輸送 FT の小さい品目、更にt値の
で 18 時間である。現状では、釜山港 TS の選択確率
小さな品目を取り除いたものをモデル 1 とした。ま
が 0.7 であり、輸送時間を半減しても阪神港 TS は
た、品目が含まれていないものをモデル2とした。
0.5 を超えず、内航フィーダー船社自体の努力では
モデル 1 の補正 R2 は 0.98 と非常に再現性の高い
阪神港 TS へのシフトが容易でないことがわかる。
モデルであり、モデル 2 の補正 R2 も 0.74 と比較的
ただし、輸送対象の貨物が例で示したような付加価
高い再現性のあるモデルといえる。
値の高いものになれば、現状の輸送時間でも選択確
時間差と FT 差のパラメータが負であるので、こ
率が 0.65 と高くなることを示している。
れらが大きくなると釜山港利用が増加し、申告価格
差のパラメータは正であり、これが大きくなると阪
神港利用が増加することを示しており、FT あたりの
申告価格つまり運賃負担力の大きな貨物が阪神港を
利用する実態を良く表したモデルといえる。
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選択確率
第131回講演会(2014年10月31日, 11月1日) 日本航海学会講演予稿集 2巻2号 2014年9月30日
釜山港TS
阪神港TS
釜山港TS(50%)
阪神港TS(50%)
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
35
30
25
20
15
10
5
阪神港までの輸送時間
図1
阪神港 TS と釜山港 TS の選択確率の変化
(2) 古市正彦: スーパー中枢港湾育成に向けた内
航・外航連続型フィーダー航路の提案,運輸政
策研究 Vol.8 No.4,pp.2-11,2006 Winter.
(3) 津守貴之: 日本のコンテナ港湾の競争力再考,
岡山大学経済学会雑誌 42(4),pp.243-264,
2011.
(4) 永岩健一郎:モーダルシフトによる内航フィー
ダー輸送量の拡大に関する研究,内航海運研究
第 3 号,pp.53-63,2014.3.
(5) 永岩健一郎・松尾俊彦:
「トラック輸送の経路選
択モデルによるモーダルシフト分析」,日本航
海学会論文集,第 125 号,pp.105-112,2011.9.
(6) 田中淳・柴崎隆一・渡部富博:内貿ユニットロー
ド貨物の輸送機関分担に関する分析,国土技術
政策総合研究所資料,No.60,pp.1-19,2003.3.
(7) 尹仙美・片山直登・百合本茂:トラック輸送か
ら鉄道・フェリー輸送へのモーダルシフトモデ
ル,日本物流学会誌,No.13,pp.35-42,
2005.5.
(8) 平成 22 年度道路交通センサス,2012.
(9) 鈴木 武: コンテナ船および RORO 貨物船の燃
料消費量と長距離内航 RORO 貨物船輸送におけ
る燃料価格上昇の影響,国総研資料第 494 号,
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn
/tnn0494.htm,2014.8.8.
(10) 川﨑智也:西日本発北米航路における母船積み
出港の選択について,日本海事センター調査・
研究成果,
http://www.jpmac.or.jp/research/contribute
.html,2014.8.8.
(11) 家田仁・佐野可寸志・小林伸司:商品価格と流
動ロットに着目した都市間貨物輸送機関分担モ
デル,土木学会論文集,No.548,pp.1-10,
1996.10.
6.おわりに
本研究で得られた知見を整理すれば、以下の3点
となる。
①集計ロジットモデルの構築により、
阪神港 TS と
釜山港 TS に対する弾性力分析が可能となった。
②構築したモデルから、阪神港 TS へのシフトを
促進する条件は、フィーダー船の高速化による輸送
時間の短縮と、運賃負担力の大きい貨物を集荷及び
創貨することである。
③化学工業品、雑工業品は釜山港 TS を志向する
品目である。
また、本研究においては、次の課題が残っていると
言えよう。
①輸送コストを説明変数に導入するための検討
が必要である。
②国際フィーダー航路の取り扱い数を増加させ
るために、コンテナ化されていない内国輸送貨物を
フィーダー貨物として取り込むための検討をする必
要がある。
なお、本研究は日本学術振興会科学研究費補助金
(C)(2)課題番号 25420875 助成を受けて行った
研究成果の一部であることを付記しておく。
注及び参考文献
(1) 奥田夏生・東知輝・今村有里・竹中一真・寺田
日菜・赤澤麻:我が国の 際コンテナ戦略港湾集
荷力に関する一考 ~ 神戸港トランシップ貨
物に着目して~,ISFJ 政策フォーラム 2013 発
表論文,pp1-39,2013.12.
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