北海道の運輸行政

第131回講演会(2014年10月31日, 11月1日) 日本航海学会講演予稿集 2巻2号 2014年9月30日
北海道の運輸行政
正会員 磯崎道利(国土交通省北海道運輸局)
要旨
運輸事業は、我が国の経済社会の基盤を支える重要な役割を担っており、国民生活の安定・向上と産業の
発展に多大な貢献を果たしています。また、観光は地域消費の拡大、雇用の維持・創出など幅広い経済効果
や地域活性化に大きく貢献しています。
北海道運輸局では、運輸観光事業の基本である安全・安心の確保及び移動の円滑化と利便性の向上を図る
とともに、広く観光客を呼び込み、地域経済を潤し、地域が発展するように取り組んでいます。
キーワード:交通、物流、安全・安心、環境保全、観光
1.はじめに
北海道は、周囲を海に囲まれた広大な土地に人口
が分散しています。北海道の面積は全国の約22%
ですが、人口は全国の約4%に過ぎません。
運輸事業の安全・安心、サービスの維持活性化、
観光の推進をはかり、地域の発展・活性化を支えて
いくことが必要と考えています。
図2
外国人観光入込客数
2.2 VJ(ビジット・ジャパン)事業
外国人旅行者数 2,000 万人の高みを目指し、各省
庁はもとより観光関係者との緊密な連携により、オ
ールジャパンの体制で訪日促進に向けた取り組みを
行っています。
北海道運輸局では、「北海道ブランド」の情報発
信に努め、観光産業の高付加価値化により、観光を
通じて北海道経済への一層の貢献を果たして行きま
図1
す。そのために、
「魅力ある観光地域づくり」や「訪
主な都市の人口状況
日外国人旅行者の受入環境整備」を関係者と連携し
2.観光の振興
て実施しています。
2.1
2.3 クルーズ客船等「船旅」による観光の推進
北海道観光の現状
北海道の観光客数の約 9 割が道内客で、道外客は
北海道は四季の変化に富んだ景勝地や観光資源
約 1 割、そして、外国人観光客は 1.5%程度です。し
に恵まれています。
かし、外国人観光客は、観光消費額が大きく、北海
北海道運輸局では、国内外からのクルーズ客船の
道経済に大きな影響を与える規模までに成長してい
寄港地として、受入体制の充実や、クルーズ客船誘
ます。
致に向けての取組を行っています。
238
第131回講演会(2014年10月31日, 11月1日) 日本航海学会講演予稿集 2巻2号 2014年9月30日
図5
図3
北海道・道外機関別輸送人員の推移
クルーズ客船の寄港数、乗客数
3.輸送サービスの維持・活性化
3.1 旅客交通のあらまし
平成 24 年度における北海道内の旅客輸送は、鉄
道・軌道が約 52%を占めています。一方、道内と道
外間の輸送では航空が約 86%を占めています。
旅客船は、人流や観光の面で国民生活に重要な役
割を果たしており、北海道と本州、離島、本邦以外
(ロシア)を結ぶ航路にカーフェリーが就航し、風
光明媚な湖沼や沿岸においては、遊覧船、流氷砕氷
図6
旅客船による旅客輸送人員の推移
船、海底探勝船、クルーザー等の観光船が就航して
3.2 公共交通の確保維持改善等
おります。
公共交通の維持とネットワークの構築は地域の
足を守るにとどまらず、地域経済活性化のためにも
欠かせないものです。
北海道運輸局では、公共交通機関による移動の円
滑化と利便性の向上を図り、自家用自動車から公共
交通機関への利用転換を図るよう、輸送サービスの
維持・活性化への取組を進めています。
(過疎地での
生活交通ネットワークの維持、コミュニティーバス、
都市間高速バスネットワークの充実、バリアフリー
化への推進、輸送サービスの高度化、等)
4.物流施策の推進
4.1
貨物物流のあらまし
平成 23 年度の北海道内の貨物輸送の輸送機関別
図4
では、自動車が全体の約 98%を占めています。道内
北海道内機関別輸送人員の推移
と道外間では、海運が約 80%を占めています。
239
第131回講演会(2014年10月31日, 11月1日) 日本航海学会講演予稿集 2巻2号 2014年9月30日
4.3
総合物流施策大綱
北海道運輸局では、「総合物流施策大綱」に基づ
き、関係機関と連携・協働し、北海道における物流
基盤の整備、環境問題などの物流課題に対応するた
めの施策を推進しています。
5.輸送の安全・安心確保
5.1
監査体制の強化等による安全確保
北海道運輸局では、広域的に移動する鉄道・自動
車・船舶を使用する運輸事業やその使用施設に対し、
全国一律に設定した許認可等基準や運輸の安全基準
図7
に基づく監査等を効果的・効率的に実施しています。
北海道内輸送機関別輸送量の推移
また、違反があった場合には行政処分や事業等改
善の指示など、重大事故等の未然防止を含めた監査
体制の強化等を図っています。
5.2
優良事業者等の利用促進キャンペーン
北海道運輸局では、安全面や環境面に優れた事業
者の認定・認証制度について広く周知を図るととも
に、利用者側の社会的責任に訴えかけることにより、
安全・安心かつ環境に配慮したサービスの提供拡大
を図るため、平成 24 年3月から、全道 179 の市町
村や教育委員会をはじめ、経済団体、旅行業界など
2,550 の団体に対し、優良事業者の積極的活用を呼
図8
4.2
びかています。
北海道・道外間輸送機関別輸送量の推移
5.3 運輸安全マネジメントのよる安全風土の
構築・安全意識の浸透
内航・外航海運
内航海運は、北海道・本州間の物流の大動脈とし
北海道運輸局は、事業者が構築した安全管理体制
て重要な役割を果たしており、その健全な発達に取
の運用状況を評価する「運輸安全マネジメント評価」
り組んでいます。外航海運においては、コンテナ定
を実施しています。
期航路が北海道内の6つの港湾から、
ロシア、
韓国、
平成 24 年度は北海道内 41 事業者に対して評価を
中国、北米などに就航しています。
実施しました。また、運輸安全マネジメント制度の
理解を深めるため、事業者の安全担当部署に所属す
る方を対象に運輸安全マネジメントセミナーを実施
しています。
5.4
自動車の安全確保
北海道運輸局では、事業用自動車等の交通安全対
策を推進するため「北海道運輸局安全プラン200
9」を策定し、それに基づき飲酒運転の根絶と交通
事故の防止に取り組んでいます。
5.5
鉄軌道・索道の安全確保
JR北海道では平成 23 年 5 月の石勝線列車脱線
火災事故や平成 25 年 7 月の特急列車のエンジン等か
らの発炎、同年 9 月の函館線大沼での列車脱線事故
図9
等、重大な事故やインシデント(事故に至る恐れの
内航定期航路・フェリー航路図
240
第131回講演会(2014年10月31日, 11月1日) 日本航海学会講演予稿集 2巻2号 2014年9月30日
観光船運航会社からは、同年6月24日に「改善
ある事態)が発生した事から、北海道運輸局は、同
年9月から平成 26 年 1 月まで 3 回にわたる特別保安
報告書」が提出されました。
監査を行い、その結果に基づく事業改善指示、事業
5.6.3 船員の資格と雇用確保対策
改善命令(平成 26 年 1 月)等を行ったところです。
船員資格を得るための国家試験を厳正に行うこ
今後とも鉄道の安全を確保するために 5 年間常設
と等により、船舶の航行の安全を図っています。
の監査体制によりフォローアップを行って参ります。
安定的に船員を育成し、その確保を図るため、管
内の船会社等を一堂に会した合同企業説明会「めざ
せ!海技者セミナーin さっぽろ」を開催し、また、
高校生に対する内航船の就業体験、小学生向けの体
験航海等を実施しています。さらに、求人開拓、職
業紹介、就職指導、船員計画雇用の支援事業等を行
っています。
6.環境保全への対応
北海道は冬季の寒冷・積雪など厳しい気候に加え、
広大な土地に人口が分散していることから、自動車
写真1
への依存度が高く、自動車交通に係る環境対策が極
函館線大沼での脱線事故現場調査
めて重要です。
5.6 船舶の安全確保
5.6.1 外国船舶の監督(PSC)
このため、北海道運輸局では毎年「交通環境対策
アクションプラン」を策定し、人と地球に優しい交
過去3年間に北海道運輸局が実施したPSCで
通環境を目指して、低公害車の普及促進、公共交通
は、半数以上の船舶に欠陥を確認しました。その内
機関の利用促進、エコドライブの推進、物流の効率
の重大な欠陥があった船舶には、出港前の是正命令
化などを、関係者と連携して取り組んでいます。
等の厳正な処分を科しています。
図9
PSC 実施船舶数と欠陥船舶数
図10
日本の各部門におけるに二酸化炭素排出量
7.おわりに
5.6.2 旅客船・貨物船の安全対策
①フェリーの緊急点検(平成26年4月下旬)
北海道運輸局は、今後も①「輸送の安全・安心」
韓国での旅客船事故を受けて、道内離島運航フェリ
の確立、②輸送サービスの維持・活性化、③観光の
ーの救命設備、非常時対応措置等を点検しました。
振興を図って参ります。皆様のご理解とご協力をお
②小樽市オタモイ沖での観光船座礁事故(平成26
願いします。
年5月6日) を受けて、観光船運航会社へ同年5月
以上
27日に「輸送の安全確保命令」を発出しました。
(原稿作成 2014 年 8 月 5 日)
241