内モンゴルにおける家畜フン文化 -畜フン焼却灰の処理を中心に 名古屋大学 文学研究科 博士研究員 [email protected] 包海岩 1 研究目的 • 乾燥かつ寒冷なモンゴル地域では、乾燥された畜フンが 主な燃料として利用されてきた。しかし、畜フンの利用 価値は燃料価値だけではなく、排出された焼却灰も牧畜 社会に大きな役割を果たしている。 • 本発表では、家畜フンの利用文化の一端として畜フンの 燃焼した後に残る灰の処理を中心に紹介する。 2 何故家畜糞文化研究なのか? 3 発表内容 1. 調査地概要 2. 畜フン燃料の種類と名称 3. 畜フン焼却灰の処理 4. まとめ 4 1. 調査地概要 5 内モンゴル自治区の地理位置 6 シリンゴル盟シリンホト市の位置 Area:14,758 km ², Average Elevation:988.5m, Long.116°Lat.44°. 7 気温と降水量 90 20 80 (℃) mm) ( 30 Temperature Precipitation 100 70 10 60 50 0 40 -10 30 20 -20 10 0 -30 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 Average temperature :2.2℃ Average rainfall :289.2㎜ 8 風向き、風速 9 モンゴル牧畜民の人口割合 10 2. 畜フン燃料の種類と名称 11 五畜のフン名称 1. Goats And Sheep Dung (horgol) 3. Camels Dung (horgol) 2. Cow Dung (argal) 4. Horses Dung (homol) 12 家畜全体の畜フン名称 13 Livestock In mongolian Ⅰ. Baaso Cattle Horse Camel Sheep Goat Mean Fresh not dried dung 1.Qaqiga Diarrhea dung 2. Jonggag Baby animals dung Nogogan・ Jonggag Green jonggog : First Jonggog (Meconium) before first drinking milk Sira・Jonggag Yellow Jonggog : Jonggig after drinking mother milk Ⅱ.Homog Huhe・Homog Except for Sebesu the horse of baby animals Dried pulverized dung by animal legs blue Homog (it means old Homog ) Plant in digestion in rumination Stomach 14 家畜個体の畜フン名称 15 livestock condition In Mongolian Ⅰ.Argal Cattle Dried Freezed horse Dried 1.Hara・Argal 2.Ulagan・Argal 3.Kaltar・Argal 4.Qagan・argal 5.Sira・Argal 6.Huhe・Argal Goat Camel Dried dung Black Argal Red Argal Black and White Argal White Argal Yellow Argal Blue Argal (it means old Argal) Thin Argal Ujil・Argal Ⅱ. Shibasu Ⅲ. Huiteso Wither Argal Plaster Bagasu Dried Huldusu Huldusu Homol Frozen dung Dried dung Hara・Homol Sira・Homol Huhe・Homol 1.Hurjing Dried Dried Sarison・Argal Ⅰ. Horgol Sheep Means sira・hurjing huhe・hurjing ujil・hurjing 2.Dag Ⅱ. ӧtӧg Ⅲ. shigeg Horgol Argal Black Homol Yellow Homol Blue Homol Dried dung(Round) Kneaded pulverized dung by animal legs (spring) Yellow hurjing Blue hurjing Wither hurjing Kneaded pulverized dung by animal legs (summer) Airy pulverized dung by animal legs Tail dung Dried dung(Round) 16 Dried dung(Not round) ウシのフン名称 Baaso (dung) hara・argal (Black sarison・argal (Thin Argal) ujil・argal (Wither Argal) Huldusu (Frozen Huitosu (Dried Argal) sira・Argal (Yellow Argal)) dung) Huldusu) huhe・Argal (Blow Argal) 17 Jonggag (Baby animals dung) ダランタイ・アルガル(畜フンの山) Width 2m×height 1.75m×length 50m Width 2.8m×height 1.65m×length 30m Width 3m×height 1.70m×length 29m Width 1.86 m ×height 1.7 0m×length 36m 18 ヒツジとヤギのフン名称 xigeg horgol sebesu dag hurjing 19 ウマのフン morin・baaso homol huhe・homol 20 ラクダのフン名称 horgol Temen・baaso 21 3. 畜フン焼却灰の処理 22 畜フンの物質循環図 23 畜フン灰の捨て場の位置 24 畜フン灰の主な利用 用途 使用方法 1.「肥料」 (1).牧草の生育 (2).野菜栽培、ジャガイモなどの栽培 2.敷き藁 冬、春の寒い時期に仔畜の下に敷く 3.革なめし なめした皮に塗って、乾燥させる 4.家畜の汗の乾燥 ラクダ、ウマ、ロバなどに灰の上で転がる習慣がある 5.薬 人間、家畜の傷口に塗る 6.勉強道具 黒板の代わりに、指で灰の上に文字を書き、手のひらで平らで 消す 7.防寒暖房 ホウボンという入れ物に入れて 8.料理 灰の中に埋め込む方法で 25 灰の扱い方―しきたり・タブー 捨てる時間 早朝 捨てる場所 1.決まった場所に捨てる(家の南東が多い) 2.家から一定の距離を保つべきである 3.アルガルが置かれている場所から遠ざかるべきである 4.家畜小屋に捨てない 5.馬のつなぎ杭や犬のつなぎ杭の近くにすてない 6.道に捨てない 7.家族毎にウヌスの捨て場を設けるべきである 8.古いウヌスの捨て場を使用しない 9.他人のウヌス捨て場にウヌスを捨てない その他の注意 点 1.捨てる途中で休むことは禁止 2.ウヌスに他のものを混ぜない、混ぜると頭に出来物がでるとの言い伝 えがある。 3. 炎が付いているウヌスを捨てない 26 畜フンの肥料としての機能 1. 畜フン自体=有機肥料 2. 畜フン灰=無機肥料 27 畜フンの肥料成分 牛フンの主な化学的成分組成(%) 水分 窒素 リン酸 酸化カリウム 酸化カルシウム 酸化マグネシウム 80.1 0.42 0.34 0.34 0.33 0.16 出典:張頴「規模化養牛場糞便処理生命周期評価」『農業環境科学学報』2010年、第29巻、第7期pp1423-1427 牛フン焼却灰の主な化学的成分組成(%) 水分 窒素 リン酸 酸化カリウム 酸化カルシウム 酸化マグネシウム - 0.006 14.1 9.4 8.52 3.92 出典:畜産環境整備機構「家畜排泄物を中心とした燃焼・炭化施設に関する手引き」、平成2005年3月pp99 植物の生育に3大元素である窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)が欠かせない。 28 畜フン燃料の使用量/4人家族 1日の使用量 年間使用量 家畜頭数 アルガル(ウシの乾燥 されたフン) 45-55kg 16-20t 9-11頭分 フルジン(ヒツジ・ヤ ギの乾燥されたフン) 35-45kg 12-16t 70-90頭分 2012年1月の調査データより 焼却灰の排出量/4人家族 1kg当たりの排出量 1日の排出量 年間排出量 アルガル(ウシの乾燥 されたフン) 0.26kg 11.7-14.3kg 4.27-5.22t フルジン(ヒツジ・ヤギ の乾燥されたフン) 0.37kg 12.95-16.65kg 4.73-6.08t 2012年1月の調査データより 29 畜フン灰の無機肥料の年間排出量/4人家族 リン酸 酸化カリウム 酸化カルシウム 酸化マグネシウム 602.07-736.02kg 401.38-490.68kg 363.80―444.74kg 167.38-204.62kg 注:2012年1月の調査データと畜産環境整備機構「家畜排泄物を中心とした燃焼・炭化施設に関する手引き」、平成2005年3月 pp99のデータを基に算出。 30 灰捨て場の特徴 平坦型:長年にわたって捨てた灰が風や家畜の行動により飛ば される。或いは雨水に流され平坦になる。 (伝統的なもの) 山型:長年にわたって捨てた灰が溜まって丘のような形にな る。(シリンゴル盟においては、近年のものである) 31 平坦型灰捨て場 2.5m 3.6m A家 B家 山型灰捨て場 C家 33 家畜構成 家畜 ウマ ウシ ラクダ ヒツジ ヤギ A家 5 42 0 240 11 B家 15 30 90 300 5 C家 0 15 0 59 8 構成 牧戸 2012年12月のデータより 34 何故平坦型の灰捨て場に灰がない? • 自然環境 風が強い • 家畜構成 ラクダ、ウマ、ロバの飼育 • しきたり 灰にほかのものを混ぜない 35 何故灰捨て場に灰が溜まるようになったのか? • 定住生活 生活用品の数が増え、様々なゴミ を排出(工業製品、瓶、陶器など)。 • 伝統的なしきたりの無視 を混入。 • 家畜構成 育がない。 灰にその他のゴミ 単一性が顕著。ウマやラクダの飼 36 灰が溜まるとどうなるのか? モンゴルの諺: Unesu yehedhuler gal in zood Huuhen utelhuler ger in zood 訳: 灰が溜まると火災のもと 女は年取ると家災のもと 女:未婚女性のことを指す 灰は清いもの Unesu ben qeberlegsen tolga qeber Use ben samnagsan abagai qeber 灰を取った五徳は美しい 髪を整えた女性は美しい (五徳はモンゴル人の崇拝対象になる) Uhul eqe uldezu humun boldag Unesu eqe uldezu gal boldag 死を持って人間となる 灰を持って火となる (モンゴル人は火を崇拝する) 37 まとめ • 伝統: 伝統的な畜フン灰の処理に草原の持続利用意識が見られ る。 • 科学: 畜フンを灰にすることで植物に必要な無機肥料を再生、 牧草育成に有効。 38 御清聴ありがとうございます 39
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