産業素材 高強度・ 高硬度超々微粒超硬合金 「X F 1」の開発 広 瀬 和 弘・奥 野 拓 也・森 口 秀 樹 山 本 英 司・内 野 克 哉・北 川 信 行 磯 部 和 孝 Ultra-fine Grained Cemented Carbide “XF1” Having High Strength and High Hardness ─ by Kazuhiro Hirose, Takuya Okuno, Hideki Moriguchi, Eiji Yamamoto, Katsuya Uchino, Nobuyuki Kitagawa and Kazutaka Isobe ─ In resent years, the miniaturization and performance improvement of electronic products have been on progress. Along with this trend, printed circuits boards (PCB) are becoming smaller, higher integrated and harder to machine. Consequently, the diameters of drills for use on PCB have become extremely small. The authors developed a new ultra-fine grained cemented carbide grade “XF1” that features high strength and high hardness, and commercialized it. Made of directly carburized WC powder with ultra-fine grain size and narrow grain distribution, “XF1” is manufactured by optimizing the grain growth inhibitor, mixing process and sintering condition. Therefore, the grain size of WC powder used for making “XF1” is very fine, about 0.1 µm in diameter. Compared with conventional ultrafine grained cemented carbides, “XF1” shows superior strength, hardness and rigidity, and in PCB drilling test exhibits breakage resistance about twice higher and hole position tolerance 2 to 3 times better. Thus “XF1” can show great performance as ultra-fine grained cemented carbide grade for PCB drills. Owing to its fine microstructure, “XF1” can be shaped into sharp cutting edge and expected to exhibit great performance when used for applications other than PCB drills, such as slice cutters, thin-blade metal saws and precision molds. 1. 緒 言 近年、携帯電話、パソコン、AV 機器やゲーム機などの ている。さらに、プリント基板の耐熱性向上、耐食性向上 電子製品は高性能化・小型軽量化が進展し、それらに用い による難削化が進み、加工能率向上を狙いとした高速加工 られる集積回路用プリント基板は小型化・高集積化が進ん ニーズが高まっている。この結果、超微粒超硬合金には高 (1) 。その結果、図 1 に示すように配線ピッチの幅狭 強度、高硬度化が求められ、これらのニーズに対応するた 化、加工穴の小径化が進んでいる。このため、プリント基 め硬質相である WC 粒径が 0.2 ∼ 0.5μm の超微粒超硬合金 板(PCB : Printed Circuit Board)の穴あけ加工に用いられ が実用化されている(2)。当社では従来よりも微細な組織を る超微粒超硬合金製 PCB ドリルは年々細径化が進み、現在 有し、高い強度と硬度を示す超微粒超硬合金の研究開発を では直径 0.03mm と極めて小径の PCB ドリルが実用化され 進め、超々微粒超硬合金「XF1」の開発に成功し、製品化 でいる を行った。本報告では「XF1」の開発経緯および性能につ いて述べる。 2. 6 10年前 φ0.40 刃 長(mm) 5 現状 4 3 リルには直径 0.1mm 以下の小径の穴あけ、高い穴位置加工 精度、優れた耐折損性と耐摩耗性が求められている。これ φ0.15 ∼0.20 2 らのニーズに対して求められる合金性能を図 2 に整理した。 また、これまでに当社が開発し、製品化した超微粒超硬合 φ0.07 ∼0.10 1 φ0.03 金材質の抗折力と硬度の関係を図 3 に示す。図 3 中に示し 開発中領域 0.10 先に述べたように、電子機器の高性能化・高機能化に伴 い、集積回路は益々高集積化し、プリント基板用穴あけド φ0.25 ∼0.30 製 造 可 能 範 囲 「XF1」の開発目標 0.20 0.30 ドリル径(mm) 0.40 たように、「XF1」の開発目標は当社の既存超微粒超硬合金 材質「AF シリーズ」よりも抗折力および硬度を向上させる こととした。さらに、極小穴径の加工への対応のため、合 図1 PCB ドリル加工穴径の変遷 金中の狙い WC 粒径は従来品よりも微粒である約 0.1μm、 2 0 0 7 年 1 月 ・ SEI テクニカルレビュー ・ 第 170 号 −( 87 )− 要求性能 合金性能 原料 極小穴径 ネッキング が切れる 粉砕 超微粒WC組織 焼結 粒成長抑制 元素の最適化 ≦φ0.1 穴位置精度 高剛性、たわみ小 異常粒成長 (従来) 耐折損性 粉砕 高抗折力 未粉砕粉 耐摩耗性 図4 高硬度 図2 超々微粒超硬合金の開発のポイント 材料への要求特性 WC 原料の製造法には、従来から用いられている還元炭 化法と当社と㈱アライドマテリアルが開発した直接炭化法 5.5 がある。両製造法の工程を図 5 に示すが、直接炭化法は、 XF1の開発目標 5.0 還元炭化法と比較して炭化温度を低温化できる特徴を有 0.3μm し、炭化工程中の WC 粒子の粒成長、強固な凝集を防げる 4.5 ため、表 1 に示したように均一なサブミクロン粒径の WC 抗折力(GPa) AFシリーズ AF1 4.0 原料を製造するのに適した製造法である(5)。以上のことか AF0 3.5 ら、「XF1」の製造には直接炭化法で製造した平均粒径 0.15 AFU A1 0.5μm 3.0 F1 2.5 N70シリーズ 直接炭化法 低温処理が可能 →微粒・均粒が可能 ● F0 2.0 改良・発展し、超々微粒粉末の 開発に成功 ● 91.0 92.0 93.0 94.0 還元炭化法 既存超微粒超硬合金の特性と開発方向 酸化 タングステン (WO3) 還元 金属 タングステン (W) 穴位置精度向上のため穴開け加工時のたわみ量が小さくで 炭化 炭化 タングステン (WC) 1900 -2300K きる材質開発を目指した。 図5 3. 炭化 タングステン (WC) 1600 -1800K 硬 度(HRA) 図3 炭化 超微粒超硬合金の開発上の課題 表1 WC 原料粉末の製造方法 還元炭化法と直接炭化法 WC 粉末の外観 0.5μm 以下の WC 粒径を有する超微粒超硬合金は、同程度 の平均粒径の微細な WC 粉末と粒成長抑制剤として VC、 Cr3C2、TaC などの炭化物粉末、Co 粉末が用いられる。これ らの原料粉末を湿式中で混合粉砕し、乾燥後プレスして 粉 砕 前 1400 ℃前後の温度で真空焼結、さらに HIP(Hot Isostatic 600nm 600nm 600nm 600nm Pressing)を行い、製造される。 焼結中、プレス体内部では WC と Co の共晶反応により 1300 ℃前後で液相が生成し、緻密化が完了する(3)。この液 相生成段階で微粒の WC は液相中に溶解し、粗粒の WC 上 に再析出するいわゆるオストワルド成長により、WC 粒子 の粗大化が生じる(4)。このため、WC 原料には微粒でかつ 粒度分布幅が狭いことが求められ(4)、また、混合粉砕技術 や焼結技術の最適化が求められる(図 4)。 −( 88 )− 高強度・高硬度超々微粒超硬合金「XF1」の開発 粉 砕 後 還元炭化法 WC 直接炭化法 WC μm の微細な WC 原料を用い、粒成長抑制剤、混合粉砕、 5.5 焼結技術の最適化を行って、従来にない非常に細かい平均 5.0 WC 粒径 0.1μm の超々微粒超硬合金「XF1」を開発した。 4. 「XF1」の合金特性 表 2 に「XF1」および同一 Co 量の従来の超微粒超硬の走 査電子顕微鏡組織写真を示す。 「XF1」は平均粒径 0.3μm の WC 原料を用いて製造した従来品と比較して粗大な WC 粒子 が少なく、均一微細な WC 粒子から構成されていることがわ 抗折強度(GPa) 4.5 4.0 3.5 3.0 2.5 かる。両者のビッカース硬度、抗折強度測定結果を図 6、図 7 に示した。なお、抗折強度測定は PCB ドリルでの使用形態 2.0 XF1 を考慮し、直径 0.3mm のドリル形状の丸棒に加工して行った。 従来品 図 6、図 7 からわかるように、「XF1」の硬度は比較品より も 1.5GPa 高く、5GPa を超える抗折強度を有している。また、 抗折強度テスト時の最大たわみ量から計算した見かけ剛性率 を図 8 に示すが、 「XF1」の見かけ剛性率は約 570GPa と、同 一 Co 量の従来品よりも約 10 %大きな値であった。 図7 表2 抗折強度測定結果 XF1 と従来品の合金組織 WC 原料 の粒径 合金組織 0.7 最大たわみ量 XF1 0.15μm 1μm 1μm たわみ量(mm) 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 XF1 従来品 0.30μm 1μm 剛性率(GPa) 見かけ剛性率(計算値) 1μm 500 400 300 22 200 20 ビッカース硬度(GPa) 従来品 600 XF1 従来品 1.5GPaの硬度向上 18 図8 XF1 と従来品の最大たわみ量と剛性率 16 14 5. 「XF1」の穴開け性能 12 次に「XF1」および従来品を直径 0.075mm、長さ 0.9mm の PCB 基板用ドリルに加工し、厚み 0.1mm の半導体パッ 10 XF1 図6 従来品 XF1 と従来品のビッカース硬度 ケージ用高耐熱性基板を三枚重ねして耐折損性評価を行 なった。加工条件は回転数が 250k/min、送り速度 5μm/rev であり、あて板に潤滑性の樹脂被覆シートを用い各材質と 2 0 0 7 年 1 月 ・ SEI テクニカルレビュー ・ 第 170 号 −( 89 )− もに 5 本の切削評価を行なった。その結果を図 9 に示す。 本図からわかるように、「XF1」は折損までに加工可能な穴 数を従来品比 2 倍以上に延ばすことができた。 6. 結 言 「XF1」は、従来の超微粒超硬合金よりも微細な WC 組織 を有し、優れた硬度と抗折力、高い剛性を有する新超々微 粒超硬合金である。PCB 加工用ドリルとして優れた耐折損 性、穴位置精度を示し、ますます小径化、難削化、高速化 が進む PCB 基板の穴あけ加工用ドリルとして、PCB ドリル 5,000 使用ユーザーの加工品質の向上に貢献できるものと信じる。 さらに、「XF1」は優れた合金特性および超々微粒組織に よる刃先のシャープさを有するため、切断用カッター、薄 4,000 折損までの加工穴数 刃メタルソー、精密冶具、精密金型などの PCB ドリル以外 の用途でも優れた性能を期待でき、これらの用途への適用 を検討中である。 3,000 2,000 参 考 文 献 (1)M. Imamura and K. Hirose,“Technical Trend and Application of Microdrills”, J. Jpn. Soc. Abrasive Technology, 49(2005) 550-553. 1,000 (2)B. North,“Global Trends in Hard Materials”, Proceedings of the 16th International Plansee Seminar, Vol. 2, Reutte, Plansee AG,(2005)1-8. 0 XF1 図9 従来品 (3)Suzuki H et al. Cemented carbides and sintered hard materials. Tokyo: Maruzen;(1986) (4)N. Matsuoka, Y. Doi and K. Hayashi,“A Consideration on Grain Growth in WC-Co Fine Grained Hardmetal by Numerical Calculation Based on Multi-Grain Size Model”, J. Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy, 45(2001)544-552. 耐折損性切削テスト結果 さらに、同一形状のドリルを用いて、前述の基板を二枚 重ねして同一の条件にて加工し、1000 穴および 2000 穴加 工後の穴位置精度を測定した。その結果を図 10 に示す。 (5)M. Mizukami, Y. Yamamoto, N. Asada and A. Matsumoto “Manufacturing of Nano-sized WC Powder by Direct Carburization of WO 3 ”, J. Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy, 53(2006)154-159. 本図からわかるように、「XF1」は 2000 穴加工後の穴位置 精度は従来品よりも優れ、穴位置ばらつきも従来品の 1/2 ∼ 1/3 に低減できた。 執 筆 者 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------広 瀬 和 弘:エレクトロニクス・材料研究所 25 奥 野 拓 也:エレクトロニクス・材料研究所 * 森 口 秀 樹:エレクトロニクス・材料研究所 グループ長 山 本 英 司:住友電工ハードメタル㈱ 開発部合金技術グループ 穴位置精度(Ave+3σ)(μm) 20 従来品 内 野 克 哉:住友電工ハードメタル㈱ 開発部合金技術グループ グループ長 北 川 信 行:住友電工ハードメタル㈱ 開発部 部長 磯 部 和 孝:㈱アクシスマテリア 生産部 部長 --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 15 *主執筆者 XF1 10 5 0 0 1000 2000 加工穴数 図 10 穴位置精度切削テスト結果 −( 90 )− 高強度・高硬度超々微粒超硬合金「XF1」の開発
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