通 巻・ 第 36 号 ⓒ 発行日・2013 年 3 月 15 日 発行・東海大学医学部付属大磯病院 発行責任者・病院長 吉 井 文 均 慢性硬膜下血腫とは? はじめに 脳神経外科医が日常診療において最も診察機会が多い 疾患の一つ慢性硬膜下血腫についてお話させて頂きます。 慢性硬膜下血腫とは頭部外傷後約1~2カ月後に頭蓋 骨の下にある硬膜(脳を保護している硬い膜)と脳との隙 間に血がたまる病気です。重度の交通外傷等で生じる急性 硬膜下血腫とは異なり、血腫は凝固しておらずドロドロし た状態で袋に覆われています。この血腫が脳を圧迫するこ とで様々な症状が出現します。お年寄りに多く認められ、 頭部外傷時には症状が無く、また程度も軽いことがありま す。診察時には「そういえば机の角に頭をぶつけた。 」や 「忘年会の後に酔って転んだ。 」などのエピソードが多く 聴かれます。時に外傷が過去に無い場合もあります。 多くの場合、脳自体への損傷は無いため、正しく診断が なされタイミングを逸することなく治療が行われば完治 する予後の良い疾患です。 症 状 典型例では頭部外傷後、数週間してから徐々に頭痛や片 麻痺が出現します。片麻痺においては「足が重く感じられ、 平な場所であっても転びそうになる」や「手が挙がりにく く、食事の際にお箸やお茶碗を良く落とす」といった程度 が多いです。もちろんその他にも色々な症状があり、無口 な人がいっそう無口になったなどもあります。気をつけて 頂きたいのは、お年寄りに多く、症状が判りにくい場合も あるために、物忘れが目立つことを年齢が原因と見過ごさ れてしまうことがあります。比較的急に痴呆症状が進行す る際は、この疾患を疑う事も重要です。 外傷直後に脳神経外科にて診察を受け、この際には異常 が認められなくても医師から「一か月ぐらいしてからもう 一度診させて下さい」と言われるのは、慢性硬膜下血腫を 念頭においての話です。 (成人の人差し指程度)から治療を行います。細く柔らか い管を血腫内に挿入し、生理食塩水にて血腫を洗い流しま す。孔の部分は術後、蓋をするので目立った創は残りませ ん。温泉に行っても気づかれる心配は無いでしょう。手術 時間は30分程度。全身麻酔による体への負担が少ないた め、高齢者や持病のある方にも比較的安全に行えます。輸 血の必要はありません。 術後経過 典型例では術後早期より症状が改善し、半日後には症状 は消失します。手術後の痛みは一般的な痛み止めで十分に コントロールが可能です。順調であれば1週間後には歩い て自宅に退院できます。 たいていの場合、一回の手術で血腫は取り除けますが、 稀に複数回の手術が必要であったり、とても治りにくい場 合に全身麻酔が必要となる場合もあります。 最後に 高齢化社会に伴い、慢性硬膜下血腫は増加傾向にありま す。またアルツハイマー病に代表される認知症の多くは残 念ながら現状では完治は不可能です。しかし慢性硬膜下血 腫による痴呆症は治療可能です。50歳以上、頭部打撲、 1カ月して何だか具合が悪い。この3つのキーワードがあ る場合は年齢のせいにする前に病院を受診し頭部の断層 写真を撮りましょう。 筆者紹介 ごとう 検 査 頭部CTにて数秒で診断が可能です。造影剤の必要は無 く、ペースメーカー等の金属が体内にあってもCTであれ ば問題はありません。その他、症状が似ているために脳梗 塞を疑われMRIを撮影し発見されることもあります。 治療法 手術が基本となります。症状が無く偶然に発見された血 腫量の少ない場合は経過観察となります。この血腫の特徴 として先にも触れたように硬く固まった血液では無く、ド ロドロした状態であるため全身麻酔をかけて大きく頭を 開ける必要は無く、局所麻酔にて頭蓋骨に開けた小さな孔 ただてる 後藤 忠輝 昭和 48 年生。 平成 9 年東海大学医学部卒業。 東海大学医学部外科学系脳神経外科学 助教。 付属大磯病院脳神経外科所属。日本脳神経外科専門医。 経歴: 平成 12 年 10 月 東海大学付属病院 脳神経外科 入局 平成 13 年 HMS Brigham and women`s hospital research fellow 平成 14 年 HMS Dana Farber cancer institute research fellow 平成 15 年 6 月 東海大学付属病院 脳神経外科
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