熊本県麦類耕種基準 [PDFファイル/329KB]

熊本県麦類耕種基準
平成23年11月1日
熊本県農林水産部
目
次
Ⅰ
麦栽培の基本的な考え方
1 ほ場の排水対策 p2~p4
(1)排水対策の基本的な考え方
(2)具体的な方法
2 地力増強 p5~p6
(1)土壌腐植の消耗と補給
(2)酸性土壌の改良と土壌塩基類の均衡
3 小麦のタンパク質含有率向上対策 p6
Ⅱ
耕種基準及び栽培技術
1 奨励品種の主な特徴と栽培上の留意点 p7~p9
(1)小麦
(2)大麦
(3)はだか麦
2 種子の準備 p9~p10
(1)優良種子の準備
(2)選種
(3)種子消毒
(4)麦種・品種の組合せ
3 耕起整地 p10~p11
4 播種時期と発芽 p11
5 播種量 p11
6 播種深度 p11
7 雑草防除 p12~p13
(1)除草剤による体系防除上の留意事項
(2)播種期の早晩と使用除草剤との関係
(3)砕土、整地、覆土、鎮圧と除草効果
(4)管理作業と雑草防除
(5)生育期処理除草剤の使用上の注意
8 管理作業 p13~14
(1)中耕
(2)土入れ作業
(3)麦踏み(踏圧)
9 病害虫防除 p14~p15
10 収穫 p15~p16
11 乾燥 p16
12 調製 p16
13 主な栽培法の基準 p17~p23
(1)畦立条播栽培(土入管理機利用麦作)
(2)耕うん同時畝立て播種技術
1
Ⅰ
麦栽培の基本的な考え方
1 ほ場の排水対策
(1)排水対策の基本的な考え方
排水対策は、地表面排水と地下部排水の組合せが基本となる。
地表面排水は、地表面を乾かし土入れ、中耕、麦踏みなどの適期作業がで
きるようにするため、地表面の雨水を速やかにほ場外へ排出する明渠を掘る。
地下部排水は、土層内の水を抜くための暗渠の埋設と下層土に亀裂を作り、
水の縦浸透を促す弾丸暗渠や心土破砕の組み合わせて実施する。
このうち、暗渠は 1 回施工すれば 10 年以上効果は変わらないため、地表面
排水の明渠と地下部排水の弾丸暗渠を毎年施工し、ほ場の乾田化を図る。
(2)具体的な方法
本県の麦作は、水田裏作であるため、明渠と弾丸暗渠による営農排水対策
は毎年必ず実施することが必要である。
① 暗渠は、トレンチャーで排水路側から長辺方向に深さ 70cm、幅 15~18cm
の溝を掘り、コルゲート管などの暗渠資材を埋設し、被覆材として籾がら
等を厚さ 60cm 程度に入れる。この場合、溝を明渠の状態で 5~7 日程度放
置すれば乾田効果が大きい。暗渠の間隔は、概ね 10m とし、30a のほ場では
3 本を標準とするが、土壌条件により加減する。コルゲート管の排水口は畦
畔の土質により 1 ヶ所に集めるか、それぞれ畦畔に引き出してもよい。
なお、稲作期間中は排水口にねじ込み式のキャップをつける。土の埋め
戻しは、ロータリーを内盛耕にし、溝をまたいで耕うんして埋め戻す。
② 弾丸暗渠・心土破砕は、表土ができるだけ乾いた時点で、サブソイラー
等により暗渠と交差する方向にできるだけ狭い間隔(概ね 1.5~2m 間隔)
で、深さ 35cm 程度に施工する。
2
地目
第1表
土壌条件と栽培様式並びに排水対策
栽培様式
土壌の種類
地下水位
(㎝)
80 以下
畝立条播
グ ラ イ 土
灰色低地土
褐色低地土
多湿黒ボク土
60 以下
40 以下
砂 土 ~
砂壌土
水田
非火山灰土
-
非火山灰土
-
-
多湿黒ボク土
100 以下
80 以下
灰色低地土
褐色低地土
多湿黒ボク土
60 以下
60 以下
畑
条
播
ドリル播
全面全層播
埴 壌 土
~埴土
砂 土 ~
壌土
埴 壌 土
~埴土
砂 土 ~
壌土
埴 壌 土
~埴土
砂 土 ~
壌土
埴 壌 土
~壌土
-
40 以下
ドリル播
全面全層播
土性
3
減水深
(㎜/日)
20 以下
20 以下
20 以下
排水対策
畦幅 120~130 ㎝
畦高 15 ㎝以上
畦幅 120~130 ㎝
畦高 15 ㎝以上
弾丸暗渠を 2m 間隔で施工
畦幅 120~130 ㎝
畦高 15 ㎝以上
20 以下
40 以下
30 以下
明渠の間隔 5m 以下
弾丸暗渠を 2m 間隔で施工
30 以下
20 以下
-
-
暗渠と心土破砕又は弾丸
暗渠を 1.5m 間隔で施工。
条間 50~60 ㎝
明渠の間隔 5m 以下
第1図
営農排水対策基準
◎暗渠及び心土破砕(弾丸暗渠)基準(ほ場区画 30 ㎝×100m の場合)
畦畔
道
排 水 路
5m
10m
暗渠
心土破砕
路
10m
5m
1.5~2m
25~35 ㎝
70 ㎝
暗渠
◎地表面排水溝
2.5m
路
排 水 路
道
2.5~5m
15 ㎝
20 ㎝
4
2
地力増強
積極的に麦収量の増加を図り、天候の異常年にも減収しない安定した生産を
するためには、地力増強が非常に重要である。
(1)土壌腐植の消耗と補給
一般に、腐植が十分に供給されている土壌では、作物の生育も良く、収量
も多い。
英国の農事試験場の 180 年に及ぶ試験や日本の各農業試験場の長年の試験
結果から、堆肥を十分施用した区では収量が安定しており、天候異常年でも
減収せず、環境条件の異常に対して抵抗力のあることが明らかにされている。
腐植は、複雑な有機化合物の集合体であり、土壌中では主として土の無機
成分と結合し、あるいは、複合体として存在している。腐植の分解、消耗は
気象及び土壌条件や作物の生産量、無機養分の施用法などによって異なる。
水稲作では、下表のような数値を示し、三要素区で 10a 当たり 1 作約 70kg の
腐植が分解消耗する。
(単位:kg/10a)
第 2 表 水稲作期間の土壌腐植の消耗量
試験区名
土壌腐植消耗量
無肥料
227
無
N
248
無
P
184
無
K
三要素
147
69
(農事試)
麦作期間では、水稲期間の約半量が消耗するので、水稲-麦の作付体系で
は年間約 100kg の腐植が消耗することとなる。
地力の向上を図り生産力を高めるためには、ほ場の乾田化と堆きゅう肥や
粗大有機物の積極的な投入を図る必要がある。水田裏作で稲わらを鋤き込む
場合は、ストローチョッパーやカッターなどを利用して 5~15cm 程度に切断
し、珪酸石灰を 10a 当たり 120~200kg 散布して鋤き込む。稲わらを鋤き込ん
だほ場では、窒素飢餓を起こさないよう麦に施用する化学肥料の基肥窒素を
30%程度多くして基肥重点に施用する。稲わらを連用すると窒素の潜在地力が
増大するので 3~4 年後からは窒素飢餓は小さくなる。
家畜ふん尿を施用する場合、腐熟したものを 10a 当たり牛ふん尿 1.5~2t、
豚ふん尿は 0.5~1t を全面に散布して鋤き込む。この場合は、化学肥料の施
用量を 30%程度減ずる。
また、麦収穫後の麦稈は、5~10cm 程度に切断してほ場に鋤き込む。この場
合は、水稲の基肥の窒素肥料は 20%程度増施し、穂肥以降の窒素施用を抑える。
なお、土壌還元防止のため、中干しや間断潅水など水管理に十分注意するこ
とが重要である。
(2)酸性土壌の改良と土壌塩基類の均衡
麦の生育に適する土壌 pH は、大麦で 6.5~8.0、小麦で 5.0~7.5 である。
大麦は小麦より酸性に弱いので、特に土壌の pH には注意しなければならない。
酸性土壌に生育する麦の根は、伸びが悪く、わずかに発生した根の先端は太
く、曲がり、淡褐色に変色する。さらに、麦の葉で甚だしいものは、ネクロ
シス(葉脈間の黄化枯死減少)を起こす。
また、酸性土壌では、石灰、苦土の欠乏が甚だしく、また塩基類間の均衡
も崩れている。したがって、土壌が適切な pH になるように石灰質資材の施用
が必要である。この場合、注意しなければならないことは、土壌の反応がア
ルカリ性になるとマンガン、ホウ素などの微量要素が不溶化して欠乏してく
ることで、土壌 pH は 6.0~6.5 に保つ必要がある。
5
なお、土壌の pH を改良するだけでなく、土壌中の塩基類間の適切な均衡を
とるように石灰質以外の塩基類(苦土、加里)などの補給についても十分考
えなければならない。
麦類では、吸収される各体内養分は、窒素が減ると珪酸が増加するのに対
し、苦土が減少すると加里とリン酸がそれぞれ増える。
特に、苦土欠乏によって起こる珪酸の著しい減少は、稈が弱くなり倒伏し
やすくなり収量が減少するので、注意する必要がある。
生産力の低い土壌では、苦土を施用すると苦土の吸収は増加する。比較的
肥沃な生産力の高い土壌では、適当な加里と石灰が伴わないと苦土の吸収を
高めることができない。したがって、生産力の高い土壌条件としては、石灰、
苦土および加里の比率が重要となり、その理想的な比率は 65~75:20~25:5
~10 である。
3 小麦のタンパク質含有率向上対策
小麦のタンパク質含有率は、第 3 表のとおり用途別に異なる。
製粉会社の主原料である外国産小麦の原料発注はタンパク質含有率を指定し
て行われており、国産小麦が産年や産地間でタンパクがばらつくことは原料麦
としての商品価値を著しく損ねているといわざるを得ない。
このため、国産麦においても外国産並のタンパク含有率の麦の生産と調製・
出荷を強化する必要がある。
第3表
小麦の用途別タンパク質含有率の基準と実需者が望む基準
品質区分
パン・中華めん用小麦
日本めん用小麦
基準値
11.5%~14.0%
9.5%~11.5%
許容値
10.0%~15.5%
8.0%~13.0%
実需者が望む基準値
10.0~11.0
小麦「チクゴイズミ」においては、出穂期に、止葉中央部の葉色を葉緑素計
で 25 葉測定することで、小麦の蛋白質含有率を推定できる。葉色の判断は、こ
れまで一般的だった第2葉でなく、止葉の測定で可能であり、測定作業が容易
になる。
葉緑素計値が 39~41 のときは、出穂後 10 日目に窒素成分で 10a当たり 1~
2kg の肥料を施用することにより、子実のタンパク質含有率が適正値の 10~11%
になる。出穂期の葉色が 42 以上の場合は、出穂後の追肥は必要ない。
なお、窒素施用による倒伏や成熟期の遅延はみられない。
この診断技術は、黒ボク土壌、11 月中旬播種、播種量 5kg/10aの条件で実施
した試験結果であり、施肥条件として 10a当たり窒素成分で基肥 5kg、分げつ
肥(1 月下旬)に 2kg の施肥を行った場合に適用できる。
※農業研究センター成果情報「農業の新しい技術 第 20 号」参照。
6
Ⅱ
耕種基準及び栽培技術
1 奨励品種の主な特徴と栽培上の留意点
適地適品種を基本に、奨励品種の中から地域の気象や立地条件等に適する特
性を持つ品種を栽培する。
第 4 表 奨励品種の特性概要一覧
病
性
月.日
5/27
㎝
80
㎝
8.4
本/㎡
426
g
812
g
38.3
0~9
2.0
強
中
中
強
Ⅱ
奨
H6
チクゴイズミ
H19~H21
4/6
5/29
90
9.0
396
815
43.0
1.7
やや強
中
やや弱
強
Ⅰ~Ⅱ
認
H15
ニシノカオリ
H19~H21
4/7
5/30
95
7.8
425
824
42.5
2.3
強
中
強
強
Ⅰ
認
H16
ミナミノカオリ
H19~H21
4/8
6/1
87
7.9
394
819
41.8
3.7
強
やや弱
やや強
強
Ⅰ
奨
H11
ニシノホシ
H20~H21
4/3
5/16
95
6.9
571
721
46.8
1.5
やや強
やや強
極強
極強
Ⅰ
奨
H16
はるしずく
H20~H21
4/4
5/18
100
7.3
566
728
52.3
1.0
やや強
やや強
極強
極強
Ⅰ
認
H6
イチバンボシ
H20~H21
3/31
5/17
93
5.3
428
827
34.5
1.0
強
中
中
強
Ⅴ
長
性
縮
質
縞 萎
千 粒 重
うどんこ病
容 積 重
月.日
4/5
供試年次
赤 か び 病
数
H19~H21
名
伏
長
シロガネコムギ
種
熟
期
秋 播 性 程 度
倒
品
穂
穂
稈
耐
期
裸麦
実
S62
穂
大麦
子
奨
品
種別
小麦
成
出
採 用 年 次
奨励認定の別
項目
(注)供試場所:熊本県農業研究センター(合志市)
(1)小麦
① シロガネコムギ(奨励品種)
ア 特性概要
出穂、成熟期は農林 61 号より 5 日程度早い早生種、稈長は農林 61 号
より 14cm 程度短いが、穂数は多く短稈穂数型である。
株はやや開き、小穂着生密度はやや密で、紡錘状の白ふ系である。稈
の太さ、葉色、粒形等については農林 61 号程度である。
短稈で倒伏に強く、赤かび病にやや強である。
粒は充実よく、容積重が重い。千粒重は農林 61 号並で、外見の品質は
良く、めん用として実需者の評価も良い。
イ 栽培のポイント
安定収量のためには、穂数を確保する必要があり(㎡当たり 380~400
本程度)、麦踏み、土入れを 3 回以上行うとともに排水を良好にする。
農林 61 号より倒伏に強いので、やや多肥とするが、極端な多肥は避け
る。赤かび病の発生にも注意する。
② チクゴイズミ(奨励品種)
ア 特性概要
出穂、成熟期はシロガネコムギ並の早生種、稈長はシロガネコムギよ
り 10cm 長い中短稈種で、穂長は長い。
白ふで、収量性は多収で、千粒重はやや大きく、外観品質に優れる。
縞萎縮病、麦類萎縮病に強く、枯れ熟れ様障害に対して極強。
製麺適性では、食感が特に優れる。
イ 栽培のポイント
うどんこ病、赤かび病に対してはあまり強くないので、適期防除に努
める。
耐倒伏性は十分でないので、極端な多肥栽培は避け、適切な肥培管理
を行う。
③ ミナミノカオリ(認定品種)
ア 特性概要
シロガネコムギより出穂期で 4 日、成熟期で 2 日程度遅い早生種で、
7
稈長は 6cm 程度長く、穂数は少ない。
ふ色は褐色、子実重は少なく、千粒重は重い。
縞萎縮病及び麦類萎縮病は強。
粒質は硝子質で硬質小麦である。製パン適性は、ニシノカオリと同等
かより優れる。
イ 栽培のポイント
播性程度が低いので、適期播種に努め、暖冬年では早めの踏圧により
茎立を抑える。
高タンパク質特性をより発揮させるため、出穂期前後の施肥を行う。
葉色が濃いが、従来通りの施肥量を施用する。
穂発芽耐性は十分ではないため、適期収穫に努める。
④ ニシノカオリ(認定品種)
ア 特性概要
出穂・成熟期はシロガネコムギより 2 日程度遅い早生種で、稈長は
10cm 程度長い。ふ色は淡黄色で、子実重は少なく、千粒重は重い。
うどんこ病は強、耐倒伏性は強。
パン適性が高い。
イ 栽培のポイント
播性程度が低いので、適期播種に努め、暖冬年では早めの踏圧により
茎立を抑える。
高タンパク質特性をより発揮させるため、追肥に重点を置いた施肥を
行う。
葉色が濃いため、葉色による追肥量の判断に注意する。
穂発芽耐性は十分ではないため、適期収穫に努める。
(2)大麦
① ニシノホシ(奨励品種)
ア 特性概要
ニシノチカラより出穂、成熟期で1日程度早い。稈長は 10cm 程度短く、
稈は細く、穂数は多い。芒は長く、ふ色は淡黄色、千粒重はやや軽いが
収量性は高い。
大麦縞萎縮病及びうどんこ病は極強、稈が中折れしやすい。
搗製時間が短く、澱粉含有率が高く、蛋白含有率が低く、焼酎醸造用
加工適性が高い。
イ 栽培のポイント
早生種であり、晩霜害を避けるため極端な早播きを避け、適期に播種
する。
倒伏を防止し、収量・品質を安定させるため、厚播きや多肥栽培を避
ける。
分げつが旺盛で、稈が細くなり倒伏しやすいので、土入れ・踏圧を十
分に行い茎の充実に努める。
刈取適期を過ぎると中折れしやすくなるので、適期刈取りに努める。
② はるしずく(奨励品種)
ア 特性概要
出穂・成熟期はミサトゴールデンより 3・4 日程度遅い早生種で、稈長
は 10cm 程度短く、ふ色は淡黄色。
8
多収で千粒重は重い。縞萎縮病はⅠ・Ⅲ型系統に極強、うどんこ病は
極強。
搗製時間が短く、澱粉価とアルコール度数が高く麦焼酎適性が高い。
イ 栽培のポイント
耐倒伏性は十分ではないので、極端な多肥栽培を避け、適切な肥培管
理を行う。
成熟期がやや遅いことから、極端な遅播きにならないよう適期に播種
する。
(3)はだか麦
①イチバンボシ(認定品種)
ア 特性概要
九州裸 3 号より出穂期で 15 日、成熟期で 10 日早い早生種。稈長は九
州裸 3 号より 10cm 以上短い中稈種、穂数は多い。ふ色は黄で、千粒重が
重く、外観品質は優れる。
縞萎縮病、麦類萎縮病に強。
軟質粒で搗製時間が短く、精麦白度は実用品種中で最高。
イ 栽培のポイント
うどんこ病、赤かび病に弱いので、適期防除を徹底する。
うどんこ病及び倒伏防止のため、極端な多肥栽培は避け、適切な肥培
管理を行う。
極端な早播き、遅播きは避け、適期に播種する。
2 種子の準備
(1)優良種子の準備
① 種子更新
自家採種を毎年続けると異種、異品種が混入し、また種子伝染病の病害
(黒穂病、斑葉病)などが多くなり、減収又は品質低下をまねくので、毎
年種子更新を行う。
② 種子量の確保
播種量が多くなる傾向にあるが、適正な播種量を守るとともに、栽培様
式によって播種量が異なるので、各様式に必要な種子量を早めに確保する。
厚播きよりも薄播きを行い、分げつ(穂数)確保は麦踏みによって確保
する方が望ましい。
畦 立 条 播(10a 当たり)小麦 5~6kg 大麦 6~7kg
ド リ ル 播(10a 当たり)小麦 6~7kg 大麦 7~8kg
全面全層播(10a 当たり)小麦 8~12kg 大麦 10~15kg
③ 種子の保管
採種後は十分に日乾しのうえ、冷涼乾燥した場所に保管する。
④ 発芽率の確認
麦は採種後、高温多湿な夏を過ごすので、貯蔵中に穀物害虫の発生や発
芽率の低下がしばしば見られる。使用種子は前もって室内又はほ場で発芽
率を調査し、適正な播種量を決定する。
(2)選種
風選、ふるい選、比重選等により、充実の良い揃った種子を選別する。
① 風選
9
重量の重い種子を選別する。従来から唐箕が使用されているが、回転を
上げ選別を強く行う。
② ふるい選
大粒の種子を選別する。従来から縦線選別機が使用されているが、精度
の高いライスグレーダーが好ましい。
③ 比重選
比重の重い充実した種子を選別する。標準比重は、大麦 1.13、小麦・裸
麦 1.22 である。
(3)種子消毒
種子伝染病の防除を徹底する。
① 病害の種類と消毒
第 5 表 麦の種子消毒を要する病害
麦の種類
病害の種類
病菌のいる主な場所
裸黒穂病
種子の内部
小
麦
なまぐさ黒穂病
種子の表面
裸黒穂病
種子の内部
大
麦 なまぐさ黒穂病
種子の表面・土壌中
斑葉病
種子の表面・土壌中
注)大麦斑葉病に対しては必ず薬剤消毒を実施する。
消毒法
冷水温湯浸漬、風呂湯浸漬、二重消毒
薬剤消毒
冷水温湯浸漬、風呂湯浸漬、二重消毒
薬剤消毒
薬剤消毒
②
加温消毒法
ア 冷水温湯浸漬法
冷水に予浸(10℃:6 時間、18℃:3 時間、24℃:2.5 時間)した後、
50℃前後の湯に 1~2 分間漬けて温め、小麦で 54℃の温湯に正確に 5 分間
浸漬後、直ちに冷水で冷やす。大・裸麦では小麦と同様に冷水に一定時
間浸し、47~48℃の湯に 1 分間浸し、52℃の湯に 5 分間浸漬し、直ちに
冷水で冷やす。
イ 風呂湯浸漬法
当初、湯の温度は 46℃から始め、10 時間後の温度が大体 20~25℃にな
るように蓋を加減して 10 時間浸漬する(風呂の火は完全に消しておく)。
ウ 二重消毒法(薬剤消毒と風呂温湯浸漬法の併用)
二重消毒法では、風呂湯浸漬法等終了後、直ちに粉衣して播種する。
③ 薬剤消毒
登録農薬により適切に処理する。
浸漬処理の場合、処理後は水洗しない。
催芽種子には薬害が出るので行わない。
(4)麦種・品種の組合せ
気象災害を最小限に食い止め、しかも大規模経営の有利性を活かし、適期
刈取が順調に行われるよう、乾燥施設の処理能力に応じた麦種・品種の合理
的は組合せを行う。
特に、共乾施設(ライスセンター、カントリーエレベーター)の場合は、
運営委員会等で十分に検討し、計画的作付けを行う。
3
耕起整地
耕起作業は、土を膨軟にして通気性、保水性を良くし、雑草の発生を抑え、
作物種子の発芽条件を整える役目を果たす。しかし、ロータリーのみによる耕
うんにより、作土は年々浅くなり、加えて作土下に締め固められて水を通しに
10
くい不透水層ができ、湿害を受けやすくなっている。
こうした土壌の物理性を改善するためには、従来のロータリー耕のみでなく、
プラウ等による深耕や反転耕を行う必要がある。
ロータリー耕の場合でも、作業速度を 1 段落とすか、ロータリーの回転数を
低くすると深耕が可能となる。
植生に理想的な土壌構造(上精下粗の二重構造)とする各種作業機(アップ
カットロータリー、駆動ディスクプラウ、リバシブルプラウ等)が市販されて
いるので、これらを利用して深耕を図ると効果的である。
4
播種時期と発芽
11 月 15 日から 12 月 5 日までが播種適期である。麦の発芽日数は気温によっ
て異なり、気温が高いと早く発芽し、気温が低くなると発芽が遅れる。
早播きになりすぎると苗立ちが早く、本県奨励品種のように秋播性が低い品
種では不時出穂したり寒害を受ける頻度が高くなるとともに、肥料切れや病害
を受けやすくなる。また、晩播になりすぎると生育期間が短縮し、十分な生育
量を確保することができず、穂数が不足し、一穂着粒数の減少と熟期が遅れ、
雨害や湿害を強く受け、収量・品質ともに低下することとなる。
したがって、やむを得ず早播きする場合は晩生品種を、晩播する場合には早
生品種を用い、さらに後者の場合には播種量を 20~50%多くする必要がある。
(10 日遅れる毎に 10%増やす)。
5
播種量
播種量の多少は、穂数や一穂重に影響するほか、倒伏などにも関係する。薄
播きすると個体当たりの生育量は優れ穂は大きくなるが、単位面積当たりの穂
数は少なくなる。反対に、厚播きすると個体当たりの生育量は劣り、穂も小さ
くなるが、面積当たりの穂数は多い。ただし、収量は穂数×一穂重で決まるた
め、均衡のとれた栽培法が必要である。近年、播種量が多くなる傾向にあるの
で留意する。
6
播種深度
播種の深さは麦の出芽やその後の生育に影響する。適湿の条件下では、浅播
きするほど早く出芽し、下位節から分げつが始まって茎数確保に有利である。
(多げつになるが、稈長は低く、穂は軽くなる。)
深播きはこの反対で、出芽は遅れ、しばしば二段根となり、下位分げつを休
止して(小げつになるが、稈長は高く、穂は重くなる。)、茎数確保に不利にな
る。
麦は、5~6cm ほどの深さまで出芽してくるが、出芽、生育とも安定して多収
をあげるのは 3cm 位の深さである。この程度の播種深度は、播種後に散布する
土壌処理除草剤の薬害を避けるためにも、是非必要な深さである。
第6表
小
大
麦
麦
麦類の播種適期
中山間地
11 月 15 日~30 日
11 月 15 日~25 日
平坦地
11 月 20 日~12 月 5 日
11 月 20 日~30 日
11
第8表
小麦の播種時期と生育・収量
品種
シロガネコムギ
播種期
月日
出穂期
月日
成熟期
月日
稈長
㎝
穂長
㎝
穂数
本/㎡
倒伏
0~5
寒害
0~5
子実重
kg/a
くず重
kg/a
容積重
g/a
千粒重
g
品質
1~9
検査等級
11/20
4/14
6/3
81
8.9
359
0
2.5
27.0
0.3
775
36.9
3.0
1 等下~2 等上
11/25
4/15
6/3
79
8.2
323
0
2.0
24.4
0.2
777
36.5
2.5
1 等中~1 等下
11/30
4/18
6/4
82
8.8
379
0
1.0
33.1
0.2
777
36.1
2.5
1 等中
12/5
4/19
6/5
82
8.5
320
0
1.0
33.1
0.2
779
36.4
2.5
1 等中
第9表
温度と発芽日数
温度(気温)
発芽日数
5~7℃
16 日
10℃
8日
15℃
4日
7
25℃
2日
12~22℃
発芽適温
雑草防除
水田麦の雑草発生は、9 月末から始まり 12 月初頃に終期となるが、最近の暖
冬年では 1~2 月になっても発生する。
雑草害を見ると、発生時期が早い程大きく、発生量は暖冬、多湿条件、早播
きほど多い。したがって、早播麦や暖冬年次では、播種後の除草剤処理のみで
は、十分防除できない場合も多いので、体系処理による防除を計画する。
体系処理は、雑草草種によっては使用できる除草剤がないので、中耕や土入
れとの組合せ防除も考慮しておく。
(1)防除剤による体系防除上の留意事項
同一除草剤あるいは同一系統の連続使用を避け、異なった除草剤の使用に
よる体系防除を組み立てる。
(2)播種期の早晩と使用防除剤との関係
① 気温の高い(15℃以上)早播きでは、雑草多発が予想され、草種に応じた
除草剤の選定に十分に留意しなければならない。
② 前作の水稲が早生であれば、水稲収穫後に発生した雑草が多く、生育も
進んでいるので、播種直後処理除草剤では十分効果をあげることができな
いので、できれば耕起あるいは播種前に土壌残効性のない非選択性除草剤
で枯殺しておく方がよい。
(3)砕土、整地、覆土、鎮圧と除草効果
各雑草とも剤型の違いはあっても、砕土整地の良否、鎮圧の有無で極めて
効果が変動するので、必ず実施し、覆土は薬害と関係が深いので、2~3cm は
実施する。中でも、粒剤使用の場合は処理前の鎮圧は必須作業となる。
(4)管理作業と雑草防除
雑草発生が遅くて雑草が小さく、麦との生育差が大きい場合は、生育期処
理除草剤の効果が大きい。そうでない場合は、中耕などで雑草の生育を抑制
し、麦との生育差をつけるようにする。この場合、中耕作業は乾燥時に行う
のがより効果的である。
また、ほ場全体の排水が不十分であれば雑草の発生が多く、生育も早くな
り、雑草害も大きくなるので、暗渠や弾丸暗渠による排水対策は当然のこと
であるが、明渠による表面排水に努めることが雑草発生を抑制する手段であ
る。
(5)生育期処理除草剤の使用上の注意
播種直後の処理剤の効果が十分でない場合、生育期処理を必要とするが、
12
麦の生育に害がない程度であれば、麦との生育差を利用した耕種的防除(土
入れや中耕作業)が望ましい。
近年、カラスノエンドウ、アメリカフーロ等の種子が麦に混入し、品質低
下の要因となっているので、体系的な除草を行う必要がある。収穫間近のほ
場にあっては、手取りにより収穫物への雑草種子混入を徹底して防止する。
8
管理作業
麦は畑の作物で湿害に弱い作物である。
良質多収を得るためには適正な肥培管理が重要である。冬期間(節間伸長期
前)に土入れ機で 3~5 回地表面排水溝をさらえて土入れ・培土を行い、土壌の
排水・分げつ茎の強化、根の健全化に努め、春季雑草の発生を防止し、有効穂
数の確保と登熟の向上を図る。
(1)中耕
作条の周辺、畦間の固まった土を軟らかにすることであり、土壌内の通気、
透水性を良くする。
また、土中の根を一部断根することにより、新根の発生を促す、雑草を抑
える、などの効果がある。
時期は 1 月上旬、1 月下旬、2 月中旬の 3 回位は必ず実施する。幼穂形成期
以降の中耕は断根の害を受けるのでそれまでに終了する。
(2)土入れ作業
発芽してから冬を越し、晩春に至る期間に茎葉の上から土を振りかける作
業であり、麦の基部を土によって覆い保護する作用をする。土入れは、苗立
密度、分げつの調整、寒、干害からの保護、雑草の発生防止、倒伏防止など
の効果があり、その時期は、1 月上旬、1 月中~下旬、2 月上旬、2 月中旬、3
月上旬を目安として動力土入れ機又は管理機で実施するが、第 1 回目は浅く、
2 回目、3 回目と麦の生長に伴って土入れの量を増やしていく。土入れは踏圧
前に行う。
なお、晴天続きのよく乾燥した時に行う。
また、この土入れ作業は表面排水溝整備をも兼ねており、湿害防止の効果
が大であるので、必ず実施する。
(3)麦踏み(踏圧)
冬から早春にかけて行われる作業で、麦の茎葉を踏みつけ、同時に土の表
面をも踏み固める作業である。
この効果は特効性があるが、気候、土壌等の関係で効果の程度に大きい差
が生じる。火山灰土壌で冬期の冷え込みが強く、霜柱による凍土のひどい所
では効果が大きく欠くことのできない重要な作業である。
麦踏みにより茎葉は一時的に損傷を受け、特に生育の進んだものは大きく
受ける。その結果、この強勢な茎の生育が一時的に抑えられ、その代わりに
弱小な分げつ茎の肥大が起こると同時に新しい分げつも発生する。なお、地
下部の根張りの増強、深根化が促され、後期の生育が良くなる。
こうして、穂揃いが良くなり、穂数も増加する。
暖冬で麦の生育が進み過ぎ茎の早立ちが心配される場合、苗立ちが少ない
場合などの時にこの効果が大きい。時期は 1 月上旬~2 月中旬(節間伸長開始
前まで)に 2~3 回行う。
麦踏みは乾燥が続いて土壌が乾燥している日の午後、茎葉の水分含量の少
13
ない時に行う。
茎葉に霜や露がある時には損傷が大きく、土壌水分が高いと土壌を締め付
ける等により、その後の生育を害するのでこのような時には行わない。
9
病害虫防除
麦類の病害虫の中で、特に重要な病害に、赤カビ病と大麦の縞萎縮病がある。
特に、赤カビ病はカビが産生するカビ毒の規制基準が厳しく、防除を徹底する
必要がある。
第10表 病害虫防除
斑
病害虫名
葉
病
さ
び
類
病
う ど ん こ 病
黒
赤
節
か
病
び
病
防除のねらい及び生態等の参考事項
1.大麦だけに発生する。
2.感染期は発芽直後の幼苗期であるが、生育
伸長期に発病し、出穂後には黒変枯死する
ものが多い。
3.種子伝染性の病害である。種子消毒で予防
できる。
1.小麦には黄さび病、赤さび病、黒さび病、
大麦には黄さび病、黒さび病、小さび病が
発生する。
2.暖冬で麦の伸長の早い年は、黄さび病、赤
さび病、小さび病が発生し、多発する傾向
があり、冬期間が低温乾燥で生育が遅れる
と黒さび病が発生しやすい。
また、発生期の降雨日数が少ないと発生が
多くなる。
3.窒素過多や早播きは、黄さび、赤さび、小
さび病が発生しやすく、生育遅延の麦には
後期に黒さび病が出やすい。
4.薬剤防除は発生初期に重点をおき、散布量
を多くして、散布むらがないよう全体にか
ける。
1.暖冬で雨の多い年や、日陰で風通しの悪い
所に発生が多い。特に過繁茂になったり、
生育が遅れた年には発生しやすく、被害も
多くなる傾向がある。
2.発病初期の薬剤防除が効果的であるが、多
発時には穂まで発生するので、茎葉のみで
なく穂にも十分散布する。
1.第 1 次伝染源は種子伝染によるものと見ら
れている。しかし、被害ワラで 1 年以上生
存し土中での越冬も可能である。
2.早播きや暖冬で生育が進んだ後、春先に寒
波が襲来すると寒害で生じた傷口から菌が
侵入するため発生が多くなる。
3.症状は、小麦より大麦のほうが激しい。
1. 病 原 菌 は 、 種 子 や 稈 、 稲 の 刈 り 株 で 越 冬
し、晩春に子のう胞子の空中飛散により、
開花期に侵入する。
2.乳熟期頃から穂に発生し、穂は変色枯死す
る。このため子実は白っぽい屑麦となる。
14
耕種的防除法
1.無病地から採種する。
2.適期には種するととも
に深播きを避ける。
3.発病地では種子更新を
行う。
1. 耐 病 性 品 種 を 栽 培 す
る。
2.適期に播種する。
3.バランスのとれた施肥
を配慮する。
1.耐病性品種を選ぶ。
2.適期には播種する。
3.厚播きにならないよう
に注意し、通風環境を
良くする。
1.無病地からの採種。
2.適期播種とバランスの
とれた施肥。
3.湿田における排水対策
1.耐病性品種を選ぶ。
2.防除
小麦
開花始めから開花期
大麦
黒
穂
病
類
萎
縮
病
類
シロトビムシ類
3.発病後は、病斑上の分生胞子で伝染する。
4.感染は開花期から乳熟期が主であるが、菌
の胞子形成や飛散は雨によって助長される
ので、この時期に曇天、降雨が続き、気温
が 20~27℃ぐらいの比較的高温になると激
発する。
1.オオムギ裸黒穂病、コムギなまぐさ黒穂病
がある。
2.種子伝染するので、消毒した無病の種子を
播くことが、最も効果的な予防法である。
1.小麦、大麦に発生するムギ類萎縮病と小麦
だけのコムギ縞萎縮病および大麦だけに発
生するオオムギ縞萎縮病の 3 種がある。
2.播種後、1 ヶ月位の地温が 15℃前後で、し
かも適度の降雨があった年に感染が多い。
3.土壌伝染性で一度発生すると 4~5 年間は休
作してもなくならない。
1.ヤギシロトビムシ、ワタナベシロトビムシ
等がいる。
2.高温時には地下 20 ㎝位の所で幼虫態で過す
が、地温が低下すると地表近くに移動し
て、発芽直後の新芽、新根を食害する。
3.低温、多湿条件での発生が多く、12 月以降
の遅播き小麦に被害が出やすい。
10
穂揃い期の10日後頃
1.無病地から採種する。
2. 病 穂 を 早 期 に 抜 き 取
り、地中深く埋める
か、ほ場外に処分す
る。
3.連作を避ける。(なま
ぐさ黒穂病)
4.種子消毒の励行
1.耐病性品種を選ぶ。
2.できるだけ遅播きとす
る。発病したら肥培管
理を良くして、生育を
盛んにする。
3.発病ほでは連作を避け
る。
1.小麦の場合は、早播き
する。遅播きになる場
合は芽出し、乾燥播き
を行い、芽を硬化させ
るようにする。
2.被害の著しい所では、
大麦を栽培する。
収穫
麦の収穫期は梅雨期と重なりやすく、3 日以上雨に当たると穂発芽や品質の劣化
をまねくので、収穫時期の目途がたてば、天候に注意し、適期に収穫することが
重要です。
成熟期は「穂首部分が黄化し穎が枯れ、粒は緑色が抜け、ツメ跡がわずかに付
く、ほぼ“ろう”ぐらいの硬さになった時期とされ,子実水分ではおよそ 40%位
になった頃です。
しかし、収穫適期は子実水分が約 35%程度になった頃であり、自脱型コンバイ
ンで収穫する場合、損傷粒の発生や作業能率の低下を避けるため、子実の水分が 3
0%以下の時に収穫する。
子実水分は、出穂期(ほ場にある全茎の 40~50%が出穂した目)からの積算気
温や日数と相関が高いので、これを利用して収穫適期を予測することができます。
大麦収穫の積算温度は 800 から 850℃ 出穂後 42~45 日
小麦収穫の積算温度は 850 から 900℃ 出穂後 44~47 日
熊本にあってはこの積算温度では十分な穀粒水分は高く、少し収穫期をずらして
いるようです。
収穫時の水分によって、コンバインのこぎ胴の回転数を上げることができ、効
率的な収穫ができるが、種子については発芽率に影響があるので、注意する必要
がある。
15
第 11 表
出穂期から成熟期までの日平均気温の積算気温
年次
あまぎ二条
シロガネコムギ
第 12 表
54
710
-
55
750
-
56
755
-
57
803
973
58
785
868
59
722
865
(単位:℃)
60
61
62
63
平均
720
683
721
739
739
820
841
907
782
865
(県農研センター、作況試験)
脱穀機の回転数と発芽勢
刈取期
水
分
回転率 500rpm
回転率 700rpm
早期(出穂 30 日)
34.1
84.5
46.5
適期(出穂 35 日)
33.8
94.5
61.0
(単位:%)
晩期(出穂 40 日)
17.0
96.0
91.5
(中国農試資料)
11
乾燥
麦の収穫期は天候不順時に中るため、高水分の収穫となることが多く、乾燥
作業段階でのムレが発生しやすい。
麦は籾に比べて堆積した場合の密度が大きいため、送風抵抗が大きく籾と同
じ体積厚さの場合には、送風量が不足し、高水分では乾燥ムラを生じやすく、
乾燥性能が低下する。これを防ぐため 1 回の張込量を少なくする必要がある。
平型乾燥機の場合は籾体積高さの 70%程度とする。
熱風温度の設定は気温と湿度が関与する。小麦では比較的高温でも加工され
た段階での品質への影響は少ないと言われているが、60℃以上になると粉質の
劣化がみられ、特に乾燥初期の含水率が高いとその傾向が強くなる。
種子用として使用する麦は、発芽障害が問題となり、特に乾燥初期の含水率
が高いと温度による影響を受けやすい。このような熱損粒の発生を防ぐために
は、乾燥初期の含水率を 25%以下にし、熱風温度は 40℃以下で乾燥する。
乾燥作業に当たっては、乾燥途中で含水率を常に把握し、過乾燥にならない
よう注意する。
乾燥終了後は異品種や籾との混合がないよう十分掃除を行う。特に循環型は
残留粒除去が困難であるが、次の除去箇所をチェックする。
①上部スクリューコンベア底部
②排出装置
③下部スクリューコンベア底部
④昇降機下部
⑤貯留タンク通風網
12
調製
乾燥を終了したものは粒選機や唐箕によって細麦や屑麦を除去し、粒揃いを
良くする。
仕上げ後、水分がもどらないように貯蔵には十分注意する。
第 13 表 麦類の精選最小網目の目安
小麦・はだか麦
大 粒 大 麦
2.0 ㎜
2.2 ㎜
16
13 主な栽培法の基準
(1)畦立条播栽培(土入管理機利用麦作)
① 適地
県下全域の排水良好~やや良好な水田及び畑
(地下水位 40cm 以下の砂土~埴土)・・・・第 1 表参照
② 耕起、畦立
ア 耕深は 12~15cm とする。
イ 畦立
畦の高さはコンバインによる収穫作業に支障のない程度の高さとし、
畦幅もコンバインの刈幅を考慮して決める。なお、畦立ては最初浅く行
い、生育途中の土入れにより徐々に深く(15cm 以上)していく。
③ 播種量
小麦:5~6kg
大麦:6~7kg
④ 播種法
施肥播種機を利用の場合は、一行程で耕起、施肥、播種、覆土および鎮
圧を行う。栽植様式は土入れ・培土等の管理機及びコンバイン刈幅等によ
り決定する。
栽植様式事例
70~80 ㎝
50 ㎝
同時に 4 条播種し、冬期間に点線
部分は土入れを兼ねて作溝する。
排水の良い所では片培土板を付け
て行程ごとに排水溝を作っても良
い。
120~130 ㎝(平均条間 30~32.5 ㎝)
⑤
地域区分
施肥量
基準収量 360kg(目標:苗立数 120~150 本/㎡、穂数 400 本/㎡)
堆肥
(生わら)
珪カル
(土炭カル)
基肥
N
P2O5
K2O
追肥
1 月下旬
2 月下旬
N
K2O N K2O
(kg/10a)
合計
N
P2O5
K2O
水田
平 坦 沖 1,000
90
5.0
8.0
5.0 2.0 1.0 3.0 1.5 10.0
8.0
7.5
積 地 帯 (600)
中 山 間 1,000
120
4.5 10.0 6.0 2.0 1.0 2.5 2.5
9.0
10.0
9.5
沖積地帯 (500)
黒色火山
1,000
150
4.0 12.0 5.0 1.5 1.5 2.5 2.5
8.0
12.0
9.0
灰 地 帯
中 山 間
800
(120)
4.0 10.0 5.0 2.0 1.0 2.0 2.0
8.0
10.0
8.0
丘陵地帯
黒色火山
1,200
(150)
4.0 12.0 4.5 1.5 1.5 2.0 2.0
7.5
12.0
8.0
灰 地 帯
注)1.生ワラ鋤込みの場合は基肥窒素を 20~30%前後多く施用する。
2.追肥は生育状況に応じて加減する。
3.珪カル、苦土炭カルなどは土壌の pH を確認して必ず施用する。特に大麦は小麦より酸性
に弱いので石灰の施用は重要である。土壌の pH(H2O)6.0~6.5 になるよう施用する。
畑
17
⑥
雑草防除
ア 麦雑草対策
雑草が繁茂すると、日光や土中の養水分を収奪し、麦の生育を妨げ減
収を招くので安定的に収量を得るためには雑草防除は大切な作業である。
水田裏作麦の雑草発生は、毎年 9 月末から始まり 12 月上旬まで続くが、
草種によっては年明け以降も発生し繁茂するものもある。
本県の麦作期間の主要な雑草は、スズメノテッポウ、カズノコグサ、
スズメノカタビラ、ノミノフスマ、タネツケバナ、ヤエムグラ、ミチヤ
ナギ(タデ類)、カラスノエンドウなど数多く発生する。
また、最近発生が増加しつつある草種としてアメリカフウロなど外来
性雑草やSU抵抗性の雑草が見られるようになっている。
雑草防除には,最近ではほとんど除草剤が用いられているが,除草剤
の効果を高めるためにも雑草の性質をよく知ることが重要である。
雑草防除の一般的な除草作業としては、播種直後に土壌処理される場
合が最も多い。
しかし、水稲収穫が早く終わり、播種前にスズメノテッポウが多発生
になる場合、2 月以降にカズノコグサが繁茂することも多い。
一方、春先にはヤエムグラの発生やカラスノエンドウなどの繁茂の事
例も多く、収穫時の子実への混入などが発生し、は品質を低下させてい
る。
イ 耕種条件と雑草の発生
(1) 耕うんの影響
雑草の発生は,耕うんの精粗によって著しく異なり、耕うんの精度
が高いほど全体の雑草発生本数は少なくなる。砕土は細かいほど雑草
の発生が斉一で、早い時期の発生数が多くなるため,除草剤の効果が
高まる。
また、耕うんの時期によっても異なり、遅いほど、スズメノテッポ
ウの発生割合が減少し、ノミノフスマの割合が増加する。
(2) 肥料条件の影響
雑草の群落組成は肥料条件によっても変化するとされている。
肥料条件のよい水田ではスズメノテッポウ、ノミノフスマの発生割
合が大きく、肥料要素の欠乏する水田では,窒素欠乏のばあいはタビ
ラコ、ツメクサ、カズノコグサの、燐酸欠乏のばあいはタネツケバナ、
ツメクサ、タデ類などの、カリ欠乏土壌ではカズノコグサ、三要素欠
乏土壌ではタビラコの発生割合が増加する。また、酸性寄りの水田で
はスズメノテッポウ、ノミノフスマ、タビラコなどの、アルカリ性の
強い水田ではカズノコグサの発生割合が増加するという報告もある。
(3)ムギに対する雑草害
雑草もムギと同様、生育するには養水分や光を必要とする。圃場の
なかではムギと雑草は養水分や光を奪いあう競合関係にあり、一般に
発生密度が高く、分布が全面にわたることが多いので、ムギに対して
害作用を及ぼし、減収させることが多い。
雑草のうち、作物に比較して草丈の低いものでは、光競合がほとん
ど起こらないので、雑草害は主として養分競合によって発生し、窒素
の吸収量の低下により穂数が減少して減収となる。しかし、作物より
18
草丈の高い雑草では、吸肥力が大きいうえに光競合もあるため、減収
量はより大きくなる。
(4)除草剤使用の注意点
一般に湛水するイネの栽培と異なり、ムギのばあいは除草剤の効果
の変動が大きいので条件に合った除草剤を選択することが重要である。
同時に、
(1)砕土、整地をていねいにする
(2)条件によっては鎮圧する
(3)除草剤の薬量を守り、じっくりと散布する。
などの注意が必要である。
土壌処理だけでは充分な効果があがらないことがある。その場合に
は、生育期処理剤との体系処理が必要である。
水田裏作では播種後、多量の降雨にあうと湿害が発生し、発芽不良
となり、さらに湿害と並行して除草剤の薬害も発生することがある。
冬期間の除草剤の効果発現には時間がかかることも留意点の一つで
ある。
ウ 雑草の生態
雑草の発生に対する生態的な特徴を示すものとして、休眠性、光発芽
性、酸素濃度、発生深度、発芽温度、好適土壌水分などがあげられる。
(1) 休眠性
休眠とは、その種子が発芽に好適な環境におかれても発芽せず生存
している状態をさし、種の生存を保障する機能として雑草にとって重
要な性質である。
(2) 光発芽性
水田裏作に発生する雑草種子は光発芽性をもつものも多い。光の影
響をほとんど受けないものもあるが、大部分の種はなんらかの影響を
うけ、暗黒下ではほとんど発芽しないものもある。
(3) 酸素濃度
どの種の種子も 1%以下の酸素濃度では発芽できず、3~5%ではスズメ
ノテッポウ、スズメノカタビラはよく発芽する。しかし、この濃度で
は発芽の悪い種があり、種間差がみられる。
(4) 発生深度
発生深度にも種間差がみられ、最高発生深度はカモジグサで、ノミ
ノフスマ、ハコベなどはやや浅く、ヤエムグラは比較的深い。
(5) 発芽温度
一年生雑草の大部分の種では、発芽の良好な温度範囲は 10~20℃で
あるが、ノミノフスマとツメクサは 15~20℃、タネツケバナは 20℃、
タビラコは 10~15℃である。
(6) 土壌水分
土壌水分は、幼芽の伸長に直接必要であるだけでなく、間接的には
土壌の硬度と酸素量とに関係する。同じ場所でも土壌水分が多くなれ
ば土壌は膨軟になり、逆に酸素量は少なくなるから発生に最適な土壌
水分範囲が存在することになる。
スズメノテッポウの場合では圃場容水量の 70~90%、乾生雑草のヤエ
ムグラでは 30~50%程度といわれている。
19
エ
主要雑草の特性
(1) スズメノテッポウ
スズメノテッポウはイネ科の一年生雑草で、水田裏作においてはほ
とんどの地域で最優占雑草であり、ムギの生育・収量に与える影響も
大きい。
水田裏作では水田の落水後 9 月下旬~11 月にかけてが最もさかんに
発生する。
スズメノテッポウは、肥沃な土壌に好んで生育し、カリ欠乏にはや
や強いが、窒素欠乏にはやや弱く、燐酸欠乏には非常に弱い。酸性土
壌にはよく生育し、pH4~6 の範囲で生育が最も良好である。
(2) カズノコグサ
カズノコグサはイネ科の越年草で生育期間は 9~6 月。種子でも繁殖
し水田、畦畔、水路の縁などに生育する。おもに秋に発生し幼苗で冬
を越し翌春早くから生長する。西南暖地では耕起前の水田に一面に密
生し大群落をつくる。
土壌水分が高いほ場での発生が多く、水稲後に比べて休閑田で発生
は少なく、大豆後作での発生はほとんど認められない。発生盛期は 12
月~1 月であるが、発生は麦播種前から 3 月までみられる。幼植物はス
ズメノテッポウと酷似し、地上部での判別は困難であるが、2 葉期以降
であれば根の色が、カスノコグサは白色であるのに対し、スズメノテ
ッポウでは赤褐色であることから判別は可能である。
生育中~後期の生育量はスズメノテッポウよりはるかに大きく、草
丈は 70cm 程度に達し、多発ほ場では雑草害による麦の減収をまねくだ
けでなく、コンバイン収穫に支障をきたす。
(3) カラスノエンドウ
マメ科に属する一年生の雑草で、ムギ圃場では畑、水田ともに発生
し、北海道を除いて全国に広く分布している。発生は主として 10 月中
旬~11 月ごろで、畦畔や排水が良く、日当たりのよいところでよく生
育する。
種子が収穫したムギの子実に混入すると、粒大がムギ粒と同じくら
いであるため篩分けがしにくく、子実中に残ったばあいに実需者から
の苦情が多い。
種子は大きく、千粒重で 14.5g 程度ある。発生深度が 5cm から 10cm
くらいまで発生してくるといわれ、そのため発生が長く続き、土壌処
理剤では防除しにくい。
(4) ヤエムグラ
アカネ科に属する一年生の雑草で、わが国には広く分布している。
乾生的な雑草で、水田裏作のなかでは比較的排水良好なところに発生
が多い。11 月中旬ごろから発生を始め、ほとんどは年内に発生するが
一部は春先にも発生する。
ヤエムグラの種子は強い休眠性をもち、大部分の耕地雑草と同じく
光発芽種子に属する。種子の休眠程度は種子の大小、熱度、保存法、
田畑別などにより差がみられ、他の草種にくらべて発生深度が深いこ
となどからだらだら発生の原因となり、ムギ雑草のなかでは防除が困
難な草種に属する。そのため,最近発生が増加傾向にある。
20
(5) ノミノフスマ
ナデシコ科に属する一年生の雑草で、ムギ圃場ではスズメノテッポ
ウに次いで発生が多い。
10 月ごろから発生を始め、かなり大きくなって越冬する。また、春
先に発生するものもある。
種子には強い休眠があり、採種してから 50 日後ではほとんど発芽し
ない。この休眠は、他の水田裏作雑草と同じく、夏の飽水状態の土壌
中に種子を 20 日ほど埋蔵するとほとんど覚醒することから、無酸素高
温処理が有効のようである。
発芽適温は 15~20℃であり、発芽に光を必要とする光発芽種子であ
るが、光発芽種子でありながら 3~4cm の深さからも発芽するので光は
絶対不可欠のものではなく、他の条件で代替しうるものと考えられて
いる。
オ 除草剤
麦の除草剤は播種後の土壌処理剤と生育期の茎葉処理剤に分けられる。
雑草種によって除草効果に差がある。
カラスノエンドウにはトリフルラリンやジフルフェニカンで効果が高
い。
茎葉処理剤ではアイオキシニルは広葉雑草に効果が高く、チェンスル
フロンメチルやピラフルフェンエチルはイネ科雑草に効果が高い。
スルフォニルウレア系には抵抗性のあるスズメノテッポウ、カズノコ
グサが発生している地域もある。
⑦ 排水
ほ場内外の排水溝を整備してほ場内の滞留水は直ちにほ場外に排出でき
るようにしておく。
21
参考)畦立条播栽培作業体系(適用面積 5ha)
県下で一般的に実施されている畦立条播栽培に、地表面排水溝及び土入れ作業を兼ねてできる乗用型・動力土入れ管理機を
組合せたもので、その作業体系、使用農業機械、作業人員、ha 当たりの所要時間及び使用資材は次のとおりである。
作業の種類
種子予措
耕起整地
基
肥
播
除草剤
散 布
種
項目
人力
ロータリー
作業幅
140 ㎝
農業機械使用
組作業人員
1
15
使用資材
1ha 当たり
5
小麦
50~60kg
大麦
60~70kg
施肥播種機
スプレヤー
400ℓ
1
機械使用時間
1ha 当たり
人力所要時間
1ha 当たり
施肥播種機
1
耕起同時
1
耕起同時
15
軽油
30ℓ
化学肥料
500kg
小麦
50~60kg
大麦
60~70kg
作溝土入
追
動力土入管
理機
(動力歩行
型)
人力
肥
2
1
3
5
6
5
20
7.5ℓ
化学肥料
300kg
ガソリン
軽油
6ℓ
除草剤
22
溝上土入
刈取脱穀
乾燥調製
動力土入管
理機
(動力歩行
型)
自脱型コンバ
イン
刈幅
120 ㎝
循環式乾燥
機
24 石型
1
1
2
5
15
21
64hr/ha
5
30
13
99hr/ha
1
ガソリン
軽油
7.5ℓ
40ℓ
灯油
20ℓ
合計
(2)耕うん同時畝立て播種技術
アップカットロータリーの排水性と畦立て能力を生かし、溝上げを中心に排
水対策を実施する。
耕うんと同時に鎮圧しながら播種を行うと、土壌水分が保持されるため、発
芽しやすくなります。さらに、別行程作業に比べて作業能率が向上するととも
に、耕うん後播種までの降雨リスクを回避することができる技術です。
① 基本的には散播または、平畦狭畦密植
② 排水対策として畦毎の溝上げ
③ 狭畦密植にしない場合、条毎の畦立て
(麦では、4~6 条播種後、畦立てを実施)
23