4. 組織の固定 / 包埋 / 前処理に関する質問 Fixatives / Embedding / Pretreatment 組織の基本的な固定方法 質 問 回 答 Q 固定方法の違いは、in situ 実験にどのように影響しますか? A 組織形態の維持や細胞からの mRNA 損失を防ぐことが、ISH 実験を成功させるための前提条件です。 組織は、固定液の灌流あるいは固定液への浸漬という方法により固定されます。一般的に灌流法で 1 2 は固定液がより短時間に組織または細胞中に拡散することから、組織の形態および RNA が破壊さ れずに維持できるという利点があります。 さらに、灌流法では組織から血液細胞が除去されるため、バックグラウンドの低い ISH データが 得られます。臨床用サンプルまたは胚組織など灌流法が使用できない場合のみ、固定液への組織の 3 浸漬を行ってください。 4 固定液の違い 質 問 Q 文献によると、in situ ハイブリダイゼーションのプロトコールに応じて異なる固定液が使用され ています。フォルムアルデヒド、グルタールアルデヒド、メタノール、エタノール、あるいは酢酸 との混合液などは、固定液として使用する場合にどのような違いがあるのでしょうか? 回 答 A 固定液には大きく分けて二種類のグループがあります。 フォルマリン、グルタールアルデヒド)および 架橋固定液(パラフォルムアルデヒド、 タンパク沈降固定液(エタノールまたはメタノー ルと酢酸との混合液)。使用する固定液は、ISH の感度に影響します。架橋固定液は、組織形態お 5 6 よびターゲットの核酸の保持に有効ですが、組織へのプローブの浸透力が低下する場合があります。 沈降固定液では、組織への浸透力は非常に良好ですが、組織形態が劣化し、ターゲットの mRNA シー クエンスが失われる場合があります。in situ ハイブリダイゼーションでは、4%パラフォルムア ルデヒドを含む PBS が一般的に使用され、大部分の組織タイプに対して非常に良い結果をもたら 7 しています。特に組織への浸透が極めて困難な組織タイプ(植物の葉など)では、FAA 固定液が 有効です(50%エタノール、10%フォルマリン、最高5%までの濃度の酢酸 )。 組織の調製 / 血液塗沫標本の組織固定 質 問 Q 回 答 A 血液塗沫標本をサンプルとする in situ ハイブリダイゼーションを行う場合には、どのような固定 方法を用いればよいか教えてください。 血液塗沫標本やサイトスピンの固定および脱水には通常次の方法が用いられます。4%フォルムア ルデヒドを含む PBS 中で10分間固定し、70%、95%、および100%エタノールに1分間ずつ浸漬 して脱水した後、風乾します。 8 9 10 11 12 29 4. 組織の固定 / 包埋 / 前処理に関する質問 Fixatives / Embedding / Pretreatment 2 基本的な包埋と切片作製法 質 問 回 答 1 Q 凍結組織のクリオスタット切片とパラフィン包埋切片とのどちらが ISH に適しているでしょうか? A 凍結組織のクリオスタット切片もパラフィン包埋組織切片のどちらも ISH に用いることができま す。クリオスタット切片を用いて優れた結果を得ることができるため、隣接した切片に対してそれ ぞれ異なる固定液を使用した免疫細胞化学およびハイブリダイゼーションを行うことが可能です。 一般的に包埋組織切片には、組織形態がより良い状態で保持されること、超薄切片が作製可能なこ 3 と、およびサンプルの向きを調整しやすくひと続きの切片を得ることが可能なことなどの利点があ ります。パラフィンワックスは、切片を1μm の薄さまで切り分けることが可能で、 ハイブリダイゼー ション前に完全に溶解させ組織から洗い流すことができるため、包埋剤として最もよく用いられま 4 す。一般的に6μm の厚みの切片が使用されます。 しかし、パラフィン包埋は組織の処理により多くのステップを必要とします。また特定のアプリケー ションにおいて、RNA が損なわれる結果、ISH のシグナルが低くなることが報告されています。 リ フ ァ レ ン ス: in 5 situ Hybridization. A practical Approach Edited by DG Wilkinson IRL Press, Oxford University Press, 1994 メタクリル酸包埋 / 品質の重要性 質 問 6 Q 1本鎖 cRNA プローブを用いて、メタクリル酸包埋切片上で ISH を試みていますが、うまくいき ません。クリオスタット上でプローブが働いていることは確認しています。メタクリル酸切片上で の ISH を成功させるためにお勧めの方法があれば教えてください。 回 答 7 A 最も重要なのは、メタクリル酸で包埋した組織の品質です。その他の包埋技術を使用する場合、 mRNA が分解されたり失われたりしやすいステップが幾つかあります(固定前の組織の取り扱い、 固定、脱水、および包埋の各ステップ) 。組織および切片の品質に問題がなければ、他に注意する 8 ステップは次の2点です。切片がスライドグラスからはがれないこと(あらかじめコートされたス ライドグラスを使用するなど)。そしてプローブの組織中への浸透を最適化すること。プロティナー ゼ K による処理のステップを慎重に調整することにより、プローブ浸透を最適化することができ 9 10 11 12 30 ます。 4. 組織の固定 / 包埋 / 前処理に関する質問 Fixatives / Embedding / Pretreatment 切片作製上の問題点 質 問 Q パラフィン包埋組織の切片を作製する段階で問題があります。例えば、切片が壊れたり、ばらばら になったり、割れたり、裂けたり、傷ついたり、削られたりします。また、切片が平たいリボン状 にならずに巻き上がってしまうこともあります。このような切片作製上のトラブルを改善する方法 があれば教えてください。 回 答 A 1 パラフィン切片が壊れたりばらばらになる場合、組織サンプルが大きすぎて切片作製に不適切で あったり、組織が適切に包埋されていなかったり(固定液が組織全体に浸透しなかったため、脱水 により組織の中心部が乾燥してもろくなり、パラフィンワックスがその細胞を包埋しなかった)、 切片を水の上に長時間浮かべて置きすぎたことが原因と考えられます。解決方法として、 の組織サンプルを切り分けて使用すること、 など)、 2 3 小さめ 別の固定方法を試すこと(異なる固定液や吸引ろ過 切片を水上に浮かべておく時間を短くすることが挙げられます。 切片が割れたり、傷がついたり、平面にそって削られたりする場合、切り出しに使用する刃が欠け 4 ていたり(ごく小さな欠けでも問題を生じることがあります)、汚れていたりすることが原因のひ とつと考えられます。また、組織中に細胞壁または骨など硬い物質が含まれる場合や、組織サンプ ルが適切に包埋されていない場合には組織中に乾燥した部分が生じ、これが切片の傷や割れの原因 5 になります。これらの問題を解決するために、双眼顕微鏡下で刃に損傷がないかどうかを検査する とともに、定期的に刃をクリーニングしたり必要に応じて取り替えたりしてください。 パラフィン切片がきつく巻き上がってしまう場合には、切り出しの刃がマイクロトーム上で正しい 角度(4 が適切)に調整されていない可能性があります。また、刃を95%エタノールと蒸留水で 6 洗浄する必要性が考えられます。 7 エオジン Y 色素:切片作製時の組織の向きを定める 質 問 Q 組織サンプル(直径1mm の植物サンプル)をパラフィン中に包埋する際に、 固形ワックスのブロッ ク中にある組織が視覚上透明であるため、その位置を見つけるのが大変に困難です。さらに、マイ クロトーム上で目的とする組織面の切片を作製するために、ブロックの向きを定めることも非常に 8 困難です。これらの問題を解決する方法があれば教えてください。 回 答 A 組織固定後の一連の脱水操作において、0.05%エオジン Y を100%エタノールのステップに加え ておきます。エオジン Y は非特異性の強い色素で、エタノールおよび水に溶解します。この色素 9 により組織は明るい赤色を帯びるため、ワックスブロック中でも容易に見つけることが可能です。 切片は薄い赤色を帯びますが、これは親水化 (rehydration) のステップで完全に無くなり、in ハイブリダイゼーションの妨げにはなりません。 situ 10 11 12 31 4. 組織の固定 / 包埋 / 前処理に関する質問 Fixatives / Embedding / Pretreatment Q 回 答 2 スライドグラスから組織切片が無くなる / スライドの代用 質 問 1 A ポリ‒ L ‒リジンをコートしたスライドグラスから切片が剥がれ落ちるトラブルに何度も直面してい ます。何が原因と考えられるでしょうか?また、この問題を解決する方法があれば教えてください。 使用するスライドグラスにより、組織がグラスの表面にしっかりと付着しない場合があります。ま た、組織がカバーグラスに付着することにより、スライドグラス上から無くなることも原因のひと つとして考えられます。 3 カバーグラス : カバーグラスをシラン処理することをお勧めします。シラン処理により、ガラス表面が疎水性に なります。 4 スライドグラスの前処理 : ポリ‒ L ‒リジンなどでコートされたスライドグラスが多く利用されています。ポリ‒ L ‒リジンで コートされたスライドグラスと同様に、Superfrost Plus (Manzel) または ProbeOn Plus (Fisher) などの前処理済みの顕微鏡用スライドグラスも多く利用されています。スライドグラス(全ての 5 熱し、さらに25∼30℃にてオーバーナイトで加温します。 組織切片が無くなる / プロティナーゼ K 処理 質 問 6 タイプの)上へのパラフィン切片の付着をより強力にするには、スライドを42℃にて数時間加 Q 7 らに、スライドグラス上に残った切片は十分に形態が維持されていませんでした。文献によると、 使用するプロティナーゼ K の濃度は実験ごとに大幅に異なります。貴社でお勧めの濃度条件があ れば教えてください。 回 答 8 プロティナーゼ K 処理を行った後、幾つかの組織切片がスライドグラス上から失われました。さ A 切片がスライドグラス上から失われる原因として、以下の点が考えられます。 ‒ プロティナーゼ K 処理の時間が長すぎる。 ‒ プロティナーゼ K の濃度が高すぎる。 プローブの組織内への浸透を良くするためプロティナーゼ K が必要な場合には、必ず使用する濃 9 度を十分に検討してください。プロティナーゼ K 溶液が前消化されているかどうかは、酵素処理 を最適化するために重要なポイントです。弊社内で検討した結果、前消化を行わなかったプロティ ナーゼ K に比べ、前消化済みのプロティナーゼ K では10倍反応性が高くなることが分かりました。 このように異なる方法で処理されたプロティナーゼ K により反応性に違いが生じることが、文献 10 11 上に極めて多様な濃度範囲が示されることの理由のひとつとして考えられます。さらに、プロティ ナーゼ K 溶液の反応性を安定させるために、溶液を使用直前に新しく調製するか、または少量ず つに分注して−15∼−25℃に保存してください(凍結と融解とを繰り返さないこと)。 最適濃度は以下の事項に大きく依存します。 ‒ 使用する組織の種類 ‒ 切片の厚さ 12 32 ‒ 組織が包埋されているかどうか(またどのような方法で包埋されたか) 弊社から発売されている ready-to-use のプロティナーゼ K 溶液をご利用ください。‒ 目的の濃 度に希釈するだけで、そのままご使用いただけます。 4. 組織の固定 / 包埋 / 前処理に関する質問 Fixatives / Embedding / Pretreatment プロティナーゼKを用いた前処理 質 問 Q in situ ハイブリダイゼーションを行った後、組織がダメージを受けているように見えることがし ばしばあります。ただし、実験前や親水化 (rehydration) の後の段階では組織のダメージは見られ ません。また、シグナルは薄めの青色が拡散したような発色になり、個々の細胞を特定することは 容易ではありません。何が理由として考えられるでしょうか。 回 答 A 1 in situ ハイブリダイゼーションの操作において、RNA プローブの浸透性をよくするために組織に 一連の処理を施します。プロティナーゼ K のステップは精密さを要するステップのひとつです。個々 の組織タイプに対してプロティナーゼ K の濃度とインキュベーション時間を最適化することが必 2 3 要です。RNase フリーのプロティナーゼ K を使用して、クリオスタットでは0.1∼0.5μg/ml、樹 脂またはパラフィン包埋切片では1∼20μg/ml の範囲の濃度系列を用いて試験を行います。 4 過度なプロティナーゼ K 処理により、非特異的なバックグラウンドが生じることがある 質 問 Q ISH のプロトコールにプロティナーゼ K 処理のステップを加えて、ISH で特異的なシグナルがうま く得られていますが、プロティナーゼK処理を行った場合に切片の質が明らかに劣化しました。ま 5 た、非特異的なバックグラウンドが生じる場合もあります。 回 答 A プロティナーゼ K 処理をし過ぎると、非特異的なバックグラウンドを生じる場合があります。プ ロティナーゼ K の濃度を低くしたり、処理時間を短くすることをお勧めします。また、プロティナー 6 ゼ K 処理の後に固定のステップを加えることも有効です。 弊社から発売されている ready-to-use のプロティナーゼ K 溶液をご利用ください。目的の濃度 に希釈するだけで、そのままご使用いただけます。 プロティナーゼ K 処理により、シグナルが弱まることがある 質 問 Q 組織中に強く発現する mRNA の検出に ISH を使用しました。特異シグナルは得られたものの、シ 8 グナルの強度は非常に低いものでした。このため、ISH のシグナル強度を高めるために、プロティ ナーゼ K 処理を用いて組織中へのプローブの浸透を促進しようとしましたが、うまくいきません でした。この操作では、かえってシグナルが完全に失われてしまいました(組織形態は十分に維持 されているにもかかわらず)。 回 答 A 7 ハイブリダイゼーション処理後の操作ステップ中に、プロティナーゼ K が mRNA を洗い落とす原 因になる場合があります。プロティナーゼK処理の直後に固定のステップを加えることをお勧めし ます。この再固定のステップは、切片の形態をよりよい状態で保持する効果もあります。 弊社から発売されている ready-to-use のプロティナーゼ K 溶液をご利用ください。目的の濃度 に希釈するだけで、そのままご使用いただけます。 9 10 11 12 33 4. 組織の固定 / 包埋 / 前処理に関する質問 Fixatives / Embedding / Pretreatment Q in situ ハイブリダイゼーションの結果、非特異的なシグナルが大量に生じます。アセチル化 (acetylation) のステップがバックグラウンドを低下させる効果があると聞いたことがあります。ア セチル化の効果について教えてください。また、この操作を行う必要があるでしょうか? 回 答 2 アセチル化により非特異バックグラウンドが低くなる 質 問 1 A 3 アセチル化は無水酢酸トリエタノールアミン溶液により、組織やスライドグラスに対するプローブ の静電気的な非特異結合を減少させるためにもちいられます。したがって、多くの組織タイプに対 してこの操作をお勧めします。 大部分のプロトコールには、組織の前処理のステップにアセチル化が含まれています。アセチル化 により塩基性タンパクなどポジティブチャージの分子が中和されます。また、 ポリ‒ L ‒リジンでコー 4 6 7 8 9 10 11 12 34 ことができます。また、アセチル化はビオチンラベル化プローブを使用する場合にバックグラウン ドのシグナルの原因となる内在性ビオチンを除去します。 キシレンやエタノールには DEPC の添加は不要 質 問 回 答 5 トされたスライドグラスを使用することにより、プローブのスライドグラスへの非特異結合を防ぐ Q 脱パラフィンに用いるキシレン (Xylene) やエタノールにも DEPC を加える必要がありますか? A いいえ。キシレンやエタノールは RNase フリーであるため、DEPC 処理の必要はありません。
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