論 文 実時間ホログラフィ干渉法の応用 ―ゲージブロックの熱膨張測定― 吉澤徹 永壽伴章 (昭和52年6月8日受理) Practical Application of Real-time Holographic Interferometry -Measurement of the thermal expansion of gauge blocksToruYOSHIZAWA TomoakiEIJU Abstract Rea1・time holographic interferometry is applied for the measurement of dimensional varia・ tion of gauge blocks thermally expanded. Appropriate techniques and methods are investigated and developed for the realizaion of real・time holography to be worthy of practical usage. Experimental results show the validity of the method. 1.緒 機会も多く,リンギングする際うすい油などの層が存 言 在するので,過渡的な熱変形のようすが単体のものと ホログラフィを用いた微小変位の測定方法は,二重 同じかどうかについて,測定した結果について報告す 露光法をはじめ時間平均法,実時間干渉法などがあ る。 り,また新しい試みとしてサソドイッチホログラム 2. 理 法1)も注目を集めている。これらはそれぞれに特長が 論 あり,目的に応じて使いわけられる。共通した特長と 2.1実時間ホログラフィ干渉法 して,測定感度が1μm以下になしうること,測定時 ホログラフィはコヒーレント光を利用した干渉現象 になんら測定力がかからないこと,変形を対象物体面 の応用であり,したがって光の波長オーダーの測定が 全体にわたるパターソで表現できることなどがあげら 容易にできる。実時間ホログラフィ干渉法では,物体 れる。しかし手法の見事さにもかかわらず,実用的立 とその虚像を干渉させると考えられる。まず最初に基 場に基づいた研究はきわめて少ない。そこで筆者らは 準となる状態をホログラムとして凍結し記録してお 実時間ホログラフィ法をとりあげ,精密測定への具体 く。ホログラムを再生しながら,物体を基準時と同じ 的応用という立場から,ゲージブロックを使用する際 物体光で照明しておき,物体に変形を与えると,再生 の熱による変形のようす2)3)を測定することを試み 像と物体の間に,物体の変化に応じた干渉縞パターン た。ゲージブロックは単体で用いられるほかに,ふた を生ずる。この時生ずる干渉縞は物体の変化のみに依 つ以上をリソギソグさせて用いることも多い。その場 存するので,光学系の不完全さに基づく干渉縞への影 合も精度においては実用上,単体の場合とかわらない 響はまったく無視することができる。 とされている。B級程度のゲージの場合,手で触れる 図一1において,変位前後の物体表面の間隔4による 一59一 第28号 山梨大学工学部研究報告 昭和52年12月 単純にはできない。 △s 本研究ではそのような場合のゲージブロックの挙動 を対象として取り上げている。一般に物体の温度と長 さの変化のあいだには次のような関係がある。 Al=1・{(To−20)・α十1}・dT・α×103[μm] (3) 変位した物体面 ここで To:測定開始時の試料温度[°C] AT:測定中の試料温度の変化[°C] 1:20°Cにおける試料の長さ[mm] α:試料の線膨張係数[deg−i] dl:試料の伸び[μm] 図一1光路 差 またゲージブロックは鋼製なので,α=11.5×10−6 光路差ASがλ/2変わるごとに干渉によって物体表面 [deg−1]である。本研究では1−100[mm]のものを は明から暗,暗から明へと変化する。この時ASは図 使用しているので(3)式は次のようになる。 ∠ll=1.15×∠fT・{(To−20)×11.5×10−6十1} から明白なように次式であらわされる。 [μm](4) AS−d(COSα+COSβ) (1) 干渉縞の1周期は4S=λとおけぽよいので干渉縞1 以上により温度変化と長さ変化の関係づけがなされ た。 周期に対応する変位量Adは次式であらわされる。 Ad一λ/(cosα+cosβ) (2) 3.実験装置および方法 ここでα,βはそれぞれ,変位の方向に対する物体光 照射角および観測方向角をあらわすものとする。 3.1実験装置 α,βについてはある程度任意に選ぶことができる。 最も簡単であり,広く用いられているフレネル変換 波長λは使用レーザによる固有のもので,ここでは, ホログラムを得るため,図一2に示される光学系を用い He−Neレーザのλ・ ・O.6328[μm]を使用している。 た。長さの変化測定と,全体のパターソ観察の場合で また試料の正面から観測するのでβ一〇°となる。αは は,物体を正面から見るようにしたためミラーの位置 装置の関係から30∼60°にとることになる。したがっ が多少違っているが,原理的には同じである。長さの て干渉縞1本に対する変位量は約0.3∼0.4[μm]と 変化を測定するときは物体を上方から観察すべく,ミ なる。 ラーを利用した。 2.2ゲージブロックの熱変形 実時間干渉法では,再生像と物体をかなり高い精度 長さの測定ではその測定条件を指定しなくてはなら で一致させなけれぽならない。したがって乾板をホル ない。ゲージブロヅクも鋼製であるので,当然温度に よる伸縮をまぬがれるわけにはいかない。測定中,常 に熱的に定常なら,雰囲気温度を測定しておくことに よって,あとで補正することも可能であるが,測定中 (特に部分的に)熱の出入りがあると補正することは lSh・tter Beam Splitter Lens e−NeLase @ 1 Mirror M oPump Liquid 夕 Object Plate Mirror kens マクネットチャノク ポンプ 図一2(b)実時間用現像槽 図一2(a)光学系の配置 一60一 実時間ホログラフィ干渉法の応用 ダーからはずし,現像処理の後,再びもとの位置にも 4.実験結果ならびに考察 どすというやり方ではかなりの困難さがともなう。そ こで,実時間測定用現像槽を製作し乾板を取外すこと 4.1長さの変化 な人水槽中に固定したまま処理を行うことにする。試 4.1.1 ダミーブロックの場合 作した現像槽は図一2(b)に示すような構造となってお 実物のゲージブロックを用いて実験を行う前に,ダ り,ガラス容器中に乾板ホルダを納める形式をとって ミーブPックを用いて予備実験を行った。これはゲー いる。乾板の露光および処理は全て槽内にて行い,水 ジブロックでは温度測定用サーミスタ挿入のために穴 中にて露光後,現像・定着・水洗の順に処理をする。液 をあけるわけにはいかないため,ダミーブロックに穴 の流入・流出は全て電動ポンプを使用して静かに行う をあけて中心温度を測定しておき,実物のゲージに対 よう注意した。ここで使用した乾板はアグファ10E75, する温度測定の参考とした。なお,光学系の配置にお 現像液アグファGP 212,定着液スーパーフジフィッ いてα一55°としたので,縞1本に対する変位量は クスであり,また実時間で干渉縞を観察するには回折 0.40[μm]であり,またダミーの全長は110[mm]な 効率を高める必要があるために,フェリシアン化カリ ので20°C近傍での0.1°Cの温度変化に対する伸びは 7.5%液によるブリーチを必要に応じて行った。乾板 0.13[μm]となる。10°C近傍においてもこの桁数で の処理には多少の実験技術が要求されるが図のような は違いは生じない。 簡単な光学配置と処理装置によって一応の目的を果た 図一3をみると,供給熱量が増すにつれ,伸びの量, すことができた。 速度ともに大となっているようすがわかる。伸び方と 3.2 実験方法 供給熱量の関係はほぼ比例していると単純に考えて問 3.2.1準備 題はない。これから考えて,手指の暖かさの個人差は 室内は送風しておき,上下方向の温度差が小さくな るよう配慮し,試料,装置類はセットしたのち長時間 放置してから実験を開始する。各測定にあたっては10 分間加熱,50分間放冷を1サイクルとし,最初の30分 間を測定にあてた。室温は20°Cにすべきであるが, 各種の事情により達成されなかった。しかし,実験前 冥 逗 晶 淀 s一 後の室温変化は結果的に±0.5°C以下になっている。 3.2.2加熱と観測 加熱は手指によるのが本来であろうが,手を添える ことによる変形が無視できない誤差の原因となるので 10 15 経過時間t〔min] ニクロム線ヒータを用いて加熱するこにした。供給熱 量は,実験にさきだって,温度変化を手指による加熱 の場合について測定し,なるべくそれに近い温度変化 を示すように電源電圧を調節した。なお傾向を顕著に 冥 言 あらわすために,一部の実験では人体の約2倍の熱量 憲 淀 を供給した。縞の移動(すなわちゲージの変化)の観 港 測は,あらかじめ物体表面上にマークをつけ,また観 測者の眼の位置を照門により固定しておいて,マーク 10 15 経過時問t〔min〕 上を通過する縞を数えることにした。なお,この時, 縞が全然見えない状態から測定をはじめると,変位の 方向がわからないので物体照明光をわずかに傾けて, あらかじめ,数本の干渉縞を物体上に生じさせてその 移動方向より試料表面の変位の方向を弁別した。測定 はマーク上を通過する時の経過時間と試料の温度につ いて行った。 冨 言 謹 簗 10 15 20 経過時間t〔min〕 図一3 ダミープロヅクの熱膨張 一61一 25 山梨大学工学部研究報告 昭和52年12月 第28号 直接に伸び方の違いとなってあらわれる。 になる。したがって,冷却過程では,温度と伸びの関 熱の伝わる速度は,接触している物体間の温度差に 係が加熱過程の場合と比べてずれたものとなったと考 比例するということは周知であり,その結果,時間に えられる。このことから,温度分布が違えば伸び方の 対する温度変化のようすは対数曲線を描くが,グラフ ようすも各部で異なり,そのため,全体にある変形が はこうした傾向をしめしている。加熱過程に比べて, 生ずる可能性があることは考慮しておかねばならな 冷却過程では測定値のぱらつきがめだっている。これ い。 は,加熱過程では十分な熱量が供給され,安定した熱 4.1.2 ゲージブロヅクの場合 移動が行われているのに対し,冷却過程では温度差も (1)単体のゲージブロック 小さく,周囲のわずかな環境変化によっても大きく冷 単体のゲージブロックについて測定した結果を図一5 却のようすが影響をうけるためであろう。 に示す。α一55°に配置したためひと縞あたり0.40μm 実用上最も関心があるのは,一たん熱膨張した物体 の変位となる。ゲージ長さ1 ・= 100[mm]なので,温 がもとの状態に回復するのに要する時間である。ダミ 度変化dT=0.1°Cに対してAl−=O.12[μm]の長さ ーブロックの場合,約20分間で,いずれの場合もほぼ 変化を生ずる。 もとの長さにもどっていることがわかったが,その過 熱膨張による長さの変化の傾向はダミーブロックの 程における温度と伸びの関係に多少気になる点があっ 場合とほぼ同様である。長さの回復については,約20 た。ここでいう温度とは,ダミーブロックのほぼ中央 分間放置することによってほぼもとの長さにもどって 部に穴をあけてサーミスタを挿入して測定した温度の いる。もとの長さより若干短かくなった場合もあるが ことであるが,加熱過程と冷却過程では,単位温度変 この原因としては,実験中の気温降下,初期の熱的平 化に対する伸び量(縮み量)はほぼ同じなのに,同じ 衡化の不完全さなどが考えられる。 温度でも,ブロックの全長としてみると,必ずしも同 次に伸びと温度の関係について考える。ここでいう じではない。これは,この実験では,加熱,冷却をす 温度とはゲージブロックの中央部表面にサーミスタを る際の過渡現象を測定していることに原因を求められ 密着させて測定した温度のことである。図一6に測定結 る。すなわち,各部における温度に不均一さがある。 果を示す。温度が平均温度を示しているとした理論値 ダミーブPックの下部をヒータで加熱しているため下 よりやや上方に偏よっているが,これは温度変化から 部はすぐに温度上昇を始めるのに対し,上部では遅れ 推定されるより大きく伸びたことをあらわしている。 が生じ,結果としてダミーブロック全体にある温度勾 配ができる。各部分はそれに応じた伸びを生ずること になる。下部から上部にかけての温度勾配をほぼ一様 とすると,中央部は,全体の平均温度をあらわすこと になり,全体が平均温度になったとしたときの伸びの 冨 這 量と実験値とは図一4にみられるようによく一致する。 藻 これに対し,冷却過程においては外部表面から熱が逃 盲 葉 げてゆくため,中央部の温度は,全体で一番高いこと 10 15 4 「言3 経過時間〔min〕 10・ ・冨 ら!・ 言 己 ?2 .練 る ξ 世 葉 1 0 丘パ6Rit ら㌢遍・ 冥 這 品{tS’ .■ 藻 さ 葉 ・魂≦ 0.5 1.0 1.5 2.0 3.0 10 15 20 温度変化△T〔℃〕 経過時間〔min] 図一5単体ゲージブロックの熱膨張 図一4 ダミーブロックの温度変化と伸び 一62一 実時間ホPtグラフィ干渉法の応用 11・ 4 ll 10・ 10 零3 .冨8・ 主 著 芒)2 会。X。号・ノ 言 喬6・ 客 二 4。。杉!D .漣 遷4 葦 1・ 0・ 謹 。d。メ! 繋 。。rPc・−ft。 0.5 1.0 1.5 2.0 温度変化△T〔℃〕 図一6単体ゲージブロックの温度変化と伸び 10 15 20 経過時間〔min] 一見奇異であるが温度が必ずしも平均温度を示してい るわけではないことを考えれぽ,むしろよく一致した 宮 三 と見るべきである。ダミーブロックの場合は中央に穴 をあけ,サーミスタを入れて温度測定したが,実物の 曇 ゲージブロックに穴をあけるわけにはいかないので, 遥 表面に密着させただけであったため,当然表面温度し か得られず,しかもサーミスタの片面は外部に露出し 10 15 20 25 ているため,温度は低めに測定される可能性がきわあ 経過時間[min〕 て大きい。それにもかかわらず,この程度のずれであ 図一7 リンギングしたゲージブロックの熱膨張 るということは,単体のゲージブロック内の温度勾配 はかなり小さいものではないかと考えられる。 11・ (2) リソギングさせたゲージブロック 4 ・ 10・ 25,24,23,16,12[mm]のゲージブロックをリン ギングして,全長100[mm]とした。その他の数値に ついては単体の場合と同様である。 i::翻㌫ 図一7に測定結果が示されている。加熱時のようすは 前二例とほぼ同様の傾向を示している。冷却過程はや や違った傾向となる。曲線のカーブは類似したもので ゜喰5〆 1・ あるが,もとの長さまでもどっていないのに長さの変 ・&ats/ nロq}e▲ロ’ 0 化がほとんど止まってしまっている。そのずれは,約 ロックではなく,ひとつのリンギソグ層を隔てたとこ ろで測定している。そのためか,図一8に見られるよう に,測定温度と伸びの関係は理論値とはずれたものと 3.0 図一8 リンギングしたゲージブロックの温度変化と伸び ヒータとサーミスタの位置関係は単体の場合と同じに なっているが,リソギングした関係で,同一ゲージブ 1.0 1.5 2.0 温度変化△T〔℃〕 1∼2[μm]に達し,無視できるものではない。加熱用 すことになり,大きく伸びるわけである。つまり,供 給された熱量が同じなら,温度,伸び方に不均一があ っても,全体としてみた伸び量はだいたい似たものと なる。長さの回復が遅れている,ないし回復しないで なっている。リンギング層の存在から,そこで温度分 いる点については,リソギングした面が熱変形し,そ 布が不連続に変化していることが推測される。リソギ の層の厚さに変化を生じたためであろう。これについ ソグ層の厚さはごく小さいものなので長さに影響を与 てはリンギソグの良し悪しがポイントとなる。今回は えるとは思えないが,熱の移動に関しては,無視でき どうしても良好なリソギング状態が得られなかったこ ない影響を及ぼすであろう。ひとつのゲージブロック と,またひとつにはリソギング面の油膜の影響を拡大 から他のゲージブロックへの熱の伝達がうまくゆかな して調べるためわざとごく少量のワセリンを塗布した い場合,そのゲージブロックだけが高い温度上昇を示 ためこのような結果となったことと思う。 一63一 山梨大学工学部研究報告 昭和52年12月 第28号 以上のことを考えあわせると単体のゲージブPック (1)単体のゲージプPックの場合 とリソギソグしたゲージブロックを同程度の注意のし 図一9に結果を示す。これからわかるように,ヒータ かたで扱うことは適切さを欠くことと言える。特に, より上方のはなれた部分ではほとんど変位がおきてい リソギソグするときは多少とも手で触れるため,各ゲ ないが,ヒータ付近では変形のようすがはっきりとあ ージブロックの温度の不均一さが生ずることが多いの らわれ,その傾きは,上から下に向かって,10[mm] で注意すべきである。リソギソグした場合の,単体の あたり0.4[μm]程度になっている。注目すべき点は, ゲージとの違いは,主として,このリソギング面での 下部の変形にもかかわらず,上部が傾いていないこと 熱伝達のようすの不連続さが原因となっていると考え である。熱変形がおこっているのは,ヒータ付近のみ られる。 で,したがって温度上昇も主としてこの部分でおこっ 4.2 ゲージ全体の変形パターン ていると思われる。加熱を中止して数分で,ほとんど リンギングしたゲージブPックは,単体のゲージブ 変形は回復している。大きな変形パターソはあらわれ ロックと違い,リンギソグ面で歪みが不連続になると ず,特に問題のないことをしめしている。次に,ヒー 予想される。以下の図中のブロックゲージ表面の縞は タ付近の変形パターンをよく見るために,ヒータを上 ひと縞が0.37[μm]になる。 部に移動した場合を図一10に示す。ヒータ付近で約1 OmOOs 1m30s 2mOOs 3m40s 7mOOs gm20s 12mOOs 16mOOs 図一9単体ゲージブロックの熱変形(a) OmOOs Om30s 11m20s 13mOOs 1mOOs 3mOOs 5mOOs 15mOOs 171nOOs 21mOOs 図一10単体ゲージブロックの熱変形(b) 一64一 7m30s 10mOOs 28mOOs 縞補正後 実時間ホログラフィ干渉法の応用 分後にひと縞,約7分後にふた縞の変位を示してい 原因については次のように考えられる。前に述べたよ る。ヒータより下部では,変形のようすはなめらかで うに,加熱しているブロックと,そうでないブロック あるが,上部では一様に傾いている。これは,この部 の間には,油脂の層が薄いとはいえ存在し,それが, 分が熱変形してゆがみ,上部が全体的に傾いたためで 熱伝達の妨げとなることである。この結果,最下部の あろう。加熱中止後は,約10分程度でゆがみがなくな 熱変形が極端に大きく,他の部分はほとんど変形して り,まっすぐな状態になっている。縞が全体に傾いて いないことになる。各ゲージブロック上の干渉縞をみ いるが,このことはチャッキソグ面で,取付角度が変 ると,ほとんど直線状となっており縞の傾きは主とし 化したことを示しており,この場合,その変化は約 て,最下部の熱変形のため生じたもので,さらに,リ 7.4×10−6[rad]となり,面の実寸法に換算すると,最 ソギソグ面での面精度の偏差にもとつく傾きが加わっ 大で,0.074[μm]となり,チャッキング面の精度を考 ていると考えられる。 えるとやむを得ない誤差範囲内におさまるものであ (3)両者の比較 る。 単体の場合,変形は加熱部に集中していて,リソギ (2) リンギングしたゲージブロックの場合 ソグさせたものに比べて大きな違いがある。注目すべ 図一11のような撮影結果を得た。これからわかるよ きはリンギング面での縞の傾きの不連続さである。単 うに,30秒後には,すでに上部は大きく傾いている。 体のものでは,ゆるやかな曲線を描いて変形している この傾向はその後も時間につれて大きくなっている。 が,リンギソグしたものではなんとなく,ぎこちない これは下部のわずかな変形,ゆがみが,上部の傾きと 線である。ひとつひとつの変形があっても,全体とし なって拡大されてあらわれた結果である。リソギング ては回復が早い。しかし,いつまでも傾きの不連続さ した場合,問題となるのは縞の連続性であるが,結果 が残り,そのため図一11にみられるような回復の遅れ から,縞と縞のあいだにずれが生じているようすは見 が生ずるものと思われる。 られない。しかし,よくみると,縞の傾き方は,連続 全体的にねじれたようなパターンを示すものもある していない場合があることがわかる。これは個々のゲ が,これは加熱時の条件しだいで,大きく変化するか ージブPックの変形のようすが必ずしも連続的ではな ら.実際には複雑な変形が起きているものと考えられ いことをあらわすもので,望ましくないことである。 る。しかし,この節で述べたような変形は,長さとし OmOOs 11mOOs Om30s 12m30s 1mOOs 2m30s 5mOOs 7mOOs 15mOOs 17mOOs 20mOOs 図一11 リンギングしたゲージブロックの熱変形 一65一 9mOOs 25mOOs 10mOOs 縞補正後 第28号 山梨大学工学部研究報告 昭和52年12月 ては二次以下の微小量となってあらわれるものなので ンギング状態については十分とは言い難いものであっ 直接,測定にひびくとは思われない。ただ,このよう たため,良好なリンギング状態のものを対象とした実 な変形が起こっていることを,特に,薄いゲージブロ 験を行い,リソギソグの良悪による熱的影響の差異の ックを使ったりする場合に念頭にとどめるべきであ 比較について,継続して研究を試みる予定である。 る。 謝 5.結 論 辞 この研究を行うにあたり,実験技術に関して精密工 実時間ホログラフィを実際的測定に応用する目的を 学科・米村元喜博士の御指導をいただいた。また最終 もって,ゲージブロックに与える熱的影響を寸法変化 的なまとあに際して精密工学科・鈴木秀夫教授に多く の観察という点から実験的研究を行った。フレネル変 の御教示をいただいた。両先生および関係各位に御礼 換ホログラム用の光学配置のもとに,試作した実時間 申しあげる。 測定用現像槽を利用して実験をくり返した。定量的結 参考文献 果をえるには測定に際して多少のテクニックが要求さ れるが,簡便な試作の装置によっても,十分使用に耐 えることがわかった。ゲージブロックに関して,単体 のもの,リソギソグさせたものを対象とし,熱的変形 のようすを観察したところ,従来の経験と合致する結 果がえられ,実時間ホログラフィ法が,こうした測定 ・に有効であることが確かめられた。ただしゲージのリ 1) N.Abramson:Sandwich Hologram Interfero− metry, App1. Opt.,13(9),2019−2025(1974). 2)鈴木秀夫:精密測定の基礎(機械製作法・IV)(森北出 版,1975). 3)武藤孝治:ゲージとゲージ工作(精密工学講座)(日刊工 業新聞社,1958). 4)正1.Mote:Gage blocks, American Machinist・97 (Aug.16,1965). 一66一
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