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課
題
<28> 朽ちるインフラ
~ <E3> 公共事業の政治経済学~
E3 政府の更新投資の誘因  <N21章 pp.208-15>
1 <21章>公共事業の政治経済学
2 新規投資 vs. 維持補修費
3 朽ちる日本のインフラ
Microeconomics 競争市場と公共政策
[email protected]
Q 読解力チェック PP.208-15
Slide 2
1.
第21章 (pp.208-15) の主旨・用語を理解した?
1.
2.
3.
4.
5.
インフラ・社会資本の例は? p.208-11 (道路・橋梁・ダム・上下水道・空港等)
毎年米国で落下する橋梁件数は? 法定基準以下の
路のために交通事故死する人の割合は? p.208 (150件,1/3)
道路建設はできても維持補修ができないのは? p.210
ガソリン税は受益者負担(利用料金制)原則にか
そうなのに現実には何が問題? p.212 (実際の改定は約20年おき)
資本財への民間・政府の投資態度の違い? p.213 & Q演習4
1 <21章> 公共事業の政治経済学
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朽ちる米国のインフラ(≒社会資本)
 例:主要道路の1/3・橋梁の1/4は,すでに問題
新規投資には積極的,維持補修は先延ばし
 例:上記補修には,$1880億+$680億
∴公共投資と民間投資の態度には大差
 ∵インセンティブ(誘因)の相違
政治経済学
朽ちる米国インフラ
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インフラと公共投資
 例:道路・橋梁・ダム・上下水道等の社会資本
 政府や公営企業による投資・管理が主流
∵
巨額な費用(<C>独占) +外部経済(<D>過少供給)
朽ちる米国インフラの例
 多くの分野で補修維持費が長年先送り
 ∴問題点の解決だけで,$1600億
/ 5年
Q1 維持補修のインセンティブ
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自分の住む持ち家の屋根が落ちれば危な
いが,そうした事件が少ない理由は?
2. 自分の住む借家の屋根が落ちれば危ない
が,そうした事件が少ない理由は?
3. なぜそれなのに危ない道路や橋梁が放置
されている?  所有権・使用期間・責任・罰則 p.214 Q演習2
1.
Q2 米国のガソリン税
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道路の維持補修費の財源としてのガソリ
ン税の利点は? pp.211-2
2. それなのに政府が連邦ガソリン税の改定
に約20年もかかる理由は? pp.212
3. この維持補修費の目減りを防ぐ2つの方
法とは? pp.212-3
1.
A2 利用者料金制の理想と現実
Slide 7
利用者料金(受益者負担)という公平性
2. 値上げ  納税者は,費用↑に即刻直面,
but 便益はずっと後  反対圧力 + Q演習1
3. 利用者料金制の徹底(例:走行距離) +
物価スライド制
1.
1.
 混雑現象の緩和という効率性
Q演習問題(P.214)1&4
Slide 8
1.
なぜ利用料金制(受益者負担)は実現し難い?
1.
2.
3.
4.
一般課税:少数の利用者の費用を,多数で負担
But 改革は少数への費用集中&多数への便益分散
∴ 経済的誘因は薄弱 + 支出先も容易に変更
電球と畳,借家人が取り替え費用を負担するのは?
1.
2.
便益と費用の考慮 but 所有権のある契約期間
∴借家人:電球,移動書棚  政府:資本支出
2 新規投資 VS. 維持補修費
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多数の州政府  憲法上の借入への制約
 インフラの維持補修費
 経常支出
 年々の税収のみで賄うのが原則
 インフラへの新規投資
 資本支出
 借入による調達も可能
∴政治家には,資本支出優先バイアス

費用負担は,現在よりも,むしろ将来の投票者
新投資はできても,補修できない理由
Slide 10
1.
2.
政治家は,近視眼的 (選挙)・命名権
米国政治家の資本支出優先バイアス (前頁)
1.
2.
3.
借入による負担の先送り  資本支出(新規投資)
維持補修費は経常支出  現投票者への課税
補修は,将来便益のために現在費用を増加
1.
2.
工事による便益は,完成後にしか得られないのに,
費用は,今日の増税に加え,渋滞等も招く
Q3 今日の価値と明日の価値
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同じモノでも,今日と明日では価値は異なる?
1.
2.
3.
120億円,今日か1年後,どっちにもらいたい?
その気持の強さは,世間の利子率が20%と50%の
ときでは,どっちが強くなる?
いわゆる近視眼的な意思決定とは?
∴異時点間の比較には現在価値を計算

割引率・割引現在価値  西村(11, 16章)
A3 割引現在価値と異時点間の比較
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1.
2.
今日を選択  利子率等の<A>機会費用の理解
50%  r= 0.2: 144億円,r= 0.5: 180億円
1.
2.
3.
3.
利子率 r を割引率  来年の価値 = 現在価値×(1+r)
∴来年の価値の割引現在価値 = 来年価値÷(1+r)
例:120億 / 1.2= 100億, 120億 / 1.5= 80億
今日に比べて明日の評価が相対的に低い

割引率が高い: 将来をさほど気にしない
維持補修費と近視眼的意思決定
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政治家は短期的視野  任期・選挙 p.210
資本支出は,先に便益&後で費用
 納税者・投票者は歓迎  資本支出優先バイアス
維持補修費は,先に費用&後で便益
 納税者・投票者は敬遠  維持補修の先送り
∴政治をチェックすべき機構・国民も問題
インフラ投資・管理への民間活用
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民間投資の政府投資への優越性
1.
2.
3.
私的所有者は,公共機関より巧みに維持補修
この傾向は,耐用年数が長いほど顕著
∵私的所有者は,費用負担が便益受益と同一
 自分のモノで利益を得るなら,自分で手入れする
∴民間資金を活用した公共サービス:PFI

維持・管理,運営,建設等々の長期計画
参考 異時点間での非合理な行動?
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If 民間投資=<A>合理的主体モデル
 異時点間の選択でも,合理的な選択をするハズ
 ∴便益と(維持修理を含む)費用を全部考慮
But Why やめられないケーキや煙草?
 1年後に痩せたい,でも明日のケーキは大事
 ∴ダイエット失敗
 双曲割引率: 行動経済学
3 朽ちる日本のインフラ
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1.
総額約700兆円の社会資本  野村総研(11)
1.
2.
2.
今後50年に必要な更新投資額  根本(11)
1.
2.
急速な老朽化: 50年までに更新投資500兆円
順序: 2割強を占める治水・上下水道  3割強の道路
上水道管\57兆+下水道管\42兆=\99兆
公共建物\175兆+道路\29兆+橋梁\34兆 = \238兆
インフラの危機は経済&政治の危機
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日本のインフラも危機的状況
 高度成長(1954-73年)時代の資本の老朽化
But米国同様,維持修理・更新は先送り
 しかも米国同様,新規投資を優先
さらに年10兆円の経済的&財政的余裕なし
∴政治インフラ自体が老朽化  矢根(12)
朽ちるインフラの根深い政治問題
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朽ちた政治制度の放置  経済&インフラの危機
 戦後or明治以降の制度を変えられない政治的枠組

例: 途上国型の会計原則・制度
政府・官庁は未だに単式簿記・現金主義会計
 その年度の収支に終始,バランスシートなし

資産管理の視点なし,維持更新の留保なし
先進国型マネジメントへの転換が急務・基本
迫る上水道管の危機
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上下水道は,地方公営企業(複式簿記)  矢根(12)
But 規制は官庁  更新投資資金の確保・現状も曖昧
 すでに給水事業者の過半は,経年管を使用
 料金だけで更新するには,4.5倍の水道料金
 今後半世紀の給水網維持には事業者年平均\9.2億
 料金だけで更新するには,約2倍の水道料金
誰の責任? どう対処?  先送りの限界
老朽化するインフラからの教訓
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納税者も(特に)政治家も近視眼的
2. しかし先進国では,更新投資の重要性↑
3. ところが制度的には,新投資偏重バイア
ス
4. 問題:合理的無知下で誰がチェックす
る?
1.
要点
本日のポイント
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日米共に老朽インフラ時代
 高まる危険:橋の落下・交通事故・水道管破裂
 主因:維持補修費を先送りする制度的バイアス
 But
すでに更新のピーク期:先送りは限界
受益者負担の理解と拡充の重要性
 ただし現行(会計・規制)制度改革のうえ,
 事業負担の明示や資産マネジメントを一般化
次回準備: N25章 & <E4> 社会保障
参考:日本のインフラの老朽化
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野村総研(11) 『社会インフラ:次なる転換』 東洋経済
根本祐二(11) 『朽ちるインフラ』 日本経済新聞社
矢根(12) 「朽ちる水道インフラ」『桃大総合研究所紀要』
 割引現在価値等の基本概念


ミクロorマクロの入門経済学の標準テキスト
例: 西村和雄(11)『ミクロ経済学 3版』岩波