生物の絶滅と資源 • 松田裕之(東大海洋研) – 京大理博、数理生態学 – 生態学会全国委員・水産学会広報委員 – IWC国際捕鯨委員会科学委員会日本代表団 – WWFジャパン自然保護委員 – 保全生態学研究編集委員長 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt キキョウは絶滅するのか? 博覧会協会作成のCD-ROM http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 絶滅危惧種 の判定基準 (IUCN 1994, 2001) • • • • 絶滅リスクを評価する 客観的、数量的基準 すべての多細胞生物に適用 予防原則に基づく http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 絶滅危惧種の類別 (IUCN 2001) 絶滅(EX) ( 絶 滅 危 惧 種 の 段 階 分 け ) 野生絶滅(EW) ( 評 価 あ り ) ( 適 切 な 情 報 あ り ) ( 絶 滅 危 惧 ) 絶滅危惧Ia類(CR) 絶滅危惧Ib類(EN) 絶滅危惧II類(VU) 準絶滅危惧(NT) 低度懸念(LC) 保全依存(cd) 情報不足(DD) 評価せず(NE) http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt CITES ap.I CITES ap.II 絶滅危惧生物の判定基準 IUCN(2001) 基準 A2,3,4個 体 数 減少率が A1( 管 理 下 ) B1生 息 域 が B2分 布 域 が C (C1減 り 続 け た )個 体 数 が D1 個 体 数 が D2 生 息 域 が E 絶滅の恐れ が 松田「環境生態学序説」 CR >80%/10年 3世 代 EN >50%/10年 3世 代 VU >30%/10年 3世 代 >90%/10 年 3 世 代 >70%/10 年 3 世 代 >50%/10 年 3 世 代 <500km2 <5000km2 <2500(20%/5年 2世 代の減少) <250 (規定無し) 20年 か 5世 代 後 (100 年 以 内 ) に 20% <2000km2 <20000km2 <10000(10%/10年 3 世代の減少) <1000 近 縁 種 の <10% 100年 後 に 10% <10km2 <100km2 <250(25%/3年 1世 代の減少) <50 (規定無し) 10年 か 3世 代 後 (100 年 以 内 ) に 50% [1] http://iucn.org/themes/ssc/siteindx.htm どれか一つを満たせばよい(根拠の明示) http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 日本植物分類学会専門委員会による アンケート調査 • 25000分の1地図=1 区域 • 2000種以上の植物を約400人 の調査員にアンケート調査 (植物物知り博士がたくさ んいた=絶滅寸前) • 10年前との比較も尋ねる 種の平均余命 = f (現存個体数、減少率) 7 分布・減少率動向 サクラソウの場合 >1000 >1000 >100 >10 >1 ? total <0.01 <0.1 2 2 2 5 16 1 3 <0.5 <1 1 3 6 2 >1 1 2 2 1 ? 4 1 5 19 12 3 2 1 22 8 23 24 12 6 45 extinction Np=f1N1+ f2N2+ f3N3+ f4N5=31977 松田裕之(2000)『環境生態学序説』共立出版 total 8 15 60 12 23 118 13 8 キキョウはVUである • • • • • 全国的に広域分布 約2万株 約350区域 減少率70%/10年 現状維持は6区域 博覧会協会作成のCD-ROM http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 未実証の保守的な前提 • 過去の減少傾向が今後も続く – 密度効果を無視 – 地域較差を無視 – 減少率にも時代の波(バブル経 済) – 将来は管理され、調査精度向上 • 一部を除き生情報公開 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt モンテカルロ実験による 絶滅リスク • 区域内個体数: ni → (1-li) ni • %decrease li: size-invariant, positionindependent • If ni <1, we regard patch i as local extinction (ni=0). • If N=Σni<1, we regard this taxon as extinction. 11 絶滅までの計算機実験 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 絶滅リスク評価 松田裕之『環境生態学序説』共立出版 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 絶滅危惧種の基礎情報と判定 種名(科名) 学名 キキョウ RDB >1000 <1000 <100 <10 絶滅<0.01 <0.1 <0.5 <1 VU 2 20 131 107 Platycodon grandiflorus 16 24 32 64 40 シデコブシ VU 3 12 6 0 Magnolia tomentosa 0 0 0 1 15 イブキコゴメグサ EN 1 1 0 0 Euphrasia insignis ssp. iinumae 1 0 0 0 1 ヤチコタヌキモ EN 1 0 5 2 Utricularia ochroleuca 2 1 1 0 1 コウトウシュウカイドウ VU 0 0 1 0 Begonia fenicis 0 0 0 0 1 科名 >1 分布県 82 キキョウ科 6 広域に分布 3 モクレン科 0 中部 0 ゴマノハグサ科 1 滋賀 11 タヌキモ科 0 北海道・東北など 1 シュウカイドウ科 1 (沖縄) 不明 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt IUCN基準と環境省植物RDB http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt IUCN判定基準と環境省判定 • フジバカマ (EN,VU) – Np=6000, L=50, R=63%/10yrs • キキョウ (EN, VU) – Np=17000, L=258, R=69%/10yrs • ミナミマグロ (CR, Matsuda et al. 1998 VU?) – Np=423000, R=53%/ 10yrs Population Ecology 97 16 マグロは絶滅するのか • 資源管理と不確実性 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 基準A(3世代で80%以上減少) をみたしたミナミマグロ http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 基準E(絶滅リスク)を優先しな かったIUCN • IUCNの合意 • ほとんどの生物では 絶滅リスク評価不能 • 基準Eと他の基準が 食い違うときはどう するか?(基準間の 平等) • 基準A(減少率)も、 個体数情報不要 • 松田・矢原の主張 • 他の基準を使えばよ い(予防原則) • 絶滅リスクが少ない と証明できれば、リ ストに載せない • 個体数不明なら基準 Aでよい。既知なら ACD基準を使うべき http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 誤用される予防原則 ◎証拠不十分なものでも対策をとる ○保守的な前提を使う ▽他の証拠がそろっても見ない ▽全ての発見されたリスクを避ける 基準Eを満たさないとわかったもの は、絶滅危惧種ではないとすべき http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 絶滅リスクの低い種を掲載す るIUCNへの批判 Mrosovsky(1997 Nature 389:436 ) http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt ミナミマグロは絶滅寸前か たとえ管理に失敗しても,半世紀は大丈夫 100,000 推 定 10,000 親 魚 1,000 尾 数 100 ( 千 尾 10 ) 1 1970 1990 2010 2030 2050 西暦年 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 2070 ミナミマグロは回復するか? 2020年までに1980年水準に回復するのは困難 100,000 推 10,000 定 親 魚 1,000 尾 数 100 ( 千 尾 10 ) 1 1970 1990 2010 2030 2050 西暦年 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 2070 将来予想は外れるもの • 未実証の前提で予想(外挿) • 前提を変えれば予想も変わる • できるだけ恣意的でない前提 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 予防原則 precautionary principle • 環境に対して深刻あるいは不可 逆的な打撃を与えるとき,科学 的に不確実だからという理由で 環境悪化を防ぐ措置を先延ばし にしてはいけない 1992年リオデジャネイロ宣言第15原則 http://www.unep.org/ http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt http://www.biodiv.org/convention/articles.asp?lg=0 生物多様性保全条約 (JUNE 1992) • “Noting also that where there is a threat of significant reduction or loss of biological diversity, lack of full scientific certainty should not be used as a reason for postponing measures to avoid or minimize such a threat, http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt http://unfccc.int/ 国連気候変動枠組み条約 “Where there are threats of serious or irreversible damage, lack of full scientific certainty should not be used as a reason for postponing such measures, taking into account that policies and measures to deal with climate change should be cost-effective so as to ensure global benefits at the lowest possible cost. http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 科学者のとるべき態度 後 • 1992年地球サミット前 –科学的証拠なしに社会にもの を言うことが歓迎される を言わない; 科学論争を多数決で決める。世論 –世論に係らず、自らの見解を を味方につける 変えない 科学者の社会的提言につ いての学界基準が未確立. http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt Galileo’s Inquisition 「為すことによって学ぶ」 Learning by doing http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 順応的管理 (Adaptive Management) • 継続調査による状態変化に応じて 方策を変える(フィードバック制 御) • モデルと仮説を見直しながら管理 する(為すことによって学ぶ) • 管理自身を仮説検証実験とみなす • これは米加+日本でも国策となっ た http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt http://www.consecol.org/vol1/iss2/art1/ 順応学習とフィードバック制御 Adaptive Learning & Feedback Control 継続調査データ 管理の実施、 資源変動 動態模型 状態 管理の意思決定 勝川俊雄T.Katsukawa:博士論文(2002)より http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt エゾシカ:乱獲と禁猟の繰り返し 1 ,0 0 0 ,0 0 0 C atch 1 0 0 ,0 0 0 1 0 ,0 0 0 1 ,0 0 0 100 10 1875 1895 1915 1935 1955 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 1975 1994 (釧路支庁ホーム頁より) http://www.marimo.or.jp/Kushiro_shichou/ezosika/cover.html エゾシカによる食害 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 道東地区エゾシカ管理計画 http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/SIKA/DTdeerHP.htm 大発生水準(50%)以上 緊急減少措置(2年を限度) 目標水準(25%)以上 漸減措置(雌中心の捕獲) 目標水準(25%)以下 漸増措置(雄中心の捕獲) 許容下限水準(5%)以下 または豪雪の翌年 禁猟措置 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 60% 14000 50% 12000 10000 40% 8000 30% 6000 20% 4000 10% 2000 0% 2007 Yield Reproductive Potential 10倍の変動幅を覚悟せよ 0 2022 2037 2052 Year 2067 2082 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 2097 1 道東地域エゾシカ保護管理計画 の改正について(北海道2000) • 平成5年度末の道東地域の推定生息数 を12万頭とすると、その15%にあたる 1万8千頭以上を平成6年度以降、毎 年捕獲すれば個体数は減少するはずで あった。…平成5年度末推定生息数の 過小評価が明らかとなった。 • Matsuda et al. (2003) Wildl.Soc.Bull. • すばらしい説明責任(accountability) http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt 結 論 • 単純なリスク評価=事態の逼迫さ • リスクと予防原則の新たな科学規範 を! • リスク評価の将来予想と科学的な予測 の違いを周知しよう! http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2003/031129s.ppt
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