契約法各論講義 明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂 2015/10/1 Lecture on Contract 1 寄託契約 目次(下枠の をクリックすると,この目次に戻る) 寄託の終了 寄託の意義と性質 寄託の意義 寄託の性質 寄託の位置づけ 寄託の体系上の地位(図) 寄託の効力 消費寄託 受寄者の義務 保管義務 復寄託,図解 注意義務 通知義務 寄託と消費寄託との比較 消費寄託と消費貸借との比較 消費寄託の性質 有償寄託と有償消費寄託との比較 参考文献 寄託者の義務 委任の規定の準用による義務 損害賠償義務 2015/10/1 寄託者の任意解約権 受託者の任意解約権 任意解約権のまとめ 返還の場所 委任の規定の準用 参考判例 参考図書 Lecture on Contract 2 寄託契約 寄託契約の意義と性質 寄託契約の効力 寄託契約の終了 消費寄託契約 2015/10/1 Lecture on Contract 3 寄託契約の意義と性質 1. 寄託は,消費貸借と同様,要物契約であり, かつ,返還合意を含んでいるにもかかわらず, 有償契約の場合には,消費貸借とは異なり, 双務契約となる。その理由は何か? 2. 寄託が要物契約とされる理由は何か? 2015/10/1 Lecture on Contract 4 寄託の意義→体系 寄託に該当しない典型例 第657条(寄託) コインロッカーに荷物を預ける場合 寄託は,当事者の一方が相手方の ために保管をすることを約して 賃貸借契約(駐車場に自動車を預け る場合も同じ) 子どもを託児所に預ける場合 ある物を受け取ることによって,その 効力を生ずる。 委任契約(動物を訓練するために預 ける場合も同じ) 典型例 駅または空港の手荷物預かり所に,荷物 を預ける。 美術館または劇場にあるクロークに,荷 物を預ける。 具体例 冒頭条文の欠陥 賃貸借の冒頭条文と同様,寄託の冒頭条 文には,「返還合意」が欠けている。 民法657条(改正・暫定版) Aは,たぬき大の犬(キク)を飼っているが, 家族を伴って海外赴任することになった。 そこで,愛犬家のBに頼んで,帰国するま で,キクの世話をお願いすることにした。 Bは,Aが帰宅するまで,自宅で飼育する ことを引き受けて,キクを受け取った。 2015/10/1 Lecture on Contract 寄託は,当事者の一方(寄託者)が 相手方(受寄者)のために,ある物 (寄託物)を保管し,その後返還する ことを約して その物を受け取ることによって,その 効力を生じる。 5 寄託の性質→体系 第657条(寄託) 無償の場合(片務契約) 寄託は,当事者の一方が相手 方のために保管をすることを約 して ある物を受け取ることによって, その効力を生ずる。 義務を負わないのはどちらか? 寄託者(引渡を完了しているから) 相手方は何の義務を負うか? 保管と返還の義務 有償の場合(双務契約) 要物契約 消費貸借契約の場合と同様,要 物契約とする意味は薄弱である。 債権法改正(案) 【3.2.11.011】 (寄託の定義) 寄託は,当事者の一方(受寄者) が 相手方(寄託者)から物を受け取り, その物を相手方のために保管し, 返還する義務を負う契約である。 寄託者の義務は? 報酬支払義務 受寄者の義務は? 保管(民法400条)及び返還義務(662条) 無償と有償との相違点 無償寄託の注意義務 自己の物と同一の注意義務 有償寄託の注意義務 善管注意義務 2015/10/1 Lecture on Contract 6 寄託契約の位置づけ→体系 貸借型契約との類似点 役務提供契約内での位置づけ 無償寄託は,使用貸借に類似しており, 有償寄託は,賃貸借に類似している。 役務の提供契約の中で,寄託は,保管事務 の委託なのであるから,広い意味での委任 (準委任)契約に包摂されるはずである。 それにもかかわらず,寄託と使用貸借・ 賃貸借と寄託とは区別されている。 例えば,荷物を預けるという例を とっても,手荷物預かり所に荷物を 預けるのは寄託であるが,コイン ロッカーに荷物を預けるのは,賃 貸借である。 このような区別が生じているのはなぜ か? これらの区別は,物の利用(使用 貸借,賃貸借)か,それとも,労務 の利用(寄託)かという基準に従っ ている。 2015/10/1 それにもかかわらず,寄託契約が,委任とは 異なる契約として位置づけている理由は何 であろうか? その理由は,寄託契約には,貸借型契 約必須のアイテムである「返還合意」が 含まれているからである。 寄託は,役務提供契約の中で,貸借型 の契約として独自の存在意義を有して いる。 特に,消費寄託は,寄託契約よりも,消 費貸借契約としての性格を強く有してい る。 Lecture on Contract 7 無償 (返還不要) 財産権を 移転する 典 型 契 約 の 体 系 2. 売買 対価が物 3. 交換 返還必要 物の利用 典型契約 4. 消費貸借 無償 5. 使用貸借 有償 6. 賃貸借 従属的 (時間決めで) 役務の提供 独立的 (財産権を 移転しない) 7. 雇用 仕事の完成 8. 請負 事務の処理 9. 委任 物を預かり 返還する 10. 寄託 団体形成 11. 組合 年金事業 12. 終身 定期金 事業を営む 紛争の解決 2015/10/1 対価が金銭 有償 返還必要 →寄託の冒頭条文 →寄託の性質 →寄託の位置づけ 1. 贈与 Lecture on Contract 13. 和解 8 寄託契約の効力 1. 2. 3. 4. 2015/10/1 受寄者は一般にどのような義務を負うか? 無償の受寄者の義務はどのようなものか? 有償の受寄者の義務はどのようなものか? 寄託者はどのような義務を負うか? Lecture on Contract 9 受寄者の義務(1/6) 物の保管義務 第657条(寄託) 寄託は,当事者の一方が 相手方のために保管し,そ の後返還することを約して ある物を受け取ることに よって,その効力を生ずる。 物の保管 受寄者の支配(所持)内 において物を盗難や紛 失から守り(保持し),そ の物の滅失・損傷を防 止して原状維持のため に必要とされる措置を講 じること。 2015/10/1 寄託物が第三者に譲渡された場合 の寄託者の地位の移転 寄託物の譲受人は,引渡がなくても,受 寄者に対抗できる(判例)。 大判昭13・7・9民集17巻1409頁(最 三判昭29・8・31民集8巻8号1567頁) 単に物の寄託を受け之を寄託者の為に 保管する者は, 返還時期の定あると否とを問はず請求 次第何時にても之が返還を為すべき義 務を負担し〔民法662条〕, 寄託物に付所有権を取得したる者に対し 之が引渡の欠缺を主張する正当の利益 を有するものに非ざれば, 民法第178条に所謂第三者に該当せざ るものとす。 Lecture on Contract 10 受寄者の義務(2/6) 本人保管義務とその例外(復寄託) 第658条(寄託物の 使用及び第三者に よる保管) ①受寄者は,寄託者の 承諾を得なければ,寄託 物を使用し,又は第三者 にこれを保管させること ができない。 ②第105条〔復代理人を 選任した代理人の責任〕 及び第107条第2項〔復 代理人の権利・義務〕の 規定は,受寄者が第三 者に寄託物を保管させ ることができる場合につ いて準用する。 2015/10/1 第104条(任意代理人による復代理人の選任) 委任による代理人は,本人の許諾を得たとき,又はやむを得な い事由があるときでなければ,復代理人を選任することができ ない。 第105条(復代理人を選任した代理人の責任) ①代理人は,前条の規定により復代理人を選任したと きは,その選任及び監督について,本人に対してその 責任を負う。 ②代理人は,本人の指名に従って復代理人を選任した ときは,前項の責任を負わない。ただし,その代理人が, 復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら, その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを 怠ったときは,この限りでない。 第107条(復代理人の権限等) ①復代理人は,その権限内の行為について,本人を代表する。 ②復代理人は,本人及び第三者に対して,代理人と同 一の権利を有し,義務を負う。 Lecture on Contract 11 受寄者の義務(2/6) 本人保管義務とその例外(復寄託) 第658条(寄託物の使用 及び第三者による保 管) 寄託者 (本人) ①受寄者は,寄託者の承諾を得 なければ,寄託物を使用し,又 は第三者にこれを保管させるこ とができない。 ②第105条〔復代理人を選任した 代理人の責任〕及び第107条第2 項〔復代理人の権利・義務〕の規 定は,受寄者が第三者に寄託物 を保管させることができる場合に ついて準用する。 2015/10/1 Lecture on Contract 寄託契約 受寄者 (代理人) 復寄 託契 約 復受寄者 (第三者) 12 受寄者の義務(3/6) 受寄者の注意義務 第659条(無償受 寄者の注意義務) 商法 第593条【寄託 を受けた商人の責任】 無報酬で寄託を受 けた者は,自己の 財産に対するのと 同一の注意をもっ て,寄託物を保管 する義務を負う。 商人が其営業の範囲 内に於て寄託を受けた るときは,報酬を受け ざるときと雖も,善良な る管理者の注意を為 すことを要す。 2015/10/1 Lecture on Contract 13 受寄者の義務(4/6) 受寄者の通知義務 第660条(受寄者の通 知義務) 第615条(賃借人の通 知義務) 寄託物について権利を 主張する第三者が受寄 者に対して訴えを提起し, 又は差押え,仮差押え 若しくは仮処分をしたと きは, 賃借物が修繕を要し, 又は賃借物について権 利を主張する者がある ときは,賃借人は,遅滞 なくその旨を賃貸人に通 知しなければならない。 受寄者は,遅滞なくその 事実を寄託者に通知し なければならない。 ただし,賃貸人が既にこ れを知っているときは, この限りでない 2015/10/1 Lecture on Contract 14 受寄者の義務(5/6) 受寄者による受取物の引渡し等 第665条(委任の規定の準用) 第646条から第650条まで(同 条第3項を除く。)の規定は, 寄託について準用する。 第646条(受任者による受取物の 引渡し等) 民法646条2項の権利移転 第三者 (債務者) ①受任者は,委任事務を処理す るに当たって受け取った金銭そ の他の物を委任者に引き渡さな ければならない。その収取した 果実についても,同様とする。 ②受任者は,委任者のために自 己の名で取得した権利を委任者 に移転しなければならない。 2015/10/1 Lecture on Contract 権利 権利 譲渡通知 受寄者 (譲渡人) 抗弁 権利 譲渡 寄託者 (譲受人) 15 受寄者の義務(6/6) 受寄者の金銭の消費についての責任 第665条(委任の規定の準用) 第646条から第650条まで(同 条第3項を除く。)の規定は, 寄託について準用する。 第647条(受任者の金銭の消費に ついての責任) 受任者は,委任者に引き渡 すべき金額又はその利益の ために用いるべき金額を自 己のために消費したときは, その消費した日以後の利息 を支払わなければならない。 この場合において,なお損害 があるときは,その賠償の責 任を負う。 2015/10/1 第419条(金銭債務の特則) ①金銭の給付を目的とする債務の不履 行については,その損害賠償の額は, 法定利率によって定める。ただし,約定 利率が法定利率を超えるときは,約定 利率による。 ②前項の損害賠償については,債権者 は,損害の証明をすることを要しない。 ③第1項の損害賠償については,債務 者は,不可抗力をもって抗弁とすること ができない。 第190条(悪意の占有者による果実の 返還等) ①悪意の占有者は,果実を返還し,か つ,既に消費し,過失によって損傷し, 又は収取を怠った果実の代価を償還す る義務を負う。 Lecture on Contract 16 寄託者の義務(1/2) 委任の規定の準用による寄託者の義務 第665条(委 任の規定の 準用) 第646条から 第650条まで (同条第3項 を除く。)の 規定は,寄 託について 準用する。 寄託者の義務(民法665条) 報酬支払義務 民法648条(受任者〔受寄者〕の報酬) 保管費用前払義務 民法649条(委任者〔受寄者〕による費用の 前払請求) 立替費用償還義務 民法650条1項(受任者〔寄託者〕による費用 の償還請求) 代弁済義務・担保供与義務 民法650条2項(受任者〔受寄者〕による代弁 済請求・担保供与請求) 2015/10/1 Lecture on Contract 17 寄託者の義務(2/2) 寄託者の損害賠償義務 第661条(寄託者による 損害賠償) 寄託者は,寄託物の性質 又は瑕疵によって生じた 損害を受寄者に賠償しな ければならない。 ただし,寄託者が過失なく その性質若しくは瑕疵を知 らなかったとき,又は受寄 者がこれを知っていたとき は,この限りでない。 2015/10/1 具体例 AからBが預かった犬(キ ク)が凶暴な犬で,Bが手 を噛まれて大けがをした 場合。 第650条(委任者の損害 賠償責任) Lecture on Contract ③受任者は,委任事務を 処理するため自己に過失 なく損害を受けたときは, 委任者に対し,その賠償 を請求することができる。 18 寄託契約の終了 1. 寄託者はどのような場合に寄託契約を終了できる か? 2. 受寄者は,どのような場合に寄託契約を終了させ ることができるか? 3. 寄託物の返還先はどこか? 2015/10/1 Lecture on Contract 19 寄託契約の終了(1/3) 寄託者の任意解約権 第662条(寄託者 による返還請求) 当事者が寄託物 の返還の時期を 定めたときで あっても,寄託者 は,いつでもそ の返還を請求す ることができる。 2015/10/1 寄託者の任意解約権 寄託は,物を預けた寄託者 の利益のために存する制度 であるから,寄託者による任 意解約について,貸借型契 約とは異なり,借主保護の ための制約を必要としない。 ただし,有償寄託の場合に は,民法665条の準用規定 によって,民法648条3項が 準用される。 Lecture on Contract 20 寄託契約の終了(2/3) 受寄者による任意解約権 第663条(寄託物の返還 の時期) 663条第1項の特則 ①当事者が寄託物の返還 の時期を定めなかったとき は,受寄者は,いつでもそ の返還をすることができる。 ②返還の時期の定めがあ るときは,受寄者は,やむ を得ない事由がなければ, その期限前に返還をする ことができない。 2015/10/1 Lecture on Contract 商法 第619条【保管の期 間】 当事者が保管の期間を定 めざりしときは,倉庫営業 者は受寄物入庫の日より6 个月を経過したる後に非ざ れば,其返還を為すことを 得ず。 但,已むことを得ざる事由 あるときは此限に在らず。 21 寄託契約の終了(2/3) 任意解約権のまとめ 寄託者 受寄者 期間の定めあり いつでも返還を請求できる (民法662条) やむを得ない事由がなければ,期限 前に返還できない(民法663条2項)。 期間の定めなし いつでも返還を請求できる (民法662条) 2015/10/1 いつでも返還できる (民法663条1項) Lecture on Contract 22 寄託物の返還の場所 第664条(寄託物の返還 の場所) 第484条(弁済の場所) 寄託物の返還は,その保 管をすべき場所でしなけ ればならない。 ただし,受寄者が正当な 事由によってその物を保 管する場所を変更したとき は,その現在の場所で返 還をすることができる。 2015/10/1 Lecture on Contract 弁済をすべき場所につい て別段の意思表示がない ときは, 特定物の引渡しは債権発 生の時にその物が存在し た場所〔要物契約の場合 は,債務者の住所地〕にお いて, その他の弁済は債権者の 現在の住所において,そ れぞれしなければならない。 23 委任の規定の準用 第665条(委任の規定 の準用) 第646条から第650条 まで(同条第3項を除 く。)の規定は,寄託に ついて準用する。 受寄者の義務 民法646条(受任者〔受 寄者〕による受取物の 引渡し等) 民法647条(受任者〔受 寄者〕の金銭の消費に ついての責任) 2015/10/1 寄託者の義務 報酬支払義務 民法648条(受任者〔受寄者〕の報酬) 保管費用前払義務 民法649条(委任者〔受寄者〕による費 用の前払請求) 立替費用償還義務 民法650条1項(受任者〔寄託者〕によ る費用の償還請求) 代弁済義務・担保供与義務 民法650条2項(受任者〔受寄者〕によ る代弁済請求・担保供与請求) Lecture on Contract 24 消費寄託 1. 消費寄託の典型例は何か? 2. 消費寄託にはどのような危険が伴うか? 3. 消費寄託に消費貸借の規定が準用されるのはな ぜか? 4. 消費寄託契約が有償・無償を含めて片務契約とさ れているのはなぜか? 5. 消費寄託はどのような場合に終了するか? 2015/10/1 Lecture on Contract 25 消費寄託契約の意義(1/3) 寄託と消費寄託との比較 第666条(消費寄託) 寄託と消費寄託との違い ①第5節(消費貸借)の規定 は,受寄者が契約により寄 託物を消費することができる 場合について準用する。 〔旧・第666条本文〕 ②前項において準用する第 591条第1項〔返還の時期・ 貸主による返還の催告〕の 規定にかかわらず,前項の 契約に返還の時期を定めな かったときは,寄託者は,い つでも返還を請求することが できる。 〔旧・第666条ただ し書〕 2015/10/1 寄託 特定物を預けて,その後,その 物自体を返還する契約。 特定物を預けて,その後,その 物自体を返還するという使用 貸借・賃貸借契約と似ている。 消費寄託 Lecture on Contract 代替物を預けて,その後,これ と種類,品質および数量の同 じものを返還する契約。 この点で,代替物を借りて,そ の後,これと同じ種類,品質お よび数量の同じものを返還す るという消費貸借契約と似てい る。 26 消費寄託契約の意義(2/3) 混蔵寄託と消費寄託との比較 第666条(消費寄託) ①第5節(消費貸借)の規定は, 受寄者が契約により寄託物を 消費することができる場合につ いて準用する。 〔旧・第666条 本文〕 ②前項において準用する第591 条第1項〔返還の時期・貸主によ る返還の催告〕の規定にかかわ らず,前項の契約に返還の時 期を定めなかったときは,寄託 者は,いつでも返還を請求する ことができる。 〔旧・第666条た だし書〕 2015/10/1 混蔵寄託([我妻・債権各論〔中巻二〕 (1962)716-718頁]) 複数の寄託者から保管を依頼された 油類,穀物,清酒,証券など,同種・ 同等の代替物を混合して保管する寄 託(→スイス債務法484条)。 混和した寄託物は,寄託者との個別 の所有関係を離れ,寄託者全員によ るいわゆる共有物となる。 受寄者は,寄託者からの返還請求が あれば,預かったのと同量の物を,他 の寄託者の同意なしに返還できる。 寄託者が特定の寄託物の所有権を 維持していない点で消費寄託に似る が,受寄者に消費する権限がない点 ではむしろ通常の寄託に近い。 Lecture on Contract 27 消費寄託契約の意義(3/3) 消費寄託と消費貸借との比較(1/4) 第666条(消費寄託) ①第5節(消費貸借)の規定 は,受寄者が契約により寄 託物を消費することができ る場合について準用する。 〔旧・第666条本文〕 ②前項において準用する第 591条第1項〔返還の時期・ 貸主による返還の催告〕の 規定にかかわらず,前項の 契約に返還の時期を定めな かったときは,寄託者は,い つでも返還を請求すること ができる。 〔旧・第666条た だし書〕 2015/10/1 消費貸借の定義を使って,消費寄託の 冒頭条文を作成する(1/3)。 第587条(消費貸借) 消費貸借は,当事者の一方〔借主〕が種類, 品質及び数量の同じ物をもって返還をす ることを約して 相手方〔貸主〕から金銭その他の物を受け 取ることによって,その効力を生ずる。 第666条1項の改正(暫定版) ①消費寄託は,当事者の一方(受寄者)が 種類,品質及び数量の同じ物をもって返 還をすることを約して, 相手方(寄託者)から金銭その他の物を受 け取ることによって,その効力を生ずる。 Lecture on Contract 28 消費寄託契約の意義(3/3) 消費寄託と消費貸借との比較(2/4) 第666条(消費寄託) ①第5節(消費貸借)の規 定は,受寄者が契約によ り寄託物を消費することが できる場合について準用 する。 〔旧・第666条本 文〕 ②前項において準用する 第591条第1項〔返還の時 期・貸主による返還の催 告〕の規定にかかわらず, 前項の契約に返還の時期 を定めなかったときは,寄 託者は,いつでも返還を 請求することができる。 〔旧・第666条ただし書〕 2015/10/1 消費寄託の冒頭条文を作成する(2/3)。 第591条(返還の時期) ①当事者が返還の時期を定めなかったときは, 貸主は,相当の期間を定めて返還の催告をす ることができる。 ②借主は,いつでも返還をすることができる。 第666条2項の改正(暫定版) ②当事者が寄託物の返還の時期を定めたとき は,受寄者は,期限の利益を放棄し,全利子を 支払って,返還をすることができる(民法136条)。 これに対して,寄託者は,期限到来まで返還を 請求できない(民法135条)(約款は肯定)。 ③当事者が返還の時期を定めなかったときは, 受寄者は,いつでも返還することができる(民法 591条2項の準用)。寄託者もまた,いつでも返 還を請求することができる(民法666条2項)。 Lecture on Contract 29 消費寄託契約の意義(3/3) 消費寄託と消費貸借との比較(3/4) 第666条(消費寄託) 第666条の改正(完成版) ①第5節(消費貸借)の規 定は,受寄者が契約により 寄託物を消費することがで きる場合について準用する。 〔旧・第666条本文〕 ②前項において準用する 第591条第1項〔返還の時 期・貸主による返還の催 告〕の規定にかかわらず, 前項の契約に返還の時期 を定めなかったときは,寄 託者は,いつでも返還を請 求することができる。 〔旧・ 第666条ただし書〕 2015/10/1 ①消費寄託は,当事者の一方(受寄者)が 種類,品質及び数量の同じ物をもって返 還をすることを約して,相手方(寄託者)か ら金銭その他の物(消費寄託物)を受け取 ることによって,その効力を生ずる。 ②当事者が返還の時期を定めたときは, 受寄者は,期限の利益を放棄し,有償の 場合には,全利子を支払って返還すること ができる。これに対して,寄託者は,期限 が到来するまで,返還を請求することがで きない。 ③当事者が返還の時期を定めなかったと きは,受寄者は,いつでも返還することが できる。寄託者もまた,いつでも返還を請 求することができる。 Lecture on Contract 30 消費寄託契約の意義(3/3) 消費寄託と消費貸借との比較(4/4) 消費貸借(借主保護) 消費寄託(受寄者保護) 期限の定めあり 借主は,期限の利益を 放棄して(民法136条), 返還できる。 期限の定めあり 貸主は,期限が来るま で返還を請求できない (民法135条)。 受寄者は,期限の利益 を放棄し,利子を払って 返還できる(民法136条)。 期限の定めなし 期限の定めなし 借主は,いつでも返還 できる(民法591条2項)。 2015/10/1 寄託者は,期限到来ま で返還を請求できない (民法135条)。 貸主は,相当の期間を 定めて返還の催告を する(民法591条1項)。 受寄者は,いつでも返 還できる(民法591条2 項の準用)。 Lecture on Contract 寄託者は,いつでも返 還を請求できる(民法 666条2項)。 31 消費寄託の性質 第666条の改正(完成版) ①消費寄託は,当事者の一方(受寄 者)が種類,品質及び数量の同じ物を もって返還をすることを約して,相手方 (寄託者)から金銭その他の物(消費寄 託物)を受け取ることによって,その効 力を生ずる。 要物契約 準用される消費貸借契約 と同じ。 片務契約 ②当事者が返還の時期を定めたとき は,受寄者は,期限の利益を放棄し, 有償の場合には,全利子を支払って返 還することができる。これに対して,寄 託者は,期限が到来するまで,返還を 請求することができない。 ③当事者が返還の時期を定めなかっ たときは,受寄者は,いつでも返還する ことができる。寄託者もまた,いつでも 返還を請求することができる。 2015/10/1 Lecture on Contract 無利息消費寄託 寄託者は債務を負わない。 受寄者は返還債務を負う。 利息付消費寄託 寄託者は債務を負わない。 受寄者は,利息を支払う債 務とともに,返還債務を負 う。 32 有償寄託と有償消費寄託との比較 有償寄託(双務契約) 有償消費寄託(片務契約) 寄託者 寄託者 報酬支払義務 債務を負わない 受寄者 受寄者 利息支払 元本返還 義務 義務 保管義務 2015/10/1 返還義務 Lecture on Contract 33 参考文献 参考判例 参考図書 最高裁判例一覧 (年代順) 2015/10/1 寄託物の譲渡と寄託 者の地位の譲渡 消費寄託契約の成立 (誤振込事件) Lecture on Contract 立法理由 教科書 コンメンタール 総合判例研究 34 寄託物の譲渡と寄託者の地位の譲渡 大判昭13・7・9民集17巻1409頁 単に物の寄託を受け之を寄託者の為に保管する 者は,返還時期の定あると否とを問はず請求次 第何時にても之が返還を為すべき義務を負担し, 受託物に付所有権を取得したる者に対し之が引 渡の欠缺を主張する正当の利益を有するものに 非ざれば,民法第178条に所謂第三者に該当せ ざるものとす。 2015/10/1 Lecture on Contract 35 消費寄託の成立 最二判平8・4・26 民集50巻 5号1267頁(誤振込事件) 1.振込依頼人から受取人の 銀行の普通預金口座に振込 みがあったときは,振込依頼 人と受取人との間に振込みの 原因となる法律関係が存在す るか否かにかかわらず,受取 人と銀行との間に振込金額相 当の普通預金契約が成立し, 受取人が銀行に対して右金 額相当の普通預金債権を取 得するものと解するのが相当 である。 2015/10/1 2.また,振込依頼人と受取人と の間に振込みの原因となる法 律関係が存在しないにかかわら ず,振込みによって受取人が振 込金額相当の預金債権を取得 したときは,振込依頼人は,受 取人に対し,右同額の不当利 得返還請求権を有することがあ るにとどまり,右預金債権の譲 渡を妨げる権利を取得するわけ ではないから,受取人の債権者 がした右預金債権に対する強 制執行の不許を求めることはで きないというべきである。 Lecture on Contract 36 参考図書 コンメンタール 現行民法の立法理由 我妻・有泉『コンメンタール民法 -総則・物権・債権-』〔第2版〕 日本評論社(2008) 広中俊雄『民法修正案(前三編) の理由書』有斐閣(1987) 法務大臣官房司法法政調査部 『法典調査会民法議事速記録3』 商事法務研究会(1984) 教科書 我妻栄『債権各論中巻二 (民法 講義Ⅴ3)』岩波書店(1962) 半田吉信『契約法講義』〔第2版〕 信山社(2005) 加賀山茂『契約法』日本評論社 (2007) 2015/10/1 松岡久和・中田邦博『新・コンメ ンタール民法(財産法)』日本評 論社(2012) 債権法改正 Lecture on Contract 民法(債権法)改正検討委員会『詳 解・債権法改正の基本方針Ⅴ-各 種の契約(2)』商事法務(2010) 37 契約法各論講義 第10章 寄託契約 ご清聴ありがとうございました。 2015/10/1 Lecture on Contract 38 無償 (返還不要) 財産権を 移転する 典 型 契 約 の 体 系 2. 売買 対価が物 3. 交換 返還必要 物の利用 典型契約 4. 消費貸借 無償 5. 使用貸借 有償 6. 賃貸借 従属的 (時間決めで) 役務の提供 独立的 (財産権を 移転しない) 7. 雇用 仕事の完成 8. 請負 事務の処理 9. 委任 物を預かり 返還する 10. 寄託 団体形成 11. 組合 年金事業 12. 終身 定期金 事業を営む 紛争の解決 2015/10/1 対価が金銭 有償 返還必要 →寄託の冒頭条文 →寄託の性質 →寄託の位置づけ 1. 贈与 Lecture on Contract 13. 和解 39 典型契約の当事者の呼び方 贈与 請負 贈与者 受贈者 注文者 売買 委任 売主 買主 委任者 交換 交換当事者 寄託者 消費貸借,使用貸借 貸主 借主 組合員 組合員 終身定期金 終身定期金債権者 終身定期金債務者 賃借人 雇用 2015/10/1 受寄者 組合 賃貸借 使用者(雇主) 受任者 寄託 交換当事者 賃貸人 請負人 和解 労働者(被用者) 和解当事者 Lecture on Contract 和解当事者 40
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