2011-05-17 ソシオセマンティクス ソシオセマンティクス(社会意味論) Sociosemantics socio(social):社会 semantics:意味論 社会意味論 「社会」を「意味論」的な観点から論じる 社会現象と意味のダイナミックな関係 社会と行為と意味 社会現象は人々の相互行為の結果として構築される 行為の背景には人々それぞれの意味づけが存在する 意味づけが違えば行為も違う、行為が変われば意味 づけも変わる、意味と行為のダイナミズムの中から状 況が生まれる 主体と行為と意味 人が生きる営みにおいて、常に「意味」が介在する 行動 (行為) 意味づけ (情況編成) 環境 状況-情況編成-情況 状況:自己と環境について時間と共に推移するモノ・コトの集合 情況:主体にとって意味づけされた状況 情況編成:意味づけという意識作用によって状況を情況として理解 するプロセス 行動→行為:行動は意味づけられて初めて行為として成立する コトバ→言葉:単なる記号としてのコトバは意味づけられることによっ て初めて意味を担う「言葉」となる 社会意味論の骨子 つまり「社会を意味論的な観点から論じる」とは 人間の特性である意味づけの仕組みとその社会性を 理解し、意味づけの所産である行為のやり取り(コミュ ニケーション)の結果としての社会現象を明らかにしよ うとする 今日からの講義の構成 第1部:人間にとっての意味と社会現象 人間観、コミュニケーション観の再考への問題提起 第2部:言語・コミュニケーションの新しい理論パラダイム 意味づけ、コミュニケーションの実態を説明する理論の提示 第3部:人々の意味世界とソシオセマンティクスの方法・手法 理論の応用としての実証分析、分析手法の紹介 第1部の構成 第1部:人間にとっての意味と社会現象 行為主体である人間および人間たちの行為の複合・集積である社会 現象にとっての「意味」の重要性、意味および意味の社会的編成を 取り扱うことにまつわる困難、そして、新しい言語コミュニケーション 論への示唆、この三つをこの第Ⅰ部では論じる I-1.人間の問題解決能力を考える:フレーム問題 I-2.社会関係の成立を考える:ダブルコンティンジェンシー問題 I-3.情報理論的コミュニケーション論の限界と新理論の必要性 I-1.人間の問題解決能力を考える:フレーム問題 生の課題遂行(問題解決) 生協にいってパンを買う程度のことから、国家間でのネゴシエー ションまで 人間は絶えざる情況編成と行為のループの継続の中で課題を遂 行する AI(人工知能)の課題遂行 人間よりはるかに優れた情報処理、演算能力 が、比較的自由な行動が許される状況の場合、フレーム問題に 突き当たり、しばしば失敗してしまう フレーム問題① AIロボットに以下の課題が与えられた 予備バッテリーの保管している部屋に時限爆弾が仕掛けられた。 爆弾が爆発する前に、バッテリーを救出せよ。 果たしてAIロボットは課題を適切に遂行し、バッテリーを 救出し、自身の延命を図ることができるだろうか? 参考 羽地亮(1998)京都大学文学部哲学研究室紀要;『フレーム問題の解消』 http://ci.nii.ac.jp/naid/110000036907 フレーム問題② R1(Robot、AIロボット) バッテリーは部屋の中のワゴンの上においてある 「ワゴンを部屋から移動させる」ことが必要と判断、計画、実行 ところがワゴンには爆弾も乗っていて、爆弾ごとバッテリーを持ち 出したため、部屋の外で爆弾が爆発 R1は爆弾の存在自体は認識している しかし行為の副産物として生じる諸帰結(ワゴンごと持ち出せば 爆弾もついてくる)にまで配慮しなかったため爆死する フレーム問題③ R1D1(Robot-Deducer、演繹処理可能型AIロボット) 行動の副産物を演繹(Deduce)することの出来るR1D1 早速「ワゴンを部屋から移動させる」という行動によって副次的に 何が起こるかの演繹作業を開始 ところが演繹作業はいつまでも終わらない。「どれくらいの振動が 起こるか」「ホコリはどれくらい舞うか」「ワゴンを動かすと壁の色 が変わりうるか」、そのうち時限爆弾のリミットが来て爆発 ワゴンを移動させることで何が起こりうるかを「何から何まで」計算 してしまうため副産物となる諸帰結の演繹作業に忙殺されている 間に爆死する フレーム問題④ R2D1( Robot-Relevant-Deducer、演繹処理可能型AIロ ボット改) 行動の副産物として、なにが課題遂行に実際に「関係のある (Relebantな)」ものなのかを判断できるR2D1 まったく行動を起こそうとしない。何が無関係な帰結で、何を無視 すればいいのかのリストの作成に追われ、時間が来て爆発 目的達成に無関係な帰結を無視する作業中に爆死する フレーム問題の「フレーム」 フレーム=世界の「枠組み」 世界を構成する諸変数 変数間の関係を記述する知識命題 新しい知識を産出する演算規則 諸帰結の評価 AIは世界を理解するためのフレームを作り、その枠の中で思考しなく てはならない しかし我々が日常生きる世界(フレームによって確定的に記述しきれ ない開かれた世界)では、情報から結論を導出する演算は有限時間 内に収束しない 開いた世界における情報処理 閉じた世界 AIはチェス・ゲームや論理学の定理証明などのような「閉じた世界」を仮 定できる場合、大きな成功をおさめる 当該行為に直接関係しない有限な周囲の状態:行為を囲む「枠」=フ レームについて完全なリストを作成し次の行為決定に利用できるからで ある 開いた世界 「開いた世界」では行為を囲むフレームについての完全な目録はほとん ど無限となり有限時間内では作成できない。 予め与えておく知識命題数は演繹規則を付加すればAI内で算出できる ので削減できるが、参照する知識は減少しても、今度は演繹計算数が増 大する 結局、開いた世界では、記述命題と演繹計算を合わせた情報処理を有 限時間内で達成できない フレーム問題の擬似解決 人間ならばどのように解決するだろう? 心臓のペースメーカーのバッテリーだったとして、君ならどうする 積極的無視と消極的無視 積極的無視:自覚的な無視、いわゆる無視 消極的無視:「言われてみれば・・・」、無自覚な無視 人間の問題解決は積極的無視と消極的無視を併せながら、考慮 すべき事項を悉皆に考えつくしているわけではない 参考 大澤真幸 (1990)「知性の条件とロボットのジレンマ フレーム問題再考」(『現代思想』1990 年3-4月号, vol.18, no.3- 4, 3月号140-159頁, 4月号270-288頁) フレーム≒情況の再編成 意味づけと行為の繰り返しによって情況は絶えず再編成されていく 行動 (行為) 意味づけ (情況編成) 環境 情報-意味づけ(情況編成)-行為 情況の再編成 人間は情報を獲得(認識)し、情報に基づいて意味づけし、行為 する。行為は状況に影響を及ぼし、また情報を獲得して意味づけ する この意味づけ・行為の連続プロセスで情報を受け止めるフレーム と情況は絶えず柔軟に再編成される 「柔軟な問題解決能力」の帰結 創造性、思いもよらないアクション、思いもよらない理解 意味づけの不確定性 コミュニケーションの成立の根本的な否定?
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