Network Economics (12) IT時代のテレコム改革 京都大学 経済学研究科 依田高典 1 第1節 IT時代と情報通信の変貌 1.1 電話からインターネットへ IT革命・・・光化・デジタル化・TCP/IP 下部構造(技術)が上部構造(制度)を変えている 今までの通信ネット・・・階層型電話ネット これからの情報ネット・・・フラットIPネット アクセス系の大容量・高速化 メタル回線から、ISDN/ADSL/CATV/FWA/衛星を挟んで、 最終的に光ファイバーへ ネットの三層構造 コンテンツ ディストリビューション/プラットフォーム アクセス/バックボーン 異なるビジネスアドバンテージを持った垂直統合事業者が 相互に競争 2 1.2 消滅する市場区分 通信・放送・データの融合 POTSからVoIPへ 電話はインターネットの末端サービス マルチメディア、ワンストップサービス 消える過去の市場区分 市内/市外、国内/国際、公衆/専用のような供給構造に根 ざした事業者区分は意味を持たず、時間と距離は重要な要件 ではなくなる サービスの品質・機能・利便のような消費者側の心理的要件 が重要になる 通信(1対1の2way)と放送(1対Nの1way)の融合 インターネット(n対nの2way)へ 3 1.3 変わる情報通信の公益性 電話からインターネットへ メタル回線・・・公益事業規制・自然独占的枠組み 光ファイバー・・・規制緩和・競争的枠組み 公益事業特権・自然独占性・ユニバーサルサービスという制 度設計原理が陳腐化しつつある 現在の加入者系光ファイバー20万km余に占めるNTTの 割合は3分の1程度・・・NTTはボトルネック独占事業者か デジタル・デバイド 光化はビジネス区域の90%、住宅区域は30%程度 さらに、大きい情報リテラシーの格差 FTTHの普及=デジタル・デバイドの解消、ではない 1980年代の箱もの地域政策の失敗から学ぶべき 4 1.4 IT時代の早期到来のために 容量・速度と普及格差の関係 単峰型構造(図1a)から双峰型構造(図2a)へ 電話とブロードバンドは、 自家用車とスポーツカーか、自動車と飛行機か 全ての消費者・事業者・地域で一斉に同じ条件で立ち上がる必 要があるかどうか 自転車や自動車の普及期・・・ブルジョワの玩具 最悪のシナリオ 全ての消費者へ同じ便益と同じ負担の強制 過剰投資を懸念するあまりの過小投資 電話ネットの普及過程 線路設置費と付加使用料の存在 先ず格差ありき、やがて普及に伴い、格差は平準化 5 6 第2節 IT時代の規制と政策 2.1 事前的・裁量型規制から事後的・ルール型規制へ 規制の4つのタイプ 図2 電話時代 自然独占・・・事前的・裁量型規制 IT時代 競争中立・・・事後的・ルール型規制 規制の役割 政策立案・競争促進・規制実施・紛争処理・消費者保護 とりわけ、競争下では、消費者の自己責任に照らした情報開 示が重要 規制機関相互のヤードスティック競争とダイナミズム 縦割り・縄張り型規制の弊害 7 図 2 規制スキームの分類 事前規制 事後規制 裁量型規制 I II ルール型規制 III IV 8 2.2 変わるボトルネック開放政策 ボトルネック設備開放の三相 電柱・管路の線路敷設権 線路に敷設された設備 設備を用いたサービス提供 ボトルネック=不可欠設備は素朴な考え 線路敷設の円滑化・ガイドライン化 キャリアズ・キャリアの柔軟な運用 短期心線貸し・帯域貸し等の選択の幅の拡大 キャリアズ・レートの導入 9 2.3 支配的事業者規制 設備ベースの支配的事業者規制の限界 ボトルネック開放に伴う第一種・第二種区分の形骸化 ドコモのような非ボトルネック事業者の台頭 支配的事業者規制はどこまで有効か 市場支配力による支配的事業者認定は可能か ブロードバンドにおける市場区分の困難さ 競争制限行為の防止、情報開示の義務化は電気通信産業 固有の問題か 早急な独占禁止政策の整備で対応すべき 新サービスの性向に対する反インセンティブ規制 認定基準をめぐる裁量型規制の復活にならないか 10 2.4 インセンティブ活用型競争促進方策 NTTグループの自主的な競争促進(ムチ) 地域ネットの開放 グループ内競争 東西NTTの経営効率化(アメ) NTT規制の緩和 業務範囲の拡大 出資制限の緩和 北風政策から太陽政策へ 誰がどのように競争進展の度合いを判断するか インセンティブ規制の目的 情報非対称性にまつわるエージェンシー費用の削減規 制の失敗の回避 11 2.5 緩やかでも確実な規制改革 競争促進を一気に実現する打ち出の小槌・魔法の杖は存在しない 規制緩和は望ましいが、市場万能主義に陥るべきでもない 情報通信政策の透明化・効率化 パブリックコメント、ペティション、ファイリング、ノーアクションレ ターの一層の活用・導入 許認可とは独立した紛争処理機能を持った機関の創設 即効性のある一時的な対症療法よりも、長期的かつ実効性の高い 予防療法となるような規制改革 12 第3節 IT時代のユニバーサル・サービス 3.1 新旧ユニバーサル・サービス 3.2 ユニバーサル・サービス基金は必要か 第三世代ユニバーサル・サービス POTSのような成熟サービスをどこまで守るか ブロードバンドのような成長サービスをどこから導入するか 早晩なくなるサービスの保存のために新しく基金を作ることの規 制費用を考慮するべき 古いユニバーサル・サービスの適格事業者を安楽死させるより は、将来有望なサービスへ進出させ、事業者インセンティブを活 用すべき 本当に重要なのは次世代ユニバーサル・サービス クリーミスキミング型の競争をどうやって、施設ベースの競争 へ転換させるか 13 3.3 均一料金の是非をめぐって 選択的通話料金制度の普及 今さらユニバーサル・サービスとして、均一料金を云々しても 時代錯誤 共通メニューの中から自己選抜してもらう第二級価格差別化 は社会的に受容されている ただし、大口に割り引きサービスを提供する際に、リバランシ ングを防止するようなセーフティネットが必要 現状公正型(パレート改善型)ガイドラインは重要な役割 14 地域間の料金格差はどこまで認められるべきか 限界費用が異なる場合、料金が異なることは原則的に正し い(価格差異化) また、日本では料金リバランシングは回避されてきたので地 域通話料金は比較的低廉 地域別料金格差に必要な二つの要件 不当なリバランシング、社会的弱者へ負担の転嫁とならな いように、料金の値上げは規制対象とする 規制の簡素性・利用者の判断の容易性に寄与するように、 また内部相互補助がある程度機能できるように、格差の地 域単位はGCやMAよりも広くとり、都道府県や旧地域事業 部レベルとする 15 3.4 長期増分費用方式は信頼できるか 長期増分費用方式は経済学的に問題の多いルール (1) 会計情報とモデル情報の間の非整合性 (2) ストランデッド・コスト(回収不能費用) (3) 規制契約の不当な破棄(規制の収用) (4) 社会的インフラの過小投資 (5) サービスの質・信頼性の低下 (6) 長期増分費用plus方式の理論欠如 (7) モデル改訂の莫大な規制費用 (8) ボトルネックを前提とした古い概念、施設ベースのネット間 競争の時代にはそぐわない M-ECPR、セーフガード付きのグローバル・プライス・キャップの活 用 16
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