情報哲学と図書館情報学 - ResearchGate

情報哲学と図書館情報学
情報哲学の紹介と検証的読解の試み
松林 正己
中部大学附属三浦記念図書館
Email: [email protected]
目次(予定)
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はじめに:図書館情報学の学的危機の歴史
哲学か科学か: 議論の前提条件
情報哲学と何か
情報哲学と基礎情報学: 比較の試み
情報哲学か基礎情報学か:結論に代えて
本研究の目的
情報哲学(The Philosophy of Information)の有効性を
検討するために基礎情報学との比較を試みた
図書館情報学(Library and Information Science)の基礎付け
可能性の検討
はじめに:図書館情報学の学的危機の歴史
図書館学あるいは図書館情報学の基本的な問題点:
これらの<学>がそもそも存在するのか?
制度的危機の象徴的事件:デューイが開学した図書館学校の閉校
1990年代以降欧米の図書館情報学専攻の大学院が改組・改名
近年の注目すべき研究成果:
ルティアーノ フロリディ:「情報哲学 (Philosophy of Information)」
西垣通:「基礎情報学 (Fundamental Informatics)」
哲学か科学か: 議論の前提条件
哲学と科学(学)の違い
哲学=知識論(Theory of knowledge)
1)常識的知識
時と所に制約された「相対性」の性格が、
払拭しきれない(p.39)
2)学問的知識
常識の地平を破って、あらゆる時と所において「妥当」す
る、「客観的」な知識を確立しようと試みる(p.40)
出典: 渡邊二郎(2005) はじめての哲学入門
科学的知識の限界:
第1の限界: 科学としての学問が進めば進むほど、「全体」が見通せなく
なり、「世界」とはいったい何であるのかが、不明確となる。
第2の限界: 「「科学的知識」は、事柄が「いかにあるか」の事実的仕組
みについてのみ、情報を提供
差異: 「科学は、哲学を超えることはできない。
よって
哲学
>
科学
科学の欠陥を補う哲学的知:
定義: 哲学とは、「人生観・世界観」の「根本知」の探求」
諸科学が生み出す知の全体を俯瞰する立場
留意点: 哲学の学問性を科学と混同してはならない
問題となる事象を、その「真実」の在り方の探究という形で、組織立って体系的に、
根源的全体的に、多様を見通しつつ統一的に、首尾一貫した仕方で、いわば
「理論的ないし論理的」に、反省し、考察する。そこに、哲学が、他の諸学問と相
通ずる一種の学問性をもつ特色が出現する。けれども、それを、たんに科学的研
究と同じ意味の学問性と受け取ってはならない。
科学と哲学のちがい:
科学は、人間として生きる自己を忘却し、ひたすら自分の「前に立て置
かれた」対象に対して、抽象的捨象のそのつどの方法的操作において、
細分化と個別化の態度で、「計算」的な観察を加えるにすぎない。
哲学は科学的知識によって見失われた、「人生観・世界観」的な「根本
知」の、しかも冷静な反省的探究、それなりの理論性と論理性をそなえ
た「省察」なのである。
2 情報哲学と何か
提唱者
LUCIANO FLORIDI
Associate Professor of Logic and
Epistemology,
Department of Philosophy,
Universita degli Studi di Bari
Markle Foundation Senior Research Fellow
in Information Policy, Programme in
Comparative Media Law and Policy,
member of the Faculty of Philosophy,
of the Sub-Faculty of Computation
(Computer Science Department) and of
Wolfson College, University of Oxford
http://www.wolfson.ox.ac.uk/~floridi/
情報の統一理論(UTI)
情報の統一理論(Unified
Theory of Information;
UTI)
様々な試みの成果が記
載されている
情報哲学の情報定義体系
意味論的情報 (Semantic Information)
情報の一般定義 (General Definition of Information; GDI)
GDI)
GDI.1)
GDI.2)
GDI.3)
σis an instance of information,
understood as objective semantic
content, if and only if:
σは情報の事例であり、客観的に意味論
的な内容として理解される それは以下
の場合に限る
σconsists of n data (d) , for n ≧ 1;
σは n個のデータ(d) からなる、n ≧ 1
the data are well-formed (wfd);
そのデータは 適格 である
the wfd are meaningful (mwfd = δ).
その適格なデータには意味がある
データ定義
データベースに原理的データとして蓄えられて
δ.1) primary data いる。たとえば数の単純な列。最初から利用者
一次データ
にデータを伝えるために、一般的に設計された
情報管理システムのデータ。
δ.2) metadata
メタデータ
δ.3) operational
data 運用データ
一次データの本性に関する2次指標。場所、
形式、更新、入手可能性、著作権、利用制限
などの属性を記述する。
データ自体の利用に関するデータ。全データ
体系と体系の遂行能力。
δ.1-δ.3から抽出しうるデータ、いつであれ
δ.4) derivative δ.1-δ.3のデータは、比較あるいは定量分析
data 派生データ に関するパターン、指標、あるいは推論明証の
探索での資源として利用される。
データの属性
a datum (Dd)
データ
d = (x ≠ y), where the x and the y are two uninterpreted
variables.
xとyが解釈不能な2つの変数であるとき、データが存在する
taxonomic neurality (TaN) A datum is a relational entity.
分類的中立性
データは関係性の実体である
ontological neurality (ON)
存在論的中立性
genetic neurality (GeN)
一般的中立性
alethic neutrality (AN)
真理的中立性
No information without data representation.
データ表現なくしては情報はない
δcan have a semantics independently of any informee.
δはいかなる情報素からも独立した意味を持つ
Meaningful and well-formed data qualify as information,
no matter whether they represent or convey a truth or a
falsehood or have no alethic value at all.
意味がありかつまた適格なデータが情報であり、真理的価値を
まったく持たない真理あるいは嘘を表現もしなければ伝えない
事物
情報の特殊定義
(Special Definition of Information; SDI)
SDI)
SDI.1)
SDI.2)
SDI.3)
SDI.4)
σ is an instance of factual information if and only if:
σは事実情報の事例である 以下の場合に限り
σ consists of n data (d) , for n ≧ 1;
σはn個のデータ からなる 条件を満たすには n ≧ 1
the data are well-formed (wfd):
データは 適格 である
the wfd are meaningful (mwfd = δ);
適格なデータは 意味がある
the δ are truthful .
δは真実である
哲学史上の著名な認識論革命
近代の認識論革命の歴史
デカルト:
Cogito ergo sum (考える主体の確立)
カント:
コペルニクス的転回
(素朴に対象を受け容れるのでなく、逆に対象や客観を主観が構成する)
19世紀から20世紀:
言語論的転回 (Linguistic turn: 言語そのものへの注視)
情報哲学の認識論:
「計算的転回(computational turn)」
情報概念の曖昧さ・捉えにくさを<デジタル>
に捨象し、「計算的転回」と定義
一切の認識単位をデジタルにおき、計算(演
算)ベースで認識論を構築することを提唱
「計算的転回」
伝統的認識論:
人間の知覚作用を経て認識される情報や知は、言語を経由して認識され
る
情報哲学の「計算的転回」:
現象としての情報自体に着目、すべてデジタルである01ベースで認識枠
組みを捉える 知は人間の言語能力に依存した生産物であるが、現実世
界の現象は生命現象を含めてデジタルに変換可能性に着目した
計算的転回の長所短所
人間の知覚もしくは認知において
デジタルを認識するには再生機器が必要
情報をデジタル形式で把握しても、認識過程で問題を検討
する基本は<知>であり,デジタル情報を認識対象の基本
単位として扱い,見做し,より確実な議論を可能にする
デジタルという「もの的明証性の強さ」が,哲学が依存する思
弁をさらに論理的かつ物理的に強化し得る可能性がある
情報をデジタル形式への変換可能性を保証することで、
他の諸学の情報定義を同一水準で可能にする次元を獲得
した ⇒ 補助学的地位からの脱却
図書館情報学の再定義
応用情報哲学としての図書館情報
学:
ドキュメントやそのライフサイクル,そして
ドキュメントを作成,管理,統制するため
の手続き,技法および周辺機器に関す
る領域である
情報哲学
情報分析と設計の基盤的哲学として理解することで,わ
れわれの知的環境の合目的的構築を説明、誘導、かつ
また現代社会の体系的な取り扱い方を提供
人間性に関して世界の意味付けを可能にし,世界を確
実に構築し,存在の意味付けに新しい舞台を準備
目的: 存在を情報的に分析しようとする方法,
人間存在にかかわる最小の共通存在論に適応
3 情報哲学と基礎情報学:
比較の試み
基礎情報学(Fundamental informatics):
1 情報学の基層をなす学問
2 情報学自体、明確な社会的合意があるとは言えない。
3 新しい学問で、「情報から出発する思考」のもつ本質的な
意義と限界線を探る
基礎情報学には、情報哲学が自らを規定する普遍的な情報概
念の定義が与えられていない
基礎情報学における情報と知識
情報(information)とは: 生命体の外部に実体と
してあるものではなく、刺激を受けた生命体の内
部(in)に形成(form)されるものである。あるいは、
加えられる刺激と生命体とのあいだの「関係概
念」」なのであり、生物としての人間を想定するゆ
えに「「それ(情報のこと、発表者補足)によって生
物がパターンをつくりだすパターン(a pattern by
which a living thing generates patterns)」である
知識とは: 情報を累加していくことが可能であり、
その集積が「知識」と名づけられる
4 情報哲学か基礎情報学か:
結論に代えて
基礎情報学: 新しい科学領域の開拓を目指し
ながらも、基本概念の定義が不十分なために、自
律も難しい、図書館情報学には寄与できない
情報哲学: 一元的に体系化できる<計算的転
回>で、他の諸学との互換性あるいは通底(通
約)可能性を確保あるいは担保
野家啓一が提案する「人称的科学」も「非人称的科
学」も包摂した上で、自律可能
シェラ社会認識論
(Social Epistemology; SE)
フロリディの説明・解釈は不明確と言い難い
伝統的な認識論が個人ベースで、共有可能
SEの認識主観は、複数(Multi-agent)
SEが自律を阻まれる大きな原因はこの複数
性にあると推測
情報哲学と図書館情報学
共有するパラダイム: <百科全書>的展
望を共有するゆえに、諸科学の補助学で
はなく自律した<学>たりうる
情報哲学の体系を敷衍すれば、精緻な学
的体系を構築でき、存在理由を明快に説
明でき、専門性の必当然性を説明可能
学問論における究極の逆説:
Rombachの指摘
学の体系など存在しない
しかし 進むしか方法も選択できない
Rombachの学問体系図:
欧米哲学からみると
5
参照文献
Floridi, Luciano. (1998) Philosophy and Computing.
Floridi, Luciano. (2002) On defining library and information science as applied philosophy
of information. Social Epistemology, 2002, vol. 16, no. 1, 37-49
Floridi, Luciano. (2004) Afterword LIS as Applied Philosophy of Information: A
Reappraisal. Library trends,
Floridi, Luciano. (2004) Chapter 4 Information. In: The Blackwell Guide to the Philosophy
of Computing and Information. p. 40-61
Floridi, Luciano. Available online:http://www.wolfson.ox.ac.uk/~floridi/
Herold, K. R. (2001) Librarianship and the philosophy of information.
Library Philosophy and Practice, 3.
Available online: http://www.uidaho.edu/~mbolin/herold.html
情報学事典 (2002) 東京 弘文堂
拙稿 (2005) 情報哲学(the Philosophy of Information)の誕生:図書館情報学理論研究にお
ける新たな動向 「カレント・アウエアネス」 No.283, p.
西垣通 (2004) 基礎情報学
野家啓一 (2005) 物語の哲学 改訂版 東京 岩波書店
Rombach, Heinrich. (1977) Leben des Geistes.
渡邊二郎 (2005) はじめて学ぶ哲学 東京 筑摩書房