Nb-Ti超電導材料の現状と可能性

Nb-Ti超電導材料の現状
と可能性
2006年9月27日
九州・西日本支部 若手セミナー
田中 靖三
(財)国際超電導産業技術研究センター
1
アウトライン
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実用超電導線材としての実績
Nb-Ti超電導材料とは
実用超電導線材の要件
技術的ブレークスルー1-複合加工
技術的ブレークスルー2-自己組織化
技術的ブレークスルー3-人工ピンニング
Nb-Ti超電導材料の今後
2
Nb-Ti超電導材料-“母”
先進材料
Nb-Ti材料
3
実用超電導線材としての実績
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超電導市場約4.5千億円の大半を
Nb-Ti超電導材料が担う
Nb-Ti超電導材料として約180億円
に寄与
Nb-Ti超電導材料の主な用途
・診断用MRI装置
・LHC等粒子加速器
4
超電導の世界市場と予測
約4,500億円
5
診断用MRI装置
6
国内のMRI装置磁場強度別シェア
7
LHC粒子加速器
8
Nb-Ti超電導材料とは
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材料としての条件
・超電導温度が高い。 △
・物理的・化学的に安定。 ◎
・目的の形状に加工しやすい。 ◎
・実用上要求される電磁特性を満足する。 ○
・資源的に問題が無く、経済性が保てる。 ◎
・毒性が無い。 ◎
実用材料としての要件
・材料開発の難易度が低い。 ◎
・技術的ブレークスルーが実現容易である。 ◎
総合相対評価
・Nb-Ti超電導線材:21
・(Nb3Sn超電導線材:17)
・(酸化物超電導線材:14)
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超電導材料の物性値比較
超電導物 臨界温度 臨界磁界 コヒーレンス 磁場侵入
質
Bc2(0)、T 長、ξ(0)、 長、λ(0)、
Tc、K
nm
nm
Nb-Ti
9.8
12.5
300
~4
Nb3Sn
18.5
26
~3
130
Bi-2223
110
93
0.15(c)
2.3(ab)
0.4(c)
2.1(ab)
150
Y-123
60(//c)
850(⊥c)
72(//c)
350(⊥c)
>700(c)
141(ab)
10
各種超電導材料のJc-B特性比較
11
Nb-Ti合金のTc、Bc2及びJc特性
実用
組成
Nb-Ti系合金のTcとBc2の濃度依存性
Nb-33at%Ti合金のJc-B特性
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実用超電導線材の要件
基本特性が優れている。
 技術的ブレークスルーの適用が容易である。
(1)安定化材との複合加工が容易にできる。
・直流用、パルス用及び交流用線材として、任意に
導体設計できる。
・長尺線材に容易に加工できる。
(2)実用特性を満足する。
・適用磁場及び温度で十分な電流容量が確保でき
る。
・適正な機械的強度と柔軟性を有する。
・熱応力、電磁力、放射線などの使用環境に耐える。
・適正なコスト、かつ適正な納期で要望に応じられ
る。
13
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材料開発の難易度

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材料の特性ポテンシャル
P=Tc・Bc2・Jc(KTA/m2)
たとえば、4.2Kで利用の場合、
PNb-Ti=3x1011
PY-123=320x1011
材料開発の困難度
D=N n-1
ただし、N:2~3(N<n)、n:主成分数
たとえば、DNb-Ti=2、DY-123=27
出典:超電導材料工学 北田正弘著
14
Nb-Ti超電導材料の臨界曲面
Nb-Ti
15
超電導の安定化サイクル
不安定領域
熱発生
ΔQ
磁束線の動き
Δφ
不安定領域
安定領域
臨界電流密度低下
-ΔJ c
温度上昇
ΔT
臨界曲面近傍に
おける事象
不安定領域
不安定領域
16
安定化設計
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
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クエンチすると
Nb-Tiが溶断する
ことがある。
磁気的不安定性回避/多心線
フラックスジャンプやクエンチの回避
本質的(断熱的)安定化設計/極細多心線
フラックスジャンプを回避できるまで細線化する。
フラメント径:d<d0=(3T0cp/μ0)1/2・1/Jc
d<d0=34μm(1T)、 d<d0=115μm(6T)
動的安定化設計/ツイスト線
磁界変動下や交流で使用すると、多心線が遮蔽電流によって
再結合する。多心線をツイストすることで防止する。
ツイストピッチ長lp<lpc=2{(2ρdJc)/(dB/dt)}1/2
d=40μm、銅母材、dB/dt=~10-2T/s lp=~0.1m
d=0.1μm、CuNi母材、50Hz lp=~0.001m
完全安定化設計/安定化金属複合線
クエンチしたNb-Tiフィラメントに流れる電流をすべて冷えた
安定化金属、高純度銅(RRR>300)や高強度アルミ
(RRR>500)に流す。
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各種金属系超電導線
18
技術的ブレークスルー1
-複合加工-



原理:
容易加工性材料との複合加工←ブレークスルー
原材料の厳選
・高純度銅:RRR>300
・高純度・高均質Nb-Tiインゴット
-合金組成:Nb-46.5wt%~50wt%±1.5wt%
ガス元素(C.O.N.H)含有量:<1400ppm
加工手段の選定
・複合封止:圧接、真空封止
・押出し:熱間押出し、静水圧温間押出し
・抽伸:スエージング機、ドローベンチ
・伸線:潤滑剤、@減面率
19
Nb-Ti超電導材料の複合加工工程
20
Nb-Ti合金の平衡状態図
実用合金
組成
21
Nb-Ti合金の均一性


全率固溶体型合金のおける高融点元素(Nb)合金
相の偏析(EB溶製インゴット横断面)
β相における熱間加工の繰り返し
22
複合加工性の劣化現象



膨れ:封止め不良
ソーセージング:
・Nb-Ti合金の不均質
・Nb-Ti合金結晶粒調整不良
・Nb-Ti/Cu界面反応による
(NbTi)2Cu粒の形成
断線:
・・Nb-Ti合金の不均質
・Nb-Ti/Cu界面反応による
(NbTi)2Cu粒の形成
・加工間割率不調整
23
容易加工性と高加工率


標準化された加工工程では、
・無断線で10km以上の加工が実現している。
加工率表示
・断面減少率:105~1010、~1012(交流用)
Ai/Af
Ai:加工前(初期)断面積
Af:最終断面積
たとえば、 di =200mmφ、 df =5μmφのとき、
Ai/Af =1.6x109
・加工歪(対数歪):12~25、~30(交流用)
εe=ln(Ai/Af)
たとえば、 di =200mmφ、 df =5μmφのとき、
εe=ln(Ai/Af)=21.2
24
技術的ブレークスルー2
-自己組織化-



万物の理論-自己組織化-に従う。
・NbとTiを溶解し、冷却するだけで単一相の
Nb-Ti合金になる。
・Nb-Ti線を冷やすだけで超電導になる。
・Nb-Ti合金の急冷β相を再加熱し、待つだけ
で実用超電導線材になる。
経験的な観察力と想像力を駆使して、目標特
性を達成する。-Top-down的アプローチ
加工熱処理法の創出←ブレークスルー
25
加工熱処理法

原理
・bcc構造のβ相に強度の加工歪みを与える。
・再加熱によって、α-Ti相の時効析出を促進
する。
・この工程を数回繰り返し、α-Ti相を微細化す
る。
β相 → α-Ti相析出(β+α)
↑
適正な加工歪み付与
26
Nb-Tiフィラメントの横断微細組織
27
最終熱処理後の冷間加工対数歪みεとJc
28
Nb-Ti超電導線材のJc特性推移
29
技術的ブレークスルー3
-人工ピンニング-



原理:
Nb-Ti合金にいて、ピンニング点となるα-Ti相に対応
するピンニング点を人工的に導入する。
ピンニング点の導入設計
Nb-Tiにおけるコヒーレンス長ξと磁束線格子間隔af
に着目し、ピンニング点の体積率、材質、サイズ、形
状、分布などを任意に設計する。
-Bottom-up的アプローチ
製造方法
・従来の複合加工法のみを駆使
・加工熱処理法からの決別
←ブレークスルー
30
量子化磁束のピン止め≡抵抗ゼロ
31
ニオブでの磁束線構造
観察結果
理論計算
32
コヒーレンス長ξと磁束線格子間隔af

コヒーレンス長ξ:
2ξ
ピン止め点の大きさ
~量子化磁束の太さ程度
~2ξ=11nm (4.2K)

量子化磁束格子間隔af
ピン留め点の分散
~磁束線格子間距離
B=1Tのとき、af =48.9nm
B=5Tのとき、af =21.9nm
af =1.07(φ0/B)1/2
af
33
Nb-Ti超電導材料
への人工ピン導入
Nbピン:白
Nb-Ti:黒
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ラメラ型人工ピンを導入したNb-Ti超電導
線材の特性
人工ピン特性
実用特性
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Nb-Ti超電導材料の今後
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



Nb-Ti超電導材料は、3つの技術的ブレークスルーを
経て、工業材料にまで発展した。
Nb-Ti超電導材料自体の特性向上にも期待できる。
対破壊電流密度Jdをどれだけ達成できるか。
Jd=φ0/(4πμ0λξ) from Larbalestier他
現在
Jd(MA/cm2) Jc(MA/cm2) Jc/Jd
4.2K,0T
36
~2
6%
4.2K,5T
0.3→0.95 0.8→2.6%
冷凍機冷却マグネットシステムの普及に期待する。
“技術経営”サイクルの確立と継続の追求する。
Nb-Ti超電導材料技術は、先進超電導材料開発技術
の“母”である。
36
Nb-Ti超電導材料における“技術経営”サイクル
技術経営、MOT: Management of Technology
1961年
事業利益
製品の見極め
Nb-Ti発見
ロングテール
魔の川
製品寿命
Nb-Ti選定
研究開発投資
複合加工法創出
事業化
特性向上
人工ピン導入創出
ダーウインの海
製品化
加工熱処理
法創出
高Jc化
死の谷
The Valley of
Death
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