Neuroethics: Brain Science and Society

科学コミュニケーション論
2009年度冬学期
佐倉統(東京大学大学院情報学環)
[email protected]
目次
I. なぜ科学と社会の関係が重要なのか?
– I-1. 科学と社会の関係の歴史的変化
– I-2. 異文化コミュニケーションとモード2
II. 展望──科学者がこれから考えるべきこと
目次
I. なぜ科学と社会の関係が重要なのか?
– I-1. 科学と社会の関係の歴史的変化
– I-2. 異文化コミュニケーションとモード2
II. 展望──科学者がこれから考えるべきこと
マイケル・ファラデーのクリスマス・レクチャー「ロウソクの科学」(1820年代)
Christmas Lecture by Michael Faraday, Chemical History of a Candle, 1820s.
http://homepage.mac.com/dtrapp/ePhysics.f/labIV_11.html
科学の歴史
• 科学=ここでは西洋・近代・自然科学
– 知識獲得の方法論のひとつ
• cf.宗教、哲学
– 仮説・演繹サイクル
– 科学者共同体による追確認
• 民主的、自律的
• 第1次科学革命
– 17世紀、方法論の確立、ガリレイ、ニュートン
• 第2次科学革命
– 18~19世紀、社会への影響、制度化
科学と社会の関係の歴史
A Short History of the Relation between Science ant Public
• もともと科学の成果を享受できる層は限定的だった
Very limited people could receive scientific information in earlier stage.
– 例:コペルニクス『天球の回転について』初版600部
e.g., Just 600 copies -- Copernicus’s De Revolutionibus Orbium Coelestium (1543).
• 18-19世紀、専門的職業としての「科学者」成立
Professional job of “scientist” was established in the 18th or 19th century.
– 科学者の増加に伴って科学と一般社会の分離独立が必要に
Augmentation of the no. of scientists required the independence of science from the general.
• 科学と社会のコミュニケーションは……
Science communication with the public was ...
– 科学と社会の距離が近付いたために必要になった
... caused by the closing gap between science & the public.
– もともと科学の営為に内在していた
... originally embedded in the scientific activity itself.
科学コミュニケーションの先行例:19-20世紀
A few previous examples of Sci Com.
• 1825 クリスマス・レクチャー(英)、1848 全米科学振
興協会(AAAS)
Christmas Lectures by Royal Insitution, 1825, UK; AAAS,1848, USA.
• 20世紀アメリカ:スプートニク・ショック→理数教育カ
リキュラム改革、科学の普及
1957 Sputnik Crisis  “New Math,” popular science
20世紀における科学-社会関係の変化
• 20世紀後半:社会における知識の構造と役割の変化
Change of the structure and the role of knowledge in society.
– 高等教育の普及、知識層の爆発的増加
Spread of higher education caused rapid growth of the knowledge class
– 科学知識の担い手やステイクホルダーが多様に
The diversification of agents and stakeholders of scientific knowledge
– 「社会的一般教養としての科学」から「個々の生活/人生を
実現するツールとしての科学」へ
From “the science as educated knowledge” to “the science as the tool in
everyday life, for everyone’s life.”
• 《科学者のための》から《社会のための》科学コミュニ
ケーションへ
Science communication for the development of society is required.
一方向の広報から双方向のコミュニケーションとガヴァナンスへ
From one-way outreach to interactive communication and
democratic governance of science.
専門家集団
science community
in publishing
研究資金確保
research fund
説明責任
compliance
peer review
outreach
双方向コミュニケーション、科学へ
の社会参加、CBPR、上流制御
communication, public engagement,
CBPR, up-stream governance
人材確保
human resources
目次
I. なぜ科学と社会の関係が重要なのか?
– I-1. 科学と社会の関係の歴史的変化
– I-2. 異文化コミュニケーションとモード2
II. 展望──科学者がこれから考えるべきこと
「2つの文化」としての科学と社会
科学者共同体と一般社
会とでは、依拠する文
化規範が異なる
cf. C.P. スノウ『2つの
文化と科学革命』
(1959)
有名だが誰も読んだことのない
本のひとつ
科学と日常、どう異なるか?
科学
一般社会/日常生活
証拠、事実
直観的、感覚的
仮説演繹サイクル
日常的感覚
変化の速度
漸進的
跳躍的
重要なのは
過程、手続き
結果、帰結
文脈
自由
依存
目的
事実、真実
幸福、利便性
基盤
手続き
メディアによる情報の加工・変換
・メディアはそれぞれに特有の枠組み・視点・手
法で情報を加工・変換しながら伝達する。
・メディアごとの特徴を分析する必要がある。
異文化Comとしての科学Com
• 科学コミは異文化コミである
• 異文化コミは自己を再発見する手
法である
– 池田、クラーマー『異文化コミュニケーション
入門』(2000).
• 文脈とメディアの重要性
• 「モード2」型知識生産
– M. Gibbons, C. Limoges, H. Nowotny, S.
Schwartzman, P. Scott & M. Trow: The New
Production of Knowledge, 1994.
モード2型の知識生産
• モード1=従来型の学問研究
– 領域が定まっている
– 方法論が確立している
– 真理の探究が目的
• モード2
– 課題先行型 (issue oriented)
• 例:環境問題、平和構築学、教育問題
– 単一分野では解決困難
– 学際的、編集的、知識動員
異文化「通訳」領域の拡大
• 医療倫理(medical ethics)
– 医師と患者・家族の関係
• 技術倫理(technology ethics)
– 工学倫理とも言う
• 生命倫理(bioethics)
– 生命科学に伴う倫理的諸問題
• 研究倫理 (research ethics)
– 基礎研究と社会の接点
目次
I. なぜ科学と社会の関係が重要なのか?
– I-1. 科学と社会の関係の歴史的変化
– I-2. 異文化コミュニケーションとモード2
II. 展望──科学者がこれから考えるべきこと
科学者の新たな社会的責任
• 説明責任
– 科学的に確立した情報とそうでない情報
を明確に区別して発信するべし
• 聞き手の背景に応じて柔軟に説明の
仕方を対応させる
• 一般からの参加を促進する
• マスメディアでの情報についてもピア
レビューで対応する
Brain-machine Interface (BMI)
http://www.davidicke.com/forum
/showthread.php?p=244776
Case 1: Transformation of Information.
I. Scientific paper
Dr. Yukiyasu Kamitani (ATR) and his colleagues
succeeded to reconstruct visual image in human
brain.
Y. Miyawaki et al. (2008). Visual
Image Reconstruction from
human brain activity using a
combination of multiscale local
image decoders. Neuron 60(5),
915-929.
Case 1: Transformation of Information.
II. Newspaper
Duplication of Dream is Not Dream Anymore?
Our neurons in brain activate when we see something.
Research team of ATR (Seikacho, Kyoto) and others
developed the technology which can read the patterns of this
activity and can reproduce it's visual image on the screen.... It
will be possible to project someone's dream in future,
although current technology can decode just simple symbols
or characters. ... (The Mainichi Daily News, 11 Dec., 2008)
夢の「再現」夢じゃない?
何かを見た時の脳の活動パターンを読み取り、コンピューターの画面上に画像と
して再現する技術を、国際電気通信基礎技術研究所(ATR、京都府精華町)な ど
のチームが世界で初めて開発した。現在は簡単な記号や文字しか再現できない
が、将来的には夢を映像化できる可能性もあるという。(毎日新聞2008/12/11)
Case 1: Transformation of Information.
II. Newspaper
Seeing Other's Dream, Maybe --- Duplicating
Visual Image from Brain Information --Yukiyasu Kamitani, ...has succeeded to duplicate one's visual
image from reading the information of brain activity, after the
computer learned the relation between visual image and brain
activity. ... Dr. Kamitani said, "it may be not so far when we
can read someone's dream or imagination."... (Kyodo News,
11 Dec., 2008)
夢、空想が「見える」かも 脳活動情報で画像再現
人が見ている画像と脳活動の関係をコンピューターに学習させ、脳活動の情報から画像を再
現させることに成功したと、国際電気通信基礎技術研究所(京都府精華町)の神谷之康(か
みたに・ゆきやす)・脳情報研究所室長らが11日付の米科学誌ニューロンに発表した。(中
略)神谷室長は「夢や空想の読み出しにつながる日も遠くはない」と話している。(共同通信
2008/12/11)
Case 1: Transformation of Information.
III. www blog
Everyone once dreamed to see good dream once again. The
first step toward such technology has achieved.
よい夢のときにもう一回見られたらなぁとみんな思ったことがあるのではないでしょうか。そ
んな技術への一歩が開発されました。
ふらっと寄り道科学, Dec 11/2008,
http://okusen-rika.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-3f4e.html
I firstly thought of the application to criminal investigation.
For instance, this machine can test a suspect who keeps
silent... The news reported only good aspects but I imagine it
would be terrible if someone would abuse the machine...
まず思いついたのは犯罪捜査への応用だ。たとえば、完全黙秘を続ける容疑者をこの機
械に掛けて、(中略)ニュースでは良い事しか言わなかったが、悪用されると恐ろしいだろう
な、、、
できない、困って→問題解決,Dec 11/2008,
http://techpr.cocolog-nifty.com/nakamura/2008/12/atr-yukiyasu-ka.html
Case 1: Transformation of Information.
III. www blog
If this technology would become popular, then our mind
could be read without being noticed. I'm afraid it would be
impossible to keep our own privacy and secret.
もしこの技術が普及し、いつの間にか自分の思考が読み取られるようになったらどうでしょ
う?秘密を守るのは不可能になるかもしれません。
健康探求館 (Make your body healthy!), Dec 21/2008,
http://ameblo.jp/pb-038434/entry-10177949533.html
If the machine can read any other's dream, I suspect that the
"machine of reading anyone's mind" would be possible in
near future. Actually I can't imagine what the world would be
when everyone wear that machine.
夢が分かるなら「人の心を読むマシン」が出てきそうな気が。全員が「人の心を読むマシン」
を見に着ける世界はどのような世の中になるだろう!?
広告魂|コウコクダマシイ, Dec 13/2008,
http://ameblo.jp/victory-manual/entry-10177447951.html
BMI研究者へのインタビューの結果

同一研究機関内でも科学者間のコミュニケー
ションが少ない

科学者(工学者、医者を含む)が倫理ガイドライ
ンとコンサルテーションを望んでいる

科学者の中には、一般社会とBMIの倫理的問
題について議論したがっている人もいる。しかし、
その方法ややり方については試行錯誤の段階
萌芽的技術(emerging technology)

技術の開発・応用に伴う利益とコスト・リスク
が不明確


専門家も分からない
社会での実用化に伴う新しい使用法の可能性



例:電話、ラジオ、ポケベル
考慮すべき問題群も不明確
評価基準、使い方の指針などを、専門家だ
けでなく社会全体で考える必要


参加型技術評価
地域参加型調査
新しい技術と社会(1)
(New) Technology is
anything that doesn't
quite work well.
---- Danniel Hillis
(cited by Kevin Kelly, 2007)
Danniel Hillis
[http://www.hertzfoundation.or
g/dx/Foundation/People/Direc
tor_profile.aspx?pID=8]
新しい技術と社会(2)
1)あなたが生まれたときにすでに存在していた
ものは、要するに正常なものであり、
2)生まれてから30歳までの間に発明されたも
のは、ひたすらエキサイティングかつクリエイ
ティヴで、あなたはキャリアの初期にそれに接
することができてまったく幸運ということになり、
3)30歳以降に発明されたものはすべて自然の
秩序に反するもので、文明の崩壊への序曲と
みなされる。
しかし10年もたてば、それも徐々に普及して身
の回りにあふれ、結局は普通の存在となるの
だ。.
---- Adams, D. (1999). How to stop worrying and learn
to love the internet. The Sunday Times, August 29th.
Douglas Adams
(1952-2001)
[http://home.in.tum.de/~creigh
to/dna/Biography.html]
新しい技術と社会(3)
身のまわりの機械が具体的にどんな仕組みで動くのかを人々が
理解するのをやめたら、その人々にとって周囲の世界は意味不明
な夢の風景と化してしまう。制御も理解も及ばないテクノロジーは、
崇拝でなければ憎悪を、依存でなければ疎外をしか引き起こさな
い。アーサー・C・クラークは、異星文明との予想される遭遇への
言及の中で、じゅうぶんに発達したテクノロジーは魔法と区別がつ
かないといった。だが、科学ジャーナリストにはほかのすべてに優
先する義務がひとつあるとすれば、それは人間が人間のテクノロ
ジーを見たときにクラークの法則があたはまらないようにしつづけ
ることだ。
──グレッグ・イーガン『万物理論』(山岸真訳、創元SF文庫、1995/2004、pp.51-52)
科学コミュニケーションのトレーニング:
異文化コミからの示唆
• 異文化コミュニケーションで成功する
ためには─
– 異なる文化的文脈を理解する
– 異なる文脈に適応する訓練
• 科学コミュニケーターの訓練には─
– 実践的作業が必要
•ロール・プレイング、ワークショップ、OJT
– 《参考》福沢諭吉「他者の役割理解」
他者の役割の理解というのは、役割を交換
してみれば、いちばんよくわかる。自分の役
割でない役割を自分が演じてみることです。
そうすると、役割の理解とは、他者の理解と
いうことになります。しようと思えば役割交換
ができる。そういう訓練が他者への理解力を
増していくことになる。
──丸山眞男「福沢諭吉の人と思想」
(『福沢諭吉の哲学』岩波文庫、pp.196-97)
自己完結する自然科学の評価システム
Evaluation System of Natural Sciences: Its Self-sufficingness
専門家集団
science community
in publishing
研究資金確保
research fund
説明責任
compliance
peer review
outreach
人材確保
human resources
# college students / 10,000
UK
France
USA
Japan
Germany
year
大衆知識社会の到来:大学生数の経年変化
Emergence of knowledge society, shown in the number of college students.
出典:潮木守一『世界の大学危機』中公新書 (2004).
Source: M. Ushiogi: College Crisis in the World (2004)