生命工学・生命倫理と法政策 - UTokyo OpenCourseWare

医事法2009
 東京大学法学部 21番教室
[email protected] 樋口範雄・児玉安司
第6回2009年5月27日(水)16:50ー18:30
第8章 医師法21条―医療事故と警察届出・刑事司法
1 医師法21条は何のための規定か。
2 医療事故に対する刑事司法の役割は何か。
参照→http://ocw.u-tokyo.ac.jp/
1
2008年10月8日朝日新聞朝刊第3社会面
NHKニュース10月7日篠田記者
「倫理的には問題ない」 難病患者の呼吸器外し 千葉の病院倫理委見解
千葉県鴨川市の亀田総合病院(亀田信介院長)の倫理問題検討委員会が、
周囲の人と意思疎通できなくなったら人工呼吸器を外してほしいという
筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)患者の要望に対し、「倫理
的には問題はない」などとする見解をまとめた。症状が進んだALS患
者の呼吸器を外すことは生命を左右しかねない。患者団体によると、A
LS患者のこうした要望に医療機関の倫理委が見解を示すのは珍しい。
ただ、倫理委は「呼吸器を外した人が刑事訴追される可能性がある」
として、要望への対応は明言していない。
患者は県内の男性(68)。91年に難病のALSと診断され、翌年
に呼吸困難になり、気管を切開して呼吸器をつけた。寝たきりだが、右
ほおが数ミリ動くことを利用して、パソコンで文章を書き、家族らと意
思疎通する。
家族によると、男性は「家族や友人、医療スタッフらとの意思疎通が
あってこそ、人間らしく生きられる」と考え、それができなくなったら
「呼吸器を外してほしい」と願っているという。
NHKニュースは「議論と調査が必要」「呼吸器外しを認める法律はな
い」
板倉教授の見解「嘱託殺人に当たる可能性」
2
3つの助言(届かない助言)
1 実際に意思疎通が図れなかった段階でもう1度倫理
委員会で審議する。家族の意思も確認する。
2 全員で外す(倫理委員会委員・家族など10名以上
で)
3 裁判所で事前の許可を求める。事後的に刑事訴追
のおそれをいう前に、積極的に法や裁判所を利用す
ることを考える(それらは国民のサービス業)。
(さらに、訴訟が継続している間、患者は生きる
意味を感じてくれるかもしれない)
3
ワシントン州と韓国からのニュース
 別添資料参照


1つはワード文書
2つめは朝鮮日報日本語版
 問題はなぜ日本ではこのような手続がとれないの
か?
 佐伯仁志「制裁論」(有斐閣・2009年)
●制裁のための制裁ではなく、それも1つの手段に過ぎな
い
4
今日のテーマ
 医療事故の発生
 その後の対応の仕方で、社会がわかる
 あるいは、社会が試されている
 日本ではどうか?



①医療事故への刑事介入の意味あるいは無意味
②先回のアンケート結果
③イギリスでは
5
医療事故と法
10年前まで
限られた刑事司法の介入
医師法21条も医療事故とは無関係
行政処分は刑事処分の後追い
民事訴訟(医療過誤訴訟)も小さな役割
B 最近の傾向
刑事事件の増加 行政処分も独立
民事訴訟は倍増
◎要するに制裁型の対処の増加
A
6
医療安全
真相究明(真実の発見・死因究明)
再発防止
中に、制裁的要素が入ると・・・
①制裁をおそれて真実を隠す・黙る
②個人に焦点を当てる制裁では真実が隠れる
③制裁をおそれてリスクの多い医療を避ける
しかし、本当に制裁ゼロでもいいかというディレ
ンマ
7
勧善懲悪になっていない現実
したがって、工夫が必要
ところが、現今の風潮は遠山の金さん
勧善懲悪で物事が解決するという単純な見方
しかも勧善はなく懲悪のみ
何とかできないものか?
法の介入で医療安全が図れるのか?
あるいはどのような法の介入なら意味があるの
か?
8
【福島県立大野病院事件】
2006年2月18日福島県警、県立病院医師逮捕
2004年11月22日妊娠32週で、切迫早産、部分前置胎盤の診断で入院。
12月17日妊娠36週帝王切開(胎盤剥離に際し大量出血、妊婦死亡)。
2005年 3月22日事故調査委員会報告書公表(3点でミスを認める)。
(1)癒着胎盤の無理な剥離(2)対応する医師の不足(3)輸血対応の遅れ
2006年 2月18日担当のK医師逮捕、県病院局などを家宅捜索。
2月24日日本産科婦人科学会・医会、逮捕拘留は疑問と「お知らせ」
3月10日日本産科婦人科学会・医会、医師の刑事責任追及を批判。
3月27日大野病院産婦人科医ずっと休診、町長が医師の派遣を要望。
4月14日福島県警、医師逮捕事件で富岡署を表彰。
5月 9日福島県医師会、医師法21条の改正を要望。
5月17日日本産科婦人科学会・産婦人科医会、強く危惧すると声明。
2007年1月 公判開始、すでに結審。2008年8月20日無罪判決
9月 福島地検控訴せず、無罪が確定
9
K医師の容疑
 業務上過失致死罪+医師法21条違反
 医師法21条「医師は、死体又は妊娠四月以上の死
産児を検案して異状があると認めたときは、二十四
時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」
 医師法33条の2で、違反者に対し50万円以下の
罰金という刑罰
10
1999年―2つの大事件
○1999年1月
横浜市立大学病院で肺の手術予定だった男性患者
と心臓の手術予定の男性患者を取り違えて執刀して
しまうという事件が起きる。
◎1999年2月

都立広尾病院事件。点滴薬を取り違えて看護師が
注入し患者が死亡した事件。
 病院長・主治医が医師法21条違反で有罪。

11
相次ぐガイドラインと最高裁判決
○2000年8月 厚生省国立病院部「リスクマネー
ジメントスタンダードマニュアル委員会作成報告
書」病院長が届出というルール。全国の国公立病院
に対し指示。後に、私立大学病院、大規模病院など
特定機能病院にも。
○2002年7月 外科学会ガイドライン公表。
重大な傷害も、担当医自ら報告。
○2004年4月 広尾病院事件最高裁判決
担当医師の届出強制も合憲。
12
医師法21条届出の強制
福島の事件
隠蔽はない
院内事故調査委員会で過失を認める
それにもかかわらず、刑事事件に
しかも21条違反も加えて・・・
21条違反はある意味で形式犯
すべての医療事故は警察へ!!!
13
原因究明と再発防止⇔刑事司法
1
2
3
刑事司法 = 司法解剖の結果も秘密
犯罪にならなければそれで終わり
医療事故→病理的解剖と臨床医の出番
法医的判断だけで真相?
4 警察限り=捜査だけの後味の悪さ
5 検察も一般には慎重
6 裁判でも、無罪か、有罪でも執行猶予
せいぜい再発防止は隠蔽の再発防止
14
刑事司法のデメリット
患者にとって:実は、直接、患者のための活動で
はない だから司法解剖結果も知らされない
社会にとって
悪者を特定しての満足は一過性・一時的
医療安全の確保に必ずしもつながらない
警察・検察にとって
不得手な部分での活動・他の犯罪捜査への制約
病院にとって 犯罪者となるおそれ・病院内での
亀裂
医療の透明性を他に頼る消極性・萎縮医療
実は不平等な適用? 届出したところが痛手
15
第三次試案平成20年4月厚生労働省
これまで行政における対応が十分ではなく、民事
手続や刑事手続にその解決が期待されている現
状にあるが、原因の究明につながるものではな
い。医療の安全の確保の観点から、医療死亡事
故について、分析・評価を専門的に行う機関を
設ける必要がある。
医療死亡事故の原因究明・再発防止、医療の安全
の確保を目的、医療安全調査委員会を創設する。
医療関係者の責任追及を目的としたものではな
い。
医師法第21条を改正し、医療機関が届出を行っ
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大野病院事件福島地裁判決

臨床に携わっている医師に医療措置上の行為義務
を負わせ、その義務に反したものは刑罰を科す基準
となり得る医学的準則は、当該科目の臨床に携わる
医師が、当該場面に直面した場合に、ほとんどの者
がその基準に従った医療措置を講じているといえる
程度の、一般性あるいは通有性を具備したものでな
ければならない。
17
大野病院地裁判決
 医療行為を中止する義務があるとするためには、検察官
において、当該医療行為に危険があるというだけでなく、
当該医療行為を中止しない場合の危険性を具体的に明ら
かにした上で、より適切な方法が他にあることを立証し
なければならないのであって、本件に即していえば、子
宮が収縮しない蓋然性の高さ、子宮が収縮しても出血が
止まらない蓋然性の高さ、その場合に予想される出血量、
容易になし得る他の止血行為の有無やその有効性などを、
具体的に明らかにした上で、患者死亡の蓋然性の高さを
立証しなければならない。そして、このような立証を具
体的に行うためには、少なくとも、相当数の根拠となる
臨床症例、あるいは対比すべき類似性のある臨床症例の
提示が必要不可欠であるといえる。
18
第6 医師法違反について
医師法21条にいう異状とは、同条が、警察官が犯罪捜査の端緒を得
ることを容易にするほか、警察官が緊急に被害の拡大防止措置を講
ずるなどして社会防衛を図ることを可能にしようとした趣旨の規定
であることに照らすと、法医学的にみて、普通と異なる状態で死亡
していると認められる状態であることを意味すると解されるから、
診療中の患者が、診療を受けている当該疾病によって死亡したよう
な場合は、そもそも同条にいう異状の要件を欠くというべきである。
本件において、本件患者は、前置胎盤患者として、被告人から帝王
切開手術を受け、その際、子宮内壁に癒着していた胎盤の剥離の措
置を受けていた中で死亡したものであるが、被告人が、癒着胎盤に
対する診療行為として、過失のない措置を講じたものの、容易に胎
盤が剥離せず、剥離面からの出血によって、本件患者が出血性
ショックとなり、失血死してしまったことは前記認定のとおりであ
る。そうすると、本件患者の死亡という結果は、癒着胎盤という疾
病を原因とする、過失なき診療行為をもってしても避けられなかっ
た結果といわざるを得ないから、本件が、医師法21条にいう異状が
ある場合に該当するということはできない。
2 以上によれば、その余について検討するまでもなく、被告人につい
て医師法21条違反の罪は成立せず、公訴事実第2はその証明がない。
1
19
地裁判決の意義
地裁判決ではあるが検察側控訴せず。
治療法の選択のある事例では、極めて高いハードルを
検察に課すもの。そして検察がそれを受け入れたと
いう事実が残り、今後に影響する。
医療事故は刑事裁判になじまないことの証(あか
し)
対立の構図
真相究明も再発防止も困難
20
遺族の立場になると
真相究明の願い
刑事裁判
①対立の構図を見せられること
弁護側:過失なしと主張
②有罪なら満足?
帰ってこない生命
無罪なら反省がない?
有罪無罪(○×)ではない道を
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医療安全調査委員会設置法案(仮称)
大綱案(2008年6月)
◆第1 目的
◆第3 ○○省 ◆第5 独立 ◆第7 医療を受
ける立場にある者 ◆第12 責任追及が目的
ではなく
◆第15
取
◆第22
◆第25
◆第32
◆第33
遺族からの求め
◆第21
報告書 公表 少数意見
警察との関係
医療法の改正
医師法21条の改正
意見の聴
22
2つの難題
1)ある医師の次の意見に対しどう答えるか。
法律家と比べて、医師にだけ、業務上過失致死傷罪を
適用するのはおかしい。仮にある事件で、被告人を
死刑にした後、真犯人が現れた場合、当該事件の検
察官・弁護士および裁判官には業務上過失致死罪の
疑いがあり、捜査から立件がなされてしかるべきで
ある。
23
2)業務上過失致死傷罪
(業務上過失致死傷等)
第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させ
た者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の
罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、
同様とする。


医師への適用の排除 あるいは軽減
これを正当化できるか
 バスの運転手の話

過疎地域の唯一の交通手段

安全・命を預かる仕事

転落事故で2人死亡 3人重傷
24
事例1 Dr. P 27歳【胸骨骨髄採取時の上行大動脈損
傷・死亡】
 K県立中央病院勤務医である被処分者は、平成14年4月15
日午後2時30分、同病院病室において、患者A(77歳)に
対し、骨髄検査のため、胸骨腸骨穿刺針を用いて胸骨骨
髄穿刺による骨髄液採取術を行うに際し、胸骨裏面まで
穿通しないように穿刺針の長さを調節しながら施術すべ
きであるのにこれを怠り、穿刺針の長さに十分注意しな
いで胸骨穿刺を行い、骨髄液が採取できる胸骨骨髄まで
穿刺針が達していたのに、さらに深く体内に刺入した結
果、同穿刺針の内針で患者の胸部裏面を穿通・上行大動
脈を穿刺して出血させ、よって、同月18日午後8時28分こ
ろ、胸部上行大動脈穿刺損傷による出血性ショックによ
り死亡させた。
★略式命令による罰金刑40万円→業務停止10月
★このような処分にどのような意義があるのか?
25
事例2 Dr. Q 31歳【抗不整脈剤リドカイン投与時の薬剤(濃度)
誤認・死亡】
 社会福祉法人S福祉事業団総合病院SM病院の勤務医である被処分者
は平成15年10月19日午前11時ころ、同病院救急外来処置室において、
胸痛等の発作を起こして救急搬送されてきたA男に対し、心室性期
外収縮の治療を行うため、抗不整脈剤を静脈注射するに際して、①
同病院に備えられている抗不整脈剤には「静注用2%リドクイック」
及び「点滴用キシロカイン10%」があり、看護師に指示して静脈注
射させるに当たっては、薬液の取り違いなどを防止するため、リド
クイック2.5ミリリットルを静脈注射する旨商品名及び量を明確に
指示して投与させるべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、
同病院消化器科外来看護師Bに対して、「キシロカイン半筒打っ
て」とあいまいに指示し、同日午前11時4分ころ、同人をして「点滴
用キシロカイン10%」5ミリリットルを漫然とA男に静脈注射させ、
引き続き不整脈の症状を抑えるために抗不整脈剤の追加注射を決め
て、上記A男に静脈注射させ、最高投与量の3倍以上に当たる塩酸リ
ドカイン1000ミリグラムを過剰に投与させた。
 ②看護師Bの過失(注意義務を怠り過剰投与)
 各過失の競合により、A男をリドカイン中毒に陥らせ、同日午前11
時48分ころ、リドカイン中毒により死亡させた。
★罰金刑50万円→業務停止1年
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事例3 Dr. R 34歳【文献の表を誤読し、抗癌剤連日投
与を指示・死亡】
 1.(業務上過失致死)S医科大学総合医療センター勤務医である被処分者R
は、右顎下部滑膜肉腫に罹患した患者Aに対して抗癌剤3剤を投与する化学
療法(VAC)を実施するにあたり、(1)滑膜肉腫やVAC療法の臨床経
験がないのに、十分な検討を怠り、同療法のプロトコールが週単位で記載
されているのを日単位と読み間違え、2mgを限度に週1回の間隔で投与すべ
き硫酸ピンクリスチンを12日間連続投与する誤った治療計画を立てて、研修
医らにそれに従った注射を指示し、平成12年9月27日から同年10月3日までの
間、患者A子に対して、1日当たり2mgの硫酸ピンクリスチンを7日間にわ
たって連続投与し、さらに投与開始4.5日後には高度な副作用がでていた
のに、これに対して適切な対応を取らなかった過失、(2)他の医師2名の過
失の競合により、被処分者Rにおいて、同年9月27日から10月3日までの間、
患者に対して連日硫酸ピンクリスチンを投与し、よって、同月7日午後1時35
分ころ、患者を硫酸ピンクリスチン過剰投与の副作用による多臓器不全に
より死亡させた。
 2.(医事に関する不正)上記患者に対して、平成12年9月27日から10月3日
までの間、硫酸ピンクリスチンの処方を誤り過剰に投与し、重篤な副作用
を引き起こさせた事実判明後の平成12年10月6日から7日の間、過剰投与を引
き起こした医師としてまた主治医として、拮抗剤の投与など、副作用に対
する適切な処置を行うことを怠り、結果として同患者を死亡させる事態を
引き起こした。
★禁固2年、執行猶予3年→業務停止3年6月
27
事案4 Dr. S 49歳【帝王切開時のガーゼ遺残・傷害】
 医療法人U産婦人科医院の長である被処分者は、平
成11年7月27日午後3時16分から午後5時17分ごろまで
の間、自院において自ら執刀医となり、患者A(31
歳)に対して帝王切開手術を実施し、その際、臓器
を押さえるなどのため腸圧排ガーゼを使用したが、
麻酔が薄れて患者が暴れたことや止血などに気を取
られたために、腹腔内に上記ガーゼ(約28cm×約
37cm)を遺残したのに気付かないまま閉腹した結果、
遺残したガーゼが大腸・小腸に癒着し、患者Aに対
して同年10月26日、他の医療機関において、ガーゼ
除去のための開腹手術を実施するのをやむなきに至
らしめた腹腔内異物遺残の傷害を負わせた。
★罰金刑20万円→業務停止1月
28
事例5 Dr. T 38歳【豊胸手術を全身麻酔下に1人で施行・傷害】
 Aクリニックの開設者である被処分者F.N医師
(当時33歳)は、平成13年4月26日に豊胸手術を行っ
た患者A子について、
 ①診療録に記載すべきであった、治療方法(処方及
び処置)及び診療年月日を記載しなかった。
 ②あらかじめ実施することが決定されていた手術で
あるにもかかわらず他の医療従事者を伴わずに一人
で全身麻酔及び豊胸手術を行い、主治医及び執刀医
として当該手術を適切に施行するための安全管理を
怠った。
★刑事処分なし、業務停止2年、民事賠償1億7000万円
29
本件は、平成13年4月26日東京の繁華街近くの美容整形外科クリニックの医師
(当時33歳)が、豊胸手術を行った際に発生した麻酔事故により、26歳の患
者(主婦)が低酸素脳症となり、後遺症1級の重篤な傷害を受けたという事
案である。同年7月12日裁判所の証拠保全が行われたが、診療諸記録を自宅
に置いているといって提出せず、翌日再実施された証拠保全期日に、漸く
診療記録と麻酔記録を提出した。
この医師は事故発生後2時間近く経過して救急車を要請し、後送病院(大学病
院)に患者を送り、その際簡単に当日の経過を後送病院の医師に申し送っ
たが、その際後送病院で記載された内容(時間的経過など)と証拠保全で
提出された診療記録、麻酔記録とは、全く内容が異なり、医師に著しく有
利な内容になっていた。医師はその理由として、後送病院の研修医が不正
確な聞き取りをしたとか,技術が未熟であったとか法廷で述べている。
 判決は、証拠保全で提出した診療記録、および麻酔記録は内容が極めて不
自然であり、後日虚偽の内容を記載しねつ造したものであると認定してい
る。その上で、後送病院の診療記録、医師の証言、救急隊の記録などを用
いて診療の経過を認定し、被告医師には、「麻酔後において、原告Xに対し
適切な管理を行わなかった過失、また直ちに高次救急医療機関に搬送しな
かった過失がみとめられる」と認定した。また、美容整形手術による危険
性及び麻酔による危険については一言も触れることなく美しさや痛みを伴
わない手術であることだけを強調し、被告クリニックによる美容整形の魅
力を一方的に宣伝して顧客を集め、本件事故発生後においては、原告Xの搬
送先であるG病院からの照会にも協力せず、自らの責任を逃れる
 ために本件診療録及び本件麻酔記録をねつ造するという行為に及んだ。
30
これら5例から何がわかるか
1
刑事処分にしている例の恣意性
 2 略式命令・罰金刑の解決

後に続く行政処分を予測しているか
 3 医師にとってはどちらが痛手か
 4 何のための、誰のための刑事処分か

何のための、誰のための行政処分か
 5 Quality Improvement(医療安全)にとって、ど
のような措置をするのが適切か? いかなる工夫が
あるか?
31
http://www.law.cam.ac.uk/press/news/2009/04/the-baron-delancey-lecture-2009-medicine-mistakes-and-manslaughter-acriminal-combination/940
 The Baron de Lancey Lecture 2009: 'Medicine, Mistakes and







Manslaughter: A Criminal Combination'
Posted on Thursday 30th April 2009.
The 2009 Baron Ver Heyden de Lancey Lecture on Medico-Legal
Studies was delivered by Dr Oliver Quick, of the University of
Bristol, and was entitled "Medicine, Mistakes and Manslaughter:
A Criminal Combination".
The following resources are available from the lecture:
Video recording;
Audio recording (including Q&A);
Powerpoint slides;
Transcript.
Cambridge U
でのセミナー
① 1925年以来、医療事故について65件の業務
上過失致死罪での起訴→ただし、50件以上は19
90年以来。
②イギリスでは年間で85万件の医療事故。7万件は
、過失を伴う死亡事故という推計。
③manslaughter での起訴。要件は、gross negligence
(重過失)。ただし、陪審が有罪とする率は30%
以下。通常の犯罪は9割方有罪。
④実際は、gross negligenceではなく、故意にほとんど
近接する recklessness(相手が死んでもかまわないと
する無謀な行為)。それを明確に要件とすべき。ヨ
ーロッパ人権条約で求めるlegalityの原則(罪刑法定
主義)からも。
Ferner RE, McDowell SE. Doctors charged with manslaughter in
the course of medical practice,1795-2005: a literature review.
 J R Soc Med. 2006 Jun;99(6):309-14.(J O U R N A L O F T H E R O Y A L
S O C I E T Y O F M E D I C I N E)
1795年から2005年までの調査。85人の医師が起訴され
た。そのうち60名は証拠不十分で無罪、22人が有罪
、うち3人が罪を認めた。起訴数は1990年以降急増し
ているが、有罪となる率は低い。
 【結論部分】
 The criminal prosecution of a doctor is appropriate when there is
clear evidence of violation of safety rules. However, human error is
unavoidable in the course of care. Charging doctors with
manslaughter following a medical error may be an emotionally
satisfying way to exact retribution, but if individual doctors are
singled out for punishment it will become much harder to foster an
open culture. Faults in the system will remain hidden, and more
patients will die.
 Details of Funding Sarah E McDowell was supported by the
Antidote Trust Fund of the Sandwell and West Birmingham
Hospitals NHS Trust.
 Competing interests RE Ferner has received fees for writing
medicolegal reports. Sarah E McDowell has no competing interests.