児童福祉・少年司法と中学校

司法福祉論
-更生保護制度を中心にして-
藤原正範
(鈴鹿医療科学大学)
刑事司法と更生保護
刑事司法
法律に抵触した人への国家による強制力を背景とした活動の総称
刑罰
応報刑:犯罪者に対する社会的制裁
目的刑:抑止を目的とする(一般予防・特別予防)
刑罰の歴史
1.古代・封建社会
私刑罰と公刑罰の峻別困難、犯罪と民法上の不法行為との区別不明確
2.近代
罪刑法定主義の確立、監獄改良
3.20世紀以降の動向
科学主義(保安処分)、社会内処遇、
(21世紀~)刑事・民事の再統合(修復的司法)
刑事司法の法規と機関
(法規)
刑法・刑事訴訟法
刑罰が定められた法律・条例
刑事収容施設及び収容者の処遇等に関する法律
少年法、少年院法
更生保護法、保護司法、更生保護事業法
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律
(機関)
警察、検察、裁判所、(検察審査会)
矯正、更生保護
20歳を境に刑事手続きが大きく異なる
刑事司法における決定と執行
(刑事司法)
犯罪の認知・検挙⇒捜査⇒起訴
⇒裁判(公判)
⇒刑の執行(矯正・更生保護)⇒(社会復帰)
(少年司法)
(犯罪)捜査・(触法・虞犯)⇒家庭裁判所送致(全件)
⇒調査・審判
⇒保護処分(矯正・更生保護・児童福祉)の執行⇒ (健全育成)
(参考)児童福祉 : (要保護児童) ⇒児童相談所通告⇒措置等
更生保護の歴史
1888年
1922年
1936年
1939年
1949年
1950年
1954年
↓
2007年
静岡県出獄人保護会社(金原明善)
(旧)少年法 嘱託少年保護司
思想犯保護観察法
司法保護事業法
犯罪者予防更生法
更生緊急保護法、保護司法
執行猶予者保護観察法
更生保護法(2008年6月全面施行)
① 犯罪をした者および非行のある少年に対し、社会内の適切な処遇を行うことによ
り、再び犯罪をすることを防ぎ、また非行をなくし、これらの者が善良な社会の一員と
して自立し、改善更生することを助けること
② 恩赦の適正な運用を図ること
③ 犯罪予防の活動を促進すること。
更生保護と社会福祉
1955年
国連決議「被拘禁者処遇最低基準規則」
犯罪者処遇の目的は社会復帰(リハビリテーション)である
社会復帰実現のためには、施設内処遇と社会内処遇の一体的運用が必要
(最近の刑事司法の特徴的なできごと)
・65歳以上の高齢犯罪者の人員・比率(高齢化率の伸びを超える)の増加
(窃盗、傷害暴行、殺人)
・累犯者の問題(累犯障害者=知的障害者・精神障害者)
エクスクルージョン
インクルージョン(包摂)、リインテグレーション(再統合)
更生保護と協働する対人援助専門職の活動が求められる
保護観察
(目的) 犯罪者が再び犯罪をすることを防ぐ、非行少年の非行
をなくす
(ダブルロール) 指導監督と補導援護
(実施機関) 保護観察所
(方法) 保護観察官と保護司の協働
遵守事項(一般・特別)、生活行動指針
(種類)
①
②
③
④
⑤
少年に対する保護処分としての保護観察(1号)
少年院から仮退院を許されている者に対する保護観察(2号)
仮釈放を許されている者に対する保護観察(3号)
執行猶予者に対する保護観察(4号)
婦人補導院から仮退院を許されている者に対する保護観察(5号)
(プロベーションとパロール)
生活環境調整
生活環境調整とは、刑務所、少年院に収容されている者に、社会復帰を円
滑にするために行われる保護観察所の活動のことである。保護観察官と保
護司が協働して行う。
「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」
(調整事項)
①住居の確保、②引受人の確保、③家族・関係者の理解と協力の要請
④就業先・通学先の確保、⑤改善更生を妨げる生活環境の改善
⑤公共の衛生福祉機関等との調整、⑥その他自立のための支援
(調整方法)
①釈放後の生活の計画等の把握と助言、②引受人・関係者との協議
③関係者・機関への援助・協力要請、⑤矯正施設への資料提供、助言・協力の依頼
(生活環境調整のための調査事項)
①住居・近隣の状況、②引受人の状況、③就業先・通学先の状況
④被害者等の状況、⑤施設収容前の生活状況・交友関係
⑥心身の状況、生計の見込み、⑦その他
仮釈放等(1)
仮釈放等とは、自由刑、保護処分の執行のため刑事施設、少
年院に収容されている者で、一定の要件を満たす者について
期間満了前に行う条件付釈放のこと。
刑事施設の長、少年院の長等の申し出によって行われる。
地方更生保護委員会(全国8か所)が判断する。
次の3種類がある。
① 懲役・禁錮の受刑者の仮釈放
② 拘留受刑者、労役場被留置者の仮出場
③ 少年院、婦人補導院の入院者の仮退院
仮釈放等(2)
仮釈放等の手続きを行う時期
法的期間の経過(刑事施設の長は地方更生保護委員会に通告)
①有期刑については、執行すべき刑期の3分の1の期間を経
過する末日
②無期刑については10年を経過する末日
(少年受刑者については法定期間の特則あり)
少年院の仮退院可能な時期は処遇の最高段階(1級上)に達
し仮退院が改善更生のため相当であると認めるとき
更生保護法第36条の調査(審理を開始するかどうかを判断す
るために行う)
仮釈放等(3)
仮釈放等の審理は、地方更生保護委員会の3人の委員が合議
で決定する。仮釈放を認めるかどうかの調査(更生保護法25
条の調査)を行う。調査は、地方更生保護委員または保護観察
官が行う。審理は、原則として、更生保護委員が面接して行う。
仮釈放の要件は「改悛の情があるとき」(刑法)、「悔悟の情、改
善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、保護観察
に付することが改善更生のために相当であるとき」(規則)。「社
会感情が是認しないと認めるとき」は認めない。
審理に際して、犯罪被害者から申し出があれば、その心情を聴
取しなければならない。
更生緊急保護(1)
更生緊急保護とは、
刑事上の手続きまたは保護処分による身体の拘束を解かれた
後、親族からの援助を受けることができず、もしくは公共の衛生
福祉に関する機関その他の機関から医療、宿泊、職業その他
の保護を受けることができないか、これらの援助、保護のみに
よっては改善更生することができないと認められる場合、緊急
に行う保護。
改善更生のために必要な限度で行うもので、対象者の意思に
反しない場合に限られ、さらに保護観察所長がその必要性を
認めた時に限り行われる。
6か月を超えない範囲で実施。特に必要があればさらに6か月。
更生緊急保護(2)
対象者
①懲役、禁錮、拘留の刑の執行を終わった者
②懲役、禁錮、拘留の刑の執行を免除された者
③懲役、禁錮の刑の執行猶予の言渡しを受け、その裁判が確定するまでの者
④懲役、禁錮の刑の執行猶予の言渡しを受け、保護観察に付されなかった者
⑤訴追を必要としないため公訴を提起しない処分を受けた者
⑥罰金、科料の言い渡しを受けた者
⑦労役場から出場、仮出場を許された者
⑧少年院から退院し、仮退院を許された者(保護観察に付されている者を除く)
方法
①金品の給与・貸与、②宿泊場所の供与、③宿泊場所への帰住を助けること
④医療、療養を助けること、⑤就職を助けること、⑥教養訓練を助けること
⑦職業を補導すること、⑧社会生活に適応させるために必要な生活指導を行うこと
⑨生活環境の改善または調整を図ること
恩赦
(種類)
①大赦、②特赦、③減刑、④刑の執行の免除、⑤復権
(手続き)
刑事施設の長、保護観察の長、検察官が、本人の出願を受け
て、あるいは職権で、中央更生保護審査会に上申。
審査会は調査の上、恩赦の申し出をするかどうかを判断。
(本人の行状、違法行為をするおそれ、社会感情その他関係事
項を調査。在監中の者については釈放について社会の安寧
福祉を害することがないかを考慮)
内閣が決定し、天皇が認証。
(行政府が司法府の判断を修正する役割を果たす。)
被害者等の支援
2004年
2005年
犯罪被害者等基本法(2005年4月施行)
内閣府・犯罪被害者推進会議
犯罪被害者基本計画
刑事司法、少年司法における被害者等の保護、配慮
(更生保護と被害者)
仮釈放等審査における意見聴取制度
心情等伝達制度
被害者担当保護観察官、保護司
犯罪予防
更生保護法第1条
犯罪予防の活動の促進
保護観察所の事務の一つとして
「犯罪の予防を図るため、世論を啓発し、社会環境の改善に努
め、及び地域住民の活動を促進すること」
がある。
社会を明るくする運動
啓発活動
1951年に始まった犯罪予防のための
更生保護制度の担い手
保護観察官
保護司
5万2500人を超えない数
法務大臣が委嘱
都道府県の区域を分けて定める区域(保護区)ごとに
保護司の定数が定められる。 「保護司会」
(保護司選任の条件)
①人格及び行動について、社会的信望を有する
②職務の遂行に必要な熱意及び時間的余裕を有する
③生活が安定している
④健康で活動力を有する
保護司の職務
①地方更生保護委員会または保護観察所の長から指定を受
けて、当該地方更生保護委員会または保護観察所の所管に
属する事務(保護観察、恩赦、生活環境の調整、被害者に関
わる事務等)
②保護観察所の長の承認を得た保護司会の計画に従い、次に
掲げる事務(犯罪者・非行少年の改善更生、犯罪予防)
(1) 啓発・宣伝活動
(2) 民間団体への協力
(3) 地方公共団体の施策への協力
(4) その他
更生保護施設
更生保護事業とは、
犯罪者、非行少年が善良な社会の一員として改善更生すること
を助け、個人・公共の福祉の増進に寄与することを目的とする
「更生保護施設における処遇の基準に関する規則」
施設長、補導主任
更生保護施設
全国に101か所
*保護観察所の「自立更生促進センター」構想(パイロット施設
の建設→地域住民の反対)
更生保護と関係機関(1)
1.検察庁
①(地方更生保護委員会)仮釈放審理に際しての検察官からの参考意見
②(保護観察所)遵守事項を遵守事項を遵守せず情状が重いとき、刑の執行猶予
の取り消しを検察官に申出る。
③検察官による更生緊急保護の手続きの教示
④保護観察付執行猶予者の特別遵守事項の決定に当たっての検察官の情報
2.裁判所
裁判所による引致状
①(地方裁判所・簡易裁判所)判決文、特別遵守事項、仮釈放
②(家庭裁判所)特別遵守事項、処遇勧告、環境調整命令、虞犯通告、戻し収容
3.矯正施設
(刑事施設=刑務所・少年刑務所・拘置所、矯正施設=刑事施設+少年院・少年件鑑別所・婦人補導院)
仮釈放等、満期釈放者への更生緊急保護
更生保護と関係機関(2)
4.就労支援機関・団体
公共職業安定所(ハローワーク)
特別の指導を加えることを必要とする者→保護観察対象者を含む
2006年~ 法務省と厚生労働省、刑務所出所者等総合的就労支援対策
①矯正機関・更生保護機関と職業安定機関との連携
②受刑者、少年院在院者への就労支援の推進
③保護観察所対象者、更生緊急保護対象者への就労支援の推進
④協力雇用主の拡大
試行雇用奨励金、就労支援プログラム
5.福祉機関・団体
福祉事務所と更生保護
児童相談所と更生保護
2009年~ 地域生活定着促進センター、刑務所への社会福祉士配置
PFI方式の刑務所(社会復帰促進センター)
更生保護の民間協力者
更生保護女性会
1300余団体、約20万人会員
地域の犯罪予防活動を女性の立場から進める
BBS会
Big Brothers and Sisters Movement
約4,300人会員
非行少年の更生を助ける友だち活動
協力雇用主
約6,600事業者
保護観察所対象者、更生緊急保護対象者を事情を理解した上で雇用
民間協力者の拡大の課題
NPO、自助グループ等との連携の可能性
医療観察制度(1)
「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」
(目的)
心神喪失・心神耗弱の状態で重大な他害行為(殺人・強盗・強姦・放火・傷害)を行
った者に対して、その適切な処遇を決定するための手続きを定め、継続的かつ適切
な医療ならびにその確保のために必要な観察を行うことによって、その病状の改善
及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進する。
(手続き)
検察官は、重大な他害行為を行い、その被疑者が心神喪失等で不起訴処分になっ
たとき、裁判で無罪、刑の減軽が確定したとき、裁判所に対して、原則として、医療観
察法による医療を受けさせる必要がある旨の申立てをする。
申立て後、原則として、本人に対して鑑定入院命令が発され、鑑定医による鑑定が
行われる。裁判所は、裁判官1人と精神保健審判員(医師)1名の合議体を構成し、
精神保健参与員の意見を聴いた上で、①指定入院医療機関への入院、②指定通院
医療機関への通院、③医療観察法による医療を行わない、の決定を行う。決定に当
たって、保護観察所が生活環境の調査を実施することがある。
医療観察制度(2)
生活環境の調整
指定入院医療機関への入院となった対象者の社会復帰を図るため、本人、その家
族等の相談に応じ、本人が医療機関や行政による援助を受けることができるよう斡
旋するなどの方法により、退院後の生活環境の調整を行う。
生活環境の調整は、社会復帰調整官が行う。必要に応じて、ケア会議が実施され
る。入院医療を継続するときは、6か月ごとに入院継続の申立てを行う。
精神保健観察
指定通院医療機関への通院決定がなされた対象者、指定入院医療機関への入院
から通院への変更決定がなされた対象者に対して、社会復帰調整官が、精神保健
観察を行う。通院決定があった日から3年間、裁判所の決定で、2年間を超えない範
囲で延長できる。
精神保健観察中の対象者は、①一定の住居に居住すること、②住居移転、長期旅
行はあらかじめ保護観察所の長に届出る、③保護観察所の長から出頭、面接を求
められたら応じる、などの事項を守らなければならない。