生命情報学入門 タンパク質立体構造予測法 2011年5月24日 阿久津 達也 京都大学 化学研究所 バイオインフォマティクスセンター 本日の内容 構造予測に関連する基本事項 立体構造予測法の分類 スレッディング法 3D-1Dプロファイル ポテンシャル型スコア関数を用いたスレッ ディング CASP まとめ タンパク質立体構造予測 アミノ酸配列から、タン パク質の立体構造(3次 元構造)をコンピュータ により推定 実験よりは、はるかに精 度が悪い だいたいの形がわかれ ば良いのであれば、4~ 5割近くの予測率 アミノ酸配列 T C A V F G L G G V R L S D V コンピュータ タンパク質 立体構造 アミノ酸とタンパク質 アミノ酸:20種類 タンパク質:アミノ 酸の鎖(短いもの はペプチドと呼ば れる) アミノ酸 R H 側鎖 OH C N アミノ基 C カルボシキル基 H H O 蛋白質 R N H C H H C O N H C R ペプチド結合 O C 側鎖の例 Ala アラニン Phe フェニル アラニン CH 3 CH HC Val バリン H3 C CH C CH 3 CH O CH HC Asp アスパラ ギン酸 CH 2 O C - His ヒス チジン Cys シス テイン HN SH + NH CH 2 CH 2 CH 2 Gly グリシン H タンパク質の種類と高次構造 タンパク質の分類 球状タンパク質 繊維状タンパク質 膜タンパク質 一次構造(アミノ酸配列) 二次構造(α、β、それ以外(ループ、コイル)) 三次構造(三次元構造、立体構造) 四次構造(複数の鎖) タンパク質立体構造の決定 主にX線結晶解析かNMR解析による アミノ酸配列決定より困難 一般にX線解析の方が精度が高い しかし、結晶中の構造しかわからない 半年から1年くらいかかることも珍しく無い 既知アミノ酸配列 >> 10万 既知立体構造 < 数万 タンパク質立体構造の特徴 基本的には鎖(ひも)状 二種類の特徴的な構造 が頻繁に現れ、立体構造 の骨格(コア)を作る αへリックス(らせん状の部 分) βシート(ひも状の部分が 並んだ部分) α β ループ 構造とアミノ酸の種類の関係 (球状)タンパク質 αへリックス 内側:疎水性 外側:親水性 βストランド 内側:疎水性アミノ酸 外側:親水性アミノ酸 疎水性と親水性が交互に現れる ループ領域 親水性が高い 立体構造データベース PDB(Protein Data Bank ) SCOP タンパク質立体構造データベース 2011年5月10日現在約73009データ(ただし 重複あり) 立体構造分類データベース FSSP/DALI 立体構造アライメントデータベース/アライメ ントサーバー タンパク質立体構造の分類 構造分類の必要性 立体構造と機能の間には密接な関係 配列が似ていなくても構造類似のタンパク質が多 数存在 SCOPによる階層的クラス分け Class: 二次構造の組成(α、β、α+βなど)に基づく 分類 Fold: 構造の類似性 ← スレッディング法の対象 Superfamily: 進化的類縁性 Family: 明らかな進化的類縁性 立体構造予測法の分類 物理的原理に基づく方法 ホモロジーモデリング 格子モデル 2次構造予測 スレッディング 物理的原理に基づく方法 エネルギー最小化、もしくは、微分方程式を(数 値的に)解く、などの物理的原理に基づく方法 主として分子動力学法(Molecular Dynamics) 数十残基程度であれば、実際のタンパク質やペ プチドと似た構造を推定可能(なことがある) 構造の最適化や安定性の解析には実用的 ⇒ ホモロジーモデリング 主鎖をアラインメントで計算した後に 側鎖構造などを最適化 格子モデル 各残基が格子点 にあると仮定 予測よりも、 フォールディング の定性的な理解 のために利用され る 格子モデルに基づく研究 折れ畳み経路の シミュレーションに よる定性的理解 →フォールディン グファンネル エネルギー最小 の構造の計算法 →NP困難 親水性アミノ酸 疎水性アミノ酸 スコア =-9 スコア =-5 配列 二次構造予測 アミノ酸配列中の各残基 が、α、β、それ以外のど れに属するかを予測 でたらめに推定しても、 33.3%の的中率 最も高精度なソフトを使え ば、70%~80%の的中率 ニューラルネット、HMM、 サポートベクタマシンなど の利用 L A P I K α β それ以外 ニューラルネットによる二次構造予測 出力層 中間層 (隠れ層) 入力層 Lys Val Leu Asn Ala Thr Gly 膜タンパク質の膜貫通領域予測 膜貫通領域 αへリックス 7~17残基程 度の疎水性指 標の平均値を プロット 平均値が高い 部分が膜貫通 領域と推定 D A G I 膜タンパク 細 胞 膜 V L P V R K Q A 1.8 C: 2.5 D: -3.5 E: -3.5 F: 2.8 ... 疎水性 指標 フォールド予測(Fold Recognition) 精密な3次元構造 ではなく、だいたい の形(fold)を予測 立体構造は1000 種類程度の形に分 類される、との予 測(Chotia, 1992) に基づく アミノ酸配列 T C A V F G L G G V R L S D V 1000個のテンプレート構造 タンパク質スレッディング 立体構造(テンプレート)とアミノ酸配列の間 のアライメント 立体構造 T C A V F G L G K V R L S D V アミノ酸配列 スレッディングとアライメント 立体構造 A L G F G S L Y G A L G G V S L G A L G F G A L G T C A V F G L G K V R L S D V 入力アミノ酸配列 S L Y G G V S L G スレディング法の分類 プロファイルによるスレッディング PSI-BLAST 3D-1D法 構造アライメント結果に基づくスレッディング 残基間ポテンシャルによるスレッディング コンタクトポテンシャル 距離依存ポテンシャル その他のポテンシャル 残基4 プロファイル 残基3 立体構造 アライメントに おけるスコア 行列と類似 スレッディング の場合、残基 位置ごとにスコ ア(位置依存ス コア) 残基2 残基1 残基1 残基2 残基3 残基4 A 3.8 -3.5 1.2 2.3 C 1.5 1.3 -0.3 -4.6 D -1.5 -2.9 4.2 3.1 E 0.2 2.1 3.7 -1.3 プロファイルによるアライメント 動的計画法 (DP)により最 適解を計算 スコア行列の かわりにプロ ファイルを使う アミノ酸配列: AED ...... プロファイル: 残基1 残基2 残基3 残基4 A 3.8 -3.5 1.2 2.3 C D 1.5 1.3 -0.3 -4.6 -1.5 -2.9 4.2 3.1 E 0.2 -4.1 3.7 -1.3 アライメント 123 ..... AED ..... 1234 ..... A-ED ..... 1- 23 ..... AEDC ... スコア 3.8-4.1+4.2 =3.9 3.8-2.0+3.7+ 3.1=8.7 3.8-2.0-2.9+ -0.3=-1.4 3D-1Dプロファイル 最初のversionは Eisenbergらが 1991年に提案 構造中の残基(位 置)を18種類の環 境に分類 二次構造(3種類) 内外性+極性(6 種類) 主鎖 α β 側鎖 内外性 E P2 P1 B3 B2 B1 極 性 残基1 3D-1Dプロファイル 残基4 タンパク質 立体構造 残基2 残基3 環境クラス B 1α B 1β B 1 内外性 E P2 P1 B3 極 B2 性 B1 ア ミ ノ 酸 ・ ・ ・ ・ A -0.66 -0.79 -0.91 ・ ・ ・ ・ A -0.79 -0.79 -0.91 ・ ・ ・ ・ R -1.67 -1.16 -2.16 ・ ・ ・ ・ R -1.16 -1.16 -2.16 ・ ・ ・ ・ 0.07 0.07 0.17 ・ ・ ・ ・ 1.17 1.17 1.05 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Y ・ W ・ ・ Y ・ W 0.18 0.07 0.17 ・ ・ ・ ・ 1.00 1.17 1.05 ・ ・ ・ ・ 残基1 残基2 3D-1Dスコア 残基3 3D-プロファイル その他のプロファイル 配列のマルチプルアライメントに基づくプロ ファイル PSI-BLAST、HMM 立体構造のマルチプルアライメントに基づ くプロファイル作成 角度情報なども考慮したプロファイル プロファイル vs プロファイルによるアライメ ント ポテンシャル型スコア関数を 用いたスレッディング 全体のポテンシャル エネルギーを最小化 (Σfd(X,Y)が最小とな るようなスレッディン グを計算) 精度向上が期待で きる でも計算時間が問 題 立体構造 f d (T, F) d T C A V F G L G K V R L S D V アミノ酸配列 プロファイル型スコア関数と ポテンシャル型スコア関数 Pos1 Pos2 Pos3 Pos4 プロファイル型スコア 関数 A 3.8 -3.5 1.2 2.3 C 1.5 1.3 -0.3 -4.6 (Eisenberg et al. 1991) D E -1.5 -2.9 4.2 3.1 0.2 2.1 3.7 -1.3 ポテンシャル型スコア 関数 (Miyazawa, Sippl, . . .) score A d L d フラグメント・アセンブリ法 Univ. Washington の Baker らが開発 現時点では最強の方法と考えられている 方法 数残基から十数残基の断片構造をプロファイル比較法 などを用いて既知構造データベースから取得 => 各断片配列ごとにいくつかの候補を選ぶ フラグメントをつなぎ合わせることにより全体構造を予 測。つなぎ合わせる際には分子動力学法などによるエ ネルギー最適化などを行う 立体構造予測におけるブレーク スルー スレッディング法の発明(Eisenberg et al., 1991) PSI-BLASTの開発(Altschul et al, 1997) 構造既知の配列と類似性が無い配列の構造予測 プロファイルに基づくマルチプルアライメントの繰り 返し実行によるスレッディング David Baker による ab initio 予測(1997) 統計情報+シミュレーション 立体構造予測コンテスト:CASP CASP (Critical Assessment of Techniques for Protein Structure Prediction) ブラインドテストにより予測法を評価 ① ② ③ 半年以内に立体構造が実験により決定する見込み の配列(数十種類)をインターネット上で公開 参加者は予測結果を送付 構造決定後、正解とのずれなどを評価、順位づけ CASPの経過と結果の公表 CASP1 (1994), CASP2(1996), CASP3(1998), CASP4(2000), CASP5(2002), CASP6(2004), CASP7(2006), CASP8(2008), CASP9(2010) CAFASP(1998,2000,2002,2004,2006) 完全自動予測法の評価 結果の公表 会議 ホームページ http://predictioncenter.gc.ucdavis.edu/ 学術専門誌(Proteins) まとめ 立体構造予測 正確な座標は予測できない だいたいの形の予測であれば4~5割近く タンパク質スレッディング法が有力 近年では、フラグメントアセンブリー法が有力 二次構造予測であれば、70%-80%程度 参考文献 阿久津達也:バイオインフォマティクスの数理とアルゴ リズム、共立出版、2007. 丸山修、阿久津達也:バイオインフォマティクス –配 列データ解析と構造予測、朝倉書店、2007. 藤博幸:タンパク質機能解析のためのバイオインフォ マティクス、共立出版、2004.
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