物理システム工学科3年次 「物性工学概論」 第9回光エレクトロニクス(2)

物理システム工学科3年次
物性工学概論
第火曜1限0023教室
第10回 光エレクトロニクスと材料[3] 光ディスク
大学院ナノ未来科学研究拠点
量子機能工学分野
佐藤勝昭
第9回に学んだこと



光ファイバー通信と光エレクトロニクス
光ファイバー通信とは?
光ファイバー通信用要素技術






送信機:半導体レーザーについて
伝送路:光ファイバーについて
受信機:フォトダイオード
波長多重(WDM)
光増幅器:EDFAについて
光アイソレータについて
光通信システムの進展
http://magazine.fujitsu.com/vol48-3/6.html
光ファイバー通信システム
QUIZ1


日本とアメリカの距離を1万kmとして光ファイ
バー通信で信号が伝達する時間を計算せよ。た
だし、屈折率を1.5と仮定する。
静止衛星の地上高度は35,000kmである。衛
星経由で信号が到達するのにどれだけ時間が
かかるか。
光通信の要素技術

光源:半導体レーザー(LD=laser diode)


線路:光ファイバー



全反射, レーリー散乱, 分子振動
光検出器:フォトダイオード(PD)


pn接合, DH構造, DFB構造, 高速化
アバランシェ型(APD)
中継器:ファイバーアンプ(EDFA)
光制御器:アイソレータ、アッテネータ、サーキュ
レータ
要素技術1
半導体レーザ


LED構造において、劈開面を用いたキャビティ
構造を用いるとともに、ダブルヘテロ構造により、
光とキャリアを活性層に閉じ込め、反転分布を
作る。
DFB構造をとることで特定の波長のみを選択し
ている。
半導体レーザーの動作特性
LED動作
電流vs発光強度
発光スペクトル
佐藤勝昭編著「応用物性」(オーム社)
要素技術2
光ファイバー



材料:溶融石英(fused
silica SiO2)
構造:同心円状にコア層、
クラッド層、保護層を配置
光はコア層を全反射に
よって長距離にわたり低
損失で伝搬
http://www.miragesofttech.com/ofc.htm
東工大影山研HPより
光ファイバーの伝搬損失
Physics Today Onlineによる
http://www.aip.org/pt/vol-53/iss-9/captions/p30cap1.html
QUIZ2



屈折率1.5のコアと屈折率1.3のクラッドを考えたと
きの臨界角を求めよ。
実際の系では、屈折率の違いは1%程度である。屈
折率1.4のコアと1.38のクラッドの場合はどうか
低損失ファイバーの減衰は0.2dB/kmである。東
京から富士山まで約100kmとして、光強度はもと
のなん%に落ちるか。ここではpowerの損失に対
するdBの定義dB=10log(I0/I)を使って下さい。
要素技術3
光検出




フォトダイオードを用いる
高速応答の光検出が必要
pinフォトダイオードまたはショットキー接合フォト
ダイオードが使われる。
通信用PDの材料としてはバンドギャップの小さ
なInGaAsなどが用いられる。
要素技術4
光中継:ファイバーアンプ


光ファイバー中の光信号は100km程度の距離を伝送されると、
20dB(百分の一に)減衰する。これをもとの強さに戻すために光
ファイバーアンプと呼ばれる光増幅器が使われている。
光増幅器は、エルビウム(Er)イオンをドープした光ファイバー(E
DF:Erbium Doped Fiber)と励起レーザーから構成されてお
り、励起光といわれる強いレーザーと減衰した信号光を同時にE
DF中に入れることによって、Erイオンの誘導増幅作用により励
起光のエネルギーを利用して信号光を増幅することができる。
旭硝子の
HPhttp://www.agc.co.jp/news/2
000/0620.htmlより
要素技術5
光アイソレータ



光アイソレータ:光を一方向に
だけ通す光デバイス。
光通信に用いられている半導
体レーザ(LD)や光アンプは、
光学部品からの戻り光により不
安定な動作を起こす。
光アイソレータ:出力変動・周波
数変動・変調帯域抑制・LD破
壊などの戻り光による悪影響を
取り除き、LDや光アンプを安定
化するために必要不可欠な光
デバイス。
信光社
http://www.shinkosha.com
/products/optical/
要素技術6
波長多重(WDM=wavelength division multiplexing)


この方式は、波長の異なる光信号を同時にファイバー中を伝送
させる方式であり、多重化されたチャンネルの数だけ伝送容量
を増加させることができる。
通信用光ファイバーは、1450~1650nmの波長域の伝送損
失が小さい(0.3dB/km以下)ため、原理的にはこの波長域全
体を有効に使うことができる。
QUIZ3
 「光ファイバー通信において利用され
ている物理現象の中で印象に残った
モノをつ挙げよ。」
---------------------------------------------という質問を出しましたところ、みなさん、大変よ
い答えを書いてくれました。
第10回で学ぶこと



読み出しは、レーザー光を絞ったときに回折限
界で決まるスポットサイズで制限されるため、波
長が短いほど高密度に記録される。
光ストレージには、読み出し(再生)専用のもの、
1度だけ書き込み(記録)できるもの、繰り返し記
録・再生できるものの3種類がある。
記録には、さまざまな物理現象が使われている。
スポットサイズ


レンズの開口数
 NA=nsinα
d=0.6λ/NA
現行CD-ROM: NA=0.6
CD-ROM: λ=780nm→d=780nm
DVD: λ=650nm→d=650nm
BluRay: NA=0.85
λ=405nm→d=285nm
AOD: NA=0.6
λ=405nm→d=405nm
α
スポット径 d
光ストレージの分類

光ディスク

再生(読み出し)専用のもの


CD, CD-ROM, DVD-ROM
記録(書き込み)可能なもの
 追記型(1回だけ記録できるもの)

CD-R, DVD-R
 書換型(繰り返し消去・記録できるもの)



光相変化 CD-RW, DVD-RAM, DVD-RW, DVD+RW,
DV-R, DV+R, BD, HD-DVD
光磁気: MO, GIGAMO, MD, Hi-MD, AS-MO, iD-Photo
ホログラフィックメモリ、ホールバーニングメモリ
光記録に利用する物理現象






CD-ROM, DVD-ROM:
 ピット形成
CD-R, DVD-R:
 有機色素の化学変化と基板の熱変形
CD-RW, DVD-RAM, DVD-RW, DVD+RW, DVR:
 アモルファスと結晶の相変化
MO, MD, GIGAMO, AS-MO, iD-Photo:
 強磁性・常磁性相転移
ホログラフィックメモリ:フォトリフラクティブ効果
ホールバーニングメモリ:不均一吸収帯
光ディスクの特徴


リムーバブル
大容量・高密度



ランダムアクセス



現行10Gb/in2:ハードディスク(70Gbit/in2)に及ばない
超解像、短波長、近接場を利用して100Gbit/in2をめざす
磁気テープに比し圧倒的に有利;
カセットテープ→MD, VTR→DVD
ハードディスクに比べるとシーク時間が長い
高信頼性

ハードディスクに比し、ヘッドの浮上量が大きい
光ディスクの面記録密度の伸び
光ディスク
MO
ハードディスク
鈴木孝雄:第113回日本応用磁気学会研
究会資料(2000.1) p.11に加筆
いろいろな光
ディスク
CD-ROM




ポリカーボネート基板:n=1.55
λ=780nm → 基板中の波長λ’=503nm
ピットの深さ:110nm ~ ¼波長
反射光の位相差π:打ち消し
http://www.infonet.co.jp/ueyama/ip/multimedia/cd.html
CD-ROMドライブ



フォーカスサーボ
トラッキングサーボ
光ピックアップ
http://www.infonet.co.jp/ueyama/ip/multimedia/cd.html
CD-RW


光相変化ディスク
結晶とアモルファスの
間の相変化を利用
http://www.cds21solutions.org/main/osj/j/cdrw/rw_phase.html
光相変化記録

アモルファス/結晶の相変化を利用

書換可能型 成膜初期状態のアモルファスを熱処理により結
晶状態に初期化しておきレーザ光照射により融点Tm
(600℃)以上に加熱後急冷させアモルファスとして記録。消
去は結晶化温度Tcr(400℃)以下の加熱緩冷して結晶化。
 Highレベル:Tm以上に加熱→急冷→アモルファス
 Lowレベル:Tcr以上に加熱→緩冷→結晶化
DVD-RAM: GeSbTe系
DVD±RW: Ag-InSbTe系
相変化ディスクの記録と消去


融点以上から急冷:
アモルファス
→低反射率
融点以下、結晶化
温度以上で徐冷:
結晶化
→高反射率
http://www.cds21solutions.org/main/o
sj/j/cdrw/rw_phase.html
相変化と反射率
初期状態:結晶状態
R:大
記録
記録状態:アモル
ファス状態
R:小
消去
レーザスポット
記録マーク
アモルファスとはなにか

Amorphous aは否定の接頭辞morphは形






非晶質と訳される
近距離秩序はあるが、結晶のような長距離秩序がない
液体の原子配列が凍結した状態に近い
液体の急冷により生じる準安定な状態
金属合金系、カルコゲナイドガラス系、テトラヘドラル系、
酸化物ガラス系などがある
金属合金系の場合DRPHS (dense random
packing of hard spheres)モデルで説明できる
アモルファスの特徴

結晶ではないので結晶粒界がなく連続




大面積を均一に作れる。
光の散乱が少ない
結晶と違って整数比でない広範な組成比が実
現:特性を最適化しやすい
低温成膜可能なので、プラスチック基板でもOK
CD-R




有機色素を用いた
光記録
光による熱で色素
が分解
気体の圧力により
加熱された基板が
変形
ピットとして働く
DVDファミリー
DVD-ROM
DVD-R
DVD-RAM
DVD-RW
DVD+RW
容量(GB)
4.7 / 9.4
2層8.54
3.95 / 7.9
4.7 / 9.4
4.7/9.4
4.7/9.4
形状
disk
disk
cartridge
disk
disk
マーク形成
材 料
ピット形成
1層 R=45-85
2層 R=18-30
650/635
熱変形型
相変化型
相変化型
有機色素
GeSbTe系
AgInSbTe系
相変化型
AgInSbTe系
R=45-85%
R=18-30%
638/650
R=18-30%
650/635
R=18-30%
650
0.6
0.6
0.6
0.6
0.65
最短マーク長
1層:0.4
2層:0.44
0.4
0.41-0.43
0.4
0.4
トラック幅
0.74
0.8
Wobbled Land
pre-bit
0.74
Wobbled L/G
0.74
Wobbled Land
pre-bit
0.74 HF
Wobbled
groove
105
103-104
103-104
レーザ波長
レンズNA
書き換え可能
回数
-
-
650
MO(光磁気)記録

記録: 熱磁気(キュリー温度)記録


再生: 磁気光学効果






光を用いてアクセスする磁気記録
磁化に応じた偏光の回転を電気信号に変換
MO, MDに利用
互換性が高い
書き替え耐性高い:1000万回以上
ドライブが複雑(偏光光学系と磁気系が必要)
MSR, MAMMOS, DWDDなど新現象の有効利用可能
光磁気ディスク
 記録:
熱磁気(キュリー温度)記録
 再生: 磁気光学効果
 MO: 3.5”
128→230→650→1.3G→2.3G
 MD:6cm audio 70 min
→Hi-MD audio13 hr
 iD-Photo, Canon-anasonic(5cm)
光磁気記録の歴史

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1962
1967
1971
1972
1973
1976
1980
1981
1988
1889
1991
1992
1997
1998
2001
2002
2004
Conger,Tomlinson
光磁気メモリを提案
Mee Fan
ビームアドレス方式の光磁気記録の提案
Argard (Honeywel)
MnBi薄膜を媒体としたMOディスクを発表
Suits(IBM)
EuO薄膜を利用したMOディスクを試作
Chaudhari(IBM) アモルファスGdCo薄膜に熱磁気記録(補償温度記録)
Sakurai(阪大) アモルファスTbFe薄膜にキュリー温度記録
Imamura(KDD) TbFe系薄膜を利用したMOディスクを発表
Togami(NHK) GdCo系薄膜MOディスクにTV動画像を記録
各社
5”MOディスク(両面650MB)発売開始
各社
3.5 ”MOディスク(片面128MB)発売開始
Aratani(Sony) MSR(磁気誘起超解像)を発表
Sony
MD(ミニディスク)を商品化
Sanyo他
ASMO(5”片面6GB:L/G, MFM/MSR)規格発表
Fujitsu他
GIGAMO(3.5”片面1.3GB)発売開始
Sanyo
ディジカメ用iD-Photo(2”, 780MB)発売
Canon-松下
ハンディカメラ用2“3GBディスク発表
Sony
Hi-MD発表
光磁気媒体

MOディスクの構造
ポリカーボネート基板
窒化珪素保護膜・
(MOエンハンス
メント膜を兼ねる)
Al反射層
groove
land
樹脂
MO記録膜
(アモルファスTbFeCo)
光磁気記録 情報の記録(1)



M
レーザ光をレンズで集め磁性体を加熱
キュリー温度以上になると磁化を消失
冷却時にコイルからの磁界を受けて記録
Tc
温度
Tc
コイル
外部磁界
光磁気記録媒体
光スポット
光磁気記録 情報の記録(2)
補償温度(Tcomp)の利用
 アモルファスTbFeCoは
一種のフェリ磁性体なので

補償温度Tcompが存在

TcompでHc最大:

Hc
M
記録磁区安定
室温
Fe,Co
Tb
Tb
FeCo
Mtotal
Tcomp Tc T
アモルファスR-TM合金
光磁気記録 情報の読み出し

磁化に応じた偏光の回転を検出し電気に変換
D1
LD
+
D2
N
S
S
N
N
S
偏光ビーム
スプリッタ
差動検出系

差動検出による高感度化
偏光ビームスプリッター
P偏光
光センサー
偏光
S偏光
-
光センサー
+
出力
MOドライブ
MOドライブの光ヘッド
Bias field coil
Recorded marks
Track pitch
Focusing lens
MO film
Rotation of
polarization
Beam splitter
lens
PBS
(polarizing beam splitter)
mirror
Laser diode
Half
wave-plate
Photo-detector
2種類の記録方式

光強度変調(LIM):現行のMOディスク




電気信号で光を変調
磁界は一定
ビット形状は長円形
磁界変調(MFM):現行MD, iD-Photo



電気信号で磁界を変調
光強度は一定
ビット形状は矢羽形
記録ビットの形状
(a)
(b)
MO-SNOMで見た記録マーク
佐藤勝昭:応用物理69 [10] (2000) 1220-1221
SNOM:近接場顕微鏡
FeのL3吸収端のXMCDを用いて
観測したMO媒体の磁区像
SiN(70nm)/ TbFeCo(50nm)/SiN(20nm)/
Al(30nm)/SiN(20nm) MO 媒体
N. Takagi, H. Ishida, A. Yamaguchi, H.
Noguchi, M. Kume, S. Tsunashima, M.
Kumazawa, and P. Fischer: Digest Joint
MORIS/APDSC2000, Nagoya, October
30-November 2, 2000, WeG-05, p.114.
XMCD:X線磁気円二色性