1. 保健統計とは何か 保健統計 2014年度 Ⅰ 統計学とはどのようなものか a) 統計学の考え方 b) 記述統計と推測統計 1) 記述統計の例 2) 推測統計の例 3) 推測統計の注意点 c) 統計的なものの見方 Ⅱ 保健に関する統計データ a) 健康指標 b) 健康指標に影響する因子 Ⅰ 統計学とはどのようなものか a) 統計学の考え方 (問) 大学から徳山駅まで、車で何分かかるのを知りたい。 どのようにすれば知ることができるだろうか? • いつも大体、15分ぐらいで着く。 ⇒ 15分というのはきちんと測定した数値ですか? • 実際に車で走ってみた。そのとき16分30秒かかった。 ⇒ 実際に測定した数値ですが、1回だけ良いのでしょうか? ※ 数多くの観察(実験)をおこなった結果、大学から駅まで何分かかるかを 知ることができる。 直観的であいまいな観察に、客観性を与えてくれる。 • 駅まで車で何分かかるかを、わざわざ多数観察することは必要か? ⇒ 必要と思う人と、思わない人がいるであろう。 ⇒ しかし、駅までの所要時間が分かれば、効率的に行動することができる。 ⇒ 実際に測定すべきか、なんとなくの時間でよいかは、その人の状況によって 異なる。 • この観察をおこなうときに、「時間帯」、「時期」、「曜日」、「天候」などについ ても同時に観察することも考えられよう。 • これらのデータの間にから何を見出せるのであろう? ⇒ (例) 雨の日は通常より時間がかかる 夕方は日中より時間がかかる など • われわれは、得られたデータ間に見いだされた関係から、将来より効率的 に行動するために、何を学びうるであろうか? ⇒ (例)雨の日や夕方に大学から駅まで車で行くときには、所要時間が 多くかかることを予測し、行動することが効率的である。 • 「経験」を効率的に整理する(少ない経験で、豊富な経験と同等の知 識を持つ)ためには、統計学の助けが必要不可欠である。 • 統計学とは、分析目的に対応してデータを収集し、分析することに よって、予測や意思決定のための材料を提供する学問である。 統計学 分析目的 データの収集 分析 予測・ 意思決定 b) 記述統計と推測統計 データを収集し、分析する統計学の立場には次の2 種類が考えられる。 • まず、得られたデータの特徴を何らかの数値(例えば 平均)や表・グラフにまとめたりすることが考えられる。 ⇒ 記述統計(または統計的記述)という。 • 次に、データの記述にもとづき、そのデータを生成し た集団や構造(これを母集団という)についての推論 をおこなうことが考えられる。 ⇒ 推測統計という。 1) 記述統計の例 あるクラスのテストの点数が次のようになっていたとする。 39, 63, 44, 44, 22, 69, 69, 66, 67, 78, 34, 33, 60, 88, 20, 54, 43, 73, 17, 34, 20, 20, 63, 69, 46, 47, 20, 30 58, 87, 47, 75 36, 7, 27, 21 60, 23 このような数字の羅列だけでは、このクラスの特徴をとら えることは難しい。そのため、このクラスの特徴を何らか の数値であらわしたり、表・グラフにまとめたりする、記述 統計の助けが必要である。 特性値(統計量) クラスの特徴を、特性値(統計量 ともいう)といわれる数値であら わしたり、度数分布表とヒストグ ラムといった表やグラフにまとめ てみる。 平均点 最高点 最低点 度数分布表 級 - 階級値 9 19 29 39 49 59 69 79 89 100 5 15 25 35 45 55 65 75 85 95 ヒストグラム 度数 テストの点数 1 1 8 6 6 2 9 3 2 0 10 8 度数 階 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 46.66 88 7 6 4 2 0 5 15 25 35 45 55 点数 65 75 85 95 • そのほか、今まで見慣れている、さまざまなグラフをとりあげる。どのよう な場合にどのグラフが有効であるか、再整理する。 3.5 6 3 5.5 2.5 5 2 棒グラフ 4.5 度数 折れ線グラフ 完全失業率(%) 完全失業率の推移(男女計・季節調整値) 1.5 4 1 3.5 0.5 2014年5月 2014年1月 2013年9月 2013年5月 2013年1月 2012年9月 2012年5月 2012年1月 2011年9月 2011年5月 2011年1月 2010年9月 2010年5月 2010年1月 2009年9月 2009年5月 2009年1月 2008年9月 2008年5月 2008年1月 3 0 1人 3人 4人 家族の人数 出典:総務省統計局『労働力調査』 仮想データから作成 学年別の割合 年齢3階級別総人口の推移 年 1930 20% 円グラフ 2人 40% 帯グラフ 2年 3年 4年 1950 0-14歳 1970 15-64歳 65歳- 1990 2010 40% 0% 仮想データから作成 20% 40% 60% 80% 100% 出典:総務省統計局『国勢調査』 5人 1) 記述統計の例 死亡数(人) 主要死因別死亡数の推移(男) 250 000 悪性新生物 200 000 心疾患(高血圧性を除く) 脳血管疾患 150 000 肺炎 100 000 不慮の事故 自殺 50 000 死亡数(人) 主要死因別死亡数の推移(女) 160 000 140 000 悪性新生物 120 000 心疾患(高血圧性を除く) 100 000 脳血管疾患 80 000 肺炎 60 000 不慮の事故 40 000 自殺 20 000 • 左のグラフは主要 死因別死亡数の 推移を折れ線グラ フであらわしたも の。 • これらから、死因 別死亡数が時代と ともにどのように 変化したかを見る ことができる。 「経験」をきちんと 整理する 2) 推測統計の例 母集団(個体数N) × 標本(個体数n) × × × × × × × × × 母集団 - 知りたい対象の集ま り 標本 - 母集団から抜き出され たその一部 × × 母平均 μ 推論 標本平均 x 母比率 p 標本比率 p ˆ 母数 θ 標本統計量 t 全数調査 - 母集団の全てに ついて調査をおこなうこと 標本調査 - 母集団から抜き出 された一部について調査をおこな うこと 標本統計量をもとに、母数についての推論をおこなうのが推測統計である。 晴れた日の夕方のバスの所要時間を知りたいとする。 晴れた日の夕方に走るすべてのバスについて、所要時間の データを収集することは不可能である。このとき、たとえば10 日間に乗ったバスを標本(サンプル)として考える。 母集団(晴れた日の 夕方のバス全体) × × 標本(乗ったバス10回) × × × × × × × × 平均所要時間 μ 推論 平均所要時間 x 少ない「経験」をもとに、多くを経験した場合のことを推論する。 ※ 日常の医療活動における例 (テキスト9ページ) 麻疹のような子供の感染症の患者の場合、 発熱 → 平熱 → 再度体温上昇 → 回復 という体温変化のパターンが見られることがある。 これは過去の経験から分かることであるが、経験の浅い者は1 00人の患者の体温の変化を折れ線グラフで描くことなどに、 このような経験豊富な看護者と同様の患者への指導をおこな うことが可能となる。 母集団(子供の感染症の患者全体) × × 標本(患者100人) × × × × × × × × 体温変化のパターン 推論 体温変化のパターン † このことは教科書に 書いてあることかもし れないが、そうである なら、過去の経験を統 計学の手法を用いて 分析し、教科書に書か れるだけの信頼性を得 たものであるはず。 3) 推測統計の注意点 • 標本から得た母集団についての情報は、誤差を持っている。 • たとえば、晴れた平日の夕方にAさんとBさんがそれぞれ車を 運転してデータ収集をおこなう。 – Aさんは10回車を運転したところ、目的地まで平均15分でついた。 – Bさんは運の悪い人で、運転した車が信号に何度もつかまり、10回 乗ったところ平均時間は18分であった。 母集団(晴れた日の 夕方の車全体) × × × × × × 標本1(Aさんの運転す る車10回) 平均15分 × × × × × × 標本2(Bさんの運転す る車10回) 平均18分 ⇒ 選んだ標本(サンプル)から求めた平均所要時間には誤差 がある。 ⇒ 標本誤差(標本の偏り)の問題 ※ 内閣発足直後、新聞各社は支持率調査をおこなうが、各社ごとにそ の結果が異なる。それはこの標本誤差(標本の偏り)の問題による。 • 推測統計では、標本から得られる情報にもとに、確率を用いて、 誤差の大きさを評価し、母集団についての情報を推論する。 <第2次安倍内閣発足直後の支持率の例> 母集団(有権者1億人) × × × × 標本1(朝日990人) 59% × × × × × × × × 2012年12月28日付の朝刊 各紙に掲載された第2次安倍 内閣支持率を見ると、異なっ た結果になっている。 同じ対象に同じ調査をおこ なっても、標本によってその結 果が異なる。 これが、標本の偏りである。 × × × × × × 標本2(読売1039人) 65% 標本3(毎日856人) 52% 標本4(日経872人) 62% 標本5(共同1031人) 62% ※ 保健分野において考えられる例 (テキスト74-75ページ) インフルエンザにかかった子供が脳症をおこして死亡する確率 を知りたい。 このとき、勤務先の病院において、1000人に患者のうち、2人 が脳症をおこして死亡したというデータがあったとする。 → この確率は0.2%と推定できる。 しかし、この確率は、標本の偏りを含む可能性がある。標本の 偏りを含む可能性としては、たとえば次のような根拠が挙げら れる。 – 地域の大病院と個人病院 普段個人病院にかかっている患者でも、容態が悪い場合には大病院にかかる。 また、夜中に急変して救急でかかるのは大病院である。 – 地域による相違 近くに医療機関が多くある地域と、あまりない地域とでは、発症から受診までの時間 が異なってくる。そのため、助かる命が助からない場合がある。 c) 統計的なものの見方(テキスト11-12ページ) 1. ありのままに観察し、正確に数え、数字を通して把 握する。 2. その数字がなにを意味しているのかを考える。 3. その数字は真実を示しているか、偶然の要素はな いかどうかをよく吟味する。 4. 使用されている分類や定義が適切かどうかを検討 し、妥当性を確認する。 5. 分類された数字に、一定の変化や傾向があるかど うかを考察する。 Ⅱ 保健に関する統計データ 国・地方公共団体のデータ(官庁統計) 民間のデータ(民間統計) 企業・各種団体の行う統計調査 個人のアンケート調査 病院の業務の記録 など • 統計学の手法を用いるためには、まずは統計デー タを入手する必要がある。 • 保健に関する統計データとしては、 – 官庁などが実施する統計調査の結果を利用する。 – アンケート調査を実施することによって必要なデータを 収集する。 – 日常の業務で得られたデータを用いる。 などの入手方法が考えられる。 <保健に関するおもな官庁統計>(テキスト第7章も参照) • 人口動態統計(厚生労働省) 役所に提出される出生、死亡、婚姻、離婚、死産の諸届をも とにつくられる統計であり、 年齢別死亡率、死因別死亡率 や母親の年齢別出生率などが作成される。 • 患者調査(厚生労働省) 病院・診療所に患者数、受療の状況、診療費支払方法などを 調査するものであり、傷病別患者数、年齢別患者数、受療 率などが作成される。 • 国民生活基礎調査(厚生労働省) 国民の保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的 な事項を調査するもの。世帯とその構成員に対して、保険 の加入状況、年金の加入状況、所得、貯蓄、健康状態、通 院状況および期間、介護の状況などを調査する。職業別通 院者率や傷病別通院者率などが作成される。 • 医療施設調査(厚生労働省) 病院・診療所数、患者数、病床数、診療科目、従事者数など を調査するものであり、都道府県別医療施設数、病床数、 医療施設従事者数などが作成される。 • 学校保健統計(文部科学省) 学校の生徒・児童の発育状況、栄養状態、疾患・疾病の状態 などを調査するものであり、青少年の年齢別発育状況、疾 病率などが作成される。 これらの調査結果はインターネットを通じて入手することができる。 • 厚生労働省の統計データベース(厚生統計要覧) http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/youran/index-kousei.html • 文部科学省の各種統計情報 http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/index.htm なお、日本の官庁統計は総務省統計局†が総合調整をおこなっているの で、統計局ホームページ(www.stat.go.jp)からのリンクで参照することが 可能である。 各種統計の主要なものをまとめた統計資料集もある。代表的なものは 「日本統計年鑑」であり、総務省統計局のサイトにすべての統計表がお かれている。 http://www.stat.go.jp/data/nenkan/index.htm † 正確には総務省政策統括官(統計基準担当)である。総務省統計局は平成17年 8月15日の組織改変により、統計局と政策統括官(統計基準担当)に分けられた。 政策統括官といっても、特定の1人を指すのではなく、組織を指すことに注意。 a) 健康指標 • 数多くの統計の中で健康あるいは保健に関する指 標を健康指標という。 • 例えば次のようなものがある。 – – – – 死亡・疾病などの状況 栄養状態 上水道・下水道普及率 医療施設 b) 健康指標に影響する因子 • 下のグラフは都道府県別の死亡率(平成25年)であ る。このグラフをみると、都道府県によって死亡率の 差があることがわかる。 死亡率(‰) 都道府県別死亡率(人口千人あたり)(平成25年) 16.0 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 北青岩宮秋山福茨栃群埼千東神新富石福山長岐静愛三滋京大兵奈和鳥島岡広山徳香愛高福佐長熊大宮鹿沖 海森手城田形島城木馬玉葉京奈潟山川井梨野阜岡知重賀都阪庫良歌取根山島口島川媛知岡賀崎本分崎児縄 川 山 島 道 データ出典: 人口動態統計年間推計(平成25年) • 山口県の死亡率は比較的高いほうに位置している。 では、どうして死亡率が高いのであろうか? • 高い死亡率 ← 高齢者が多い ← 医療施設が少ない ← ストレスがたまる などの理由が考えられる。これらは、健康指標に影 響しているのではないかと考えられる。 • 高齢者(65歳以上)人口が都道府県別人口に占め る割合をグラフにしてみると、下のようになる。 高齢者人口割合(%) 都道府県別高齢者人口割合(平成25年) 35.0 30.0 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 北青岩宮秋山福茨栃群埼千東神新富石福山長岐静愛三滋京大兵奈和鳥島岡広山徳香愛高福佐長熊大宮鹿沖 海森手城田形島城木馬玉葉京奈潟山川井梨野阜岡知重賀都阪庫良歌取根山島口島川媛知岡賀崎本分崎児縄 道 川 島 山 データ出典: 平成25年10月1日現在推計人口 • • • • • • • • • • 健康指標に影響する因子として次のようなものが考えられる。 (テキスト15-27ページ参照) 年齢 - 年齢階級別死亡率、死亡者の割合は年齢によっ て変わる 性別 - 子宮がん、乳がん → 女性、胃がん、肝臓がん、肺 がん → 男性 民族・人種 年次(世代) - 医学の進歩で結核や肺炎などが減る 季節 地域 - 北海道、東北は食塩摂取量が多い ライフスタイル 生活環境 経済社会階層・職業- 炭坑夫のじん肺 医療施設・ヘルスマンパワー - 離島などの問題
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