災害情報のメタ・メッセージによる副作用に関する研究

災害情報 No.9 2011
佐藤慎祐・菊池輝・谷口綾子
林信一郎・西真佐人・小山内信智
伊藤英之・矢守克也・藤井聡
紹介者 芹澤沙季
はじめに
現在の防災対策
・落石防止ネット設備
・堰堤建設
ハード的対策
・防災教育
・災害情報提供
ソフト的対策
依存しすぎてしまう!!
副作用
はじめに
*なぜ副作用が生じるのか?
理論的背景として、リスクコミュニケーションを行う際に意図させ
る内に「受け手側」に伝わってしまう「メタ・メッセージ」の存在
*メタ・メッセージとは
「避難勧告がでたら、避難してください」
避難勧告がでたら、避難すればよい
発信者
受け手
研究目的
リスク・コミュニケーションに伴うとしたメタ・メッセージ
によって、情報の受け手である住民が、専門家から
の情報に過度に依存するという態度が誘発される効
果を「メタ・メッセージ効果」と定義し、それがリスク・コ
ミュニケーションに内在する可能性を検証するための
調査を行う。
また、あわせてこうしたメタ・メッセージ効果によって
誘発された態度が、適切なコミュニケーションにより
改善される可能性を探る。
仮説
仮説1
災害リスクに関わるリスク・コミュニケーションによって、そ
の対象者のリスク回避における専門家依存傾向の増進と
自主性の低減がもたらされる場合がある。
仮説2
リスク・コミュニケーション過程において、対象者が提供情
報を主体的に活用することを要請することで、リスク・コミュ
ニケーションのメタ・メッセージ効果(自主性低減と専門家
依存傾向の増進)は低減する。
表1:質問項目
研究方法
*本研究では
に着目し、仮説検証のた
めのアンケート調査を行う
対象
鹿児島県さつま町の3地区
(佐志、神子、求名)の1572世帯
※そのうち回収率は28.4%
◆土砂災害の発生頻度が他地域より比較的高い
◆かつて、土砂災害についてのリスク・コミュニ
ケーション・プログラムを実施
今回使用したアンケート
研究方法
①専門家から避難の基本的な情報を提供
②情報を「活用」して具体的な避難の行動プランを検討
③その内容を記述
行動プラン群避難行動に対する実行意図が高まる
ニューズレター群
避難行動シュミレーション
記入依頼(行動プラン法)
土砂災害に関するニューズレターを配布
※3回実施
アンケート調査を実施
統制群
分析
*調査により得られたデータをもとに回答の差異を調べた
さつま町には、土砂災害のリスク(危険性)があると思いますか?
大雨が降っても、行政から避難するよう指示がなければ、避難するかど
うかを考える必要はないと思いますか?
分析
*調査により得られたデータをもとに回答の差異を調べた
区域内の 土砂災害のリスクが高いことをより強く認識している
住居者 行政の指示が無ければ避難するかを考える必要はない
区域内と区域外では、リスクに対する心的態度が異なる!!
→土砂災害区域内/区域外にセグメントを分割する必要がある。
分析
*6項目×2(区域内・外)
について分析を行う
★専門家依存度(2)(区域内)
専門家依存傾向
『災害に関する情報は、行政やマ
スコミから与えられるもの』だと思
いますか?
★自主性(3)(区域内)
自主性
大雨が降った時、『非難すべきか
どうか』という判断は誰が行うべ
きですか?
分析
情報接触度において
正の有意な標準化係数
→仮説1の実証
行動プランDにおいて
負の有意な標準化係数
→仮説2の実証
★専門家依存度(2)(区域内)
分析・考察
『災害に関する情報は、行政やマスコミ
から与えられるもの』だと思いますか?
土砂災害に関する
情報に接触すれば
するほど、災害に関
する情報は専門家
やマスコミから与え
られるものと強く認
知する傾向がある
専門家が
情報を発信
メタ・メッセージの形成
居住者の
専門家依存傾向の増進
★自主性(3)(区域内)
分析・考察
行動プラン法による
リスク・コミュニケー
ションを通じて、避
難を自分自身です
るべきだと強く認知
する傾向がある
行動プラン法は
メタ・メッセージの
抑制効果がある
大雨が降った時、『非難すべきかどうか』
という判断は誰が行うべきですか?
分析・考察
有意差が見られなかった土砂災害区域外の居住者について
区域外の住居者にとっては、災害に関わる諸問題は、関係の弱い
ものと認識しているので、様々なメッセージは、特に影響を及ぼさな
かったと考える
いくつかの検証結果において年齢に有意な結果がでたことについて
年齢の増加は、行政や専門家による防災対策との無意識下での
接触機会を増加させるものであると考えられることから、年齢の増
加とともに知らず知らずのうちに専門家への依存と自主性の低減
が促されとのもと考える
まとめ
専門家依存傾向が増進し、自主性が低減することについて、
そうした危険性が現実的に存在している
専門家は、情報を発信する際、内容の精度をより高めることの
みならず、受け手がリスク・メッセージをどのように受け取るか
配慮することが重要である
配慮が不十分な場合、対象者の自発性を低減させ、かえって
人的被害が生じる可能性を増進させてしまう
今後は、仮説2の検証結果も踏まえつつ、避難行動の自主性
を上昇させるようなリスク・コミュニケーションの在り方について
の実証的・実践的研究を重ねていくことが重要である