成人歯科保健と地域診断

2003.1.8 佐賀県 平成14年度 保健所・市町村保健師等研修会
成人歯科保健と
地域診断
~成人歯科保健対策を進めるために~
安藤 雄一
(国立保健医療科学院・口腔保健部)
本日の講演内容 (目次)
• 歯科において地域歯科保健(公衆衛生)対策が
必要な理由
– 口腔と全身の関係も含めて
• 地域診断の概論と歯科における事例紹介
• 成人歯科保健のポイント
• 成人歯科保健の事例
– 歯周疾患対策
– う蝕対策
• 【付】 統計を読むうえでの注意点
– 成人歯科健診受診者のバイアスの問題など
歯科疾患の特性
1.
2.
3.
4.
5.
多発性(国民病)
不可逆性(難治性)と蓄積性
予防可能性が高い
年齢特性
長期的維持管理の重要性
瀧口徹: かかりつけ歯科医のための新しいコミュニケーション技法、305頁、医歯薬出版
“8020”とは?
• 「80」の意味?
• 「20」の意味?
「8020 」が達成されていれば、より健康な生活
を送ることができる、という意味あり
8020
-男性:77.2歳
-女性:84.0歳
数値目標化
・平均寿命
「自分の歯で食べら
れる」ために必要な
歯の数
『一生、自分の歯で食べよう』
『よい歯で、よく噛み、よい体』
歯科において地域歯科保健
(公衆衛生)対策が必要な理由
• 有病率が極めて高い
• 生活上の「困りごと」の一要素となっている
• 全身の健康状態と密接に関連している可
能性が強い
• 予防対策が可能である
疾病別にみた通院者率(ベスト10、人口千人対)
1998年度国民生活基礎調査
70
通
院
者
率
(
千
人
対
)
60
50
40
30
20
10
0
高
血
圧
症
腰
痛
症
ム
シ
歯
肩
こ
り
症
白
内
障
高
脂
血
症
疾患名
糖
尿
病
関
節
症
そ
の
他
歯歯
周肉
疾炎
患
・
歯科疾患が社会生活に及ぼす影響
〈対象〉
福岡市内の企業(製造業)の事務系社員170名
(平均年齢39.2±12.2歳)
•
•
•
•
仕事に支障
欠勤・早退
不眠
おいしく食事ができない
11.6%
17.1%
10.9%
30.8%
〈出典〉堀口ほか、口腔衛生会誌、48; 60-68、1998
健康日本21 → 健康増進法
第154回通常国会で 健康増進法が成立
(2002.8)
健康日本21では事務次官通知
→健康増進法は、大臣告示(大綱)
「…ねばならぬ」の度合いが強くなる
その背景として、口腔が全身の健康に寄
与しているという科学的データが寄与
北九州市・高齢福祉入居者に対する
6年間の追跡調査(嶋崎ら: JDR, 2001/4)
7
6
20歯以上
1-19歯・
義歯使用
1-19歯・
義歯非使用
無歯顎・
義歯使用
無歯顎・
義歯非使用
p<0.01
5
オ
4
ッ
ズ
3
比
p<0.05
2
1
0
肉体的悪化
精神的悪化
死亡
口腔状態の悪い人のほうが、身体的・精神的健康状態が
悪化しやすい → 口腔は全身健康状態のリスク
「準寝たきり」の危険因子
東北地方一農村における65歳以上高齢者の追跡調査( 6年間)
•
•
•
•
•
•
年齢(高い)
性(男性)
歩行速度(遅い)
咀嚼能力(低い)
過去1年間の入院歴(あり)
血清β-ミクログロブリン値(高い)
新開省二ほか:日本公衛誌、48(9): 741-752、2001.9
高齢障害者の歯科治療と
その障害に対する効果①
• 高齢障害者70名に対して訪問歯科診療を実施し、
障害に対する歯科治療の効果を判定した
• 治療前後の所見からみた高齢障害者のADL、QOL、
食事機能に対する歯科的効果は、十分大きく明らか
であると思われた。
• その他の介入による影響は認められなかった
• 以上の結果は、歯科治療そのものの効果である
と考えられた
〈出典〉鈴木ほか:日本歯科医師会雑誌、52; 608-617、1999
高齢障害者の歯科治療と
その障害に対する効果②
〈歯科治療による障害改善の機序〉
歯科治療による口腔機能の改善
↓
食べることを中心としたADLの改善
↓
QOLの改善
〈出典〉鈴木ほか:日本歯科医師会雑誌、52; 608-617、1999
健康日本21の目的
① 壮年期死亡(早世)の減少
② 健康寿命#の延伸
#
痴呆や寝たきりにならない状態で自立して生活
できる期間
③ 生活の質(QOL)の向上
・従来の歯科保健医療は③との関わりのみ
・しかし、口腔と全身に関する研究の進展により、
② に位置づけることも可能(蓋然性が高まった)
・「健康増進法」が制定されたことは、②の問題が
法的に認められたことを意味する
健康日本21地方計画策定
予測される最悪パターン
1. 計画書や資料を集める
2. お題目を作る
3. 担当者に適当に振り分ける(作文コンクール開始)
4. 先進地事例や国の示したヒナ形をあてはめる
5. 分量を適当に調節する(みんな同じくらいの分量に)
6. 危ない表現を削除し、曖昧にする
7. 事務局案完成
8. 偉い人を呼んだ会議で事務局案を了承させる(しゃんしゃん)
9. 計画書完成「おめでとうございます」
10. あとは「首長室」の棚に飾っておしまい
〈出典〉福永一郎:地方計画づくりで陥りやすい失敗をどう克服するか.保健婦雑誌,56(5);371-377.2000
糖尿病、循環器病、ガンの予防対策
~「健康日本21」報告書から~
一次予防対策
糖尿病
循環器
病
肥満の回避
○
○
身体的活動の増加
○
○
適正な食事
○
○
○
タバコを吸わない
○
○
多量の飲酒を控える
○
○
ガン
本日の講演内容 (目次)
• 歯科において地域歯科保健(公衆衛生)対策が
必要な理由
– 口腔と全身の関係も含めて
• 地域診断の概論と歯科における事例紹介
• 成人歯科保健のポイント
• 成人歯科保健の事例
– 歯周疾患対策
– う蝕対策
• 〈付〉統計を読むうえでの注意点
– 成人歯科健診受診者のバイアスの問題など
参考図書
• 著:水嶋 春朔
地域診断のすすめ方
根拠に基づく健康政策の基盤
医学書院
・判型A5
・頁144
・定価(本体2500円+税)
・発行年2000年
・ISBN4-260-10633
地域診断のレベル
世界(国単位)← WHO(Global Oral Data Bank)
↓
国
← 都道府県単位のデータ
↓
都道府県 ← 市町村単位のデータ
↓
保健所
← 市町村単位のデータ
質的
↓
調査
市町村
← 地区単位のデータ
地域診断における情報収集の方法
A) 量的評価
1. まだ調査が行われておらず、数値が得られてい
ないもの
2. 調査が行われていて数値は得られているが、目
にすることが容易でないもの(埋もれている調査)
3. すでに調査が行われ数値が得られていて、容易
に目にすることができるもの(比較的有名な調査)
B) 質的評価
1. 日常の観察(地区踏査)
2. 質的研究
質的調査の主な手法
フォーカス・グループ・インタビュー
デルファイ法
ノミナル・グループ・プロセス
社会踏査法
質的調査の事例
「なぜ成人歯科健診が住民から敬遠されやすいか」
• フォーカス・グループ・インタビューを実施
• その結果、住民は歯科健診受診から健診
後の治療に伴う社会経済的負担感や情緒
的負担惑などさまざまな負担感を連想する
十方で、それらを上回るメリットが感じられ
ないため歯科健診を敬遠している」、という
仮説に至った。
〈出典〉佐々木健:口腔衛生会誌、52: 472-473,2002
新潟県のフッ化物洗口普及に
おける地域診断の例
• 1981年より、「むし歯半減10カ年運動」
が開始される
• その後、2年間くらいの間、新たにフッ化物
洗口を開始する市町村は少なかった
• そこで、「重点市町村構想」がスタート。
– まず取り組んだのが「地域診断」
– 各種市町村情報を収集し、要因を分析
– その結果から、F洗口開始が有望な市町村を
選び、重点市町村として指定
.市町村におけるフッ化物洗口の導入
に影響する要因
反対運動の有無
教育委員会の姿勢
小学校のへき地級数
歯科医師の姿勢
保健課の姿勢
0
0.1
0.2
0.3
0.4
偏相関係数
0.5
〈出典〉瀧口、地域歯科保健推進のための要因分析、口腔衛生会誌, 38(2): 229-253, 1988.
0.6
12
10
新潟県における各年度別にみた
フッ化物洗口開始市町村数
段階実施型
一斉実施型
「重点市町村
構想」開始
8
6
4
2
0
70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92
子供の歯を
守る会設立
むし歯半減10カ年
運動開始(1981)
岸洋志ほか:乳歯う蝕罹患傾向と地域特性
に関する研究 (口腔衛生会誌, 37: 273-282, 1987)
• 調査内容の概要:
– 新潟県内各市町村の1983~85年における3歳児歯科
健診結果を用い、各種地域特性との関連について市
町村単位で分析を行った。
• 結果概要
– 以下の特性を持つ市町村ではう蝕が少ない
•
•
•
•
•
1歳6ヶ月健診受診率が低い
医療自給率が高い
歯科保険点数が低い
所得が高い
生活圏内のう蝕が少ない
– 全般的に都市化との関連が強いと考察した。
12歳児DMFT市町村別ランキング
(新潟県、1983年度と2000年度)
1983年度
10
8
6
D
M
F
T 4
4.64
2
0
県
平
均
牧
金
井
京
ヶ
瀬
出
雲
崎
川
西
新
穂
山
北
黒
川
真
野
岩
室
吉
田
小
国
和
島
高
柳
弥
彦
大
島
小
千
谷
加
治
川
妙
高
高
原
安
塚
湯
沢
六
日
町
与
板
西
川
三
島
長
岡
大
和
松
代
名
立
中
之
島
小
出
新
井
浦
川
原
赤
泊
十
日
町
栃
尾
頚
城
両
津
板
倉
湯
之
谷
塩
沢
村
松
堀
之
内
羽
茂
清
里
上
越
栄
寺
泊
吉
川
大
潟
見
附
相
川
佐
和
田
分
水
三
和
潟
東
黒
埼
中
郷
守
門
村
上
新
潟
越
路
畑
野
能
生
川
口
燕
三
川
中
之
口
亀
田
入
広
瀬
刈
羽
小
須
戸
下
田
西
山
中
条
味
方
聖
籠
安
田
津
南
五
泉
新
発
田
笹
神
田
上
中
里
水
原
白
根
豊
浦
柏
崎
青
海
横
越
朝
日
荒
川
豊
栄
小
木
粟
島
浦
新
津
加
茂
神
林
柿
崎
上
川
妙
高
村
山
古
志
糸
魚
川
巻
三
条
津
川
関
川
松
之
山
月
潟
鹿
瀬
広
神
紫
雲
寺
中
之
島
柿
崎
聖
籠
新
穂
豊
栄
豊
浦
山
古
志
大
和
金
井
下
田
2000年度
10
8
31市町村が、
DMFT 1未満
6
D
M
F
T 4
2
0
1.81
県
平
均
粟
島
浦
板
倉
味
方
三
島
大
島
中
郷
牧
小
木
清
里
寺
泊
弥
彦
三
和
出
雲
崎
潟
東
吉
田
松
之
山
西
川
上
川
西
山
真
野
妙
高
高
原
新
井
鹿
瀬
分
水
三
川
赤
泊
妙
高
村
京
ヶ
瀬
岩
室
与
板
堀
之
内
浦
川
原
小
国
月
潟
山
北
黒
埼
吉
川
青
海
安
田
笹
神
川
口
能
生
塩
沢
黒
川
相
川
小
千
谷
和
島
加
治
川
松
代
栃
尾
湯
沢
燕
糸
魚
川
高
柳
上
越
長
岡
越
路
横
越
頚
城
加
茂
安
塚
十
日
町
小
出
湯
之
谷
六
日
町
大
潟
川
西
佐
和
田
津
南
中
之
口
巻
入
広
瀬
紫
雲
寺
村
上
荒
川
関
川
中
里
神
林
広
神
名
立
守
門
新
潟
中
条
小
須
戸
津
川
栄
田
上
新
津
刈
羽
白
根
柏
崎
見
附
三
条
水
原
両
津
朝
日
亀
田
村
松
羽
茂
畑
野
新
発
田
五
泉
地域診断を行ううえでの必要条件
(インフラ整備)
• 各地で利用できる歯科保健医療データの充
実が必要
– とくにインターネット
• 厚生科学研究「歯科保健水準を系統的に評
価するためのシステム構築に関する研究」
本日の講演内容 (目次)
• 歯科において地域歯科保健(公衆衛生)対策が
必要な理由
– 口腔と全身の関係も含めて
• 地域診断の概論と歯科における事例紹介
• 成人歯科保健のポイント
• 成人歯科保健の事例
– 歯周疾患対策
– う蝕対策
• 〈付〉統計を読むうえでの注意点
– 成人歯科健診受診者のバイアスの問題など
成人歯科保健における
基本的な考え方
• 目的は「歯の喪失予防」
• そのためには2大疾患対策が重要
– う蝕
– 歯周病
• そのためのアプローチ
【番外】
・優先順位は、小児>成人
– セルフケア(自分でやる)
– プロフェッショナルケア(歯科専門家が行う)
– パブリックケア(公衆衛生対策+環境整備)
予防の種類:「場」による分類
• セルフケア(Self Care)
– 自分で行う方法
• プロフェッショナルケア(Professional Care)
– 専門家が行う方法
• パブリックケア(Public Care)
– みんなで行う方法(公衆衛生的応用)
企業
3者の相互関係は?
一般大衆
患者
セルフケア
地域住民
プロフェッシ
ョナルケア
パブリックケア
年代別就学・就業状況
健康日本21「総論」より(厚生省ホームページ)
ライフステージ別にみた歯科保健対策
(新潟県:ヘルシー・スマイル21)
歯を長持ちさせるための
2大原則
• フッ化物による歯質強化
• 歯間部清掃
現在歯数(歯の数)の実態
(厚生省歯科疾患実態調査 1999)
30
25
20
現
在 15
歯
数
10
5
0
20- 25- 30- 35- 40- 45- 50- 55- 60- 65- 70- 75- 80- 8524 29 34 39 44 49 54 59 64 69 74 79 84
年齢
高齢者の現在歯数の推移
(厚生省歯科疾患実態調査)
25
20
50-59歳
60-69歳
70-79歳
80-歳
現 15
在
歯
数 10
5
0
1957 1963 1969 1975 1981 1987 1993 1999
調査年度
未処置う蝕の保有状況
(1999年度厚生省歯科疾患実態調査)
70%
5
未処置う蝕保有者率
60%
一人平均未処置歯数(分母=未処置歯あり)
4 一
人
平
3 均
未
2 処
置
歯
1 数
50%
40%
30%
子供だけでなく、大人の
虫歯予防も重要
20%
10%
年齢階級
85~
80~84
75~79
70~74
65~69
60~64
55~59
50~54
45~49
40~44
35~39
30~34
25~29
20~24
15~19
0
10~14
0%
5~9
未
処
置
う
蝕
保
有
者
率
歯周疾患でよく用いられる指標:
CPI(Community Periodontal Index)
コード0
コード1
コード2
(健全)
(出血)
(歯石)
コード3
コード4
(浅いポケット) (深いポケット)
歯周病の実態(CPI)
厚生省歯科疾患実態調査(1999年度)
100%
80%
60%
40%
20%
0%
25-34
35-44
45-54
55-64
年齢階級
65-74
75-
歯を失う原因
(岡山県の調査:1986→1998)
100%
80%
38.4
60%
46.1
40%
20%
55.0
その他
歯周病
むし歯
42.1
0%
1986年
1998年
〈出典〉大石ほか:口腔衛生会誌、682-683、1999
成人=
「謎」の保健集団
〈出典〉
深井穫博:わが国の成人集団における口腔保健の認知度およ
び歯科医療の受容度に関する統計的解析、口腔衛生会誌、
48(1)、120-142、1998.など
歯科医院への受診率
(過去1年間の歯科受診経験、年齢階級別)
保健福祉動向調査(1999)
60%
50%
40%
受
診 30%
率
20%
10%
0%
15~24 25~34 35~44 45~54 55~64 65~74 74~84
年齢階級
85~
受診率の男女別比較(年齢階級別)
保健福祉動向調査(1999)
60%
男性
女性
50%
40%
受
診 30%
率
20%
10%
0%
15~24 25~34 35~44 45~54 55~64 65~74 74~84
年齢階級
85~
本日の講演内容 (目次)
• 歯科において地域歯科保健(公衆衛生)対策が
必要な理由
– 口腔と全身の関係も含めて
• 地域診断の概論と歯科における事例紹介
• 成人歯科保健のポイント
• 成人歯科保健の事例
– 歯周疾患対策
– う蝕対策
• 〈付〉統計を読むうえでの注意点
– 成人歯科健診受診者のバイアスの問題など
有効な歯周疾患の予防対策
1. 正しいブラッシング習慣の周知。とりわけ、歯間
清掃具(デンタルフロス、歯間ブラシなど)の使
用率と正しい使用法の周知を図ること
2. 専門家による歯面清掃を受ける機会を増やす
こと。また、これが行われやすい環境を確保す
ること
3. 禁煙・防煙の推進
4. う蝕予防の推進
〈出典〉フォーラム8020:8020「健闘」資料、2000
1.ブラッシング習慣について
(歯間清掃具の使用も含む)
• ブラッシング習慣は、すでに国民に定着
• 今後は量的拡大よりも質の改善が重要
• 歯間部清掃の習慣を定着させることが重要
– 現在、フロスや歯間ブラシを使用している人の
割合は約24% (1999年度保健福祉実態調査)
• これを上げるような対策をさまざまな保健活
動の場を利用し、住民に理解を図る必要が
ある
現在のブラッシング指導の問題点
• 機械的清掃によるプラーク除去効果に極
端な比重が置かれている
• フッ化物配合歯磨剤の効果が評価されて
いない
• 歯間部清掃の重要性の位置づけが低い
う蝕予防のためのブラッシング指導と、歯周疾患
予防のためのブラッシング指導は、異なる!
ブラッシング指導
(歯間清掃具の使用も含む)
• ブラッシング習慣は、すでに国民に定着
• 今後は量的拡大よりも質の改善が重要
– 国民全体のプラークレベルが、たとえば数%低下する
だけでも全体でみると、かなりの効果を期待できる
• 歯間部清掃の習慣を定着させることが重要
– 現在、フロスや歯間ブラシを使用している人の割合は
約24%と低い(1999年度・保健福祉動向調査)
• これを上げるような対策をさまざまな保健活動の
場を利用し、住民に理解を図る必要がある
歯間部清掃を行っている人の割合
(全国調査:保健福祉動向調査)
35
使フ
用ロ
者ス
の・
割歯
合間
(ブ
%ラ
)シ
30
1993年
1999年
25
20
15
10
5
0
15~ 25~ 35~ 45~ 55~ 65~
24
34 44 54 64 74 年齢階級
歯間部清掃を行う際の注意点
• 一般的には、
– 若い人
– 若くない人
:フロス
:歯間ブラシ
• どの方法が適しているかは、実際に口の
中を見ないと判断できない場合もある
• また、誤った使用により、歯肉を傷つける
ケースもある
• できれば、歯科専門家の個別指導を受け
ることが望ましい
成人歯科健診時の健康教育による
効果の例 (新潟県上越市 ① )
• 2歳児健康診査と3歳児健康診査を受診した幼
児の母親244名
テスト群(117名) → 個別指導( 10分間)
コントロール群(127名)
• ベースライン~1年後に診査
評価指標:口腔診査(う蝕、CPITN)
歯間清掃具に関する知識と行動
〈出典〉葭原明弘ほか:口腔衛生会誌、49(5); 809-815、1999.
成人歯科健診時の健康教育による
効果の例 (新潟県上越市 ② )
歯間清掃具使用者の割合
30%
ベースライン
1年後
歯間ブラシを知っている者の割合
100%
ベースライン
1年後
80%
20%
60%
40%
10%
20%
0%
0%
コントロール群
テスト群
テスト群
コントロール群
コントロール群
テスト群
テスト群
コントロール群
〈出典〉葭原明弘ほか:口腔衛生会誌、49(5); 809-815、1999.
ヘルスプロモーションによる歯周病対策
広島県・安浦町の例 ①
• アンケート調査を実施し、以下の方針を立案
– プリシード・プロシードモデル(MIDORIモデル)の適用
• ターゲット:30代女性
• 目標:
– 歯周病の自覚症状がない人を55%にする
※ いい歯ゴーゴー(1855)
• 最優先プログラム
– 歯間ブラシ・フロスの使用:32%から55%にする
– 定期健康受診者:14%から30%にする
〈出典〉森下ほか:広島県安浦町における歯周疾患予防事業 -MIDORIモデルによる実践-、口腔衛
生会誌、50(4): 472-473、2000.9
ヘルスプロモーションによる歯周病対策
広島県・安浦町の例 ②
• 具体的施策
– 歯間清掃具の使用:
• ひよこ歯科健診(幼児の母親対象)での健康教育
– 1時間程度、3回シリーズ
• 保育所・幼稚園の会合における健康教育
– 保護者会・参観日などを利用、20分程度
– 定期健診の受診:
• 町広報の充実
• 町内歯科医師・衛生士による勉強会(月1回)、パン
フレットの作成
〈出典〉森下ほか:広島県安浦町における歯周疾患予防事業 -MIDORIモデルによる実践-、口腔衛
生会誌、50(4): 472-473、2000.9
遠隔保健指導の事例(FSPD質問紙の活用例)
• 目的
– 社内LANを利用した歯周病予防セルフケア学習の遠隔保健指導の有
効性を評価する
• 対象
– 自主的に参加を表明した全国支社職員78名(男8名、女70名)
• 介入内容
– 歯間清掃具を送付
– 電子メールで使用方法を解説、質問には個別に回答
• 評価方法
– 質問紙(FSPD34型質問紙)
• 結果
– プログラム完了者は56名
– このうち、約1/3に自覚症状の減少が認められた
– 歯間清掃具使用者の割合が増加
• 結論
– 遠隔保健指導が有効であることが明らかになった。
〈出典〉豊島ほか:口腔衛生会誌、52(4): 520-521、2002.
2.専門家による歯面清掃
• 有効性は実証されている
– 茨城県牛久市、IBM藤沢工場などの調査
• 体系的なシステムを整備することは可能
– 必要条件
• 受診者側の姿勢の変化
• 歯科医院側の受け入れ体制の整備
セルフケアとPTC(Professional
Tooth Cleaning)の効果
茨城県・牛久市の例 ①
• 茨城県牛久市の成人に対する介入研究
• 試験群: 59名(平均年齢42.7歳)
徹底したセルフケア指導とPTCを5年間実施
対照群: 82名(対照群、平均年齢40.0歳)
•分析方法:
歯の喪失状況と歯肉炎について比較。
〈出典〉瀧口徹、岡本浩、米山武義ほか:成人および高齢者に対する歯科健康診査の効果等に関する総合研究-自治体における成
人歯科健康診査の歯科疾患予防・改善効果判定- -茨城県牛久市の疫学的調査に基づいた歯科健康診査の評価-(第一報 事業
実施区域内評価)、森本 基、他:成人歯科保健事業長期実施市町村調査研究報告集、45-54、1994.
セルフケアとPTC(Professional
Tooth Cleaningの効果
茨城県・牛久市の例 ②
現在歯数の変化
85年
歯肉炎の変化
93年
23
歯
30
肉
炎
25
(
+
20
)
部
15
位
の 10
割
合 5
22
(
%
28
27
26
現
在
25
歯
数
24
試験群
対照群
)
85年
93年
0
試験群
対照群
〈出典〉瀧口徹、岡本浩、米山武義ほか:成人および高齢者に対する歯科健康診査の効果等に関する総合研究-自治体における成
人歯科健康診査の歯科疾患予防・改善効果判定- -茨城県牛久市の疫学的調査に基づいた歯科健康診査の評価-(第一報 事業
実施区域内評価)、森本 基、他:成人歯科保健事業長期実施市町村調査研究報告集、45-54、1994.
歯科医療機関(診療所)が
担うべき機能
• 「かかりつけ歯科医機能」
– 健康日本21
• 国民の約3分の1が年1回歯科医療機関を受療し
ている #
( #‘93 保健福祉動向調査)
↓
• 予防の「場」として歯科医療機関の意義
• 行政によるヘルス事業よりも効率的という考え方
– 歯科診療所以外で行われた健診の受診者は約4% #
埼玉県のモデル事業: ① 方法
一次検診(2001年8-9月)
• 市行政が実施
• 876名が受診
• 結果(CPI)
–
–
–
–
歯科医院でのフォローアップ
(2001年9月~2002年3月)
無作為
抽出
コード1
コード2
コード3
コード4
• 10歯科医院で実施
• 対象は50名
うち46名が全プログラム終了
• メニュー
– 指導: 2回
– 事後チェック: 1回
前後
比較
事後アンケート(2002年3月)
介入群と
非介入群
の比較
• 一次検診受診者876名に
質問紙調査
• 回収率64%
〈出典〉埼玉県・埼玉県歯科医師会:平成13年度 成人歯科保健推進事業報告書、2002
埼玉県のモデル事業: ② 結果
• 満足度が高かった
– 「非常によかった」64%、「よかった」26%
• 定期検診への参加意欲の向上(10%→74%)
• 歯や口の満足度が向上(14% → 72%)
• 口腔内の自覚症状が減少
– 疼痛:
– 出血:
– 口臭:
32% → 12%
46% → 26%
26% → 10%
• 歯科医師による診査でも改善
– 出血部位数、歯石沈着数
• 対照群(一次検診のみ参加)に比べて明らかに改善
〈出典〉埼玉県・埼玉県歯科医師会:平成13年度 成人歯科保健推進事業報告書、2002
公衆衛生と診療室の関係
昔
公衆衛生
今
公衆衛生
診療室
診療室
3.無煙・禁煙
• 喫煙は歯周疾患のリスクファクターであること
は、多くの疫学調査の結果から明らか
• 健康教育一般のなかに取り入れることが必要
– 喫煙が及ぼす健康影響についての知識の普及
– 禁煙・節煙の希望者に対する禁煙支援プログラム
4.う蝕予防(歯肉縁下修復物の予防)
• 歯肉縁下に存在する(不良)修復物は歯周
疾患のリスクファクター
• 歯肉縁下に達する修復物は、う蝕予防で
抑制可能
– フッ化物の利用は平滑面う蝕に効果が高い
– う蝕予防は歯周疾患の予防のためにも重要
行政施策で可能な歯周病対策
• 実態の把握
共通調査票の
必要性
– 歯科健診 :疾患量(CPIなど)
– アンケート: 自覚症状、歯科保健行動など
• 情報提供
– 1対1 : 健診の場を活用
– 1対多 : メディアの活用(広報誌など)
• 歯科医院との連携
– 情報開示の問題も含まれる
成人に対して有効なう蝕予防対策
• フッ化物の利用
– フッ化物洗口
– フッ化物歯面塗布
– フッ化物配合歯磨剤
• 甘味の適正摂取
– 缶コーヒーの多飲者への対応
– 代用糖の奨め
※ 基本的には小児と同じ
成人におけるフッ素洗口の効果
自衛隊員に対するF洗口とF歯磨剤の効果
う
蝕
増
加
量
3.5
3.0
2.5
2.0
前歯平滑面
臼歯小窩裂溝
臼歯平滑面
(
D 1.5
M 1.0
F
S 0.5
) 0.0
対照群
F洗口群 F歯磨剤群
〈出典〉郡司島由香:口腔衛生学会誌、47、281-291、1997.
本日の講演内容 (目次)
• 歯科において地域歯科保健(公衆衛生)対策が
必要な理由
– 口腔と全身の関係も含めて
• 地域診断の概論と歯科における事例紹介
• 成人歯科保健のポイント
• 成人歯科保健の事例
– 歯周疾患対策
– う蝕対策
• 〈付〉統計を読むうえでの注意点
– 成人歯科健診受診者のバイアスの問題など
成人歯科健診のあり方
• 今までは、健診の実施が目的化してきた
• 単に健診を行っただけでは歯科保健の改
善は見込めない
• 今後必要なこと
– 健康教育・指導を充実させる
– 歯科医療機関の受け皿整備
単に「歯科保健」の
枠組みだけでなく、
「広く、薄く」のアプ
ローチも必要
健診と検診の違い
• 健診とは?
– 健康診断あるいは健康診査の略語
「診査」と「診断」の相違は行政上の言い回しの違いだけで、
意味は同じ
– ある尺度を用いて対象者が現在健康を損ねていない
ことを確認するプログラム(英語ではhealth examinationまたは
health check-up)
• 検診とは?
– ある臨床検査を用いて特定の疾患の有無を検索する
プログラム(症例発見case-findingとも呼ばれる)
– 通常、検診の頭にその疾患名をつける
ex. がん検診、結核検診、歯周病検診
検診(健診)データは、
役に立つか?
• 乳幼児、学童のデータは役に立つ
• しかし、成人のデータは役立たないことが
多い
– 理由は、選択バイアス
• 行動指標が欠如している場合が多いので、
「地域診断」には情報が不足する
成人健診の喪失歯抑制効果
a.成人健診の歯牙喪失抑制効果
(経年情報による比較)
一 14
人 12
平 10
均 8
喪 6
失 4
歯 2
数 0
初診時
最新年度
b.成人健診の見かけの効果
(断面情報による比較)
15
受診経験あり
初めて受診
10
5
0
50-54
55-59
60-64
65-69
年齢
単に健診を行っただけでは、
歯の喪失の抑制効果は期待
できない
50-54
55-59
60-64
年齢
65-69
もともと喪失歯の少ない人が成人健診を
受診していた
→ このデータでは、ものがいえない
〈出典〉葭原・安藤ほか:口腔衛生会誌, 46; 339-345, 1996
高リスクアプローチと集団アプローチ
High-Risk Aproach vs Population Approach
健康日本21「総論」より(厚生省ホームページ)
歯科健診における選択バイアス
の問題
〈小児〉
• ほぼ全員を対象にできるので、バイアスは
かかりにくい
〈成人〉
• 全員を対象にするのは困難なことが多く、
通常は希望制なので、バイアスがかかり
やすい(良好な人が健診受診)
クラウン装着経験歯と健全歯の
喪失歯率の比較
30
9
8
25
7
20
6
5
15
4
10
3
相対危険度
喪失歯率(クラウン)
喪失歯率(健全歯)
2
5
1
0
0
15~29 30~39 40~49 50~59 60~77
〈出典〉安藤ほか:日本歯科評論,618; 195-205,1994
歯の喪失リスクに関する調査
(新潟県I町、3年間の追跡調査)
• 歯の喪失が生じやす
い人(個人単位)
-----------------------------– 現在歯数が10~27歯
– 未処置う蝕あり
– 口腔の自覚症状あり
過去1年以内に歯科医
院を受診
– 歯間清掃具を使用し
ていない
• 歯の喪失が生じやす
い歯(歯単位)
-----------------------------–
–
–
–
–
–
智歯(おやしらず)
未処置歯
クラウン(単冠)装着歯
ブリッジ支台歯
動揺歯
PD(部分入れ歯)の
鈎歯(針金がかかって
いる歯)
〈出典〉安藤雄一ほか、口腔衛生会誌、51: 263-274、2001.
調査のコストの問題
口腔診査を伴う調査とアンケート調査のコ
ストはどちらが高いか?
↓
口腔診査 > アンケート
↓
現在歯数と歯周については、「使える」段階
とくに地域比較には有用
アンケートを用いて口腔健康状態を把握した
調査の例 :歯周セルフチェック(福予研)
• 歯磨きをすると血が出ますか?
• 歯ぐきを押すと膿が出たりすることがありますか?
• 歯ぐきがむずがゆく、歯が浮いた感じがしますか?
• 歯ぐきが赤く腫れてブヨブヨすることがありますか?
• 歯がぐらぐらしますか?
• 固いものがかみにくいですか?
回答枝(ない・たまにある・時々・いつもある)
〈出典〉中村ら:口腔衛生会誌、49;310-317、1999
アンケートによる現在歯数調査 ②
35
自己申告値
30
実測値
25
どの年齢群
においても
有意差なし
現
在 20
歯 15
数
10
5
0
19-39
歳
40-49
歳
50-59 60-69
歳
歳
年齢
70-79
歳
80-歳
〈出典〉安藤ら:口腔衛生会誌、1997
歯の喪失状況を数値化する際の
注意点
1. 分布の形状が偏っていることが多い
「80歳の平均現在歯数=5本」の意味は?
2. 様々な指標があるので、異なるデータと比
較する場合には注意が必要
「アメリカでは8020が達成されている???」
現在歯数と身長の分布比較
(80歳高齢者調査、女性のみ)
.5
.2
現在歯数
.4
身長
.3
Fraction
Fraction
.15
.2
.1
.05
.1
0
0
0
2
4
6
8
10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30
= t_p_to (present teeth)
平均値 : 5.1
中央値 : 1
最頻値 : 0
110
120
130
140
(cm)
150
160
170
平均値: 143.0
中央値: 143.2
最頻値: 142以上144未満
〈出典〉安藤雄一:デンタルダイヤモンド2002年秋季増刊号.2002; 168-175
現在歯数(80歳高齢者調査、女性)
無歯顎者率
.5
人単位の
割合(%)と
20歯以上保有している人の割合 75.2%
して示さ
れるもの
喪失ありの割合
99.8%
Fraction
.4
割
合
49.4%
分母が対象 一人平均現在歯数 5.1
平均値と 者全員
一人平均喪失歯数 26.6
して示さ
れるもの 分母が有歯 一人平均現在歯数 10.1
顎者のみ 一人平均喪失歯数 21.3
平均値 : 5.1
中央値 : 1
最頻値 : 0
.3
.2
.1
0
0
2
4
6
8
10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30
= t_p_to (present teeth)
現在歯数
〈出典〉安藤雄一:デンタルダイヤモンド2002年秋季増刊号.2002; 168-175