Document

経済学史学会2015年大会@滋賀大学
ミルはなぜ後退したのか
―新古典派革命の起源に関するインターナリストの一視点―
塩沢由典
2015.5.31
塩沢由典
1
新古典派革命とは何だったのか
新古典派経済学の特徴づけに依存
限界革命主観価値説(効用学説)需要理論
どれも一面を突いているが、中核をなすものか。
イギリスと大陸
大陸には古典派経済学は成立しなかった?
ジェヴォンズとマーシャル
ジェヴォンズ (19世紀主観価値説の再述)
マーシャル: スミス、ミルを研究、生産費説を需給
均衡論に包摂(平井俊顕のまとめ)
2015.5.31
塩沢由典
2
生産費説と需要供給均衡理論
J.R. Hicksの見解
 PlutologyからCatallacticsへ(松嶋敦茂、平井俊顕)
 生産の学から交換の学へ
 産業資本主義>>商業資本主義への逆行?
生産の理論と生産費説
 生産費説は、資本主義的生産企業を前提
 厳密にこれで一本化されたのはD. Ricardoのみ
J.S. Millの経済学
 日本では、あまり研究されていない?(方法論などを除く)
 マルクスのJ.S.ミル評価(俗流経済学への道)が関係か
2015.5.31
塩沢由典
3
ミルの転換点/経済学の転換点
J.S. Mill 1844試論集、1848原理
「前にあり、この法則がそこから流れ出たもの、すなわち需要
供給の法則に立ち戻らなければならない」
原理では2箇所
 第3篇第16章 結合生産の場合
 第3篇第18章 国際貿易
これがマーシャルやエッジワースの新古典派
理論に繋がった。
 マルクスは正しかった? しかし、マルクス後も明確な指摘
なし。
2015.5.31
塩沢由典
4
新古典派経済学者への影響
ジェボンズ
 「交易団体」という用語以外、関係性希薄。
マーシャルの国際価値論
The Pure Theory of Foreign Trade(1879)
Industry and Trade (1919) 第1篇 (原理的考察はない?)
Money, Credit and Commerce (1923) 第3篇、付録H、J
 ミル相互需要説のグラフ化
エッジワースのボックス・ダイヤグラム
 2者が所与の財をもって交換交渉に望む
2015.5.31
塩沢由典
5
エッジワースのボックス・ダイヤグラム(簡単例)
B
の
第
財
所
有
量
2015.5.31
Aの第1財所有量
6
第2財(毛織物)
2国2財の世界生産可能線
第2領域
P1
価格変動帯
Px
K (生産量固定)
P2
P国 生産線
E国生産線
O
2015.5.31
第1領域
7
第1財
(葡萄酒)
財3
U リカード貿易理論の最小モデル
領域 2
T
V
O
S
E1
財2
E2
領域 3
領域 1
財1
R
Q
2015.5.31
 内部端点は存在しない。
 稜線の上でも、価格変化
8
は生産量調節の効果なし。
リカード貿易問題:J.S. ミルの「解決」
J.S. ミルはどう取り組んだか
 2国2財、端点を考えた。(第1図 K点)
 交易条件が未確定
 解決需要条件が交易条件(交換価格)を決める。
ミルが追い込まれた立場
 国際価値: 生産費で説明できない重要状況
 交換経済交換の経済学
現在の貿易理論家たちも気づいていない。
 端点を求めて価格を決定しようとしている。(バラダイム)
2015.5.31
塩沢由典
9
「解決」の論理的帰結(J.S.ミルの価値論)
生産費説か需要供給説か
ミルの立場(自己了解)
リカードに忠実であろうとした。
基本は生産費説、しかし生産費で説明できないこ
とがある。例:作者の死んだ芸術作品
ここまではリカードと同じ。
しかし、ひじょうに重要なところで生産費説を貫け
なかった。国際価値論
より一般な需要供給説へ
2015.5.31
塩沢由典
10
(まとめ)なぜ新古典派革命がおこったか
古典派価値論の「欠けた環」
国際価値論
リカード、マルクス問題の所在を確認
若きJ.S.ミルの奮闘
気づくことなく、「交換の経済学」に追い込まれた。
重要領域で、生産費説を引き下げざるを得なった。
生産の学から交換の学へ
2015.5.31
塩沢由典
11
国際価値論(国際貿易論)の流れ
D. Ricardo
 魔法の4数字、原型理解と変形理解(行澤健三)
J.S. Mill (相互需要論)の流れ
 Marshall, Edgeworth (19世紀末)
 Viner, Haberler, Ohlin (20世紀前半)
 Samuelson HOS理論 (20世紀後半)
もう一つの流れ
 Senior, Sidgwick (19世紀)
 Graham (20世紀前半) > (McKenzie, Jones)
2015.5.31
2014.3.29
塩沢由典
12
塩沢の2論文
塩沢(2007) Shiozawa(2007)
M国N財、投入財貿易
塩沢(2014)
理論の再構成、学説史上の意義、証明の厳格化
Cf. 田淵太一氏の書評(『経済学雑誌』2015.3)
意義
古典派価値論に対応する国際価値論の構築
有効需要理論(失業を含む)への接合
2015.5.31
塩沢由典
13
国内価値論との関係
価値論
生産費説ではあるが、労働価値説ではない。
「各国の賃金率がどう決まるか」が要訣
フルコスト原理の採用が国際価値論成立の要件
Oxford経済調査、P.Sraffa 1960(後出)
古典派価値論の現代的展開
藤本隆宏 現場派経営学、全部直接原価計算
『経済学を再建する』提案編第3章・第4章
2015.5.31
2014.3.29
塩沢由典
14
文献等
 松嶋敦茂1998『現代経済学史』名古屋大学出版会
 平井俊顕2014「イギリス経済学の流れ」
http://olympass.blogspot.jp/2014/06/blog-post_8959.html
 塩沢由典2007「リカード貿易問題の新構成」『経済
学雑誌』107(4):1-61.
 Shiozawa, Y.2007A New Construction of
Ricardian Trade Theory, EIER 3(2):141-87.
 塩沢由典2014『リカード貿易問題の最終解決』岩波
書店
 塩沢由典・有賀裕二2014『経済学を再建する』中央
大学出版部
2015.5.31
塩沢由典
15
ありがとうございました。
ご意見・疑問・質問を歓迎します。
2015.5.31
塩沢由典
16