生物学 第2回 二人はめぐり逢わなかった 和田 勝 1 「めぐり逢い」というと、福山雅治と常盤 貴子のTVドラマか、Chage&Askaの歌 を思いだすのでしょうね。このタイトル の映画(1957)があります。この映画を 念頭に作られた「めぐり逢えたら」 (1993)という映画もあります。 映画では結局、二人はめぐり逢うので すが、この二人はめぐり逢えませんで した。 2 この二人とは、ダーウィンとメンデルで す。 ダーウィン(1809-1882) メンデル(1822-1884) 今回は、この二人を中心にして、進化 と遺伝のお話をしましょう。 3 これは奄美 大島の町田 酒造という会 社が「文芸春 秋」に載せた 広告ページ です。 4 この広告には田中一村(1908~1977) が奄美大島へ移住後、そこで暮らしな がら描いた一枚「白花と赤翡翠」(昭和 42年頃)を大きく載せています。また、「 里の曙」という銘柄のラベルにも別な1 枚の絵の一部が使われています。 赤翡翠を描いた一村の作品は3点あ って、それらは次の通りです。 5 6 「赤翡翠」はアカショウビンと読みます が、赤を取った「翡翠」はヒスイともカ ワセミとも読みます。 ところで、生物学では生物の名前を「 カタカナ」で表記します(和名)。 カワセミは、こんな姿かたちをしてい ます。 7 8 もう一つヤマセミという鳥がいます。 9 3種を並べてみましょう。 カワセミ ヤマセミ Common kingfisher Greater pied kingfisher 10 アカショウビン Ruddy kingfisher 3種は羽の色は異なるけれど、姿か たちは良く似ています。 嘴が大きい、頭部が大きい、後肢が 小さい、木に止まった姿勢が似ている などを、すぐに挙げることができます。 空を飛ぶ動物には昆虫と鳥とコウモリ の仲間がいますが、簡単に区別でき ますよね。 11 ヒトも含め、生き物は違いを認める能 力を生まれつき持っているようです。 12 カワセミ科 ブッポウソウ目 鳥類(綱) ツバメ スズメ目 哺乳類 スズメ 13 このような作業(研究)をする生物学 の分野を「分類学」といいます。 カワセミ Common kingfisher ヤマセミ Greater pied kingfisher アカショウビン Ruddy kingfisher 和名と英語名(現地語)は異なります。 同じ種類の生物に異なる現地語の名 前がついていては混乱するので、普遍 語(ラテン語)で記述する必要がありま した。 14 このようなラテン語による名前を学名 と言います。 カワセミ Alcedo atthis ヤマセミ Ceryle lugubris アカショウビン Halcyon coromanda 界:動物界 門:脊索動物門 亜門:脊椎動物亜門 綱 : 鳥綱 目 : ブッポウソウ目 科 : カワセミ科 この下に属、種となり 属名( Alcedo)と種小名(15atthis )を組み合わせて示します。 分類学の父リンネ このような学名のつけ方や分類の 体系化を行ったのがスェーデンの リンネ(Carl von Linné、1707-1778) でした。 当時はまだ、すべての生物は 神が創造したと考えられていま した。リンネは「神の栄光」を証 明する一手段として、分類の体 系を考えたのです。 16 リンネは初め聖職者になるつもりでし たが、植物学に興味を持ち、ルンド大 学、ついでウプサラ大学へ移り、植物 の研究をおこないました。 最初は植物、さらに動物と鉱物を加え て「自然の体系」という本を著して、体 系化を試みます。 17 当時は大航海時代を経たのちで、様 々な生物がヨーロッパに持ち込まれ、 命名が混乱していました。 「自然の体系」のなかで、従来の混乱 した命名を止め、二名法によって簡潔 な名前にして体系化しやすいようにし ました。 綱、目、科のような上位の分類単位を 設けて体系化しました。 18 現在でも、新種が発見されると、リン ネが考えた二名法によって学名がつ けられ、登録されます。発想は間違っ ていましたが、方法は(修正されてい ますが)引き継がれているのです。 19 生物を分類する 基本となる種を同定します。 種とは何か? 種を定義することは難しいのですが 「種とは、互いに交配しうる自然集団 で、それは他の集団からは生殖の 面で隔離されている」 (マイヤによる定義) 20 生物を分類する 階級 Rank 界 Kingdom 門 Phylum 綱 Class 目 Order 科 Family 属 Genus 種 Species 21 属名と種 小名を組 み合わせ て学名と します。 生物を分類する ちなみにヒトは 動物界(Animal kingdom) 脊索動物門(Phylum Chordata) 脊椎動物亜門(Phylum Vertebrata) 哺乳綱(Class Mammalia) サル(霊長)目(Order Primates) サル(真猿類)亜目(Suborder Anthropoidea) ヒト類上科(Superfamily Hominoidea) ヒト科(Family Hominidae) ヒト属(Homo) ヒト(sapiens) Homo sapiensと表記します。 22 生物を分類する リンネは動物と植物の二界に分けま した。 → 現在では五界 動物界 植物界 菌界 原生動物界 モネラ界 23 種の保全 生物多様性と種の保全 (Biodiversity and conservation) ここでは、「多様な生物種との共 存が豊かな世界を保障する」とい う一言だけにしておきます。 24 生物多様性の起源 このような生物多様性はどのように して生じたのでしょうか。 リンネの時代には種の普遍性を疑 う人はいませんでした。ただし、リン ネは、交配実験から雑種ができる ことを認識していたようです。 25 進化論とダーウィン 神がすべての生物を創ったとする 考えには、矛盾することが多くなっ てきました。 生物は神によって創造されたもの ではなく、自然選択によって進化 してきたのだと考えたのがダー ウィン (Charles Darwin、18091882)でした。 26 進化という考え 地質学、古生物学、比較解剖学の 成立と知識の集積。 ●化石生物と現生生物の類似性 ●形態の相同(homology) ●痕跡器官(vestigial 27 organ) 進化という考え 前肢の骨の相同 別々に創ったと考えるより、共通の祖先から進化した と考えたほうが自然に思えます。 28 ダーウィンの登場 ダーウィンは1831年、22歳 のとき、ビーグル号による 世界一周の航海に出まし た。 船長の話し相手兼 博物学者として乗 船したのです。 29 ビーグル号の航海 航海は5年かかりました。この間、多くの生物を観 察し、種が不変でないことを確信していきます。 30 自然選択による進化 しかしながら、どのようにして進化が 起こったのか、すぐには解決がつきま せんでした。 マルサスの人口論を読んで、限られた 資源では競争が起こることをヒト以外 の生物にも当てはまることに気がつき ます。 ハトの品種改良を調べ、人為選択に より品種ができることを研究します。 31 自然選択による進化 ウォーレスの手紙に押されるように 1858年リンネ学会で発表。 1859年には、それまで書 き溜めていたノートの内 容をまとめて、『種の起 源』を出版しました。 32 自然選択による進化 1)生物の集団には変異(variations) が存在する 2)変異は親から子に伝わる 3)すべての子が、生まれ出た生息環 境で生き残ることはできない 4)生き残る確率に、変異による差が ある 33 進化の実証 ダーウィンは、進化は長い時間をか けて徐々におこると考えていました。 現在では、場合によってはかなり速 いスピードで起こることがわかってい ます。 有名なダーウィンフィンチを使った研 究があります。 34 ダーウィンフィンチ ガラパゴス諸島に生 息するダーウィンフ ィンチは14種類いて 、姿かたちは似てい るが、嘴の形が異な ります。これは食性 を反映していると考 えられています。 35 変異の存在 36 この変異は遺伝する 37 環境の収容力<繁殖力 エルニーニョ現 象による旱魃 によって、種子 を付ける植物 に変化が起き た(乾燥に強い 果皮の厚い植 物が残る)。 38 環境に適合したものが子を 残せる 嘴の高いものが生き残っていることがわかります。 39 自然選択による進化 自然選択によって進化が起こって、 生物多様性が生まれたことを疑うヒ トはいません。 現在では、自然選択のもとになる変 異は、遺伝子DNA分子の突然変異 によって生じることがわかっています が、ダーウィンはもちろん遺伝子は 知りませんでした。 40 嘴の大きさを支配する遺伝子 現在では、嘴の大きさを支配する遺 伝子があることがわかっています。 BMP4(bone morphogenetic protein、 骨形成タンパク質)が嘴の大きさに 関与しているようです。 したがって、このタンパク質をコードす る遺伝子の発現量の違いが嘴の大き さを決めている可能性が大です。 41 嘴の大きさを支配する遺伝子 Science, 305, 1462-1265(2004) より 42 キーワード「遺伝子」 遺伝についてまだ話してもいないの に、突然「遺伝子DNA」という言葉が 出てきました。「遺伝子がコードする タンパク質」ってなんでしょう。 これについては、遺伝現象について お話してから、詳しくお話します。 しばし待て! 43 自然選択による進化 1)生物の集団には変異(variations) が存在する 2)変異は親から子に伝わる 3)すべての子が、生まれ出た生息環 境で生き残ることはできない 4)変異によって、生き残る確率に差 がある 44 自然選択による進化 自然選択による進化の根底にある ものは、 ●変異が存在すること ●それが親から子へ伝わること ですが、ダーウィンは変異の原因 は説明できませんでしたし、遺伝に ついての説明には、誤りがありまし た。 45 メンデルの出番 実はダーウィンと同時代にイギリス から遠く離れた(当時の感覚では) チェコのブルノの修道院でメンデル が遺伝の研究をしていたのです。 ここでメンデルに登場してもらわなく てはなりません。 46 遺伝学とメンデル 変異があり遺伝するとはどういうこ とかを、メンデルはエンドウを使っ た実験で明らかにしました。 子が親に似ることはわかっていま したが、メンデル(1822-1884)以 前にはこれを説明することはでき ませんでした。メンデルは粒子的 な要素を仮定して見事に遺伝の 法則を説明することに成功しまし た。 47 遺伝 子が親に似る遺伝(heredity)という ことは、認識されていました。 Kirk Douglas (father) and Michael Douglas (son) 48 with Jack Nicholson 遺伝 佐田啓二 (father) と中井貴一 (son)、中井貴恵(daughter) 49 遺伝 三國連太郎 (father) と佐藤浩市(son) 50 遺伝 有名な例はHapsburg lips and jaw Ferdinand II Hapsburg’s pedigree 51 Hapsburg lips and jaw Charles II (在位1665-1700) Philip IV (在位1621-1665) Alfonso XIII (在位1886-1931) 52 By D. Velazquez 遺伝 ダーウィンのところで述べたように、 すでに品種改良がおこなわれていて 、有用な形質を選び出して交配する ことがおこなわれていました。 多くの人は、交配すると形質は、ペ ンキのように混ざってしまうと考えて いたので、遺伝現象をうまく説明で きませんでした(例:隔世遺伝)。 53 雑種の研究 このころまでに、花が生殖器官であ ることがわかったので、交配して雑 種を作ることが盛んにおこなわれて いました。 Joseph G. KoelreuterやF. Carl Gaertnerは、たくさんの雑種をつくり ました。 54 メンデルの実験 メンデルの発表した論文のタイトルも “Versuche uber Pflanzen-Hybriden” (1865)といいます(これはフランツ・ヨ ーゼフⅠの治世です)。 メンデルは予備的な観察によって、 形質がペンキのように混ざってしまう のではないことを確信して、実験を開 始しました。 55 メンデルの実験 メンデルはエンドウを選ん で実験をおこないました。 ●簡単に見分けられる安定した形質を持つこと ●他の花からの受粉の影響がないこと ●世代を経ても安定した繁殖力を有すること エンドウが遺伝の研究に適した性質をもっていたか らです。さらにメンデルは何代にもわたって自家受 粉を繰り返し、純系を得ました。 56 メンデルの選んだ形質 こうして34の中から、次の7つの形質を 選びました。 1)種子が丸いかしわがあるか(seed shape) 2)種子の色が黄色か緑色か(seed color) 3)花の色が紫色か白色か(flower color) 4)さやが膨らむかくびれがあるか(pod shape) 5)さやが緑色か黄色か(pod color) 6)花が茎全体につくか茎の頂端につくか (flower position on stem) 7)背丈が高いか低いか(stem length) 論文では3)は種皮の色となっている。 57 メンデルの選んだ形質 58 形質とは 形質とは、表現型として観察できる 遺伝的な性質を言います。たとえば 3)の「花の色」がこれに当たります。 花の色には紫と白があり、これらを対 立形質と言います。 純系というのは、たとえば花の色に 関して、自家受粉をすると紫の花あ るいは白い花しかつかない系統を言 います。 59 交配実験 最初に、メンデルは紫色の花をつけ る純系のエンドウと白い花をつける 純系のエンドウを交配しました。 人工交配 60 雑種第一代を得る 実験をおこなってみると、次のような 結果となりました。 すべてが紫の花をつけたのです。 61 優劣の法則 他の6つの形質についても、すべて 対立形質の一方(上の図の左側)の みが現れ、他方は現れません。 そこで、紫色の方を優性(dominant)、 白色を劣性(recessive)と名づけまし た。 純系同士の雑種第一代では優性の 形質しか現れないことを「優劣の法 62 則」と言います。 雑種第二代を得る そこで、こうして得られて雑種第一代 を自家受粉して雑種第二代を得まし た。 その結果は、紫の花は705、白い花が 224でした。 63 雑種第二代を得る 紫の花:白い花=705:224=3.15:1と なり、これは整数でほぼ3:1です。 このほかの6つの形質でも、、 64 雑種第二代を得る いずれも整数にすると3:1に近い値でした。 65 分離の法則 明らかに、劣性の形質はペンキのよ うに混ざってしまったのでもなく、なく なってしまったわけでもありません。 劣性の形質は覆い隠され、次の代で 分離して再び現れたのです。これを 「分離の法則」と言います。 66 メンデルによる結果の説明 これらの結果を説明するために、メン デルは粒子的な「要素」を仮定し、こ れが1つの形質に対してペアで存在 すると考えました。 たとえば、花の色をFとすると、純系 の紫の花はFFとなり、白い花はffと表 すことができます。大文字が優性、小 文字が劣性を示します。 67 メンデルによる結果の説明 純系の親 FFxff F F f Ff Ff f Ff Ff 雑種第一代 雑種第一代はすべて紫色の花となるこ とが説明できます。 68 メンデルによる結果の説明 雑種第一代 FfxFf F f F FF Ff f Ff ff 雑種第二代 雑種第二代は紫色と白色が3:1になり、 白色の形質が再び現れます。 69 二つの形質の場合 これまでは一つの形質に注目してき ましたが、二つの形質の雑種の場合 はどうなるでしょうか。花の色に加え て種子の形をRとします。 FFRR x ffrrとすれば、 雑種第一代はすべて、FfRrとなりま す。 70 雑種第二代は FfRr x FfRrで、FR、Fr、fR、frと いう組み合わせの、花粉と卵が生 じます。これを掛け合わせると、 FR Fr fR fr FR FFRR FFRr FfRR FfRr Fr FFRr FFrr FfRr Ffrr fR FfRR FfRr ffRR ffRr fr FfRr ffRr ffrr Ffrr 71 雑種第二代では (FFRR、2FFRr、2FfRR、4FfRr)、 (FFrr、2Ffrr)、(ffRR、2ffRr)、(ffrr) となり優劣の法則を適用すれば、そ れぞれの表現型の組み合わせの比 率は、9:3:3:1となります。 メンデルは豆の形と色を組み合わせ た交配実験で、315:101:108:32 (9.84:3.16:3.38:1)という結果を得て います。 72 独立の法則 それぞれの形質に注目すれば、いず れも3:1になり、二つの形質はお互い に干渉することなく、独立に分離の法 則が成り立っています。 これは、それぞれの要素が独立して 花粉と卵に分配されたことに対応して いると考えることができます。これを 「独立の法則」と言います。 73 メンデルが明らかにしたこと 1)一つの形質に対応する、独立した 「要素」という概念を導入する 2)「要素」は一つの形質に対してペア で存在し、花粉と卵が作られるとき に二つに分かれて分配される 3)「要素」には優性と劣性の性質が ある こう考えれば、実験結果をうまく説明することが できることを明らかにしました。 74 メンデルの法則は、、 1)遺伝の実験に適したエンドウを使っ たこと、実験準備を周到にしたこと、 実験技術が確かだった 2)多数の資料を収集し、数量的に取 り扱い、粒子的な要素を仮定して実 験結果を数量的に解釈した ために、実験結果をうまく説明するこ とができたのです。 75 メンデルの法則は、、 しかしながら、メンデルのこの発表は まったく理解されませんでした。 ヨーロッパの田舎の小さな学会での 発表だった、別刷りもほとんど読まれ なかったなどと言われていますが、数 量的な取り扱いや粒子的な要素など を理解することが、当時の植物学者 たちには難しかったのだろうと思いま す。 76 顕微鏡と細胞説で 顕微鏡の改良と細胞説に後押しされ て、細胞の観察が行われました。 染色体の発見、体細胞分裂、減数分 裂の発見が続きます。 細胞は、数を増やすために2つに分 裂します(体細胞分裂)。このとき、染 色体という紐状の構造が現れます。 77 ヒトの染色体 22対の常染色体と2本の性染色体があり、一 対のうち片方は父親から、もう片方は母親から 78 もらい、ペアになっています。 メンデルの法則は、、 メンデルの法則は、1900年、彼の死後 16年(発表から35年後)に、3人の研 究者によって独立に再発見されます。 他の生物でも成立するこ と、また1902年のSuttonと Boveriによる遺伝の染色 体説により、メンデルの法 則は広く受け入れられる ようになります。 79 仮想的な要素から実体へ 植物では花粉や卵、動物では精子や 卵を作るときには、体細胞分裂とは 異なる様式の減数分裂をします。 減数分裂の過程は、ペアになった相 同染色体を二つの生殖細胞に分配 することでした。 つまり、メンデルの仮定した「要素」が 染色体に乗っていると考えることがで きます。 80 仮想的な要素から実体へ こうして、メンデルの考えた粒子状の 要素は、染色体という構造と結びつ いて、実体だと認識されるようになり ます。 それでは、染色体のどのような構造 が、遺伝を担う実体なのかが次の課 題になります。これについては、あと でお話しします。しばし、待て。 81 メンデルの法則が あてはまらない場合 二つの遺伝子が同じ染色体に載って いる場合は、メンデルの独立の法則 は当然、当てはまりません。 このような時、二つの遺伝子座は連 鎖(linkage)していると言います。 82 連鎖している場合 二つの遺伝子が染色体上で隣あい、 常に一緒に行動するなら、両者を一 つの遺伝子のような考えることができ ます。 このような完全連鎖が上の例でもしも 起こっていたとすると、紫の花で丸い 種子:白い花でしわの種子が3:1にな るでしょう。 83 連鎖している場合 染色体は長さがあるので、二つの遺 伝子座は一定の距離をおく場合がほ とんどです。 その結果、9:3:3:1とは異なる比率 となり、当然のことながら、独立の法 則はあてはまりません。 後にこれを利用して連鎖地図(染色 体地図)が作られます。 84 伴性遺伝 エンドウでは、性による違いは考えなく ても良かったのですが、動物ではそう はいきません。遺伝子が性染色体上 にあると、性とリンクした遺伝となり、3 :1ではなくなります(伴性遺伝、sexlinked heredity)。 ヒトの性染色体は、男がXYで、 女が XXです。 85 伴性遺伝 血友病が伴性遺伝 XAXaxXAY XA Xa XA XA XA XA X a Y XA Y Xa Y 保因者の母と健常者の父の場合、男 の子の半数は発病します。 86 血友病 血友病(hemophilia)というのは出血 しても血が固まらなくなる病気です。 ヨーロッパ王室の悲劇が有名です。 ビクトリア女王が保因者でした。その ため、第八王子レオポルドは発病し て31歳で死にます。 保因者の皇女達がヨーロッパ王室に 嫁ぎます。 87 ビクトリア朝 ビクトリア女王(在位1837-1901)の治 世はイギリス帝国の絶頂期で、シャ ーロック・ホームズが活躍し、絵画で はターナーやミレーが、音楽ではエル ガーが活躍した時代です。 そうそう、ダーウィンの「種の起源」が 刊行されたのもこの時代です。 88 ビクトリア朝 ミレーの「オフィーリア」 ターナーの「戦艦テメレール号」 89 ビクトリア女王 90 ビクトリア女王の家系図 91 ロマノフ王朝の悲劇 ニコライ二世に嫁いだヴィクトリア女 王の孫のアレクサンドラは保因者だ ったので、その子のアレクセイ皇太子 に血友病が発症します。 92 ロマノフ王朝の悲劇 皇女が四人続き、五番目にやっと生 まれた皇位継承者である男の子アレ クセイが血友病だったのです。 93 ロマノフ王朝の悲劇 これを気にした皇帝一家が宗教に走 り、宮廷に怪僧ラスプーチンの暗躍を 許し、ロシア革命の遠因になったとい われています。 1917年のロシア革命の後、一家はソ 連政府に拘束され、1918年に消息を 絶ちます。虐殺されたのです。遺骨の DNA鑑定で確認されました。 94 遺伝子の本体 メンデルの想定した要素は、後に「遺 伝子(gene)」と名づけられ、複数の遺 伝子が染色体に線状に配列している ことが明らかになっていきます。 さらに、遺伝子の本体はDNAあるこ とが、1953年に明らかになります。こ れについては後でまた話します。 95 今の知識で優劣の法則は たとえば種子の形 優性が「丸い種子」で、劣性が「しわ になる」です。 しわになるのは、種子中に蓄えられ 過ぎた水が失われるからです。 96 でんぷん貯蔵の過程で デンプン(澱粉、starch)は種子に蓄え られていて、発芽の栄養になります。 デンプンはグルコースが鎖状につな がった大きな分子で、直鎖のアミロー スと枝分かれのあるアミロペクチンの 混合物です。 でんぷん貯蔵の過程で どちらもグルコースをつなぎ合わせて 作られます。 つなぎ合わせるためには酵素(タン パク質)が必要です。 でんぷん貯蔵の過程で 丸い種子をつくるためには、直鎖状 分子を作る酵素と、枝分かれをさせ る酵素が必要です。 枝分かれをさせる酵素の遺伝子がR だったのです。劣性のrでは欠陥品の 酵素が作られていたのです。 でんぷん貯蔵の過程で 酵素が欠陥品になってしまったため に、原料であるグルコースが余ってし まいます。そのため甘くなります。 そのため、種子中に(浸透圧のため) 水が蓄えられ過ぎてしまうのです。さ やの中で乾燥する過程で、この余分 な水が失われて、皺ができるというわ けです。 でんぷん貯蔵の過程で 今の知識で血友病は 出血しても血が止まるのは、血小板 のおかげです。糸状のものがフィブリ ンです。 今の知識で血友病は 血液凝固のメカニズム(カスケード反応) 今の知識で血友病は このように、たくさんの凝固因子と呼 ばれるタンパク質が、フィブリンの形 成に関与しています。 血友病とは 第8因子(タンパク質)が 欠陥品になると、カスケード 反応が起こらなくなってしま います。 そのため、血液凝固がおこらなくなっ てしまいます。 第8因子の遺伝子はX染色体の長い 腕の末端近くにあります。 血友病 男子の場合、Y染色体は X染色体に比べてとても 小さいので、YにはXの末 端に対応する部位があり ません。 そのため、男子ではXが劣性だと、そ のまま劣性が表現型に出てしまうの です。 つまり 目に見える表現型は、遺伝子型によ って規定されている 表現型(生物の形やはたらき)はタン パク質によって実現されており、その タンパク質を作る設計図は遺伝子の 本体であるDNAである つまり 目に見える表現型は、遺伝子型によ って規定されている 表現型(生物の形やはたらき)はタン パク質によって実現されており、その タンパク質を作る設計図は遺伝子の 本体であるDNAである 108 遺伝という現象の捉え方 遺伝子型 (genotype) DNA → 表現型 (phenotype) → タンパク質 109 遺伝という現象の捉え方 タンパク質が欠陥品になるのは、遺 伝子が異常になるからです。 遺伝子が異常になることを、「突然変 異(mutation)」と言います。遺伝子す なわちDNAにおこる突然変異とは? 待てしばし! 110
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