Network Economics (1) 新旧産業組織論と ネットワーク・エコノミックス 京都大学 経済学研究科 依田高典 1 第1節 伝統的産業組織論 1.1 ハーバード学派とシカゴ学派の主要内容 ハーバード学派 1930年代、チェンバリン・メイスンから50、60年代のベイン・ ケイブスを経て最近のケイセン・ターナー・シェーラーまで 「SCPパラダイム」市場構造→市場行動→市場成果 「集中度-利潤率仮説」集中度が高いと利潤率が高い。共謀や協 調的行動、競争制限的行為による超過利潤 シカゴ学派 ノーベル賞学者スティグラー、デムゼッツ・ブローゼンから法 と経済学のディレクター・ポズナーまで 「強固な事前均衡」と「価格理論のレンズ」 「自然淘汰」と「適者生存」 原則自由放任主義 2 1.2 独占禁止政策をめぐる論争 ハーバード学派 厳格な独占禁止政策 (1)カルテル・反競争的行動の厳格な規制 (2)市場集中度と合併を厳格に制限 (3)構造的措置・企業分割 理論的根拠 (1)市場閉鎖の危険性、(2)潜在的競争の消滅 1968年合併ガイドラインと分割訴訟(IBM/ゼロックス/AT&T) シカゴ学派 反トラストのシカゴ革命 (1)分割訴訟の早期解決、(2)合併規制の大幅緩和、(3)カルテル規制 の厳格化、(4)独占禁止法の改正提案 1982年合併ガイドライン 3 第2節 新しい産業組織論 第三の潮流「新しい産業組織論」 誕生の背景 (1)伝統的産業組織論の理論的非整合性 (2)ゲーム理論の静かな革命 「産業経済学の理論的発展の黄金時代」 (1)コンテスタビリティ理論 (2) 戦略的参入価格理論 4 2.1 コンテスタビリティ理論 ボウモル・パンツァー・ウィリック 市場がコンテスタブルであるならば、自然独占的公益事業でも 政府の参入退出規制は必要ない。 コンテスタブル市場 参入退出の完全性:埋没費用ゼロ 潜在的参入企業のヒット・エンド・ラン戦略とクリー ムスキミング 既存企業の事業継続と参入防止の戦略は平均費用価格 設定 新しい産業組織論の先魁 5 2.2 戦略的参入阻止価格理論 戦略的相互依存性の重要性 コンテスタブル市場の仮定は些末的 スティグリッツの参入阻止モデル 参入後のベルトラン価格競争 埋没費用は、参入企業には参入障壁、既存企業には退出障壁 スペンスの脅迫の信憑性モデル 既存企業が先手番の有利性を利用して、過剰生産設備を保有し、 退出障壁を自ら作り出す 6 2.3 新しい産業組織論と独占禁止政策 ポストシカゴ学派としての新産業組織論 (1)均衡の複数性、(2)理論上の予言の非頑健性、(3)実証の困難 性 合理の原則・市場行動主義 実証分析上の長所 違法性と損害額の説明的分析に優れる 規範的分析の短所 解決策と運用上のルールの曖昧さ 7 第3節 ネットワーク・エコノミクスとその問題提起 ネットワーク・エコノミクス ネットワーク産業の新しい産業組織論 3.1 ネットワークとは何か ネットワーク産業 公益事業・インフラストラクチャ・コモンキャリア スター型ネットワークからローカル・ロング・ディスタント型 ネットワークへ 8 3.2 ネットワーク外部性と標準化 ネットワーク外部性 ネットワークの規模が消費者の選好に直接影響 バンドワゴン効果・通信の相互需要 双方向性ネットの通信可能数nP2 ネットワーク外部性の市場の失敗 (1)水平的:互換性の欠如・過剰慣性 (2)垂直的:略奪的価格・過剰転移 9 3.3 ボトルネック独占とアクセス・チャージ ボトルネック独占 自然独占的な必要不可欠な設備・インフラ 支配的なボトルネック独占と有効公正な競争条件とイコール・ フッティングの確保 メリット:規模・範囲の経済性 デメリット:競争阻害効果 アクセスチャージ問題 ボトルネック独占への接続料金 増分費用以上、単独採算費用以下 10 3.4 その他のトピック ユニバーサル・サービス 低所得者・高費用地域へ最新サービスを提供 デジタル・デバイドの解消 複雑系の経済学 収穫逓増性・ネット外部性 非線形性と正のフィードバック効果、経路依存性 11
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