公共経済学

21.労働所得税
21. 1 税が存在しないときの労働供給
21. 2 比例労働所得税と超過負担
21.3 補償労働供給曲線と超過負担
21.4 累進労働所得税と比例労働所得税
21.5 補論 1:労働供給曲線と超過負担
21.6 補論 2**:無差別曲線が一般的な曲線の場合の(21-16)の導出
L =労働時間
m =非労働所得(利子所得など)
w =賃金率(=時給)
c =消費財の量(その価格は1に標準化)
21. 1 税が存在しないときの労働供給
w 0 =税が存在しないときの賃金率
労働所得= w0 L
所得= w0 L  m
したがって、予算制約式は
c  w0 L  m
(21-1)
であり、それを L c 平面に図示した直線を「
( w 0 のもとでの)予算線」と呼ぶことにする。
また、個人の効用関数は
u  U ( L, c)
(21-2)
であるとする。そして、予算制約式(21-1)が与えられたもとでの効用を最大化する労働時間
と消費財の量の組合せ、すなわち労働供給量と消費財需要量の組合せを L0 ,c 0  と表すこと
にする。また、最適消費点 L0 ,c 0  を通る無差別曲線を c  I 0 ( L) と表すことにする。すな
わち、u 0  U ( L0 , c 0 ) とおけば c  I 0 ( L) は「 U ( L, c)  u 0 を c について解いた式」である。
なお、 c  I 0 ( L) を単に I 0 と表すこともある。
また、本章では効用水準を固定したときに定まる無差別曲線は滑らかな曲線である(曲線
上の点には接線が存在する)とする。そのとき、 L0 ,c 0  は予算線とそれに接する無差別曲
線との接点である。すなわち、 c  I 0 ( L) の導関数を I 0´( L) と表すとき、 L0 ,c 0  は、
(21-3)
I 0´( L0 )  w0
c 0  w0 L0  m
(21-4)
より求めることができる。なお、 c  I 0 ( L) の L  L0 における微分係数 I 0´( L0 ) は無差別曲
線 c  I 0 ( L) 上の点 L0 ,c 0  における接線の傾きを捉えている。
(問題 21-1)税が存在しないときの予算線を L c 平面に描きなさい。また、その予算線に
接する無差別曲線 c  I 0 ( L) 、接点 L0 ,c 0  、接線の傾き I 0´( L0 ) を図示しなさい。
c
L
c  I 0 ( L)
c
or U ( L, c)  U ( L0 , c 0 )
c  w0 L  m
I 0´( L0 )
c0
I 0´( L0 )  w0
m
w0
L0
L
21. 2 比例労働所得税と超過負担
<比例労働所得税の効果と税収>
労働供給が弾力的なケースに関して、比例労働所得税(proportional labor income tax)が
導入されたときの効果について検討する。なお、簡単化のために労働需要曲線は水平である
とする( w  w0 )
。そのとき、税引き前賃金率(wage before tax)は(税率がゼロの場合も
含めて)税率には依存せず、常に労働所得税が課される前の賃金率 w 0 である。すなわち、
比例労働(賃金)所得税率を t 、労働所得税が課された後の税引き後賃金率(wage after tax)
を w1 とすると、 w1  (1  t )w0 と表される。したがって、税率 t の労働所得税が課されたとき
の予算制約式は
c  w1 L  m
(21-5)
となる。そして、この予算制約式が与えられたもとでの労働供給量と消費財需要量をそれぞ
れ L1 、 c 1 と置き、最適消費点 ( L1 , c1 ) を通る無差別曲線を c  I 1 ( L) と表すことにする。すな
わち、 u 1  U ( L1 , c1 ) とおけば c  I 1 ( L) は「 U ( L, c)  u1 を c について解いた式」である。
なお、 c  I 1 ( L) を単に I 1 と表すこともある。
税率 t の比例労働所得税のもとでの租税負担額 TP は、税引き前賃金所得が w0 L1 なので、
TP  t  w0 L1
と求めることができる。
(21-6)
(問題 21-2) 税率 t の比例労働所得税のもとでの労働供給量 L1 、消費財需要量 c 1 、租税負担
額 TP を問題 21-1 で描いた図に描き加えなさい。
c  I 1 ( L)
c
c  w0 L  m
c  w1 L  m
TP
w0 L1  m
=
( w0  w1 ) L1
w1 L1  m  c 1
m
=
t  w0 L1
TP
w1  (1  t ) w0
w1  (1  t ) w0
L1
L
<比例労働所得税の超過負担>
税額 TL の一括固定税のもとでの予算制約式は、
c  w0 L  m  TL
(21-7)
である。
そして、20-1 節の議論より、一括固定税のもとでの超過負担(excess burden)はゼロであ
る。したがって、比例労働所得税により生じる超過負担 EBP は、「税率 t の比例労働所得税
のもとで実現する効用水準と同じ効用水準を実現する一括固定税の税額 TL 」と「租税負担
額 TP 」との差として求めることができる。すなわち、
EBP  TL  TP
超過負担EBP=等価変分の正負を反対にした値
(21-8)
である。
超過負担EBPを「補償変分の正負を反対にした値」で捉える
ケースについては「補足の補論」で説明する。
(問題 21-3) 問題 21-1 と問題 21-2 で描いた図に、比例労働所得税のときと効用水準の低下
が同じになるように一括固定税の税額 TL を定めたときの予算制約式(21-7)と超過
負担 EBP を描き加えなさい。
(問題 21-3) 問題 21-1 と問題 21-2 で描いた図に、比例労働所得税のときと効用水準の低下
が同じになるように一括固定税の税額 TL を定めたときの予算制約式(21-7)と超過
負担 EBP を描き加えなさい。
I1
c  w0 L  m
c
c  w0 L  m  TL
TL
c  w1 L  m
w0 L1  m
Tp
w1 L1  m  c 1
EBP  TL  TP
m
TL
m  TL
L1
L
21.3 補償労働供給曲線と超過負担
<支出最小化問題>
8章の議論を参照
c  w0 L  m
(21-1)
c  w1 L  m
(21-5)
(利用)可能時間を L とすれば、余暇(時間) l は l  L  L と表される。そのとき、賃金率 w の
もとでの予算制約式 c  wL  m ((21-1)と(21-5)参照)は、
c  w  l  wL  m
(21-9)
と書き換えることができる。なお、 wL  m は最大可能所得である。また、余暇時間 l を消
費することは労働所得を犠牲にしているので、賃金率 w は余暇(消費)の機会費用を捉えてい
ることになる。したがって、w  l は機会費用で測った余暇支出(額)と解釈することができる。
そして、(21-9)の左辺を支出額と呼び E と表すことにする。すなわち、
E  c  w  l  c  w  ( L  L)
(21-10)
である。なお、所与の E のもとで(21-10)を L c 平面に図示した直線が等支出線である。
c
E  c  w  ( L  L)
E
w
L
L
21.1 節と 21.2 節では、賃金率 w j が与えられたもとでの予算制約式 c  w j L  m を満たす
労働時間と消費財の量の組合せで ( L, c ) のなかで、効用を最大化する消費点 L j , c j  を求め
た( j  0, 1 )
。そして、最適消費点 L j , c j  を通る無差別曲線を c  I j (L) あるいは I j と表
すことにした。
c
c  I j (L)
c  wjL  m
cj
Lj
L
それに対して、この節では、 w i が与えられたもとで、無差別曲線 I j 上の労働時間と消費財
の量の組み合わせ ( L, c ) のなかで、支出額 E  c  wi  ( L  L) を最小化する労働時間と消費
財の量の組み合わせ ( Lij , c ij ) を求める問題(すなわち支出最小化問題)を考えることにする
( i, j  0,1 )。なお、 Lij と c ij は、それぞれ補償労働供給量、補償消費財需要量と呼ぶとと
もに、そのときの支出額を補償所得(あるいは最小支出)と呼び、 E ij と表すことにする。
すなわち、 E ij  c ij  wi  ( L  Lij ) である( i, j  0,1 )。したがって、 ( Lij , c ij ) に対応する
等支出線は E ij  c  wi  ( L  L) と表すことができる。
c
c  I j (L)
E ij  c  wi  ( L  L)
E ij
c ij
wi
Lij
L
L
(問題 21-4)賃金率 w i と無差別曲線 c  I 1 ( L)(すなわち I 1 )
のもとでの補償労働供給量 Li1 、
補償消費財需要量 c i1 、等支出線 E i1  c  wi  ( L  L) を図示しなさい( i  0,1 )。
c  w0 L  m
c
E 01  c  w0  ( L  L)
c  I 1 ( L)
c  w1 L  m
or E11  c  w1  ( L  L)
c 01
c11
L11
L01
L
効用 u j (あるいは無差別曲線 I j )が与えられたもとで、賃金率 w に対して w と u j (ある
いは I j )が与えられたもとでの補償労働供給量 L を対応させる関数を
L  LCS (w, u j ) [あるいは L  LCS (w, I j ) ]
(21-11)
とおいて、補償労働供給関数と呼ぶことにする。したがって、 L  LCS ( w, u j ) を用いれば、
補償労働供給量 Lij は Lij  LCS (wi , u j ) と求めることができる。また、 L  LCS ( w, u j ) を L w
1
I1 )
平面に図示した曲線を補償労働供給曲線と呼ぶことにする。
たとえば、
効用 u (すなわち
が与えられたもとでの補償労働供給曲線 L  LCS ( w, u 1 ) は次の図のように描くことができ
る。
c
c  w0 L  m
c  I ( L)
1
E 01  c  w0  ( L  L)
or U ( L, c)  u 1
c  w1 L  m
or E11  c  w1  ( L  L)
I 1 ( L01 )  c 01
I 1 ( L11 )  c1  c11
L
L  LCS (w, u1 ) or w  I 1´( L)
w
・
w0
Ⅰ
Ⅱ
・
w1
Ⅳ
Ⅲ
Li1  LCS (wi , u1 )
Ⅴ
L1  L11 L01
L
(問題 21-5)上図に労働供給量 L1 、消費需要量 c 1 、補償労働供給量 L01 、L11 を図示しなさい。
また、 I 1 ( L01 ) と I 1 ( L11 ) を図示しなさい。
(捕捉問題)効用関数 u  U ( L, c) が
u
c
(L  k )2
であるとする( k  0 )
。そして、賃金率を w とするとき、効用水準 u 0 に対応する補償
労働供給関数 L  LCS (w, u 0 ) を求めなさい。なお、 u 0  U ( L0 , c 0 ) である。次に、予算
制約式が c  wL  m のとき、労働供給関数 L  LS (w) を求めなさい。
c  u 0  ( L  k )2 [ I 0 ( L)]
I 0´( L)  2u 0  ( L  k )
I 0´( L)  w
c0
u  0
(L  k )2
0
2c0  w  ( L0  k )
c 0  wL0  m
2u 0  ( L  k )  w
L
w
 k [ LCS ( w, u 0 )]
0
2u
2u 0  ( L0  k )  w
2(wL0  m)  w  ( L0  k )
L0  k 
2m
w
Lk
2m
[ LS ( w)]
w
c
c  I 1 ( L)
or u1  U ( L, c)
c  w0 L  m
E 01  c  w0  ( L  L)
c  w1 L  m
or E11  c  w1  ( L  L)
I 1 ( L01 )  c 01
I 1 ( L11 )  c1  c11
L
L  LCS (w, u1 ) or w  I 1´( L)
w
w0
Ⅰ
w1
Ⅱ
Ⅲ
S1 ( L01 , L11 , u1 )
Ⅳ
Ⅴ
L1  L11 L01
L
Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴをそれぞれの文字が入っている図形の面積であるとする。そして、「補
償労働供給曲線 L  LCS (w, u 1 ) 、直線 L  L01 、直線 L  L11 、 L 軸(すなわち w  0 )で囲
まれる図形の面積」を S1 ( L01 , L11 , u1 ) と表せば、 S1 ( L01 , L11 , u 1 )  Ⅲ+Ⅴである。
<補償労働供給曲線と超過負担>
比例労働所得税により(税引き後の)賃金率が w 0 から w1 に低下することで生じる超過負担
EBP を、補償労働供給曲線で囲まれる図形の面積を用いて捉える方法について検討しよう。
比例労働所得税の税収は上図の図形の面積Ⅰを用いて捉えられる。すなわち、
TP  t  w0 L1  (w1  w0 ) L1 =Ⅰ
が成立する。
(21-12)
c
c  I 1 ( L)
or u1  U ( L, c)
c  w0 L  m
E 01  c  w0  ( L  L)
c  w1 L  m
or E11  c  w1  ( L  L)
I 1 ( L01 )  c 01
I 1 ( L11 )  c1  c11
L
L  LCS (w, u1 ) or w  I 1´( L)
w
w0
TP  t  w0 L1  (w1  w0 ) L1
Ⅰ
w1
Ⅱ
Ⅲ
S1 ( L01 , L11 , u1 )
Ⅳ
Ⅴ
L1  L11 L01
L
Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴをそれぞれの文字が入っている図形の面積であるとする。そして、「補
償労働供給曲線 L  LCS (w, u 1 ) 、直線 L  L01 、直線 L  L11 、 L 軸(すなわち w  0 )で囲
まれる図形の面積」を S1 ( L01 , L11 , u1 ) と表せば、 S1 ( L01 , L11 , u 1 )  Ⅲ+Ⅴである。
そして、効用関数が一般的なケースについては「21.6 補論 2」で検討することとし、ここ
では効用関数 u  U ( L, c) が L に関する 2 次関数かつ c に関する 1 次関数である
u  c   L2   L
(21-13)
という特殊ケースについて検討する(   0 かつ   0 )
。そのとき、u 1  U ( L1 , c1 ) と置い
て、 u 1 のもとでの無差別曲線 U ( L, c)  u 1 を c について解けば、
c   L2   L  u1 [ I 1 ( L)]
(21-14)
となるので、 c は L の 2 次関数である。
したがって、賃金率 w のもとでの補償労働供給量 L は w  I 1´( L) より w  2L   を満た
すので、補償労働供給関数 L  LCS ( w, u 1 ) は
w
(21-15)
これは労働供給関数でもある。
2
と(効用 u 1 に依存しない)w の 1 次関数になる。そのとき、(21-15)より Li1  (wi   ) /(2 )
L
なので、次の関係が成立する。
S1 ( L01 , L11 , u 1 ) = I 1 ( L01 )  I 1 ( L11 )
(問題 21-6) (21-16)と(21-17)が成り立つことを説明しなさい。
(21-16)
(問題 21-6) (21-16)と(21-17)が成り立つことを説明しなさい。
S1 ( L01 , L11 , u 1 ) = I 1 ( L01 )  I 1 ( L11 )
(21-16)
L  LCS (w, u1 ) or w  I 1´( L)
w
w  2L  
w0
Ⅰ
w1
Ⅳ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅴ
L11 L01
c   L2   L  u1 [ I 1 ( L)]
(21-14)
L
w0  w1 01 11
(2L01   )  (2L11   ) 01 11
(L  L ) 
( L  L )    ( L01  L11 )   ( L01  L11 )
S1 ( L , L , u ) 
2
2
01
11
1
I 1 ( L01 )  I 1 ( L11 )    ( L01 ) 2   L01  u1   ( L11 ) 2  L11  u1
   ( L01 ) 2  ( L11 ) 2    ( L01  L11 )
   ( L01  L11 )   ( L01  L11 )
また、一括固定税 TL のもとで達成できる効用水準が u 1 であるとすれば、そのときの最適消
費点は L01 , I 1 ( L01 ) である。したがって、(21-7)、(21-16)、 S1 ( L01 , L11 , u1 ) =Ⅲ+Ⅴを考慮
すれば、
TL  w0 L01  m  I 1 ( L01 ) =Ⅰ+Ⅱ
(21-17)
の関係が導かれるので、(21-12)と(21-17)より、次の関係が成立することになる。
EBP  TL  TP =Ⅱ
(21-18)
c  w0 L  m  TL
S1 ( L01 , L11 , u 1 ) = I 1 ( L01 )  I 1 ( L11 )
TP  t  w0 L1 =Ⅰ
(21-7)
(21-16)
(21-12)
(問題 21-6) (21-16)と(21-17)が成り立つことを説明しなさい。
c  w0 L  m
c
c  I 1 ( L)
w L w L
=
Ⅰ+Ⅱ+Ⅲ+Ⅴ
TL ⅠⅡ
TL
Ⅰ+Ⅱ
1 11
(21-17)
c  w1 L  m
w0 L01  m
0 01
TL =Ⅰ+Ⅱ
(21-17)
I 1 ( L01 )
Ⅲ+Ⅴ
w1L11  m  I 1 ( L11 )
I 1 ( L01 )  I 1 ( L11 )  Ⅲ+Ⅴ (21-16)
m
L
L  LCS (w, u1 )
w
or
w  I 1´( L)
w0
Ⅱ
TP  (w0  w1 ) L1 Ⅰ
Ⅰ
Ⅲ
w1
Ⅳ
EBP  TL  TP  (ⅠⅡ) Ⅰ Ⅱ (21-18)
Ⅴ
Ⅰ
L1  L11
L01
L
賃金率が w 0 から w1 に変化したときの補償労働供給量の変化率 ( L11  L01 ) / L01 に対する賃
金率の変化率 ( w1  w0 ) / w0 の比率を「補償労働供給量の賃金率弾力性」と呼び、  と置く
ことにする。すなわち、   ( L11  L01 ) / L01  (w1  w0 ) / w0  である。そのとき、(21-15)
より、超過負担 EBP は
EB P 
1 2
t   w 0 L01
2
(21-19)
と求めることができる。したがって、超過負担 EBP は税率 t の 2 乗に比例する。それに対
して、税収 TP は税率に比例する((21-12)参照)。
(問題 21-7) (21-19)を導出しなさい。また、(21-12)と(21-19)より導かれる政策的なインプリ
ケーションについて検討しなさい。
(問題 21-7) (21-19)を導出しなさい。また、(21-12)と(21-19)より導かれる政策的なインプリ
ケーションについて検討しなさい。
EB P 
1 2
t   w 0 L01
2
(21-19)
w1  (1  t )w0
1
EBP  ( L01  L11 )( w0  w1 )
2
EBP 
1 01 11
( L  L )t  w0
2
 L01  L11 


 L01 

 w0  w1 


 w0 
w0  w1  t  w0
EB P 
1 2
t   w0 L01
2
 L01  L11 


L01 


t
超過負担EBは税率tの2乗に比例する。
(tが変化しても、εもL01も変化しないならば)
<(21-14)のケースにおけるε とL01>
c   L2   L  u1 [ I 1 ( L)]
(21-14)
w0  
L 
2
01
c  L   Lu
2
  ( L  L ) / L
11
01
01
[ I ( L)]
1
1
 (w
1
w )/ w
0
0

L01は税率tに依存
していない。
wi  
L 
(i  0,1) (21-15)
2
i1
w0
 0
w 
弾力性εは税率tに
依存していない。
u1 , w1 は必ず税率tに依存している。
 , L11 , L01 は一般的には税率tに依存している。
 ,  , w0 は税率tに依存していない。
EB P 
1 2
t   w0 L01
2
超過負担EBは税率tの2乗に比例する。
(tが変化しても、εもL01も変化しないので)
(問題 21-7) (21-19)を導出しなさい。また、(21-12)と(21-19)より導かれる政策的なインプリ
ケーションについて検討しなさい。
TP  t  w0 L1
EB P 
(21-12)
1 2
t   w 0 L01
2
(21-19)
<タックス・スムージング (tax smoothing)>
課税所得や歳出などが毎年変動するときに、財政収支を毎
年均衡させるためには、税率を毎年変化させる必要がある。
しかし、効率性の観点からは、税率は毎年変化させずに、
公債を発行することで財政運営をする方が望ましい。
21.4 累進労働所得税と比例労働所得税
累進労働所得税と比例労働所得税を効率性の観点から比較しよう。
(税引き前の)労働所得
を Y とおけば、 Y  w0 L である。そして、労働所得税を T とおいて、
T  t  (Y  Yˆ )
(21-20)
という労働所得税を考える。ここに、Yˆ は労働所得控除額であり( Yˆ  0 )
、(21-20)は Yˆ  0
であれば累進労働所得税、 Yˆ  0 であれば比例労働所得税である。そして、 Lˆ  Yˆ / w0 と
おけば、(21-20)は
T  t  w0  ( L  Lˆ )
(21-21)
と書き換えることができる。(21-21)は Lˆ  0 であれば労働所得税は累進的(progressive or
graduated)であり、Lˆ  0 であれば比例的である。また、(21-21)のもとでの予算制約式は、
c  w0 L  m  t  w0  (L  Lˆ )
と求められる。
c  w0 L  m  T
(21-22)
(問題 21-8) L c 平面に(21-22)を図示しなさい。
c  w0 L  m
c
c  w0 L  m  t  w0  (L  Lˆ )
m
Lˆ
L
ある正の Lˆ が与えられたもとでの労働供給量を L 、そのときの労働所得税額を TG とおく。
G
G
G
(問題 21-9) L  Lˆ となるケースにおける L を問題 21-8 で描いた図に描き加えなさい。ま
G
た、 L に対応する労働所得税額 TG を図示しなさい。
c  w0 L  m
c
c  w0 L  m  t  w0  (L  Lˆ )
w0 LG  m
w0 LG  m  t  w0  ( LG  Lˆ )
t  w0  ( LG  Lˆ )  TG
m
Lˆ
LG
L
累進労働所得税( Lˆ  0 )のもとでの超過負担を EBG とおけば、 EBG はその累進労働所得
税のもとで実現する効用水準と同じ効用水準を実現する一括固定税の税額 TL と累進労働所
得税のもとで租税負担額 TG との差として求めることができる。すなわち、
EBG  TL  TG
(21-23)
である。また、その累進労働所得税のもとで実現する効用水準と同じ効用水準を実現する
比例所得税の税額を TP とおき、その比例労働所得税のもとでの超過負担を EBP とおく。そ
のとき、
EBP  TL  TP
(21-24)
である。以上の準備のもとで、累進労働所得税のもとでの超過負担の方が比例労働所得税
のもとでの超過負担より大きいことを示すことができる。すなわち、
EBG  EBP
である。
(21-25)
(問題 21-10)(21-25)が成立することを、問題 21-9 で描いた図に TP を描き加えることにより
説明しなさい。
EBG  EBP
EBG  EBP  (TL  TG )  (TL  TP )  TP  TG
(21-25)
c  w0 L  m
c  w0 L  m  t  w0  ( LG  Lˆ )
c
TP
c  w0 L  m  t  w0  (L  Lˆ )
w0 LG  m
TP  TG  EBG  EBP  0
w0 LG  m  t  w0  ( LG  Lˆ )
t  w0  ( LG  Lˆ )  TG
m
Lˆ
LG
L
21.5
補論 1: 労働供給曲線と超過負担
労働供給関数から定義される労働者余剰を用いて超過負担を求める場合の注意点について
検討しよう。なお、労働供給関数とは、賃金率 w に対して労働供給量 L を対応させる関数
であり、それを L  LS (w) と表すことにする。
( 問 題 21-11) 賃 金 率 w j の も と で の 労 働 供 給 量 を L j と す る ( j  0,1 ) 。 す な わ ち 、
Lj  LS (w j ) である。そして、下図のように w 0  w1 であるとする。そのとき、L c
平面と L w 平面に、労働供給曲線 L  LS (w) が、 w が w 0 から w1 までの範囲で、右
下がりになっているケースを図示しなさい。
c
L
w
w1
w2
L
c  I 0 ( L)
c
c  w0 L  m
c  I 1 ( L)
c  w1 L  m
c0
c1
m
w0 w1
L0 L1
L
w
w0
w1
・
・
L  LS (w)
L0 L1
L
補償労働供給曲線を労働供給曲線が近似している場合は、比例労働所得税を課した場合の超
過負担は「労働者余剰の減少分-労働所得税負担額」で近似的に捉えることができる。
なお、賃金率が w 0 から w1 に下落したときの「労働者余剰の減少分」とは「労働供給曲線、
変化前と後の価格線、縦軸で囲まれた部分の面積」である。
しかし、労働供給曲線が問題 21-11 のように右下がりの部分を持つ場合には、
「労働者余剰
の減少分-労働所得税負担額」と比例労働所得税の超過負担とは大きく乖離し、正負が逆に
なる可能性もある。
「労働者余剰の減少分」
=労働供給曲線、変化前と変化後の価格線、縦軸
w
w0
w1
で囲まれた部分の面積
労働者余剰の減少分
=「実質的労働所得税負担額」
・
・
L  LS (w)
L0 L1
L
「超過負担」=「実質的労働所得税負 担額」 労働所得税負担額(TP )  0
w
一見「不思議」
TP 
「実質的 労働所得税負担額」 0
TP
w0
労働者余剰の減少分
=「実質的労働所得税負担額」
・
・
w1
労働市場における効率性の分析を
する際には(普通の)労働供給関数
から導かれる労働者余剰の概念を
用いることには注意が必要である。
L  LS (w)
L0 L1
TP  労働所得税負担額
L
労働者余剰で定義された
「超過負担」=「実質的労働所得税負 担額」 労働所得税負担額(TP )  0
w
一見「不思議」
実質的
労働所得税
負担額
等価変分の正負
を反対にした値
L  LCS (w, u1 )
w0
・
等価変分で定義された
超過負担
TP
・
w1
=実質的労働所得税負担額
-労働所得税負担額>0
L  LS (w)
L0 L1
TP  労働所得税負担額
L
21.6 補論 2**:無差別曲線が一般的な曲線の場合の(21-16)の導出
21.3 節では無差別曲線が 2 次曲線、
すなわち(21-14)を前提として議論した。
それに対して、
この補論では、
(効用 u 1 に対応する)無差別曲線が一般的な滑らかな曲線であるとする。す
なわち
c  I 1 ( L)
が微分可能で I 1´( L)  0 かつ I 1´´( L)  0 であるケースについて検討する。
(21-26)
無差別曲線 c  I 1 ( L) が微分可能なケースにおいては、 (21-16)は「微分積分学の基本定理」
から導かれることになる。なお、「微分積分学の基本定理」とは、微分可能な関数 f (L ) に
関して、 a  L  b の範囲で f (L) が連続であれば、

b
a
f ( L)dL  f (b)  f (a)
(21-27)
が成立することである。また、 a  L  b の範囲で f ( L)  0 であれば、積分記号

b
a
f ( L)dL
(21-28)
は「 L w 平面における曲線 w  f (L) 、直線 L  a 、直線 L  b 、L 軸(すなわち直線 w  0 )
で囲まれる図形の面積」である。
賃金率 w のもとでの補償労働供給量 L は
w  I 1´( L)
(21-29)
を満たす。そして、(21-29)を L について解いた式が補償労働供給関数
L  LCS (w, u1 )
(21-30)
である。
I 1´´( L)  0 より、導関数 I 1´( L) は連続である(「10.6 補論 2」参照)。また、(21-29)と(21-30)
より、21.3 節で定義された S1 ( L01 , L11 , u 1 ) は「補償労働供給曲線 w  I 1´( L) 、直線 L  L01 、
直線 L  L11 、 L 軸(すなわち w  0 )で囲まれる図形の面積」である。したがって、
S1 ( L01 , L11 , u 1 ) は定積分を用いて、

L01
1
S1 ( L , L , u ) = I ´( L)dL
01
11
1
(21-31)
L11
と表すことができる。また(21-27)において、 f ( L)  I ( L) 、 a  L11 、 b  L01 とおけば、

L01
1
I ´( L)dL  I 1 ( L01 )  I 1 ( L11 )
(21-32)
L11
となる。
以上の(21-31)と(21-32)より、
S1 ( L01 , L11 , u 1 )  I 1 ( L01 )  I 1 ( L11 )
が成立する。
(21-16)
「捕捉の補論」
超過負担EBPを「補償変分の正負を反対にした値」で捉える場合は、次のよう
にすればよい。すなわち、ある税率の比例労働所得税と一括補助金政策を組
み合わせた政策で効用水準がその組み合わせた政策の実施前と同じになる
一括補助金額SLとその政策のもとでの比例労働所得税額TPを求める。そして、
超過負担はEBP= SL-TPである。
I0
0
cw Lm
c
c  w1L  m  S L
w1  (1  t )w0
c0
c  w1 L  m
w0 L1  m  S L  c 1
EBP  S L  TP
SL
Tp
w1 L1  m
m
L1
L0
L
21. 1 税が存在しないときの労働供給
21. 2 比例労働所得税と超過負担
21.3 補償労働供給曲線と超過負担
21.4 累進労働所得税と比例労働所得税
21.5 補論 1:労働供給曲線と超過負担
21.6 補論 2**:無差別曲線が一般的な曲線の場合の(21-16)の導出