環境経済学

2012年度 九州大学 経済学部 専門科目
環境経済学
2012年10月29日,11月5日
九州大学大学院 経済学研究院
藤田敏之
2
3 公共財
3.1 公共財の定義(1)
公共財とは非排除性,非競合性の少なくとも一方をもつ財
非排除性・・・対価を支払わない人の利用を排除できない(排除
不可能)
非競合性・・・ある人の利用が他人の利用可能量をへらさない
(同時利用可能)
食物など普通の財は対価を支払わずに利用できず,複数の人が
一緒に利用することができないので,上の性質をもたない
非排除性は供給サイド,非競合性は需要サイドに焦点を当てて
いる
非排除性は技術(排除費用)や社会制度に依存するのに対し,
非競合性は消費がなされる際のまわりの状態に依存する
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3.1 公共財の定義(2)
強
非
競
合
性
地方公共財,
純粋公共財
クラブ財
地球環境保全,国防,
一般放送,一般道路,
知識・情報,灯台,
消防
ケーブルTV,高速
道路,スポーツ施設,
映画館
共有資源
私的財
環境,混雑してい
る一般道路
食物,衣類
弱
弱
非排除性
財の公共財的性質による分類
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強
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3.2 公共財の性質と市場の失敗
公共財の取引は効率的な水準にならない
非排除性をもつ財の場合,需要者はWTPを提示する必要がない
価格メカニズムが働かずただ乗り(フリーライド)行為を促してしまう
排除可能でも非競合性をもつ財の場合,利用人数の増加にともな
う限界供給費用がゼロ
社会のすべての人に利用させるのが最適であり望ましい価格はゼ
ロになり,私企業による供給がなされない
価
格
需要曲線
消費者余剰
p
価
格
消費者余剰
損失
量
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量
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3.3 公共財の最適供給量(1)
●部分均衡分析
公共財の最適な消費者数は社会全員.最適な供給量について
はどうであろうか
公共財の追加的消費による消費者の効用増加分・・・限界支払
意思額(MWTP)
最適な供給量は
MWTPの社会的総和=限界供給費用
という条件(サムエルソン条件)をみたさなければならない
サムエルソン条件の意味・・・1単位の追加的供給がもたらす社会
的価値とその費用が等しくなるところまで供給すべき
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3.3 公共財の最適供給量(2)
金
額
a
A,Bの2人からなる社会
でのサムエルソン条件
MWTPA
量
MWTPA+MWTPB=MC
最適供給量はx*
b
MWTPB
量
MC
a+b
MWTPA+MWTPB
x*
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量
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3.3 公共財の最適供給量(3)
●一般均衡分析
A,Bからなる社会を考える.A,Bは予算を私的財,公共財購入
にふりわける
x:公共財供給量,yA,yB:A,Bの私的財消費量(私的財の価格を
1と基準化),uA,uB:効用関数,IA,IB:予算,C(x):供給費用
(パレート)最適な配分は最大化問題
の解で,最大化の1階条件を整理すると
(サムエルソン条件)
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3.4 公共財の自発的供給(1)
A,Bが効用最大化をはかる状況を考える
x:公共財供給量(x=xA+xB),yA,yB:A,Bの私的財消費量(私的
財の価格を1と基準化),uA,uB:効用関数,IA,IB:予算,C(x):供
給費用,以下では簡単のためC(x)=pxとする(MC = p)
Aの効用最大化
最大化の1階条件は
Bの効用最大化
Aの場合とまったく同様に条件
よって
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が得られる
(サムエルソン条件が成り立た
ず,最適な供給量が実現され
ない)
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3.4 公共財の自発的供給(2)
●図による説明
Aの公共財供給量に関する意思決定はBの供給量に依存する.
これをxA*(xB)と表記するとxA*はxBの減少関数となる(最適反応)
金
xB’ 額
MWTPA
(xB=xB’)
MWTPA
(xB=0)
O
xA*(xB’)
xA*(0)
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MC
xA
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3.4 公共財の自発的供給(3)
xAを横軸, xBを縦軸にとってAの最適反応xA*(xB),Aの無差別曲
線(Aの効用が同じになる点をつないだ曲線)を描くと以下のよう
になる
xB
Aの無差別曲線
Aの効用上昇
xA
O
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3.4 公共財の自発的供給(4)
同様にBの最適反応xB*(xA)もxAの減少関数となる.Bの最適反
応と無差別曲線は下の図のようになる
xB
Bの無差別曲線
Bの効用上昇
xA
O
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3.4 公共財の自発的供給(5)
最適反応を1つの図に表示すると以下のようになる.交点は均衡
であるが,効率的でないことが図からわかる.自発的供給にまか
せると,公共財の供給量は過小になる
xB
Bの無差別曲線
N: (ナッシュ)均衡
Aの無差別曲線
N
xA
O
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斜線領域の内部では
A,Bともに均衡よりも
効用が高い
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3.5 リンダール均衡(1)
●リンダールの方法
政府が市場としての役割を果たすことによって,理論的には公共
財の最適な供給が実現可能になる
政府が各人の公共財の費用負担率を公表する
A,B2人の場合であれば,負担率をθ,1-θとする
→ 負担率に応じて,A,Bが希望する公共財供給量xA, xBを表明
→ 政府はxA > xBならばθを上げ, xB > xAならばθを下げる
→ 最終的にxA = xB=x*となるθ*をAの負担率とする
このとき( θ*, x* )の組み合わせをリンダール均衡と呼ぶ
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3.5 リンダール均衡(2)
●効率性
x*は負担率(θ*,1-θ*)のもとでA,B双方の効用を最大化する水準に
なっているはずである.Aにとって実質的な公共財供給費用は1単位あ
たりθ*pなので最大化問題は
効用最大化の1階条件は
同様にBについての効用最大化の条件は
よってリンダール均衡においては
条件がみたされる
となりサムエルソン
しかし個人が真の選好を表明するとは限らないという問題があり,現
実の適用は困難である
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参考図書
細田衛士・横山彰『環境経済学』有斐閣アルマ,第1章,
pp .27-42.
柴田弘文『環境経済学』東洋経済新報社,第3章,pp. 5779.
緒方・三浦・須賀『公共経済学』勁草書房,第2章,pp. 2737.
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