わかりやすい力学と 機械強度設計法 (独)海上技術安全研究所 平田 宏一 第2章 材料強度の基礎 機械の必要条件 ★壊れない ★安全である ★正しく機能する そのためには・・・ ★適切な材料を使う ★荷重が加わっても壊れない形状・寸法にする 2.1 強度設計とは どのような荷重 が加わるか? 強度設計の考え方 (荷重の形式,応力) 運動してい るときの荷 重は? 静的荷重が設計の基本 どのような材 料を使うか? 材料の知識(性質,強度) 実験用魚ロボットの例・・・ 壊れなくするため の寸法・形状 は? 破損の原因(応力集中な ど) ★荷重の形式 どの部材に,どのような形式の荷重が加わるかを 適切に判断することが重要! 2.2 応力とひずみ (1) 応力とひずみの定義 引張り応力の場合 応力:外力による物体の変形に対抗し て物体内に生じる内力。単位面積当た りの力で表す。 力 応力= 断面積 σ= F A [N/m2 ] ★圧縮応力とせん断応力 圧縮応力の場合 σ= F [N/m2 A ] せん断応力の場合 τ= F [N/m2 A ] ★ひずみの定義 引張り荷重の場合 ひずみ:外力によって物体 が変形したとき,元の長さに 対する伸びの割合。 ひずみ= ε= * 荷重方向のひずみを「縦ひずみ」という。 伸び 元の長さ ⊿L L ★応力とひずみの関係 応力とひずみの関係 フックの法則:ある範囲にお いて,応力とひずみは比例 する。 E= σ ε 縦弾性係数(ヤング率) 重要! (2) 材料の性質と強さ ●使用する材料 の性質を知って おくことが重要。 (2) 材料の性質と強さ ●部品が変形し てしまうと,機械 が正しく機能しな い。 ★金属材料の機械的特性 材質 SS400 引張り強さ 降伏点または 耐力 [N/mm2] [N/mm2] 400以上 245以上 厚さ16mm以下 235以上 厚さ16~40mm 215以上 厚さ40mm以上 径100mm以下 備考 特徴 参考 JIS G 3101 一般的な炭素鋼 高温用合金鋼ボルト 材,クロム鋼 一般的なステンレス 鋼 SNB 5 690以上 550以上 JIS G 4107 SUS304 520以上 205以上 A1085P 75以上 35以上 厚さ4~6.5mm 70以上 35以上 厚さ6.5~13mm 60以上 25以上 厚さ13~25mm A2017P-T3 375以上 215以上 ジュラルミン JIS H 4000 A20124P-T3 440以上 295以上 超ジュラルミン JIS H 4000 A7075PC-T6 480以上 410以上 超々ジュラルミン JIS H 4000 JIS G 4303 JIS H 4000 純アルミニウム ★温度と強度の関係 2 許容引張応 力 (N/mm ) 140 120 SU S304( 圧力容器) 100 80 60 40 20 0 0 200 400 600 温 度 ( ℃) 800 ●金属材料は,温度上昇に伴い,強度が低下する。 (3) 応力とひずみの測定 2.3 機械の運動とトルク 機械 「動力によって一定の運動を行い,ある仕事をする複 雑なしかけをもった器具」 「力」の伝わり方 を考える。 (1) 回転運動と往復運動 回転運動 一定速度=扱いやすい 往復運動 速度変動=慣性力の増大=設計困難 (2) 回転運動とトルク 回転運動では,「力」の代わりに,「トルク」を使う。 Tq F R トルク=力×回転半径 ● おもりを持ち上げる仕事(J) 回転軸が1回転する場合,持ち上げる距離は2πR W 2R F 仕事=力×移動距離 単位は同じ(J=Nm)でもトルク と仕事は違う! ●出力(仕事率) 回転軸(モータ)の回転数をN(rpm)とすると, N N N L W 2R F 2 Tq 60 60 60 出力=仕事/時間 出力= 2π×トルク×回転数 ●トルクの増減 回転軸Aのトルク<回転軸Bのトルク 回転軸Bは,回転軸Aよりも高い強度が必要 (3) トルクの測定 ひずみゲージを使用した計測用車いす (3) トルクの測定 ひずみゲージを使用した計測用車いす (3) トルクの測定 市販のトルク測定器を使用した発電機性能評価装置 2.4 許容応力と安全率 安全率は,材料強度のばらつきや荷重の見積もり誤差 などの不確定な要因を考慮して決められる。 (1) 許容応力と安全率の定義 許容応力=基準の強さ/安全率 設計上,許容できる 最大応力 許容応力 破損の限界を表す 応力 基準の強さ (2) 安全率の考え方 (a) 安全率および許容応力は,設計者自身が明確な根拠(経験 や知識)を持って決める値である。 (b) 基準の強さは,破損の限界を表す応力であり,機械が機能し なくなるときの応力と考える。すなわち,設計する機械に応じて, 材料が破損する引張り強さや弾性変形を維持する限度などを用 いる。 (c) 設計者が決定する安全率には,明確な正解(最適値)はない。 例え,機械が壊れなかったとしても,そのときに設定した安全率 が最適であるとは限らない。 (d) 実際の設計では,前例や経験に基づき,安全率を設定するこ とが多い。また,人命に関わる危険な機械を設計する場合には, 法令で安全率が定められていることもある。
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