準天頂衛星L1-SAIF補強信号のGLONASS対応予備実験

GPS/GNSSシンポジウム
東京海洋大学
Oct. 26, 2012
準天頂衛星L1-SAIF信号における
GLONASSエフェメリスの更新制御
電子航法研究所 坂井 丈泰
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はじめに
• 準天頂衛星システム(QZSS):
– 準天頂衛星軌道上の測位衛星による衛星測位サービス。
– GPS補完信号に加え、補強信号を放送。補強信号:L1-SAIF、LEXの2種類。
– 初号機「みちびき」を2010年9月に打ち上げ、技術実証実験を実施中。
• L1-SAIF補強信号:
– サブメータ級の測位精度を提供する補強信号。
– GPS L1 C/A信号と同一の周波数・変調方式:受信機ハードウェアは変更不要。
– 補強対象にGLONASSを加えることでアベイラビリティの改善を図る。
→エフェメリスの更新制御が必要。
• 内容: (1) 準天頂衛星システムL1-SAIF補強信号
(2) エフェメリス情報の更新制御
(3) 実験結果の例(GPS+GLONASSの補強)
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(1)
準天頂衛星システム
L1-SAIF補強信号
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準天頂衛星システムの構想
準天頂衛星(QZS)
GPSや静止衛星
• 高仰角からサービスを提供可能。
• 東経135度を中心に配置
• 初号機「みちびき」:
離心率0.075、軌道傾斜角43度
• 山間部や都市部における測位・放送
ミッションに有利。
• 高仰角から放送する情報により、
GPS衛星の捕捉を支援できる。
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準天頂衛星の機能
• GPS補完機能: L1C/A, L2C, L5, L1C信号
– GPS補完信号として、GPS信号に似た測位信号を放送。
– 天頂付近の高仰角から測位信号を提供することで、都市部や山岳地域など
で衛星数の不足を補い、いつでも位置情報が得られるようにする。
– ユーザ側は、既存GPS受信機のソフトウェア改修程度で対応できる。
– 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が技術実証実験を実施。
• GPS補強機能: L1-SAIF, LEX信号
– すべてのGPS衛星を対象として、ディファレンシャル補正情報等を補強信号
に乗せて放送する。
– L1-SAIF信号:移動体測位用。補強信号の国際標準SBASと同じ信号形式。
– ユーザ側は、既存SBAS対応受信機のソフトウェア改修程度で対応できる。
– 電子航法研究所がL1-SAIF補強信号の開発を担当。衛星打上げ後に技術
実証実験を行い、現在も引き続き実験を実施中。
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L1-SAIF補強信号
一つの信号で3つの機能
準天頂衛星
補強信号
(補完機能)
補強信号
(誤差補正)
①補完機能
GPS衛星群
②誤差補正機能
補強信号
③信頼性付与機能
(信頼性付与)
測位信号
• 一つの補強信号で3つの機能:補完機能(レンジ
ング)・誤差補正(目標精度=1m)・信頼性付与。
• ユーザ側では、1つのGPSアンテナによりGPSと
L1-SAIFの両信号を受信:受信機の負担軽減。
SAIF: Submeter Augmentation with Integrity Function
ユーザ
(GPS受信機)
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サブメータ級補強の仕組み
準天頂衛星
GPS衛星
クロック誤差
軌道誤差
• さまざまな誤差を補正
• 信頼性の情報
補強情報
電離層
測距機能
対流圏
高仰角
ユーザ(1周波GPSアンテナ)
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L1-SAIF実験局(L1SMS)
• L1-SAIF実験局(L1SMS:L1-SAIF Master Station):
– L1-SAIF補強メッセージをリアルタイムに生成し、 JAXA地上局(つくば)に送信する。
– 電子航法研究所構内(東京都調布市)に設置。
– 補強メッセージの生成に使うGPS測定データについては、国土地理院電子基準点ネット
ワーク(GEONET)から取得する。
準天頂衛星
GPS衛星
ループ
アンテナ
測定
データ
L1-SAIF
メッセージ
GEONET
L1SMS
QZSS主制御局
国土地理院
電子航法研究所
JAXA地上局
(配信拠点=新宿)
(東京都調布市)
(つくば)
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L1-SAIF実験局の外観
電子基準点データ
リアルタイム
収集システム
補正情報リアルタイム
生成・配信装置
通信用ルータ装置
データ
サーバ
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リアルタイム動作試験
• 電子基準点940058(高山)におけるユーザ
測位誤差。
南北方向誤差(m)
• モニタ局配置は、札幌・茨城・東京・神戸・福
岡・那覇の6局構成。
• 実験期間: 2008年1月19~23日 (5日間)
水平
測位誤差
垂直
測位誤差
RMS
1.45 m
2.92 m
最大
6.02 m
8.45 m
RMS
0.29 m
0.39 m
最大
1.56 m
2.57 m
システム
GPS単独測位
L1-SAIF補強
GPS単独
L1-SAIF
補強
東西方向誤差(m)
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(2)
エフェメリス情報の更新制御
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GLONASSの利用
準天頂衛星
補強信号による
補強
GLONASS衛星を
併用
GPS衛星
• 衛星数の増加によるアベイラビリティ改善。
• 単一の補強信号により、GPSとGLONASSの両方を同時に補強する。
• 補強情報生成にあたってのGPSとGLONASSの違い:
 FDMAを採用
 エフェメリスにIODEがない
 時刻系と座標系が異なる
 PRN番号
 衛星位置の計算手順
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GLONASS衛星のエフェメリス
Item
Bits
Range
Resolution
Contents
tb
7
15~1425 min
15 min
Epoch time
tn
22
2-9 s
2-30 s
Clock correction (const)
gn
11
2-30 s/s
2-40 s/s
Clock correction (1st order)
x
27
27000 km
2-11 km
Position X in ECEF
y
27
27000 km
2-11 km
Position Y in ECEF
z
27
27000 km
2-11 km
Position Z in ECEF
vx
24
4.3 km/s
2-20 km/s
Velocity X in ECEF
vy
24
4.3 km/s
2-20 km/s
Velocity Y in ECEF
vz
..
x
..
y
..
z
24
4.3 km/s
2-20 km/s
Velocity Z in ECEF
5
6.2 mm/s2
2-30 km/s2
Acceleration X in ECEF (only perturbation)
5
6.2 mm/s2
2-30 km/s2
Acceleration Y in ECEF (only perturbation)
5
6.2 mm/s2
2-30 km/s2
Acceleration Z in ECEF (only perturbation)
Total
208
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L1-SAIFの長期補正情報
(IS-QZSS v1.4より)
• 長期補正:衛星位置とクロックの補正値(クロックは別に高速補正もある)。
• メッセージタイプ24 or 25で送信。
• IOD=GPS衛星のエフェメリスのIODE
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エフェメリスの更新制御(GPS)
• GPSエフェメリスの発行番号IODE:
– エフェメリス情報には発行番号IODE(Issue of Data, Ephemeris)が付けられており、
IODEの変化によりエフェメリス情報が更新されたことを知ることができる。
– IODC(Issue of Data, Clock)もあるが、下8ビットは常にIODEと同一。クロック補正情報
だけが更新されることはない。
• エフェメリスの更新制御:
– ディファレンシャル補正を正しく行うには、センタ側とユーザ側で使用するエフェメリス情
報を一致させることが必要。
– 各衛星の長期補正情報には、それぞれIOD(Issue of Data)番号が付けられている。
– ユーザ受信機は、それぞれの衛星について、IODと一致するIODEをもつエフェメリスを
使用する。
 ユーザ受信機が必要なエフェメリスを確実に受信するよう、エフェメリスの切替えからIODを変
更するまでに遅れをもたせている(後の説明のパラメータD)。
 RTCM SC-104メッセージのディファレンシャル補正情報も同じ。
Ephemeris #1 (IODE=1)
LTC #1
IOD=1
Ephemeris #2 (IODE=2)
LTC #2
IOD=2
LTC #3
IOD=2
Ephemeris #3 (IODE=3)
LTC #4
IOD=2
LTC #5
IOD=3
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エフェメリスの更新制御(GLONASS)
• GLONASSエフェメリスの更新制御:
– GLONASSエフェメリスには、GPSエフェメリスのIODEに相当する情報が存在しない。
– このため、IODを有効時間(V)と遅れ時間(L)から構成する(SBAS規格での措置)。
– ユーザ受信機は、それぞれの衛星について、IODに示された時間範囲内に受信したエフ
ェメリスを使用する。
を満たすこと
 tLT:長期補正情報のエポック時刻、
tr:エフェメリス情報を受信した時刻。
 遅れ時間(L):エフェメリスの切替えがあった場合に、一定時間の間は古いエフェメリスを使用
する必要があることから設けられている値。
 有効時間(V):なるべく長いほうが好ましいが、エフェメリスの切替えに配慮して設定する。
項目
ビット配置
分解能
有効範囲
有効時間(V)
IODの上位5ビット
30秒
30~960秒
遅れ時間(L)
IODの下位3ビット
30秒
0~120秒
Ephemeris #1
Ephemeris #2
L
V
Ephemeris #3
L
LTC #1
tLT
V
L
LTC #2
tLT
V
LTC #3
tLT
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IODパラメータの計算方法
使用する
エフェメリスを変更
GLONASSが放送する
エフェメリスの更新
エポック時刻 tb
tupdate tcutover
余裕時間
tb
D
Ephemeris #1 (tb=00:00)
tot,first
Ephemeris #2 (tb=00:30)
②
tot,first
L
V
LTC #1
③
tLT
V
L
LTC #2
tLT
①
③
V
L=0
①
LTC #3
tLT
②
←このように計算するのがひとつの方法。
ユーザ側条件:
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(3)
実験結果の例
(GPS+GLONASSの補強)
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GLONASS補強の実験
• L1-SAIF実験局ソフトウェアを改修し
て、GPS+GLONASS補強の実験を
実施した。
• 国土地理院GEONETのGLONASS/
QZSS対応基準局を利用。
• データフォーマット:
RINEX 2.12 OBS/NAVファイル。
エポック間隔=30秒
• 実験で使用したGEONET局:
 メッセージ生成に使用:
基準局 (1)~(8) の8局
 性能評価に使用:
ユーザ局 (a)~(c) の3局
(ここではこのうち(b)のみを紹介)
• データ期間:2012年7月18~20日
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性能評価例:測位誤差(5度)
• 仰角マスク5度での水平測位誤差。ユーザ位置=(b)
• GPS+GLONASS+QZSS:0.310m RMS
• GLONASS/QZSSの使用により、多少の性能改善がみられる。
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性能評価例:測位誤差(30度)
• 仰角マスク30度での水平測位誤差。ユーザ位置=(b)
• GPS+GLONASS+QZSS:0.372m RMS
• GLONASS/QZSSの使用により、高い仰角マスクでも良好なアベイラビリティ。
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ユーザ側性能評価:測位精度
0.602m
• 基準局ネットワーク(8局)の重心付近のユーザ局(静岡県清水市)での測位精度。
• GPS+GLONASS+QZSSの使用により、仰角マスク5~40度を通して安定した測位を
実現。
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ユーザ側性能評価:アベイラビリティ
100%
Availability
@ User (b)
• 有効な測位ができたエポック数の、全エポック数に対する割合。
 仰角マスクの増加にともないアベイラビリティは低下する。
• GPS+GLONASS+QZSSの使用:仰角マスク40%でも100%のアベイラビリティ。
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まとめ
• 準天頂衛星システム(QZSS) L1-SAIF補強信号:
– 準天頂衛星は、GPS補完信号に加え、補強信号を放送する。
– 補強信号:すべてのGPS衛星に対して、測位性能を改善する補強情報を提
供する。
– L1-SAIF信号:GPS L1 C/Aと同一形式の補強信号。当所が開発を担当。
• L1-SAIF信号のGLONASS対応:
– 衛星数の増加によるアベイラビリティの改善。
– GLONASSのエフェメリスにはIODEがないことから、IODEを使用せずにエ
フェメリスの更新制御を行う必要がある。
 IODにより指定された時間範囲内に放送されたエフェメリス情報を使用すること
とする。
– IODの設定方法を提案。実験の結果は良好に作用した。
 実際に補強実験を実施して、良好に作用することを確認した。