会社の資金調達 1 社債 テキスト参照ページ:323~337p 1 総説 • 1 会社の資金調達(資金調達の分類) 1. 外部資金と内部資金 1. 外部資金:募集株式・社債の発行等、借入金な ど 2. 内部資金:利益の内部留保、減価償却費など 2. 自己資本と他人資本 1. 自己資本(返還義務なし):募集株式の発行等 による資金および内部資金 2. 他人資本(返還義務あり):社債の発行による 資金および借入金など 2 Ⅰ 社債の意義 • 社債とは、会社法の規定によって会社が 行う割当によって発生する、当該会社を 債務者とする金銭債権であって、676条各 号に掲げる事項についての定めに従い償 還されるものをいう(2条23号) • 必ずしも有価証券の発行を伴わない • 外国会社の発行するものは、会社法上の 社債ではない • この社債を有する者を社債権者という • 持分会社も発行できる。 3 2 社債と株式の比較 • 共通点:一般公衆から多額かつ長期の資金調達 をすることができ、ともに有価証券が発行可能 • 相違点: – 株主は、株式会社の社員たる地位を有するのと同時 に株主権という種々の権利(株主総会における議決 権等)も有する – 社債権者は、社員ではなく債権者であり、債権者と しての地位・権利を有するのみ – 株式は出資金として自己資本を構成し、株主にその 出資金を原則として返還する必要はないが、社債は 借金(他人資本)であるから償還しなければならな 4 い 2 社債と株式の比較 • 相違点: – 会社の清算に際して、社債権者は他の一般債 権者と同一の順位で弁済を受けるが、株主に は残余財産が分配されるだけである – 株主は、各事業年度における分配可能額が存 在する場合にのみ剰余金の配当がなされ、分 配可能額がなければ、剰余金の配当を受ける ことはできない。 – 社債権者は、社債が償還されるまで、利益の 有無を問わず利息の支払を受ける 5 ※株式と社債の接近 ①完全無議決権株:株式ではあるが株主総会にお ける議決権行使をすることができないという点 で、社債に類似 ②累積的・非参加的配当優先株:一定額の配当 を普通株式よりも確実に受けることができ、利 益の有無にかかわらず一定額の利息を受けるこ とのできる社債に近い ③取得条項・取得請求権付株式:社債と同様に 取得(償還)されることが予定されている ※種類の組み合わせにより、社債に接近した種 類株式ができる。他方、株式的性質を併せもつ 社債として新株予約権付社債がある 6 Ⅱ 社債の種類 1. 普通社債 1. 社債権以外には権利が含まれていない社債 2. 株式会社においては、取締役の決定(取締役会設置 会社においては取締役会の決議)のみで足り、株主総 会の決議は不要(362Ⅳ⑤):委員会設置会社では? 2. 新株予約権付社債 1. 新株予約権を付した社債(2条22号) 3. 担保付社債・無担保社債 1. 物上担保が付されている社債:担保付社債 2. 物上担保が付されていない社債:無担保社債 7 権利移転の対抗要件による分類 • 社債券を発行する定め有り – ①無記名社債:無記名式の社債券が発行された 社債(681④括弧書、同⑥参照) – ②無記名社債以外の社債券(記名式)が発行さ れた社債(社債原簿に氏名等が記載される) – ※原則として相互に転換請求できる(698、67 6⑦参照) • 社債券を発行する定め無し(676⑥参照) – ③社債券が発行されていない社債 8 権利移転の対抗要件による分類 1. 譲渡・質入の効力発生要件 ① 意思表示+社債券の交付(687・692) ② 意思表示+社債券の交付(687・692) ③ 意思表示のみ 2. 対抗要件 ① 譲渡:社債券の占有移転(688Ⅲ)、質入:社債券の継 続占有(693Ⅱ) ∵無記名社債=動産(民86Ⅲ) ② 譲渡:対会社⇒社債原簿への記載・記録(688Ⅱ)、対 第三者は①と同じ、質入:①と同じ ③ 譲渡、質入ともに社債原簿への記載・記録(688Ⅰ、 9 693Ⅰ)。 Ⅲ 社債の発行 1 社債発行の決定(株式会社) • • • • 取締役の決定(取締役会設置会社:取締役会の決議)(362Ⅳ⑤) 社債の発行は業務執行行為に属する。取締役または取締役会で は、募集事項として次の事項を定める(676) ①募集社債の総額、②各募集社債の金額、③募集社債の利率、 ④募集社債の償還の方法および期限、⑤利息支払の方法および 期限、⑥社債券の発行に関する事項、⑦記名式と無記名式の転 換を認めない旨、⑧社債権者集会の決議によらない社債管理者 の行為に関する事項、⑨各募集社債の払込金額もしくはその最 低金額またはこれらの算定方法、⑩募集社債と引換にする金銭 の払込期日、⑪打切発行の採否、⑫その他、法務省令で定める 事項(会施規162条) ただし、新株予約権付社債を発行する場合には、それにより株主 の利益を害するおそれがあるため、新株予約権の発行手続によ る 10 2 募集・申込・割当・払込 • 募集:募集社債の引受の申込をしようとする者に 対する通知(677Ⅰ、676) • 申込:会社に対する申込書面の提出(677Ⅱ) – 総額引受の場合は不要(679) – 応募された額が社債総額に達しない場合:応募のあっ た部分について社債総額となる(打切り発行、但し676 ⑪、677Ⅰ②) • 割当:発行会社が申込者の中から募集社債の割 当を受ける者を定め、かつ、その者に割当てる募 集社債の金額および金額ごとの数を定める(678)、 ただし総額引受の場合は不要(679) • 払込:募集社債と引換にする金銭の払込の期日11 (676⑩)になされることを要する Ⅳ 社債の管理 i. 社債管理者 ii. 社債権者集会 iii.利払いと償還 iv. 社債の流通 12 ⅰ 社債管理者 1. 社債管理者または受託会社の設置(社債 権者=一般投資家の保護) 1. 無担保社債:社債管理者の設置(702) 2. 担保付社債:受託会社の設置(担信2) 2. 社債管理者の資格(703、会施規170) 1. 銀行 2. 信託会社 3. 信用金庫等 13 2 社債管理者の設置強制の例外 (702但書) 1. 各社債の金額が1億円以上である場合 2. 社債権者の保護にかけるおそれがないも のとして法務省令で定める場合(会施規 169) • ある種類(681①、676③~⑧、会施規165)の 社債総額を当該種類の各社債の金額の最低 額で除した商が50未満の場合 14 3 社債管理者の権限① 法定権限:社債権者のために弁済を受け(社債 の償還のみならず利息の支払も含む)、または債 権の実現を保全するのに必要な一切の裁判上ま たは裁判外の行為を行う権限を有する(705Ⅰ) 社債管理者が弁済を受領した場合:社債権者は、 社債管理者に対し、(社債券が発行されている場 合は社債券または利札と引換に)その支払を請 求することができる(705Ⅱ) 社債権者の社債管理者に対する支払い請求権 の消滅時効は10年(705Ⅲ):利息請求権も10年 15 (701Ⅰ、Ⅱ参照)。 3 社債管理者の権限② • • • • 社債権者集会の特別決議を要する行為(706Ⅰ) ①総社債についてなされる支払の猶予、不履行 によって生じた責任の免除または和解 ②総社債についてなされる訴訟行為、破産手続、 再生手続もしくは整理・特別清算に関する手続に 属する一切の行為(ただし705条1項の行為を除 く)である 社債管理者は、これらの行為を完了したときは、 遅滞なく、その旨を公告し、かつ知れたる債権者 には格別の通知を要する(706ⅡⅢ) 16 3 社債管理者の権限③ 約定権限:社債管理者と発行会社との約定によ り与えられる権限 財務制限条項:発行会社に対して他の債務のために 一定の財産を担保として提供することを禁じ、社債管 理者の請求があればその財産を担保として提供させ るという定め 業務調査権:社債管理者が、権限を行使するた めに必要があるときは、裁判所の許可を得て発 行会社の業務・財産の状況を調査することができ る(705Ⅳ・706Ⅳ) 17 4 社債管理者の義務(704) 1. 公平誠実義務:社債権者のために、公平かつ誠 実に社債の管理をなす義務(Ⅰ) • • 社債権者の不平等取り扱いの禁止 社債管理者と社債権者の利益相反(707参照) 2. 善管注意義務:社債権者に対し、善良な管理者 の注意をもって社債の管理をなす義務(Ⅱ) • 委任者たる発行会社に対して受任者として善管注意 義務を負うことは当然であるが(民644)、特別の契 約関係のない社債権者に対しても、会社法が特に定 めた義務 18 5 社債管理者の責任 1. 一般的責任:社債権者に対する損害賠償責任 (710Ⅰ) 2. 利益相反行為に基づく責任(710Ⅱ) • • • 発行会社が社債の償還もしくはその利息の支払を怠 りまたは支払の停止があった後、またはその前3ヶ月 以内に、社債管理者が、発行会社に対して有する自 己の債権につき担保の供与または債務の消滅に関 する行為(弁済・相殺など)を受けた場合(①~④) 社債管理者は、社債権者に対して損害賠償責任を負 う 義務違反がないこと、因果関係のないことを立証し、 責任を免れる余地はある 19 6 辞任・解任、事務承継者 1. 辞任:社債管理者は、発行会社および社債権者 集会の同意を得るか、またはやむをえない事由 があるときには裁判所の許可を得て、辞任するこ とができる(711) ・委託契約で事務承継者を定めている場合は、 委託契約に定めた事由によっても辞任できる 2. 裁判所による解任:社債管理者に義務違反など がある場合には、発行会社および社債権者集会 の請求により、裁判所は社債管理者を解任する ことができる(713) 20 6 辞任・解任、事務承継者 • 社債管理者が不存在となった場合:発行会社は、 遅滞なく社債権者集会を招集して、その同意を得 るか、同意を得られないときは裁判所の許可を得 て、事務を承継すべき社債管理者(事務承継者) を定めなければならない(714Ⅰ) • 発行会社が2ヶ月以内に上記同意を得るための 社債権者集会を招集せず、または裁判所の許可 を求めないときは、社債総額について期限の利益 を失う(714Ⅱ) • やむを得ない事由がある場合:利害関係人も裁 判所に対して事務承継者の選任の申し立てがで 21 きる(714Ⅲ) ⅱ 社債権者集会 1. 意義・権限:同じ種類の社債権者によって構成 • • される社債権者の共同の利益を図るため社債に 関する一定の事項について決議をすることがで きる臨時的な組織(715) 株主総会とは異なり、会社外の組織であり、会社 の機関ではない 会社法に規定する事項および社債権者の利害に 関する事項につき決議できる(716):法定決議事 項以外の事項を決議するための裁判所の許可 制度は廃止された 22 2 招集・議決権・決議方法・決議の効力 • 招集:原則として発行会社または社債管理者が 行う(717)、招集事項の決定(719)、招集通知 (720) – 少数社債権者(社債総額の10%以上にあたる社債権 者)が招集することができる場合もある(718) • 議決権:各社債権者は社債の残額に応じて議決権 を有する(723Ⅰ) • 決議:原則として普通決議(出席した議決権者の議 決権総額の過半数)による(724Ⅰ) – 社債の支払猶予・発行会社の責任免除(706Ⅰ)等、社 債権者の利害に重大な関係を有する事項については 特別決議(724Ⅱ) • 裁判所の認可(734Ⅰ):効力発生要件 23 3 代表者・決議の執行 • 代表社債権者の選任:当該種類の社債総額の 1000分の1以上を有する社債権者の中から代表者 を選任し、決議事項の決定を委任することができる (736) – 社債権者集会をたびたび開くのは困難であるし、細目 を決定するには適していないため • 決議の執行:通常、社債管理者または代表社債権 者(社債管理者があるときを除く)が執行する (737Ⅰ) – 社債権者集会により選任することもできる(同但書) 24 ⅲ 利払と償還 1. 募集事項に定められた(676③⑤)利率、支払 い方法、期限に従い、社債権者には利息が支払 われる 2. 利息支払請求権は5年の消滅時効にかかる (701Ⅱ) 3. 償還:会社が社債権者に対して債務を弁済する こと 4. 社債の償還請求権は10年の消滅時効にかかる (701Ⅰ) 25 ⅳ 社債の流通 • 社債券を発行しない場合:意思表示のみによって 社債の譲渡・質入れの効力が生じる – 会社その他の第三者に対する対抗要件:社債原簿 (681)への記載または記録(688Ⅰ) – 質入についても同様(693Ⅰ) • 社債券を発行する場合:意思表示+社債券の交 付により社債の譲渡・質入れの効力が生じる(687・ 692) – 無記名社債の譲渡の会社・第三者対抗要件:社債券の 占有移転(688Ⅲ、民178) – 記名社債の譲渡の会社対抗要件:社債原簿への記載 または記録(688ⅠⅡ)、第三者対抗要件:占有移転26 (688Ⅱ) ⅳ 社債の流通 • 社債券が発行されている場合→株券と同様に、権 利推定・善意取得の規定が適用される(689) • 社債は債券として有価証券化され、流通の対象となる。債 券には、記名式と無記名式とがあるが、実際にはほとんど が無記名式である。 • 無記名式社債は動産とみなされるので(民86Ⅲ)、その譲 渡は債券の交付によって行われる(民176)。 • 記名社債の譲渡は、意思表示と証券の交付によりなされ るが、会社に対抗するためには、社債原簿および債券の 名義書換が必要。 • 社債券を喪失した場合は、公示催告・除権決定の手続に 27 よる(699) 振替社債 ※社債のペーパーレス化(2006年1月よりスタート) • 株式会社は、社債発行の決定において、発行する社 債の全部について「社債、株式等の振替に関する法 律」の規定の適用を受けることとする旨を定めるこ とができる(振替66) • この法律の適用を受けると定められた社債(振替社 債)については、社債券を発行することができず (振替67)、振替機関の管理する振替口座簿に記載 または記録され(振替68)、振替社債の譲渡・質入 れは、振替口座簿の振替によってその効力が生じる (振替73、74) 28 コマーシャル・ペーパー(CP) • 社債は長期の資金調達を目的として発行され るのに対して、会社が短期の資金を調達する のにコマーシャル・ペーパー(CP)を発行す る方法がある。CPは市場において無担保で発 行され、その法的性質は約束手形である。期 間は1ヶ月以上1年以内とされ、1枚の金額 は1億円以上であることが要求されている。 • CPは証券取引法上の有価証券であり(金商2 Ⅰ⑮)、証券会社はCPを扱うことができ、銀 行も付随業務として扱うことが認められてい る。現在ではCPは短期金融市場の重要な地位 29 をしめている。
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