有限幾何学 第7回 有限幾何学 第7回 1. 木の性質と最小全域木 用語の説明 2. 木の性質 3. 最小全域木 1. 1.1 用語の説明 森:閉路を含まないグラフ 木:閉路を含まない連結グラフ 全域木:あるグラフの全域グラフで木であるもの 森 木 全域木 1.2 木の性質(木であることと同値な条件①) 木の辺の性質からの特徴づけ 位数3以上のグラフ T に対し,次の各命題は同値. (1) T は木(閉路を含まない連結グラフ)である. (2) T は連結で,全ての辺が橋である. (3) T の任意の2点は丁度1本の道で結ばれている. (4) T は閉路を含まないが, 辺を追加すると丁度1つの閉路ができる. 1.2 木の性質(木であることと同値な条件②) 木のサイズからの特徴づけ 位数pのグラフ T に対し,次の各命題は同値. (1) T は木(閉路を含まない連結グラフ)である. (2) T は閉路を含まず,|E(T)|= p-1. (3) T は連結で,|E(T)|= p-1. 1.2 木の性質(木であることと同値な条件②) 木のサイズからの特徴づけ 位数pのグラフ T に対し,次の各命題は同値. (1) T は木(閉路を含まない連結グラフ)である. (2) T は閉路を含まず,|E(T)|= p-1. (3) T は連結で,|E(T)|= p-1. 証明:Tの位数pに関する帰納法 p=1 のとき,(1)~(3)が同値であることは明らか. 1.2 木の性質(木であることと同値な条件②) 木のサイズからの特徴づけ 位数pのグラフ T に対し,次の各命題は同値. (1) T は木(閉路を含まない連結グラフ)である. (2) T は閉路を含まず,|E(T)|= p-1. 証明:(1)⇒(2) T の辺eを除くと, Tは2つの木 T1,T2 に 分離される. ∵ 木の辺の性質からの特徴づけ(2)より T は全ての辺が橋である. e 1.2 木の性質(木であることと同値な条件②) 木のサイズからの特徴づけ 位数pのグラフ T に対し,次の各命題は同値. (1) T は木(閉路を含まない連結グラフ)である. (2) T は閉路を含まず,|E(T)|= p-1. 証明:(1)⇒(2) e 帰納法の仮定より, |E(T1)|=|V(T1)|-1, |E(T2)|=|V(T2)|-1. ∴|E(T)|=|E(T1)|+|E(T2)|+1 =(|V(T1)|-1)+(|V(T2)|-1)+1=|V(T)|-1. T1 T2 1.2 木の性質(木であることと同値な条件②) 木のサイズからの特徴づけ 位数pのグラフ T に対し,次の各命題は同値. (2) T は閉路を含まず,|E(T)|= p-1. (3) T は連結で,|E(T)|= p-1. 証明:(2)⇒(3) Tが非連結とし,Tの連結成分を T1, T2, …, Tp とすると (p ≧ 2), 各 Ti は閉路を含まない連結グラフ,すなわち木となるので, 帰納法の仮定より,|E(Ti)|=|V(Ti)|-1 (1 ≦ i ≦ p), 1.2 木の性質(木であることと同値な条件②) 木のサイズからの特徴づけ 位数pのグラフ T に対し,次の各命題は同値. (2) T は閉路を含まず,|E(T)|= p-1. (3) T は連結で,|E(T)|= p-1. 証明:(2)⇒(3) |E(Ti)|=|V(Ti)|-1 (1 ≦ i ≦ p), ∴ 1≦ p-1 =|E(T)|=|E(T1)|+・・・+|E(Tp)| = (|V(T1)|-1)+・・・+(|V(Tp)|-1)=|V(T)|-p=0 となり矛盾. 1.2 木の性質(木であることと同値な条件②) 木のサイズからの特徴づけ 位数pのグラフ T に対し,次の各命題は同値. (1) T は木(閉路を含まない連結グラフ)である. (3) T は連結で,|E(T)|= p-1. 証明:(3)⇒(1) (教科書とは別の証明) ∀u ∈ V(T) に対して,degT(u) ≧ 2 とすると, 握手補題より, 2p ≦ ∑degT(u) =2|E(T)|=2(p-1) となり矛盾. u ∈ V(T) 1.2 木の性質(木であることと同値な条件②) 木のサイズからの特徴づけ 位数pのグラフ T に対し,次の各命題は同値. (1) T は木(閉路を含まない連結グラフ)である. (3) T は連結で,|E(T)|= p-1. 証明:(3)⇒(1) (教科書とは別の証明) よってTは次数1の頂点uを持つ.このときT-uは連結で,(∵Tは連結) |E(T-u)|=|E(T)|-1=p-2=|V(T-u)|-1. よって帰納法の仮定より,T-uが木となるので T-uにuを1辺でつなげたTも木であることが分かる. 1.2 木の性質 特徴づけから得られる系1 位数2以上の木は,次数1の頂点を少なくとも2つ含む. 特徴づけから得られる系2 位数p,成分数kの森 T に対し.|E(T)|= p-k 特徴づけから得られる系3 連結グラフは全域木を含む. 系1と系2の証明は省略 1.2 木の性質 特徴づけから得られる系3 連結グラフは全域木を含む. 証明: G:連結グラフ T:1辺でも取り除くと連結ではなくなるGの連結な全域部分グラフ T は連結で,全ての辺が橋なので, 木の辺の性質からの特徴づけ(2)より,Tは木. よってTはGの全域木となる. 1.3 最小全域木 重み付き連結グラフにおける全域木を考える. 重み付き連結グラフは全域木を含むが, (∵連結グラフは全域木を含む) 全域木の取り方によってその重みが変わってくる. 5 8 7 7 5 9 15 6 重さ 39 9 8 11 1.3 最小全域木 重み付き連結グラフにおける全域木を考える. 重み付き連結グラフは全域木を含むが, (∵連結グラフは全域木を含む) 全域木の取り方によってその重みが変わってくる. 5 8 7 7 5 9 15 6 重さ 54 9 8 11 1.3 最小全域木 最小全域木:重み付き連結グラフの全域木の中で重みが最小のもの 最小全域木問題:・最小全域木を求める問題 ・効率の良いアルゴリズムが知られている 例: ・クルスカルのアルゴリズム ・プリムのアルゴリズム ・クラスター分析やネットワーク・デザインなどの 分野で利用されている 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム ・重み付き連結グラフの最小全域木を求めるアルゴリズム. ・貪欲アルゴリズムという種類に分類される. 貪欲アルゴリズム:各計算ステップで局所的な情報から その時点で最適なものを選択していくことで 最適解または近似解を求める方法 (クルスカルのアルゴリズムでは最適解) ・入力:重み付き連結グラフ G ・出力:最小全域木 T 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 入力 5 8 7 7 5 9 15 6 9 8 11 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 出力 5 8 7 7 5 9 15 6 9 8 11 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 1. T をGから全ての辺を除いたグラフとする. 2. E={e∈ E(G): e ∉ E(T), T+eに閉路がない} とする. (i) E ≠ ∅ ならば,Eの中から重みが最小の辺eを選び, T=T+e とし,再度 手順2 を行う. (ii) E = ∅ ならば終了. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 5 8 7 7 5 9 15 6 9 8 11 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 5 8 7 7 5 9 15 6 9 8 11 1:T をGから全ての辺を除いたグラフとする. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 5 8 7 7 5 9 15 6 9 8 11 2 (i):E={e ∈ E(G): e ∉ E(T), T+eに閉路がない} ≠ ∅ ならば, Eの中から重みが最小の辺eを選び,T=T+e とする. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 5 8 7 7 5 9 15 6 9 8 11 2 (i):E={e ∈ E(G): e ∉ E(T), T+eに閉路がない} ≠ ∅ ならば, Eの中から重みが最小の辺eを選び,T=T+e とする. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 5 8 7 7 5 9 15 6 9 8 11 2 (i):E={e ∈ E(G): e ∉ E(T), T+eに閉路がない} ≠ ∅ ならば, Eの中から重みが最小の辺eを選び,T=T+e とする. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 5 8 7 7 5 9 15 6 9 8 11 2 (i):E={e ∈ E(G): e ∉ E(T), T+eに閉路がない} ≠ ∅ ならば, Eの中から重みが最小の辺eを選び,T=T+e とする. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 5 8 7 7 5 9 15 6 9 8 11 2 (i):E={e ∈ E(G): e ∉ E(T), T+eに閉路がない} ≠ ∅ ならば, Eの中から重みが最小の辺eを選び,T=T+e とする. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 5 8 7 7 5 9 15 6 9 8 11 2 (ii):E={e ∈ E(G): e ∉ E(T), T+eに閉路がない} = ∅ ならば終了. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム このアルゴリズムにより最適解(最小全域木)が得られる. 次に,得られたグラフが最小全域木であることを証明する. このことを証明するには, ・全域木であること ・重みの最小性 この2つが示せればよい. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 全域木: 得られるグラフが全域木であることは簡単に分かる. ∵ 手順2は2つの木を辺でつなぐ操作になるので 最小性: このことは簡単には分からない. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 最小性の証明:背理法で示す. クルスカルのアルゴリズムによって得られる 全域木 T がG の最小全域木ではないとする. T Gの最小全域木T1を |E(T) ∩ E(T1)| が最大になるように選ぶ. E(T) – E(T1) に属す辺の中から クルスカルのアルゴリズムによって最初に選ばれる辺をeとする. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 最小性の証明:背理法で示す. クルスカルのアルゴリズムによって得られる 全域木 T がG の最小全域木ではないとする. T1 Gの最小全域木T1を |E(T) ∩ E(T1)| が最大になるように選ぶ. E(T) – E(T1) に属す辺の中から クルスカルのアルゴリズムによって最初に選ばれる辺をeとする. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 最小性の証明:背理法で示す. クルスカルのアルゴリズムによって得られる 全域木 T がG の最小全域木ではないとする. T T1 e Gの最小全域木T1を |E(T) ∩ E(T1)| が最大になるように選ぶ. E(T) – E(T1) に属す辺の中から クルスカルのアルゴリズムによって最初に選ばれる辺をeとする. 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 最小性の証明: このとき,T1+eはある閉路Cを含む. Tは木なので ∃f ∈ E(C) –E(T)⊆E(T1)-E(T). T T1 e f また,T1+e-f は全域木なので T1 が最小全域木であることより,w(f) ≦ w(e). w(f)=w(e) とすると T1+e-f が最小全域木となり, T1を|E(T) ∩ E(T1)|が最大になるように選んだことに矛盾. ∴ w(f) < w(e) C 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 最小性の証明: ここまでのまとめ (1) e:E(T) - E(T1) に属す辺の中から クルスカルのアルゴリズムによって最初に選ばれる辺 (2) f ∈ E(T1) - E(T) (3) w(f) < w(e) 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 最小性の証明: クルスカルのアルゴリズムによって eを追加する1つ手前のグラフを T’とする. このとき(1)より,T’ は T1 の部分グラフ. (1) e:E(T) - E(T1) に属す辺の中から クルスカルのアルゴリズムによって最初に選ばれる辺 1.3 最小全域木 クルスカルのアルゴリズム 最小性の証明: T’ は T1 の部分グラフなので(2)より,T’+ f には閉路がない. しかし,(3)とアルゴリズムの手順2より,T’+ f は閉路を含み矛盾. (2) f ∈ E(T1) - E(T), (3) w(f) < w(e) 手順2. E={e∈ E(G): e ∉ E(T), T+eに閉路がない} の中から重みが最小の辺eを選び,T=T+e とする. 提出課題7 問題1: P.55 問3.6 (a), (b) 注意:教科書P.53のプリムのアルゴリズムを各自で読むこと 問題2:Gが木で,Gの頂点の次数が全て奇数ならば, 辺の個数は奇数であることを示せ. 問題2のヒント ・握手補題を用いる ・|V(G)| - 1= |E(G)| を用いる 提出課題7 問題3(提出しなくてもよいです): 次数がkの頂点をl個持つ木は次数1の頂点を 少なくとも(k-2)l+2個持つことを示せ. ヒント ・握手補題を用い ・|V(G)| - 1= |E(G)| を用いる 提出課題7 問題4(提出しなくてもよいです): 50×600の格子になっているネットがある. このネットを二つに分けるとすると,最大でいくつの 格子を作っている単位の糸を切ればよいか? ヒント:① 格子をグラフ,糸の切断を辺の除去とみなして考える ② 連結グラフの極小連結部分グラフは木
© Copyright 2024 ExpyDoc