アジア経済の軌跡と展望 総2年 小林 裕幸 発展途上国の経済開発 ・工業製品はその大半を輸入から始めなければならな い。輸入に必要な外貨は、天然資源か農水産物の 輸出で賄う。この輸入を減らすために、労働集約的 で技術集積度の低い産業から順次、輸入代替・国 内生産を開始する。 ・例えば、化合繊製品の国内生産を開始すると化学原 料や機械・設備の輸入が必要となる。一方では繊維 製品を輸出し、他方では繊維機械などの国内生産 に乗り出す。 ・その結果、ひとつの産業は輸入→国内生産→輸出 (もしくは海外生産)→再輸入というサイクルを描く ⇒赤松要の雁行形態論 工業化の社会的能力 ・ガーシェンクロンの主張(後発性の利益) 後進国が利用できる「技術のバックロッグ」が 大きいほど、遅れて工業化を開始する国に とっては有望である。 ⇒しかし、「後発性の利益」を享受できるかどう かは、あくまで蓋然性の問題である。実際に 「後発性の利益」を実現するためには、後進 国の側に一定の国内条件と主体的な能力が 備わっていなければならない。 ポーターの「国の競争優位」論 ~イノベーションを重視~ ①天然資源、資本、労働力などの要素条件 →天然資源や資本といった要素条件に恵まれていな い場合、かえって労働集約型産業への特化を促す。 ②洗練された消費者の製品の品質や価格に対する 「厳しい目」を含む需要条件 ③企業の経営組織とライバル企業間の激しい競争関 係の存続 ④輸出産業を支えるサポーティング産業(素材産業や 金型、鋳物、デザイン技術など)の集積と地理的集 中 シュンペーターの「創造的破壊」 (1)新しい財貨、すなわち消費者の間でまだ知られて いない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産。 (2)新しい生産、すなわち当該産業部門において未知 な生産方法の導入。 (3)新しい販路の開拓、すなわち当該国の当該産業 部門が従来参加していなかった市場の開拓。 (4)原材料あるいは半製品の新しい供給源の獲得。 (5)新しい組織の実現、すなわち独占的地位の形成 (たとえばトラスト化)、あるいはそうした独占の打破。 「革新」の発展段階(米倉誠一郎) ←技術・生産体系の保持強化 第二象限 市場志向型経営者 事例;フォード社のマスタング ※ソニーのウォークマン 技術・生産体系の破壊創造→ 第一象限 構築的革新 事例;フォード社のT型モデル ※川崎製鉄の消費立地一貫 生産 ↑新市場の創出 第三象限 通常的・積み重ね型革新 事例;日本の改善・改良方式 ※GM社のスローン社長 既存市場の強化↓ 第四象限 革命的革新 技術志向型経営者 事例;鉄鋼業のLD転炉方式 ※オートマティック・トランス ミッション 第二象限の「間隙的創造」 ・既存の生産諸要素、既存の経営資源のそれぞれを 切り離して見た場合には、必ずしも国際競争力を持 たない。また、新しい技術・生産体系を開発する資 金力も技術力も当面ない。しかし、輸入技術と国内 の豊富な労働力や各種の経営諸資源を「組み合わ せる」ことで新しい国際競争力を獲得する、もしくは 創造する。 →アジア諸国の地場企業が戦略的に追求し、特定の 工業製品の輸出を急増させてきた秘密 ex.台湾のNC工作機械、高速タイプの自転車、パーソ ナルコンピュータ産業などの発展、タイの輸出志向 工業化の初期段階を支えたアグロインダストリー タイのCPグループのブロイラー事業 ~すきま市場の開拓~ 新技術1 原種・種鶏産業(欧米多国籍企業) 新技術2 瞬間冷凍技術 (日本の専門、総合商社) ・コマーシャルヒナからブロイラーへの肥育に多数必 要とされる養鶏農民を自ら組織化し系列化すること で、世界にも類を見ないブロイラー産業の垂直的か つ水平的統合体制を、70年代半ばまでに構築。 ☆女性の手先の労働が支えるタイのブロイラー加工 工場。手間ひまかかる労働集約型製品に特化。 「第二象限」の国際競争力の側面 • 国際競争力の側面からみると決して安定的ではな い。独自の技術開発力を持たないゆえに、常に後 発国による激しい追い上げにさらされているし、新 規の「すきま市場」を絶えず見出すように迫られてい るからである。また、国内の賃金水準が上昇してい けば、単に「企業家の能力」だけに頼って事態を克 服することは困難。生産労働者を含む「職場」での 改善努力、つまり「積み重ね型革新」の実行がより 重要になる。その意味で、企業家は「第二象限」の 左上の位置から新しい技術を求めて「右向き」に進 むか、それとも改善・改良努力を求めて「下向き」に 進むのか、どちらかの道を求められている。 今後の予定 • 工業化が東、東南アジアの労働市場、教育、あるい は社会全体に及ぼした影響。 • 日本型コーポレートガバナンスの可能性。 • 山崎正和の「社交」の概念。 • 「グローバル化」についての考察。 参考文献: ・キャッチアップ型工業化論 末廣 昭 (名古屋大学 出版会) ・日本型コーポレートガバナンス 伊丹 敬之 (日本 経済出版社) ・社交する人間 山崎正和 (中央公論新社)
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