原始密度揺らぎに関する話題 須山輝明 (東大 RESCEU) 1 2 今年の(初期)宇宙論 背景 重力波 3 CMBのBモード偏光 (by BICEP2) インフレーションの証拠か? 4 (1409.5738, Planck) ダストの寄与か? 5 BICEP2の教訓 宇宙は昔も加速膨張(インフレーション)していた インフレーションがいつ起こったかも分かる 超高エネルギースケールでも一般相対論・場の 量子論は正しかった 重力場も量子化されることの証拠 これらが実験的にいつ検証できても おかしくない時代に我々はいる ということを``実感’’させられた 6 インフレーション 現在の宇宙の不自然さを解消するために 提案された純理論的アイデア ビッグバン直後に宇宙が一瞬急速に (加速)膨張すればよい。 10−4 cm 1022 cm (一般相対論によれば可能) 7 (未知の)スカラー場のポテンシャルエネルギー Slow-roll インフレーション 𝐻2 8𝜋𝐺 8𝜋𝐺 = 𝜌≈ 𝑉 3 3 𝑉 1/4 𝑟 16 ≈ 2 × 10 𝐺𝑒𝑉 0.12 𝑎(𝑡) ≈ 𝑒 𝐻𝑡 1/4 インフレーションが終わると、そのエネルギーが他粒子に 転換し、高温の輻射に満ちた宇宙が作られる(再加熱) 8 第二のインフレーション 宇宙は現在また加速膨張している 2011年ノーベル物理学賞受賞 9 現在の宇宙の加速膨張の発見の意義を一般向けに 解説したもの 10 インフレーション理論の先駆者 A.Albrecht A.Starobinsky K.Sato (センター客員教授) (前センター長) A.Guth A.Linde この中からノーベル賞受賞者が?!! 11 P.Steinhardt 原始密度揺らぎの生成 インフレーションによって原始密度揺らぎも自然に 作られる(一般相対論+場の量子論) 量子的揺らぎ (ゼロ点振動) 古典的揺らぎ 𝛿𝜑 𝐻𝑖𝑛𝑓 𝛿𝜑 = 2𝜋 𝛿 (原始密度揺らぎ) 転換の機構は、インフレーションモデルに強く依存する。 12 インフレーション 具体的な機構は未知 重力不安定性による構造形成 大まかな枠組みは理論的に推測できる。しかし、具体的な モデルは分かっていない。 揺らぎが鍵!! 13 Planck これ以上ないほどの精度で揺らぎのパワーが 決定された 他の観測量を用いたプローブが今後重要 14 インフレーションが作る揺らぎの波長帯 インフレーション理論によると、宇宙論的スケールからメートル スケールまでの波長帯の揺らぎが一気に作り出される ~3ケタ ~23ケタ 未知の領域 1028 cm 1m 小スケールの方は観測的に分かっていない 小スケールの揺らぎを探ることができれば、初期宇宙の解明へ 大きく貢献できる 15 インフレーションが作る揺らぎの波長帯 インフレーション理論によると、宇宙論的スケールからメートル スケールまでの波長帯の揺らぎが一気に作り出される ~3ケタ ~23ケタ 未知の領域 小スケールが一つの鍵 1028 cm 1m 小スケールの方は観測的に分かっていない 小スケールの揺らぎを探ることができれば、初期宇宙の解明へ 大きく貢献できる 16 小スケールの揺らぎ 近似的スケール不変をより広範囲で検証。 インフレーション模型の更なる検証。 驚くべき発見があるかもしれない。 将来観測への期待(PRISM,PIXIEなど)。 宇宙物理学的にも興味深い(大質量BHの起源?) 小スケールの揺らぎを調べるため、様々な 観点からアプローチすることが重要。 17 小スケールの揺らぎが、ほぼスケール不変だとは 限らない。 Salopek et al.(1989) Silk, Turner (1987) Kawasaki et al. (2006) インフレーション模型の中には、小スケールで揺らぎが 18 大きく出るような模型もたくさんある。 現在の小スケール揺らぎの制限 (Khatri, 2013) k<1 𝑀𝑝𝑐 −1 : ほとんどスケール不変な揺らぎ k<104 𝑀𝑝𝑐 −1 :CMBのスペクトル歪みからの制限 19 音響再加熱に着目した小スケール揺らぎの大きさ への制限(新しい方法論の提唱) ``Reheating the Universe Once More: The Dissipation of Acoustic Waves as a Novel Probe of Primordial Inhomogeneities on Even Smaller Scales” T.Nakama, TS, J.Yokoyama, PRL, 113(2014) 061302 鍵はシルク減衰 20 揺らぎの時間進化 特定の(共動)波数のモード (Hu&Sugiyama 1994)21 揺らぎの時間進化 特定の(共動)波数のモード 音響振動 超ハッブル領域 シルク減衰 (Hu&Sugiyama 1994)22 シルク減衰とCMBスペクトルの歪み 超ハッブル揺らぎ(凍結) 音響振動 光子拡散によるシルク減衰 背景光子へのエネルギー注入 ※短波長の揺らぎほど、エネルギー注入は早い時期に起こる 23 (Khatri&Sunyaev 2012) 24 CMBスペクトル歪みからの揺らぎの大きさへの制限 (Khatri, 2013) 25 シルク減衰とCMBスペクトルの歪み 超ハッブル揺らぎ(凍結) ホライズン再突入 音響振動 光子拡散によるシルク減衰 𝑘 < 104 𝑀𝑝𝑐 −1 CMB歪み 𝑘 > 104 𝑀𝑝𝑐 −1 少し高温のプランク分布 (音響再加熱と命名!!) 26 CMB歪みを使って、104 𝑀𝑝𝑐 −1 よりも小スケールの揺らぎをプ ローブすることはできない。 それ以上小スケールの揺らぎはプローブできないのか? 27 波数が 104 𝑀𝑝𝑐 −1 <k< 105 𝑀𝑝𝑐 −1 である揺らぎを制限する新しい 方法論を提唱した。 T.Nakama, TS, J.Yokoyama, PRL, 113(2014) 061302 (ほぼ同じ内容の論文, Jeong et al, PRL,113(2014)061301) (因果関係なし) 28 アイデア 上記の範囲の揺らぎは、BBN期以降且つCMB歪み期以前に背景 CMBに散逸する。これにより、光子数がバリオン数に比べて相対 的に増加する。 BBN期でのバリオン光子比 𝜂 = 𝑛𝑏 /𝑛𝛾 は、CMB観測で探る時代 のそれよりも大きくなる。 𝜼𝑩𝑩𝑵 > 𝜼𝑪𝑴𝑩 𝜂 を測る二つの独立な観測によって、初期揺らぎの大きさに 制限をつけることができる。 29 ニュートリノ散逸 ニュートリノ脱結合以前は、ニュートリノ拡散の方が光子拡散より効率的 1 1 𝑙𝜈 = 2 2 ≫ 𝑙𝛾 = 𝜎𝑇 𝑛𝑒 𝐺𝐹 𝑇 𝑛𝑙 𝑘𝜈 ≈ 105 𝑀𝑝𝑐 −1 1+𝑧 1 +𝑧𝑑𝑒𝑐 −6 𝑘 > 105 𝑀𝑝𝑐 −1 この領域の揺らぎは、BBN以前に散逸する 𝑘 < 105 𝑀𝑝𝑐 −1 の揺らぎがBBN以降も存在している。 その揺ら ぎはシルク減衰によって散逸する。 CMB 歪み 104 𝑀𝑝𝑐 −1 < k < 105 𝑀𝑝𝑐 −1 ニュートリノ散逸 30 𝑘 𝑘𝜈 ≈ 105 𝑀𝑝𝑐 −1 1+𝑧 1 +𝑧𝑑𝑒𝑐 −6 105 𝑀𝑝𝑐 −1 𝑘𝐷 ≈ 104 𝑀𝑝𝑐 −1 104 𝑀𝑝𝑐 −1 𝑘ℎ = 𝑎𝐻 ≈ 𝝂 脱結合 BBN 1+𝑧 2 × 106 5𝑀𝑝𝑐 −1 CMB歪み期 3 2 1+𝑧 2 × 106 time 31 背景光子へのエネルギー注入量 (Chluba et al, 2012) 初期揺らぎのスペクトル 104 105 𝑘 32 制限を課す方法 time (Steigman&Nollett, 2014) CMB (Steigman&Nollett, 2014) BBN 6.11(CMB) 6.19(BBN) 33 制限を課す方法 time CMB Δ𝜂 BBN 6.11(CMB) 6.19(BBN) 最も保守的な 𝐴𝜁 に対する制限になっている 34 に対する制限 • この制限は、原始BH制限に拮抗する。 103 𝑀⨀ < 𝑀𝐵𝐻 < 105 𝑀⨀ この質量範囲の原始BHは興味深い(大質量BHの種?) SMBHの起源は、原始ブラックホールではないかと いう説も提唱され、真剣に検討されている。 (Kawasaki, Kusenko, Yanagida 2012) Caution • BH形成は複雑である (臨界現象,初期プロファイル)。 揺ら ぎが非ガウス的であれば、制限は変わる。 35 に対する制限 • 我々の制限は、摂動論に依拠しているため、定量化や観測 量との結びつけも比較的容易。 • 制限を得る方法論が新しい。 • 観測誤差が将来小さくなると、それに比例して制限も強くなる。 原始BH制限は、将来においても現在の制限からほとんど変 わらない。 36 まとめ インフレーションは、広範なスケールに渡って原始密度 揺らぎが存在することを予言する 揺らぎのパワースペクトル(統計的性質)の形は、インフ レーションのモデルごとに異なる 波数が 104 𝑀𝑝𝑐 −1 <k< 105 𝑀𝑝𝑐 −1 の揺らぎを 制限する新しい方法論を提唱し、揺らぎの上 限値を得た。 37 超巨大BH(SMBH)のPBH起源説を検証できるか? K.Kohri, T.Nakama and TS, 1405.5999 (to appear in PRD) 38 超巨大ブラックホール(SMBH) 現在の銀河に存在 106 ~1010 𝑀𝑠𝑢𝑛 大昔にも存在(z ≈ 6) ~109 𝑀𝑠𝑢𝑛 これらの起源はまだ分かっていない。(如何にして、そんな重 いBHを作るのかが大きな課題) SMBHの起源は、原始ブラックホールではないかという説も 提唱され、真剣に検討されている。 (Kawasaki, Kusenko, Yanagida 2012) PBH説の利点:重いBHを初期揺らぎから一気に作ることが可能。 39 原始ブラックホール この質量範囲のPBHは、SMBHの種となりうるため興味深い。 現在のSMBHの質量関数を説明するための PBHの初期質量関数 model2 model1 (Bean&Magueijo, 2002) 40 インフレーションモデル (Kawasaki, Kusenko, Yanagida 2012) 41 このモデルで作られるパワースペクトル Kawasaki, Kusenko, Yanagida(2012)より 42 原始ブラックホール 放射優勢期にホライズン再突入した密度揺らぎがある 閾値 (=0.5) を超えていれば、その領域はBHになる。(Carr&Hawking 1974) δ x PBHの質量は、揺らぎの共動波数と対応する。 43 各質量のPBHに対する観測的上限 abundance of PBHs when they were formed (Carr, Kohri, Sendouda, Yokoyama, 2010) ~ have been evaporated by now can still exist in our universe due to Hawking radiation 44 原始ブラックホール PBH形成が起こる場所は稀でなければならない。さもな いと宇宙がPBHだらけになる。 (Gaussian PDF is assumed) もしSMBHの起源がPBHだとすると、揺らぎは上記の標準偏差を 持たなければならない。 δ x 45 ウルトラコンパクトミニハロー(UCMHs) δ x 密度揺らぎが典型的にそのくらい大きいと、ホライズン再突入 後にも成長を続ける暗黒物質の揺らぎが、matter radiation equalityの時代あたりで崩壊し、ハローを作る。 ハローはコンパクトで高密度なので、ウルトラコンパクトミニハ ローと名付けられた (UCMHs)。 (Ricotti and Gould, 2009) 46 ウルトラコンパクトミニハロー(UCMHs) Logarithm of Gaussian PDF area = 10−18 𝜹𝐜,𝐔𝐂𝐌𝐇 = 𝟏𝟎−𝟑 ≪ 𝝈𝜹 =0.06 Log𝛿 𝛿𝑐 UCMH形成へと導く揺らぎは、稀ではない!! 多数のDM粒子がUCMHの中に含まれる。 47 ウルトラコンパクトミニハロー(UCMHs) UCMHは暗黒物質から成る。よって、UCMHの質量は PBHのそれよりも小さい。 48 アイデア SMBHの種としてのPBH説が正しければ、UCMHがたくさん作られ る。 DM粒子が対消滅し、光子などの標準模型に含まれる粒子に転 換すれば、UCMHからの宇宙線が期待される。フェルミなどの観 測データからPBH説と矛盾しないための対消滅断面積の上限が 得られる。 将来なされるであろうDM粒子の解明は、SMBHの種についても 知見をもたらす。 49 アイデア • Assuming PBHs (δ~1) are seeds of SMBHs, numerous UCMHs (δ~𝟏𝟎−𝟑 ) should exist. upper limits UCMH 𝜒𝜒 𝑏𝑏 + 𝑊 𝑊 − … … 𝛾s 𝛾s < observed flux … • The scenario of PBHs explaining SMBHs is INCOMPATIBLE with DM models in which the cross sections exceed these upper limits. 50 Method of calculation Bringmann, Scott, Akrami, 2012 Kohri, Nakama, TS, in 1405.5999. UCMH Φ𝑘 earth↔UCMH Log𝜌𝜒 (𝑟) 𝑟 −𝛼 𝑟𝑐 k-th mode Log 𝑟 Earth flux from a UCMH U U U U E 𝐹diff flux from several UCMHs 1 TeV # of photons per one annihilation radius of Milky Way center of ↔earth Milky Way NFW profile 51 Comparison of 𝛾-rays from UCMHs and observation DM particle mass = 1TeV extra galactic gamma-ray background (Abdo et al.2010) E(MeV) to be consistent with observation. 52 𝑏𝑏 + 𝑊 𝑊 − 𝜏 +𝜏− 53 Dependence of the flux on PBH mass DM particle mass = 1TeV E(MeV) The flux is very insensitive to the PBH(UCMH) mass.54 Upper limits on the cross section excluded allowed to be consistent with observation. 55 Dependence on dark matter mass 𝑊 +𝑊 − 𝑏𝑏 𝜏+𝜏− In most cases, the PBH scenario is not compatible with the canonical annihilation cross section for DM to SM particles. 56 Neutrino flux 𝑊 +𝑊 − 𝑏𝑏 𝜏+𝜏− 57 Constraints from neutrinos 𝑊 +𝑊 − 𝑏𝑏 𝜏+𝜏− 58 Constraints from neutrinos are weaker than those from photons. Primordical Black Hole (PBH) • 放射優勢期中、ある高密度領域のhorizon reentry時に が満たされていると、崩壊してPBHができる (Carr 1975) • 形成時刻によって、様々な質量のPBHが形成し得る • 存在すればmicrolensingで検出される、 高エネルギー粒子を放出する、 連星系をなして重力波を放出するetc… • これまでに様々な観測的手法を用いてそれぞれの質量の PBHの存在量に上限が得られている 59 各質量のPBHに対する観測的上限 abundance of PBHs when they were formed (Carr, Kohri, Sendouda, Yokoyama, 2010) ~ have been evaporated by now can still exist in our universe due to Hawking radiation 60
© Copyright 2025 ExpyDoc