PowerPoint プレゼンテーション

2011年10月13日(木)
地球研FS「下流汚染蓄積型湖沼の水環境問題と未来可能性に関する研究」勉強会
流域ガバナンスに関する
研究紹介と提案
大野智彦
阪南大学経済学部
1
報告の内容
1. 自己紹介
–
環境政策学、河川政策、参加と合意形成、ローカル・コモン
ズ、ガバナンス
2. 流域ガバナンスとは?
–
背景と定義、分析枠組み、高まる注目
3. 流域ガバナンスにおける参加
–
–
流域委員会の制度的特徴
流域委員会の事例研究
4. 何が参加を促進するのか?
–
–
社会関係資本の影響
社会関係資本の形成
5. 湖沼流域ガバナンス研究に向けて
–
–
ガバナンスの比較(支流域間、湖沼間、時系列)
ガバナンスとそのアウトカムの関係
2
1.自己紹介
3
2-1.流域ガバナンスの定義と背景
• ガバナンス論
• 語源はギリシャ語 Kubernan 「舵取り」
• 政府を中心とした伝統的な権力主体への批判的視座と、非政府アク
ターを含めた現代的統治システムの再検討・再構築という問題意識
• 環境ガバナンスはグローバルなレベルの議論に始まりローカルな議
論へ展開
• 規範的概念と分析的概念の混在
• 環境ガバナンス
• 上(政府)からの統治と下(市民社会)からの自治を統合し、持続可能
な社会の構築に向け、関係する主体がその多様性と多元性を生かし
ながら積極的に関与し、問題解決を図るプロセス (松下・大野 2007)
• 流域ガバナンス
• 流域管理の困難:科学的不確実性、地域固有性、空間的重層性
• 単一機関による画一的ガバナンスではなく、利害関係者の参加とコ
ミュニケーションを通じた協動的ガバナンスが必要(大野 2009a)
4
文脈(Context)
・社会経済状況
・市民コミュニティの状況
・生態系の状況
・政府組織
流
域
の
状
況
の
変
化
過程(Process)
協働的流域管理のための
組織
市民コミュニティ(Civic Community)
・人的資本
・社会関係資本
・政治的有効性
・信頼
・レジティマシー
・集合行為に関する信念
政策アウトプット(Policy Outputs)
・計画(形成)
・プロジェクト(実施)
組
織
の
存
続
流域のアウトカム(Watershed Outcomes)
生態的、社会経済的状況に対する認識
上、実際上の変化
図1.1 流域管理のための動的枠組み (Sabatier et al. 2005)
5
2-2.流域ガバナンスに関する注目の高まり
• 「琵琶湖淀川のこれからの流域管理に向けて」
(2011年3月、滋賀県)
– 琵琶湖淀川の流域管理に関する検討委員会(10名
の有識者、公募委員)で5回議論
– さまざまな主体の参画と連携をより重視し、柔軟性の
ある新たな管理のしくみ=「流域ガバナンス」が必要
• ILBM(統合的湖沼流域管理)
– Institutions, Participation, Policies, Information,
Technology, Financeの5つの要素に注目
– 計画や評価の指針として、各地で活用
6
3-1.河川法改正と流域委員会
• 河川政策の課題
→ 「環境保全」と「参加」の欠如
• 「環境」と「参加」の充実を図る河川法改正
– 「河川環境の整備と保全」が目的に追加
– 関係住民、学識者の意見反映
• 各地で設置される流域委員会
– 河川整備計画の策定にあたって学識経験者、住
民が意見を述べる場として新たに設置
7
流域委員会の制度的特徴にもとづく類型化(大野 2011)
設置日、基本方針との関係、開催回数、各委員構成比、
総委員数を対象にクラスター分析を実施
⑥
③
①
④
⑤
②
6つのグループを抽出
8
各クラスターの特徴
9
3-2.流域委員会の事例研究
• 形骸化した流域委員会
– 肱川流域委員会の事例研究(大野 2009b, 2009c)
– 地域の実情に合わない制度設計
– 「市民参加」=たくさんの人から意見を聞けばよいという
誤解の危険性
• 先進的な流域委員会の取り組みとその困難
– 淀川水系流域委員会の事例研究
– 制度的特徴と変遷、「地域」の定義、政治過程
– 議論内容の把握
10
4-1.河川管理における参加行動と社会関係資本の関連
• 背景・目的
– 市民参加の機会が制度化されたとしても、行政
が参加の場の設定に消極的だったり、住民が積
極的に参加しないことも(原科 2002)
– 制度的に市民参加の場を設けるだけで十分なの
だろうか?
流域管理への参加を促進する社会的条件につい
ての考察が必要
ここでは、その1つの要因として
社会関係資本と参加行動の関連を定量的に分析
11
分析の枠組み
• 社会関係資本:「調整された諸活動を活発に
する信頼、規範、ネットワーク」(Putnam 1993)
• 4つのタイプのSCが、参加行動にどのような
影響を与えているのか検討する
個人レベルSC
個人属性
参加行動
流域環境への態度
12
社会関係資本が高い人ほど参加する(Ohno et. al 2009)
Model 1
Model 2
行政が主催した活動への参加
水路掃除への参加
0.13 (0.15)
0.46 (0.15)***
bridge-stsc
0.48 (0.21)**
0.02 (0.19)
bond-cgsc
0.32 (0.14)**
0.13 (0.10)
0.08 (0.10)
-0.05 (0.07)
0.06 (0.03)**
0.06 (0.03)**
-0.27 (0.17)
-0.21 (0.13)
115.40***
64.42***
0.24
0.11
93.0%
72.5%
Dependent variables
個人レベル社会関係資本
bond-stsc
bridge-cgsc
Informal
networks
Generalized trust
χ2
R-Square (U)
Percent correct
なお、各説明変数の分散拡大要因(VIF)は以降すべて2.0以下
性別、年齢などの統制変数は記載を省略している
13
4-2.流域ガバナンスを支える社会関係資本への投資
• 背景・目的
社会関係資本の効果に関する研究は多数行なわれてい
るが、その形成を促進する政策のあり方は十分解明され
ていない
研究目的:
社会関係資本の形成を促進する政策のあり方について、
琵琶湖流域において国土交通省が行なう流域連携支援
の取り組みを具体例として検討する
手法:
ウォーターステーション琵琶を利用する14の市民団体の
代表者に対する聞き取り調査
14
支援内容と形成されたネットワークの関連
(大野 2007)
施設利用のきっかけ
施設提供・広報支援型
4団体 平均1.5(1.91)
オープニングイベント型
11団体 平均2.18(1.47)
支援の具体的内容
施設提供・広報支援
ネットワーク型
1団体 4
施設への要望
協働・コーディネート
平均値は、新たに知り
合った団体数。カッコ内
は標準偏差
施設提供・広報支援型
8団体 平均1.88(1.47)
協働・コーディネート型
6団体 平均2.17(1.47)
その他
2団体 1(0)
15
• 流域連携支援として通常行われている「施
設提供・広報支援」(物理的な支援)と
いった機能に加え、「協働・コーディネー
ト」(住民活動への参加、情報収集、提
供)が有効に機能
• 社会関係資本への政策的投資として、異な
る住民活動をつなぎ合わせ新たな価値を創
出するといったコーディネーターの確保、
育成が有益な手段であることを示唆
16
5.いくつかの研究提案
• ガバナンスの比較(社会的状況、アクターの認識と
行動、アクター間の相互作用、諸制度に注目して)
– 支流域間:霞ヶ浦支流域間の比較
– 湖沼間:国内外の他の湖沼との比較
– 時系列:霞ヶ浦での時系列比較
• ガバナンスとそのアウトカムの関係
– ガバナンスの違いが、実際の環境状態の違いにつながっ
ているのか?
– 自然科学的研究とのリンク
• 持続可能な水管理に関するレビュー
17
参考文献
原科幸彦(2002)「環境計画と市民参加」寄本勝美・原科幸彦・寺西俊一編『地球時代の自治体環境政策』ぎょうせい,
pp.28-42.
松下和夫・大野智彦(2007)「環境ガバナンス論の新展開」松下和夫編著『環境ガバナンス論』京都大学学術出版会,
pp.3-31.
大野智彦(2007)「流域ガバナンスを支える社会関係資本への投資」松下和夫編著『環境ガバナンス論』京都大学学術出
版会, pp.167-195.
大野智彦(2009a)「流域管理とコモンズ・ガバナンス・社会関係資本 -流域管理における管理主体のあり方」和田英太郎
監修、谷内茂雄・脇田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』
京都大学学術出版会, pp.482-494.
大野智彦(2009b)「肱川水系河川整備計画の策定手続きが抱える問題点」有友正本編著『肱川 清流の復活を求めて』
アットワークス, pp.61-76.
大野智彦(2009c)「河川管理における市民参加の理念と実際 -河川整備計画の策定手続きを対象として」室田武編著
『グローバル時代のローカル・コモンズ』ミネルヴァ書房, pp.147-167.
大野智彦(2011)「流域委員会の制度的特徴 一級水系の直轄管理区間を対象として」環境経済・政策学会2011年大会報
告論文
大野智彦・田中拓弥・坂上雅治(2009)「階層間コミュニケーションを促進する社会的条件」和田英太郎監修、谷内茂雄・脇
田健一・原雄一・中野孝教・陀安一郎・田中拓弥 編『流域環境学 流域ガバナンスの理論と実践』京都大学学術出版
会, pp.397-415.
Ohno, T., T. Tanaka, and M. Sakagami (2010) Does social capital encourage participatory watershed
management?: An analysis using survey data from the Yodo River watershed, Society & Natural Resources,
23(4), pp.303-321.
Putnam, R. D. 1993. Making Democracy Work: Civic Traditions in Modern Italy. Princeton:Princeton University
Press.
Sabatier, P. A., W. Focht, et al., eds. (2005). Swimming upstream : collaborative approaches to watershed
management. Cambridge, Mass., MIT Press.
18