LC/MSを用いた生物試料中の ジラム、マンゼブの定量 株式会社住化分析センター ○木村 義孝、村上 雅志、竹田 菊男 ジラム 構造 S (H3C)2N-C-S 2 Zn 物性 分子量 融点 (℃) 305.83 250~ 251.5 蒸気圧 (mPa) <1 (25℃) 水溶解度 LogPow (mg/L) 1.58-18.3 (20℃) 1.23 マンゼブ 構造 S S -S-C-NH-CH2-CH2-NH-C-S x Mny Znz 物性 分子量 融点 (℃) 270.53 192~194 蒸気圧 (mPa) 極小 (20℃) 水溶解度 LogPow (mg/L) 不溶 1.20 分析上のポイント ジチオカルバメート系農薬は、金属錯体のままで はほとんどの溶媒に溶けない 対象物質をアルカリ性EDTA溶液でナトリウム塩 に変換して可溶化 ヨウ化メチルでメチルエステル化 ジラムはジメチルジチオカルバミン酸メチル (DMDTC-Me)として分析 マンゼブはエチレンジチオカルバミン酸ジメチル (EBDTC-2Me)として分析 分析上の注意点 ジメチルジチオカルバミン酸及びエチレンジチオカルバミ ン酸を構造に持つ物質の分別定量ができない ジラム換算合量及びマンゼブ換算合量 DMDTC-Me (ジラムの誘導体化物)を生成する物質: チウラム、有機ニッケル等 EBDTC-2Me (マンゼブの誘導体化物)を生成する物質: ジネブ、マンネブ、アンバム、ポリカーバメート等 ジラム、マンゼブ(生物) 分析フローチャート ×2 生物試料 10 g ホモジナイズ 振とう 遠心分離 ジクロロメタン 10 mL + 5% L-システイン-5% EDTA溶液 25 mL ホモジナイズ5分 30分 3000rpm 5分 pH調整 メチル化・抽出×2 濃縮・転溶 0.4 mol/L TBA溶液 5 mL 2 mol/L塩酸、pH7.5~7.7 0.1 mol/Lヨウ化メチル含有 アセトン/ヘキサン(1:2) 50 mL 約2 mLまで濃縮 アセトニトリル転溶、 約2 mLまで濃縮 濃縮 LC/MS-SIM 約0.5 mLまで 精製水で1.0 mLに 定容 ジラム:Pos+ マンゼブ:Neg- クリーンアップ Sep-Pak Plus C18 + Sep-Pak Plus Alumina N 負荷、アセトニトリル 1 mLで洗浄負荷 アセトニトリル 7 mL + 25 mLで溶出 分析条件(LC) LC 機種 カラム Agilent 1100 LC 移動相 A:0.1%ギ酸 B:アセトニトリル 0→20 min A:70%→5% B:30%→95% Linear gradient 0.2 mL/min 30℃ 20 µL 流量 カラム温度 注入量 SUMIPAX ODS K-03-2015 (2 mm×150 mm, 3 µm) 分析条件(MS) MS 機種 キャピラリー電圧(Vcap) ネブライザー ドライングガス流量及び温度 イオン化法 モニターイオン Agilent 1100 MSD SL 3000 V N2(50 psi) N2(10.0 L/min, 320℃) ESI-SIM ジラム:Pos+, マンゼブ:Negジラム 136/138 マンゼブ 239/191 標準物質測定クロマトグラム ジラム(定量イオン): 2 ng 6000 4000 2000 0 8 10 12 14 16 18 min 14 16 18 min 16 18 min 16 18 min 6000 ジラム(確認イオン) 4000 2000 0 8 10 12 マンゼブ(定量イオン): 0.2 ng 6000 4000 2000 0 8 10 12 14 マンゼブ(確認イオン) 6000 4000 2000 0 8 10 12 14 標準物質測定クロマトグラム LC/MS測定条件の検討 測定モードと感度 (単位:pg、約S/N=3) 測定モード APCI ESI Positive Negative Positive Negative ジラム 100 - 100 - マンゼブ 100 100 10 10 APCIモードでは、ベースラインの異常上昇及び感度変動 などが顕著 → ESIモードでの測定 ESI-Positive モードでは、マンゼブ定量イオン(m/z 241) のベースラインが上昇 → ジラムはESI-Positiveモード、 マンゼブはESI-Negativeモードで測定 ホモジナイズ後抽出方法の検討 既報における問題点 クロロホルム/ヘキサン(3:1)によるメチル化・抽出 → LC/MSでの測定においてイオン源に白い粉末や油状の 物質が付着 → ベースラインの著しい変動や感度の低下 → 生物試料を使用しない前処理操作でも低い回収率 抽出溶剤変更の検討 ジクロロメタン/ヘキサン(3:1)、ヘキサン 及び アセトン/ヘキサン(1:2) 採用 市販のDMDTC-Me及びEBDTC-2Me (林純薬工業株式 会社)の測定結果 → DMDTC-Me:66.8%、EBDTC-2Me:69.4% 濃縮方法の検討 エバポレーター濃縮による回収率の低下 ジラム: マンゼブ: 揮散 分解 防止策 酸化防止剤:1% L-システイン含有メタノール添加 濃縮は約2 mLまでとし、乾固を避ける 回収率の改善 検量線の作製方法 本法の誘導体化効率(回収率) ジラム: 66.8% マンゼブ: 69.4% 検量線用の標準溶液 試料と同様の操作を行い調整 検量線 DMDTC-Me, MSD1 136 Area = 12680.7058*Amt +0 EBDTC-2Me, MSD2 239 Area = 60573.097*Amt +0 Area Area 120000 250000 7 7 100000 200000 80000 150000 6 6 60000 100000 40000 5 5 50000 20000 4 12 12 0 Correlation: 0.99996 0 4 3 10 Amount[ng] ジラム(0.2~20 ng) 3 0 Correlation: 0.99955 0 1 Amount[ng] マンゼブ(0.02~2 ng) IDL、MDL IDL 成分 ジラム マンゼブ 試料量 10 10 (g) 最終液量 1 1 (mL) 注入液濃度 25 2.5 (µg/L) 装置注入量 20 20 (µL) IDL (ng) IDL (µg/kg) 0.064 0.0072 0.32 0.036 MDL 成分 ジラム マンゼブ 試料量 10 10 (g) 最終液量 1 1 (mL) 注入液濃度 25 2.5 (µg/L) 装置注入量 20 20 (µL) MDL (µg/kg) 0.53 0.074 MQL (µg/kg) 1.37 0.191 操作ブランク、添加回収試験 操作ブランク 検出せず 添加回収試験(カレイ) 物質名 ジラム マンゼブ 試料量 添加量 検出濃度 回収率 変動係数 測定回数 (g) (ng) (µg/kg) (%) (%) 10 25 7 10 150 3 10 10 2.5 15 7 3 60 12.0 80 0.168 67 1.58 106 1.51 9.1 6.3 11.4 8.3 環境試料分析例 1500 ジラム(定量イオン):不検出 1000 500 8 10 12 14 16 18 min 12 14 16 18 min 14 16 18 min 14 16 18 min 1500 1000 500 ジラム(確認イオン) 8 10 マンゼブ(定量イオン):不検出 1500 1000 500 8 10 12 マンゼブ(確認イオン) 1500 1000 500 8 10 12 カレイ測定クロマトグラム 環境試料分析例 MSD1 136, EIC=135.7:136.7 API-ES, Pos, SIM, Frag: 90 ジラム(定量イオン):試料濃度 15 µg/kg 1000 750 500 250 8 10 MSD1 138, EIC=137.7:138.7 API-ES, Pos, SIM, Frag: 90 12 8 10 MSD2 239, EIC=238.7:239.7 API-ES, Neg, SIM, Frag: Var 12 8 10 MSD2 191, EIC=190.7:191.7 API-ES, Neg, SIM, Frag: Var 12 14 16 18 min 14 16 18 min ジラム(確認イオン) 1000 750 500 250 マンゼブ(定量イオン):試料濃度 1.5 µg/kg 1000 750 500 250 14 16 18 min 16 18 min マンゼブ(確認イオン) 1000 750 500 250 8 10 12 14 添加回収試験クロマトグラム(カレイ) まとめ 本法により、生物試料中ジラム1 μg/kgレベ ルおよびマンゼブ0.1 μg/kgレベルの定量が 可能である。 なお本検討の内容は、環境省より委託された 「平成17年度化学物質環境実態調査暴露量 調査(生物)分析調査」によるものである。
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