有限幾何学 第5回 有限幾何学 第5回 1. ハミルトングラフ 1. 必要条件と十分条件 1.1 必要条件と十分条件(前回の復習) ハミルトン閉路 :グラフの全ての頂点を含む閉路 ハミルトングラフ :ハミルトン閉路をもつグラフ ハミルトン道 :グラフの全ての頂点を含む道 グラフがハミルトングラフであるための 必要十分条件は知られていない 1.1 必要条件と十分条件(前回の復習) ハミルトングラフであるための必要条件の例 ハミルトングラフであるための必要条件の例 グラフGがハミルトングラフ 空ではない任意のS⊆V(G)に対して,K(G-S) ≦|S| k(G-S):GからSを取り除いてできるグラフの連結成分の数 1.1 必要条件と十分条件(前回の復習) ハミルトングラフであるための必要条件の例 グラフGがハミルトングラフ 空ではない任意のS⊆V(G)に対して,K(G-S) ≦|S| u v w 左のグラフはハミルトングラフではない ∵ k(G-{u,v,w})=5, |{u,v,w}|=3 より, ある空ではないS⊆V(G)に対して, K(G-S) >|S|となるので 1.1 必要条件と十分条件(前回の復習) ハミルトングラフであるための必要条件の例 グラフGがハミルトングラフ 空ではない任意のS⊆V(G)に対して,K(G-S) ≦|S| 注意: 逆は成立しない 例えば左のグラフは, 空ではない任意のS⊆V(G)に対して, K(G-S) ≦|S|となるが ハミルトングラフではない 1.1 必要条件と十分条件 次に十分条件について考える 完全グラフはハミルトングラフ 完全グラフから多少辺を除いてもハミルトングラフ 辺の本数に関する十分条件の問題 辺の本数がどのくらい多ければハミルトングラフであるか? 1.1 必要条件と十分条件 ハミルトングラフであるための十分条件の例 辺の本数に関する十分条件の例 G:位数n≧3の単純グラフに対し, |E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+2 証明:今日の提出課題 Gはハミルトングラフ 1.1 必要条件と十分条件 完全グラフはハミルトングラフ 完全グラフは各頂点の次数が|V(G)|-1のグラフ 各頂点の次数が|V(G)|-1より多少小さくてもハミルトングラフ 次数に関する十分条件の問題 各頂点の次数がどれぐらい大きければハミルトングラフであるか? 1.1 必要条件と十分条件 ハミルトングラフであるための十分条件の例 次数に関する十分条件の例(Dirac) G:位数n≧3の単純グラフに対し, dG(v) ≧ n/2 for ∀v ∈ V(G) Gはハミルトングラフ 1.1 必要条件と十分条件 ハミルトングラフであるための十分条件の例 次数に関する十分条件の例(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 「dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G)」は 「dG(v) ≧ n/2 for ∀v ∈ V(G)」よりも弱い条件 ∴ Diracの定理はOreの定理から導くことができる 1.1 必要条件と十分条件 補足1:条件の強弱に関して 2つの条件AとBに対して,A ⇒ B が成り立つとき, AはBより強い条件,BはAより弱い条件であるという. 補足2:条件に強弱関係がある2つの定理に関して 「定理1:A ⇒C」 と 「定理2:B ⇒ C」 に対して, BがAより弱い条件であるとき(A ⇒B が成り立つ), 定理1は定理2より導くことができる. ∵ 定理2が成り立つとすると,A ⇒ B ⇒ C となるので 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:上の定理が正しくないと仮定し,矛盾を導く. 上の定理が正しくないと仮定すると, 「定理の仮定を満たすが,ハミルトングラフではないグラフ」 が存在する. 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:上の定理が正しくないと仮定すると, 「定理の仮定を満たすが, ハミルトングラフではないグラフ」・・・① が存在する. ①のグラフで, 辺を追加してしまうと①のグラフではなくなるものをGとする. 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:「定理の仮定を満たすが, ハミルトングラフではないグラフ」・・・① ①のグラフ ①のグラフ 辺を追加していく 注:少なくとも一つは ①のグラフが存在する G 1辺追加すると 注:辺を追加しても 定理の仮定を満たす ①ではない グラフ 注:辺を追加し続けると ハミルトングラフになる 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:Gの非隣接な2頂点u,vに 辺uvを加えたグラフはハミルトングラフ. u v 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:Gの非隣接な2頂点u,vに 辺uvを加えたグラフはハミルトングラフ. Gにuとvを結ぶハミルトン道Pが存在する. u v 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:Gにuとvを結ぶハミルトン道Pが存在する. P u v 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:Claim. 以下のような状況は起こり得ない. v u NG(u) と NG(v) が P上隣同士で交差している状況 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:Claimの証:Gはハミルトングラフではないので 以下のような状況は起こり得ない. u v 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:NG(v)に属する各頂点に対して,以下のように V(G)-NG(u)に属する異なる頂点を対応させることができる. u x y f(x) z f(y) v f(z) x∈NG(v) に対し,x の右隣の頂点 f(x) ∈V(G)-NG(u) を対応させる 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:∴ NG(v)からV(G)-NG(u)への単射fが存在する . u x v f(x) x∈NG(v) に対し,x の右隣の頂点 f(x) ∈V(G)-NG(u) を対応させる 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:Claimより,NG(u) ⊆V(P)-{ u }-f(NG(v)) が成立. u x y f(x) z f(y) v f(z) 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 証明:NG(u) ⊆V(P)-{ u }-f(NG(v)) と u ∉ f(NG(v)) と fが単射より, dG(u) =|NG(u)| ≦ |V(P)|-1-|f(NG(v))|=n-1-|NG(v)|=n-1-dG(v). ∴ n ≦ dG(u)+dG(v) ≦ n-1 となり矛盾 1.1 必要条件と十分条件 次数に関する条件(Ore) G:位数n≧3以上の単純グラフに対し, dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G) Gはハミルトングラフ 「dG(u)+dG(v) ≧ n-1 for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G)」・・・① だと上の定理は成立しない. このことを示すには, 例えば,条件①を満たすが, ハミルトングラフではないグラフの例をつくればよい. 1.1 必要条件と十分条件 「dG(u)+dG(v) ≧ n-1 for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G)」・・・① を満たすがハミルトングラフではないグラフの例: 完全2部グラフ Km,m+1 m個 u v m+1個 n=|V(G)|=2m+1. 非隣接な2頂点u,vで 次数の和が最小になるものは左図の2頂点で, dG(u)+dG(v)=2m=n-1 ∴ このグラフは条件①を満たす. 1.1 必要条件と十分条件 「dG(u)+dG(v) ≧ n-1 for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G)」・・・① を満たすがハミルトングラフではないグラフの例: 完全2部グラフ Km,m+1 m個 S u v ハミルトングラフではない ∵ 左図の頂点集合Sに対し,k(G-S) > |S| m+1個 提出課題 辺の本数に関する条件 G:位数n≧3の単純グラフに対し, |E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+2 Gはハミルトングラフ 問題: (1) |E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+1だと上の定理が成立しない理由を述べよ. (2) Oreの定理を用いて上の定理を証明せよ. --------(3)は余裕がある人用---------(3) nが6以上のとき,上の定理の条件とDiracの定理の条件の間には 強弱関係がない.その理由を述べよ. 提出課題 辺の本数に関する条件 G:位数n≧3の単純グラフに対し, |E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+2 Gはハミルトングラフ ヒント: (1) |E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+1だと上の定理が成立しない 理由を述べよ. ・|E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+1だがハミルトングラフではない例を作る ・位数n-1の完全グラフの辺の数は(n-1)(n-2)/2 提出課題 辺の本数に関する条件 G:位数n≧3の単純グラフに対し, |E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+2 Gはハミルトングラフ ヒント: (2) Oreの定理を用いて上の定理を証明せよ. 上の定理の条件がOreの定理の条件より強いことを言えばよい. つまり, 「|E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+2」のもとで, 「dG(u)+dG(v) ≧ n for ∀u≠∀v ∈ V(G) with uv ∉ E(G)」が 成立することを示せばよい 提出課題 辺の本数に関する条件 G:位数n≧3の単純グラフに対し, |E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+2 Gはハミルトングラフ ヒント: (2) Oreの定理を用いて上の定理を証明せよ. |E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+2のもとで, dG(u)+dG(v) < n となる 非隣接なGの2頂点uとvが存在すると仮定し,矛盾を導く 提出課題 辺の本数に関する条件 G:位数n≧3の単純グラフに対し, |E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+2 Gはハミルトングラフ ヒント: (2) Oreの定理を用いて上の定理を証明せよ. dG(u)+dG(v) < n に注意して辺の数の上限を考える u v G-{u,v} 提出課題 辺の本数に関する条件 G:位数n≧3の単純グラフに対し, |E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+2 Gはハミルトングラフ ヒント: (3) nが6以上のとき,上の定理の条件とDiracの定理の条件の間には 強弱関係がない.その理由を述べよ. |E(G)|≧(n-1)(n-2)/2+2かつδ(G)<n/2であるグラフが見つかると 上の定理の条件からDiracの定理の条件が導けないことがいえる. (完全グラフと1頂点を2辺でつないだグラフを考える) 提出課題 辺の本数に関する条件 G:位数n≧3の単純グラフに対し, |E(G)| ≧ (n-1)(n-2)/2+2 Gはハミルトングラフ ヒント: (3) nが6以上のとき,上の定理の条件とDiracの定理の条件の間には 強弱関係がない.その理由を述べよ. δ(G)≧n/2かつ|E(G)|<(n-1)(n-2)/2+2であるグラフが見つかると Diracの定理の条件から上の定理の条件が導けないことがいえる. (nが偶数:部集合の位数が等しい完全2部グラフ Kn/2 n/2を考える nが奇数:K(n-1)/2 (n-1)/2と他の1頂点を辺で結んだグラフを考える)
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