維持管理工学 - 長崎大学工学部工学科構造

H21年度 特定道守(鋼構造)コース
補修・補強概論(2)
-疲労損傷・変形部材-
講義内容

疲労損傷部材の補修・補強

変形部材の補修・補強
疲労損傷部材
の補修・補強
補修・補強の留意点

基本
 損傷をできるだけ早期に発見し,損傷が軽微なうちに,よ
り簡易な方法により実施すること.

留意点
 き裂の発生形態が類似していても,一般に危険度が異な
る.
→ 慎重な対応が必要
 損傷部位が狭隘部であることが多く,き裂長さの評価,適
切な施工が困難.
→ 内外面からの非破壊試験,削り込みの実施等
→ できる限り現場施工の容易な対策工法の選定
補修・補強方法

応急的な対策
 ストップホールによるき裂の進展防止対策
 表面切削によるき裂の進展防止対策

補修方法
 き裂の溶接補修
 添接板によるき裂の補修

補強方法
 溶接継手部の疲労強度の改善
 部材接合部の構造ディテールの改良
 橋梁全体構造の改良
応急的な対策①
ストップホールによるき裂の進展防止

概要
 き裂先端部に孔をあけ,応力集中を低減
 検討時間確保のための応急対策
 他の恒久対策と併用
 高力ボルトを挿入し締付けることで効果が向上

留意点
 き裂先端部が確実にストップホール内に入るよう施工
 き裂再発防止のため孔面を仕上げ
 高力ボルトによる締付けを考慮すると孔径は24mm
(一般に大きい方が望ましい)
よい施工例
悪い施工例
ストップホールの施工方法
ストップホール(SH)
SH+ボルト締め
応急的な対策②
表面切削によるき裂の進展防止

概要
 表面からき裂を切削除去
 基本的に一時的な対策
 溶接部の止端仕上げと併用して恒久対策

留意点
 切削深さは2mm程度まで.丁寧な仕上げが重要
 切削面におけるき裂残留の有無を確認
(磁粉探傷等)
損傷部の補修方法①
き裂の溶接補修

概要




軽微なき裂をグラインダー等で
除去後,再溶接
再溶接により,残留応力,ひず
みが増加
鋼材によってはラメラテアや高
温割れ等の溶接欠陥が発生
留意点



き裂の溶接補修要領
所定の品質が確保できるような溶接方法,施工管理方法
基本的に,損傷が軽微な段階の場合,もしくは他の恒久的対策との
組み合わせを前提とする場合のみに適用
グラインダー,ガウジング等によるき裂の完全除去が必要
損傷部の補修方法②
添接板によるき裂の補修

概要




き裂発生部に添接板を接合.き裂部分
を閉じ合わせ,かつ断面欠損を補う
き裂が大きく進展している場合に適用
添接板の接合にはすみ肉溶接より
高力ボルト摩擦接合を多用
留意点



母材と同等以上の強度を確保できる鋼板を添接板として使用
添接板への応力伝達を円滑にするため,ある程度の広範囲に添接
板を設置
き裂先端にストップホールをあければ,き裂を溶接で埋め戻す必要な
し
損傷部の補強方法①
溶接継手部の疲労強度の改善

概要
 溶接部のビード形状改良により局部的な応力集中を低減
し,疲労強度を改善
 グラインダーによる切削加工やTIG処理

留意点
 グラインダーによる方法はTIG処理に比べ品質のばらつ
きが大きい
 TIG処理では母材の板厚方向への溶け込み(き裂の溶か
し込み)を期待可(溶け込み深さ1~2mm程度)
疲労強度の向上法

応力集中の低減(溶接部形状の平坦化)





溶接部の切削,研削(余盛削除,止端のグラインダー仕上げ)
溶接止端部の再溶融(TIG,プラズマ)
化粧溶接法
ウォータージェット
残留応力のコントロール




予荷重,加熱急冷
局部加熱
ピーニング(ショット,ワイヤ,ハンマー)
低変態温度溶接材料
止端部のグラインダー仕上げ
burrグラインダー
diskグラインダー
アンダーカットを取り除いた後,
0.5mm程度切削する
S J Maddox: Fatigue Strength
of Welded Structures
(Second Edition)より引用
プラズマによる止端部の再溶融
A
A
S J Maddox: Fatigue Strength
of Welded Structures
(Second Edition)より引用
断面A-A
ハンマーピーニング
処理後の断面
処理状況
S J Maddox: Fatigue Strength of Welded Structures
(Second Edition)より引用
疲労強度向上効果の例
S J Maddox: Fatigue Strength of Welded Structures
(Second Edition)より引用
損傷部の補強方法②
部材接合部の構造ディテールの改良

概要




局部的な応力・変形性状を改善するた
めに実施
応力伝達がスムーズとなるよう構造デ
ィテールを改良
補強材(添接板,リブ等)の追加による
剛性向上(応力,変形の低減)
留意点


補強材の接合方法は一般に高力ボルト摩擦接合
接合部の剛性向上が負担荷重の増大をもたらす可能性あり
構造ディテールの改良例
対象構造物 桁端切欠き構造を持つ鋼橋等.
補修目的
当板によって切欠き構造部の腹板のせん断抵抗を増強し,亀
裂が入った場合でも大きく進展するのを抑える.
工法概要
応急対策としてストップホールを設け,本格的な補修として亀
裂の再溶接と当板で補修する.当板は高力ボルトで設置.
注意点
 亀裂がすみ肉溶接部に留まっている場合には,桁の全体応
力は健全な状態と大差ない.
 亀裂が腹板に達すると急速に進展する可能性があるため,
早急な補修が必要.
適用例
損傷部の補強方法③
橋梁全体構造の改良

概要



構造全体を改良して,部材に発生す
る応力自体や部材間の相対的な変位
を低減
アーチ橋に斜材を追加した例等あり
施工前
留意点


新規部材と既設部材の接合構造に配
慮が必要
新規部材の追加による既設部材の応
力,変形等の変化に注意
施工後
補修・補強効果の確認

概要



追跡点検


対策の有効性の検証にはかなりの時間が必要
補修・補強事例は比較的新しく,補修・補強効果に関するデータの蓄
積は不十分
補修・補強後,しばらくは頻度の高い計画的な点検を実施
→ 損傷再発や周辺部における新たな損傷発生の有無を確認
効果の確認

必要に応じて,補強前後に応力・変位・振動等を測定
→ 損傷原因となった応力・変形・振動等の低減を確認
補修・補強工法の選択フロー
疲労亀裂
塗膜割れ,亀裂の発見
亀裂の目視調査
(長さ,方向,発生部位等)
緊急的な措置が必要?
NO
亀裂箇所の設計図書の確認
1
YES
緊急的な措置の実施
(交通規制や部材の仮受け)
補修・補強工法の選択フロー
疲労亀裂(つづき)
1
亀裂詳細調査
例えば,
・磁粉探傷検査
・交通量,荷重調査
・応力,変位測定
・構造解析
補修・補強が必要?
損傷原因の推定
・製作時の欠陥
・溶接継手部の局部的応力集中
・不適切な構造ディテール
or 二次応力の発生
・予期せぬ振動の発生
NO
YES
2
3
補修・補強工法の選択フロー
疲労亀裂(つづき)
2
 ストップホール
3
亀裂先端に円孔を設けて応力
集中を緩和する.
 溶接補修
亀裂を除去し,再溶接する.
補修・補強工法の選定・実施
・ストップホール
・亀裂溶接補修
・溶接継手の疲労強度改善
・連結部の構造ディテールの改善
・全体構造の改良
記録
 疲労強度改善
再溶接の止端部を滑らかに仕
上げる,ルート部を完全溶け込
みとする等.
 ディテールの改善
応力の伝達がスムーズになるよ
う改良,ディテールの剛性を増
加させ,発生応力を低減する等.
 全体構造の改良
橋梁の全体剛性を高める,荷重
分配性能を向上させる,部材の
荷重負担を軽減する等.
面外ガセット継手の疲労亀裂に対する補修例
ストップホール(SH)
SH+ボルト締め
ソールプレート部の疲労亀裂に対する補修例
支点上補剛材
損傷
状況
亀裂
ソール
PL
支点上補剛材
添接板
ストップホール(SH)
補修
状況
鋼製ラーメン橋脚隅角部の例
疲労亀裂
変形部材
の補修・補強
補修・補強の基本

補修・補強方法
 部材の変形を元に戻す

加熱矯正,溶接補修,部材交換
 変形の進行や座屈の発生を防止

留意点
 基本的に,当初設計強度を低下させない程度まで補修
 同じ変形を生じても,部位によって影響度は異なる
→ 応力度の余裕等を考慮して,補修の要否,工法選定
加熱矯正

ジャッキを用いた作業手順


変形の大きい箇所から小さいほうに
向かって矯正し,それを繰り返す
留意点




非調質鋼の適切な加熱温度は900℃
程度(一般に調質鋼ではそれより低い)
加熱終了後載荷可能な温度は約250℃(放熱時間:30~40分)
できるだけ火口の大きいバーナーを利用し,周辺も含め十分に加熱
水をかけず,自然放冷が望ましい(300℃以下であれば水冷の悪影
響はない)