低温度星まわりの生命居住可能惑星における 植物特性

若手研究者による分野間連携研究プロジェクト
低温度星まわりの生命居住可能惑星における
植物特性の考察とその観測に向けて
国立天文台・太陽系外惑星探査プロジェクト室
成田憲保
本提案の趣旨
宇宙に生命を育む惑星は地球の他にないのか?
いったい何を探せばよいのか?
どこを探せばよいのか?
どうやって探せばよいのか?
天文学・生物学・惑星科学・工学の若手研究者の
分野間連携によってこれらの問題に取り組み、
近い将来に宇宙の生命探しを行う体制を確立する
太陽系外惑星とは
• 太陽以外の恒星を公転する惑星
• 1995年に初めて発見され、既に500個以上発見されている
• 2011年にNASAのKepler衛星が1200個を超える候補を発見
• 地球型惑星の発見数も少しずつ増えてきている
生命居住可能領域(ハビタブルゾーン)
主星からの距離がちょうど良く、惑星表面に液体の水を保持できる領域
1.0
主星の質量(太陽質量)
地球
木星
0.5
低温度星
0.1
0.01
0.1
1.0
軌道長半径 (AU)
10.0
低温度星の特徴
• 宇宙で最も多く存在する恒星
– 太陽系近傍にも数多く存在している
• 主星の質量が太陽の0.1-0.5倍程度で、
温度は2000-3800K (太陽は約5800K)
• 可視光では暗く、近赤外で明るい
– 恒星のスペクトルは概ね黒体輻射
– さらに低温度星は恒星自身の分子吸収で
可視光が弱い
• 世界中で生命居住可能惑星の探索が
始まっている
低温度星の生命居住可能惑星の特徴
• 主星の温度が低いので生命居住可能領域が近い
– 軌道長半径が0.01~0.1天文単位
– 公転周期が数日~数十日
• 可視光が弱く、近赤外の光の方が強い
• 潮汐固定によって惑星が常に同じ面を主星に向けている
– 月が常に地球に同じ面を向けているのと同じ現象
同じ生命居住可能惑星でも地球とは大きく異なった環境
どのように生命の兆候を探すか?
私たちが注目しているのは「植物」(光合成生物)
– 主星の光を利用する「光合成」を行う一次生産者
– 地球の歴史上、もっとも大きく地球大気環境を変えた生物
• 低温度星の生命居住可能惑星の植物はどんな特性を持つ
だろうか?(理論研究の必要性)
• どこを探せばよいだろうか?(観測研究の必要性)
• どうやって探せばよいだろうか?(装置開発の必要性)
若手研究者の分野間連携を確立し、この課題に取り組みたい
グループメンバー
氏名
所属機関・職
専門分野
役割
成田憲保
国立天文台PD
天文学
観測
滝澤謙二
基礎生物学研究所PD
生物学
理論
皆川純
基礎生物学研究所教授
生物学
理論
松尾太郎
国立天文台PD
天文学・工学
装置
田村元秀
国立天文台准教授
天文学
観測
生駒大洋
東京工業大学助教
地球惑星科学
理論
村上尚史
北海道大学助教
天文学・工学
装置
小谷隆行
宇宙科学研究所PD
天文学・工学
装置
Eric Gaidos
ハワイ大学教授
地球惑星科学
観測
本グループが行う3つの研究テーマ
• テーマA: 地球とは異なる惑星環境での植物特性の考察
– 滝澤謙二(基生研)、皆川純(基生研)、生駒大洋(東工大)
• テーマB: 実際の観測による生命居住可能惑星の探索
– 成田憲保(国立天文台)、田村元秀(国立天文台)、Eric Gaidos(ハワイ大)
• テーマC: 将来の30m級望遠鏡に向けた装置開発
– 松尾太郎(国立天文台)、小谷隆行(宇宙研)、村上尚史(北大)
テーマAの概要
• 理論的考察と実験によって、観測への示唆を検討する
• 理論:地球上の植物特性の類推から、ありうる植物の可能性を
検討する
– 赤外光を使った光合成の3光子反応?
– 低温度星の弱い可視光でも地球型の光合成が可能?
– あらゆる色の光を使う黒い植物?
• 実験:地球上の植物が持つred edgeという特性を、水生緑藻の
クラミドモナス、陸生植物のシロイヌナズナ、進化的にその中
間に位置するヒメツリガネゴケを用いた実験で理解する
年度内の目標
 光合成の3光子反応の実現可能性を検討する
– 地球植物は2光子反応を行うが、進化的・機能的に3光子は可能か?
 実験によって地球上の植物のred edgeの特性を調べる
– red edgeはそもそもなぜ起こるのか?
– 低温度星の生命居住可能惑星でも起こるのか? その特性は?
Tinetti et al. (2006) The Astrophysical
Journal
所要額根拠(テーマA:基礎生物学研究所)
光合成測定用分光装置200万円
光合成活性測定装置 150万円
反射光スペクトル
測定装置 50万円
生物実験 220万円
シミュレーション実験
30万円
MATLAB/Simulink環境PC
MATLABは購入済み
国立天文台への旅費
20万円
生物培養器具 10万円
試薬類 10万円
国際会議発表・旅費
50万円
基生研での会議費用
10万円
合計:330万円
テーマBの概要
• 実際の惑星探しを実施する
• これまでの可視トランジットサーベイのアーカイブデータから、
低温度星のトランジット惑星候補のターゲット選定を行う
– ハワイ大学との協力によって、50個ほどターゲット選定済み
– 日本のグループ独自のターゲットも選定する
• 地上の赤外中口径望遠鏡を用いたトランジット観測によって、
実際に低温度星のトランジット地球型惑星を探索する
– ハワイ、南アフリカ、チリにある1-2m級望遠鏡に観測時間を確保済み
– 岡山観測所で今年度から本格的な観測(年間数十夜)を提案する
年度内の目標
 今後観測するターゲットカタログの選定
 自動解析ソフトウェアの開発
 生命居住可能かどうかに関わらず、まず1個の惑星の発見
岡山188cm望遠鏡
IRSF1.4m望遠鏡
miniTAO1m望遠鏡
所要額根拠(テーマB:国立天文台)
• 観測旅費
– ハワイ:25万円、チリ:40万円、南アフリカ:40万円
• 研究打ち合わせ旅費
– 基礎生物学研究所への旅費:40万円
• 謝金等
– 観測と解析、ソフトウェア開発への謝金:20万円
• 天文台での会議費用:5万円
• 合計:170万円
テーマCの概要
• 将来ハワイに設置される予定の30m望遠鏡(TMT)に向けて、
実際の観測を行うための装置開発を行う
• Second Earth Imager for TMT (SEIT)
– TMTで地球型惑星を直接撮像する装置
– 既にコンセプトの設計は完了
– シミュレーションによる観測手法の検証を実施済み
• 今年度は実際に光学系を完成させることが目標
– その後、試験観測を実施する望遠鏡を探す
我々が提案するTMTの観測装置SEIT
主星の光を低減して、そのまわりの惑星を直接撮像する観測装置
 次世代の大型望遠鏡TMTで
世界初の地球型系外惑星の
直接観測を目指す
 日本発の新しい観測方式に
より実現。
 30mの巨大な口径を活用し、
主星超近傍の惑星を観測
地球型惑星は主星の反射光により輝くため
主星に近づくほど惑星は明るくなる(緑の点線)
所要額根拠(テーマC:国立天文台)
年度内の目標:SEITの実験光学系の構築
140素子可変形鏡 (180万)
高輝度白色光源
(100万)
赤字: 本プロジェクトで購入予定のもの
それ以外の装置は手配済み
150万
マイクロレンズアレイ
2次元ファイバアレイ (50万)
偏光保持ファイバ(20万)
カメラ
コリメータ
合計:500万円
各グループの役割と連携関係
3つのテーマで相互に情報共有を行い、有機的な連携体制を作る
テーマA(理論)
低温度星まわりでの「生命居住
可能領域」及び「植物特性」の
理論的考察
装置仕様から制限
される観測天体
テーマB(観測)
テーマC(装置開発)
トランジット観測による低温度星
まわりでの地球型惑星探索
地球型惑星の直接観測の
ための新しい観測手法の実証
候補天体の提供
定例ミーティングやワークショップを開催し、体制の強化を目指す
まとめ
• 低温度星のまわりの生命居住惑星の探索とそこでの生命の
兆候の探索は今後最もホットになる研究テーマ
• このテーマに取り組む分野の枠を超えた若手研究者の連携
体制を確立したい
• 理論・観測・装置開発の三位一体のグループ作りを目指す
• もちろん日本初の試みであり、世界に遅れることなくすぐに
研究プロジェクトを開始したい
補足スライド:テーマA
なぜ“植物”を探すのか?
1. 進化の必然性が高い: 惑星の全域で、持続的(数十億年)に利用可能な一次エ
ネルギー源は主星からの放射エネルギー以外に無い。効率のよい光エネルギー
の利用を追及すれば“植物”に行きつく。
2. 観測可能性が高い: 光合成生物が進化した場合、海洋・大気成分組成に大きな
変化をもたらす。陸生植物が存在した場合、反射光のスペクトル分析から検出でき
る可能性が高い。
観測可能性
主星の影響をそれほど
受けない進化
主星からの光条件に依
存した進化
好気・陸生
光合成生物
嫌気・陸生
光合成生物
好気・水生
光合成生物
有機 生体膜
化合物 形成
原始細胞
(発酵)
嫌気・水生
光合成生物
従属栄養生物の進化
進化に要する時間(実現可能性の低下)
低温度星まわりでの植物進化の検証(理論)
1. 低温度星周りの
惑星環境の推定
2.植物特性の推定
3.実現可能性
の検証
弱い可視光・
強い赤外線
3段階光励起
反応による
電子伝達
機能性
の検証
定期的に強
いフレア
広域スペクト
ルの集光色素
進化過程
の検証
生体構造、生化学
反応として可能な
のか?
日周リズム
が無い
合理的に推測される植物特性を総合して低温度星まわりで進化する
植物の全体像を予想する。
原始細胞(発酵)
からの進化プロセ
スが想定可能か?
観測に役立つ植物特性の検証(実験)
最有力の観測指標の一つとして植生の反射光スペクトルに現れる “Red Edge” がある。
Tinetti et al. (2006) The Astrophysical Journal
植物が利用する可視光より長波長側
に強い反射のピークが現われる。
地球上の植物には共通して見られる
現象であるが、系外惑星においても
普遍的な現象であると言えるのか実
験により検証する。
Red Edgeの測定
反射分光測定装置
(有限会社オーリー)
観測に役立つ植物特性の検証(実験)
水生緑藻のクラミドモナス、陸生植物のシロイヌナズナ、及び進化的にその中間に位
置するヒメツリガネゴケを用いてRed Edge と形態・光合成機能の関係を調べる
クラミドモナス
ヒメツリガネゴケ
原糸体
茎葉体
水生藻類から陸生植物への形態の変化
シロイヌナズナ
観測に役立つ植物特性の検証(実験)
水生緑藻のクラミドモナス、陸生植物のシロイヌナズナ、及び進化的にその中間に位
置するヒメツリガネゴケを用いてRed Edge と形態・光合成機能の関係を調べる
光合成活性の測定:クラミドモナス用に開発した分光光度計を改良して3種の光合
成活性を測定する。
クロロフィル蛍光測定
Takizawa et al. (2009)
Photosynthesis Research
吸光度測定
Iwai et al. (2010) Nature
補足スライド:テーマB
背景1
• なぜ近赤外でM型星のトランジット観測か?
– M型星は小さいので地球型惑星のトランジットも地上から
検出可能(減光率 1%オーダー) -> 地球型惑星にもっとも
手が届きやすいのがM型星
– M型星は可視では暗いが、近赤外では~5等(100倍)以上
明るくなる → 近赤外の方が測光精度が高い
– そのためM型星まわりのトランジット地球型惑星探しには、
近赤外での観測が重要になる
背景2
• なぜ今、M型星のトランジットが注目されているか?
– M型星ではハビタブルゾーンが主星に近く、ハビタブルな
惑星のトランジット確率が高い
– 公転周期が短いので発見の確認や追観測にかかる時間
が短い
– トランジット惑星は多くの派生サイエンスがあり、TMTや
SPICAの時代に最も注目されるターゲット
– そのためM型星まわりの(ハビタブルな)トランジット惑星
探しとそのフォローアップ観測は、今後系外惑星観測の
ひとつの主流になると期待される
岡山観測所ISLEでの観測実績
赤外検出器でも~0.1%に迫る相対測光精度は可能
補足スライド:テーマC
系外惑星直接観測の展望
現在
2018~
2025~
• 宇宙
ハッブルスペース望遠鏡
• 地上
Now
8.2m すばる望遠鏡
(形成直後の明るい惑星の観測)
日本の次期赤外線衛星
(木星型惑星の大気分光)
2018~
30m級望遠鏡TMT
(地球型惑星の直接観測)
系外惑星専用宇宙望遠鏡
(地球型惑星の大気分光)
地球のスペクトル
102
• 地球は可視光では
太陽の反射光によ
り輝く。
太陽
10-2
強度(Jy)
• 赤外線では自身の
熱放射により
輝く。
100
CO2
O3
10-4
10-6
10-8
10-10
0.1
O2
H2O
CH4
H2O
地球
1.0
10.0
100
波長(µm)
1Jy=10-23erg/s/cm2/Hz
惑星直接観測のための条件
主星の回折像
• 主星のハローだけを選択
的に低減させる特殊な装
置、コロナグラフが必要。
コントラスト
• 主星のハローに埋もれた
惑星光を観測。
主星のハロー
1.E-02
ハロー
低減
1.E-06
木星型惑星
地球型惑星
ハロー
低減後
1.E-10
0.0
0.08
0.04
主星からの離角(秒角)
コントラスト:主星と惑星との強度比
恒星
惑星
コロナグラフとは?
○ 主星からの光だけを選択
的に低減。
○ 惑星光だけを取り出す。
主星の光はマスクによって
隠される
望遠鏡(主鏡)
遮蔽版(マスク)
役割:恒星の光だけを
選択的に低減
中心に穴の空いたマスク
役割:回折によって透過した
恒星の光を遮る
サイエンスイメージ
サイエンスカメラ
回折限界
SEITの観測方式
主星とのコントラスト8桁
シミュレーション結果
○ 要求仕様: 回折限界で10の8桁の高いコントラスト
 新しい観測方式を提案 (松尾他 2011)
ポイントは、地球大気による波面の乱れを補償光学なしで
完璧に補正するできること!
○ シミュレーションにより要求仕様を満たすことを確認