分科会18「計量政治分析の新地平 ――質的分析との対話を求めて」 討論 福元 健太郎 (学習院大学) 日本政治学会 研究会 2005年10月2日(於明治大学) 1 企画委員による分科会の趣旨 • 報告:質的研究が有力とされる分野における 計量分析 – 量的分析の長所と弱点 – 質的分析と量的分析の対話 • 討論:3つの報告(間、若山、富崎各会員)に 共通する傾向・論点 2 討論の構成 • 1. 質的分析から量的分析への貢献 – 1. 数量化の妥当性 – 2. 数量分析結果の質的解釈 • 2. 量的分析から質的分析への貢献 – 効率性と不偏性 – データ発生過程 • 3. 提案:対話から「両話」「共話」へ • 4. 共通質問 3 観念的世界 経験的世界 量 DGP データ発生 的 仮説 分 析演モ 推定、検定 解 繹デ 釈 的ル 説明 質 推化 的論 理論 分 帰納的推論 析 データ 数 量 化 事例 4 1. 質的分析から量的分析への貢献 • 質的分析は量的分析よりも、対象(事例、デー タ)に関する情報量(変数の数)が多い • 1. 数量化の妥当性 – 指標が概念を適切に数量化しているか • 2. 数量分析結果の質的解釈 • 「森ばかりを見て、木を見失う」「例外こそ重大」 (若山)? – 特異な事例の研究が個々の事例(あるいはデー タ)の理解に資する可能性は否定しないが、それ が(「平均的な傾向を見る」)一般理論に結びつか ない限り、少なくとも量的分析には貢献しない 5 1.1.1 数量化の妥当性 • 間 – 亀裂的流動性→左派/右派、穏健/急進 – 懲罰的流動性→与/野党、既/未与党(?) – 県別社会的亀裂→ 国内主要少数派/その他 – 亀裂の深さ→ 国内主要少数派の県別人口比率 • 若山 – 党への忠誠心・貢献度→接戦度(代理指標) • 党への忠誠心や貢献が高いと思われる議員ほど当選 が確実な安全区から立候補 6 1.1.2 数量化の妥当性?:富崎の「国家」 • 規模 – あまり詳細には論じられていない • 国家性強度 – 近代国家の量化を国家全般の量化とする • 指標:正統的暴力の独占度、住民掌握度、住民忠誠度、領域性 – 非近代国家は近代国家らしさが足りないとしているだけで、 非近代国家の在り方を、結局は等閑視している • 例:東南アジアの「まんだら」 • 「指標化を実際に行った実証分析は提示されない」 7 1.2 数量分析の質的解釈 • 間 – 因子分析 – 流動性を亀裂に回帰 • 政党制が亀裂を代表している時期は負の係数 – 結論「見かけ上の不安定性は、政党制の代表性の欠 如ではなく、政府の統治能力の低さによる」 • 若山 – 「党内に留まった議員の不満の表明は,さらなる離党 者が出る可能性を感じさせることとなり,結果として 党執行部や選挙区労働党に譲歩を引き出す結果を もたらした」 • 譲歩と不満表明の関係が実証的に示されない限り、ここま 8 では解釈できないと思われる 2. 量的分析から質的分析への貢献 • 量的分析は質的分析よりも、対象(事例)の数 (Number)が多い – 一般理論に対するより確かな(「効率的な」)裏付け – ランダム・サンプリングがより容易→理論の偏向(バイア ス)もより避けやすい • データ発生過程(Data Generation Process) – 現実のデータがどのような原理で出てくるか • これがわかればシミュレーションができる – 理論の再考を促す • 単なる統計技術の問題ではなく、まさに政治現象がどのように起 きているかについての理解に再考を促す 9 2.1.1 若山:英国右派労働党議員の不満 • 離党 – 社民党結成時 – 社民党結成後 • 造反 – 有無 – 強さ(5回以上か否か) • こうした場合分けは、事例に対する深い知識が あって初めて可能 • データ発生過程に注意を向けることで、右派労 働党議員の行動に対する理解を、さらに洗練で きる 10 2.1.2 若山:ロジットとインセンティヴ • (入れ子)二項ロジット・モデルの問題点 – 仮に離党者も造反者も接戦度が高い場合も、前者の二項ロ ジットで接戦度は有意にならないことがあるが、それはインセン ティヴが異なることを意味しない • 多項ロジット ・モデル(STATA: mlogit) – 離党や造反が連動しない(独立)という疑わしい仮定に立つ • 順序ロジット ・モデル(STATA: ologit) – インセンティヴが質的に異なるのではなく、量的な違いであり、 右派的傾向(不満の度合い)が強い順に 離党第1陣 > 第2陣 > 造反5回以上 > 1~4回 > なし という行動になると考える場合 • インセンティヴが異なる理論的(政治学的)根拠が示され 11 ていないので、どのモデルが望ましいかを特定できない 2.1.3 若山:ハードル・イヴェント・カウント・モデル • 造反5回以上か否かの分析の問題点 – 全く造反がない議員と、軽微な造反議員とを混ぜているので、 造反に踏み切った上で、軽微な造反に対して重度の造反をも たらす要因をおそらくは過小評価 – 回数をわざわざ2値にして、豊かな情報を捨てている • 標記モデルは次の2つを同時に分析(G.King, COUNT) – 造反するか否か – 造反するとして、何回造反するか(5回に限らず) • イヴェント・カウント – ポワソン分布:各法案ごとに造反するか否か判断 – 負二項分布:一旦造反すると、立て続けに造反(毒食わば皿 まで) • もしくはゼロ・インフレート・モデル(STATA: zinb) 12 2.2 間:流動性の確率分布 • 流動性は正規分布を取り得ない – 0から100までの間しかとらない – 例えば30→50をもたらす要因が、同じ20ポイントの増大とし て90→110をもたらすことはあり得ず、90→95などとなる – 同様に50→70の方が70→90よりも起きる確率が高い(そ れだけ小さな効果で済む) • 対数オッズの差の二乗 – – – – 対数オッズには上限と下限がない その差は、始値によって変わりやすさが違うことを表せる 大きさに着目しているので二乗する これが例えばガンマ分布に従うと想定すれば、ガンマ回帰 13 分析を用いればよい(STATA: glm, family(gamma)) 3. 提案:対話から「両話」「共話」へ • 1つの論文の中に、2つの方法を採用する • 一人で両方の方法を実行する – 今回の論文はそれを実践。しかしかなり困難。 • 共著の勧め – 双方で方法を分担 – 機能的にも量的にも分業による効率化を図れる – 米国政治学における生産性 14 4. 共通質問 • 今回の量的分析を行う際に最も苦労した点 は何だったか? – 特に質的分析をする場合と比べて • それを乗り越えるためにどのような工夫をし たか? – その際に質的分析はどのような役割を果たした か? 15
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