タイトル

間欠型一酸化炭素中毒に対する
高気圧酸素治療の限界
静岡済生会総合病院神経内科
○鈴木康弘 兒島辰哉 塚越敬子
高森元子 吉井仁
目的
• 急性一酸化炭素中毒の治療法として高気圧
酸素治療(OHP)の有用性は確立されている
が、間欠型中毒を発症後の治療法としては確
立していない。
• その確認には対照研究が必要であるが、わ
れわれはまず、どのような間欠型中毒症例は
OHP施行にかかわらず転帰不良かを検討し
た。
方法
• 対象は過去16年間に当院でOHPを施行した、
間欠型一酸化中毒例12例。(男10女2例、
24-67歳、平均46歳)
• 初回3気圧、以後2気圧のOHPを原則として1
日2回、最低1ヶ月(C群は2ヶ月)施行した。
• 最終的な転帰をA群(正常。IQ70以上)3例
B群(歩行できるが知能低下)5例 C群(寝た
きり)4例に分類した。
12例の急性期症状
症
発見時 急性期の意識 急性期の
急性症状
年齢 性 暴露機序
例
COHb
(JCS)
OHP
消失まで(日)
A群
1 33 M 練炭で料理 3?
10?
なし
15
2 60 M たき火
?
1桁?
なし
?
3 56 M 練炭で料理 ?
1?
なし
0
B群
4 24 M 自宅で練炭 2.6?
20
なし
14
5 47 M 車で排気ガス ?
2桁?
なし
?
6 41 F 自宅で練炭 39.8
200
あり
6(HDS-R30)
7 49 F 自宅で練炭 27.9
300
あり
14?(HDS-R21)
8 35 M 台湾で事故 21
300
あり
14
C群
9 67 M 自宅で練炭 ?
1桁
なし
0?
10 56 M 車で排気ガス 11.6?
200
あり
歩行不能、食事自己摂取
11 37 M 自宅で練炭 33.9
300
あり
歩行不能、介助で摂食
12 44 M 自宅で練炭 33.6
300
あり 歩行器で歩行、食事自己摂取、HDS-R15
(?はデータ不十分なもの)
症例6, 9-11は急性症状は消失しておらず、不完全間欠期の症状を記した。
転帰に無関係と思われるもの
• 年齢
• 急性期のOHPの有無
(急性期に一酸化炭素中毒であることが見逃
され、OHPを施行されない軽症例は予後が
むしろ良い傾向がある。)
間欠期の症状と転帰
• 不完全間欠型中毒(急性中毒から十分回復
しないうちに遅延症状を併発)で、間欠期にも
独歩に至らなかった3例は、いずれも寝たきり、
経管栄養に固定した。
• 言いかえれば、暴露1ヶ月以内に一度は独歩
可能にならなければ寝たきりとなる。
症例 遅延症状の
番号 発症日
1
2
3
45
20
?
4
5
6
7
8
25
30
30
21
30
9
10
11
12
40
14
24
20
12例の遅延症状
最悪の遅延症状
A群
経口摂取可能、独歩可能
経口摂取可能、独歩可能
経口摂取可能、独歩可能
B群
経口摂取可能、寝たきり
経管栄養、寝たきり
経口摂取可能、寝たきり
経口摂取可能、移乗介助
経管栄養、寝たきり
C群
経管栄養、寝たきり
経管栄養、寝たきり
経管栄養、寝たきり
経管栄養、寝たきり
観察期間
(日)
最終症状
100
175
190
FIQ77 HDS-R29
FIQ91 HDS-R26
VIQ76 PIQ98 MMSE29
133
210
89
94
>360
独歩、FIQ60 HDS-R25
独歩、HDS-R26
独歩、HDS-R19
支えれば歩行
独歩 IQ51 HDS-R12
290
180
240
77
経管栄養、寝たきり
経管栄養、寝たきり
経管栄養、寝たきり
経管栄養、寝たきり
最悪の遅延症状と転帰
• 最悪時に独歩できれば、IQ70以上に回復し
た。
• 最悪時に経口摂取可能であれば歩行可能に
回復した。
• 遅延症状で寝たきり、経管栄養になっても、
独歩可能に回復することもある。ただし知能
正常にはならなかった。
暴露後時間とMRI所見
症例
番号
T2WIかDWI上の淡蒼球と白質の異常信号の有+無-
1W以内
3W後
1M後
2M後
3M後
4M以降
淡+白+
淡-白+
?
淡+白+
?
?
淡+白?
?
淡-白淡+白?
淡+白+
?
淡-白?
?
淡+白+
?
?
?
?
?
淡+白-
淡+白+
?
?
?
?
淡?白?
?
?
?
?
?
A群
1
2
3
?
?
?
?
?
?
4
5
6
7
8
淡-白+
?
淡+白淡+白?
淡-白?
?
?
?
9
10
11
12
?
淡?白淡+白+
淡+白-
?
?
?
?
?
淡-白淡+白B群
淡-白+
淡+白+
淡+白+
淡+白+
淡+白+
C群
?
?
淡+白淡+白+
症例10は元来淡蒼球が石灰化しており判定不能
・淡蒼球の異常は一度出現するとそのまま持続する。
・白質の異常は原則として暴露1ヶ月後に出現するが、初期に見られる場合もある。
初期からMRIで白質の異常が見られた2例 (それぞれ左がT2WI,右がDWI)
症例4
第3病日。DWIで白質に高信号域が見られる 第33病日 典型的な遅延期の白質病巣
淡蒼球は終始正常
第20病日。高信号域はほぼ消失
症例11 第3病日
淡蒼球病巣が見られ、半卵円中心にDWIで高信号域が見られる
MRI所見
• 早期のMRI所見が正常でも間欠型中毒に
なった2例があった。ただし独歩可能に回復
した。
• 一方急性期に淡蒼球に異常を認めても間欠
型中毒になるとはかぎらない。
• 拡散強調画像で白質が高信号になるのは通
常、暴露から約1ヶ月後であり、間欠型中毒
の診断には有用だが、転帰とは関係が少な
い。
間欠期の脳波
• 間欠期に脳波が正常であれば遅延症状は起
こりにくいとされるが、間欠期の脳波は正常で
遅延症状を起こした1例(12Hz)があった。
症例
番号
急性期脳波
遅延期脳波
A群
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
?
?
?
2M後9Hz 5-6Hzも混じる
1M後10Hzだが4-6Hzも混じる
1M後9Hz
B群
5日後12Hz
?
?
?
6日後9-10Hz(6-7Hz混入)
?
4日後8Hz
6W後2-4Hz、3M後7Hz
?
?
C群
?
1M後徐波+速波、2M後4-6Hz
筋電図になって不明
筋電図になって不明
?
1M後低振幅徐波
2W後5-6Hzの徐波と速波
2M後低振幅徐波
結論
• 転帰とよく相関したのは間欠期と遅延期の症
状だった。
• 不完全間欠型中毒は予後不良である。つま
り暴露から1ヶ月以内に一度独歩可能な状態
に回復しない例は寝たきりになった。
• 急性期にHDS-Rや脳波が正常になっても、
遅延症状を起こす可能性はある。
• 当院では2気圧をルーチン治療としたが、3気
圧の治療ではどうだろうか?