1-1 レビー小体型認知症 DLBD 症例報告(Presentation) • • • • 年 齢:74歳 性 別:男性 主 訴:動作緩慢、物忘れ、幻覚 現病暦: 2000年(71歳)頃より後方への転びやすさ が出現し、動作が緩慢になった。近医でパーキンソ ン病疑いとしてL-dopaを処方されたが、鮮明な幻視 がみられ中止した。この時に起立性低血圧も指摘さ れた。さらに物忘れや夜間徘徊などが目立つように なったため、2003年12月に当科へ紹介、入院となっ た。 • 既往歴:胃癌術後(幽門側切除術) 高知大学 老年病科教室(症例No.1 ) 症例の経過(History) 現 症:身長157cm 体重53Kg 血圧130/80mmHg 脈拍66/分 神経学的所見: (意識)見当識障害あり (錐体外路系)頚部と左半身の軽 度の筋強剛 後方への姿勢反射障害 (自律神経系)起立性低血圧 便秘 (高次機能)MMSE 20/30点 HDS-R 23/30点 肢節運動失行 観念失行 (幻 視)「知り合いの○○さんが来ていた。」「廊下に火のともったろうそくが 並んでいて、火事になるといけないので見回りにいった。」と言って夜間病棟 内を歩き回るなど、具体的で鮮明な幻視が目立つ。 経過:入院後、ドネペジル、オランザピンを開始し、幻視や徘徊は軽減し、退 院。パーキンソニズムのコントロールはL-dopa投与にて行っているが、Ldopa増量で幻視が悪化する。2005年2月頃より意識、覚醒度の変動が著明 となった。起立性低血圧が悪化し、頻繁に失神を起こすようになってきたた め、フルドロコルチゾンの内服を追加したが、日によって失神は続いている。 高知大学 老年病科教室(症例No.1 ) 症 例 の 画 像 【 I-IMP脳血流シンチグラフィー】後頭葉の血流低下 【 [123 I ]MIBG心筋シンチグラフィー 】 【 脳 波 】徐波化 Fp -F 後期像で心筋への集積の低下 F -C H/M ratio = 1.31 C -P 1 3 3 3 3 3 P3-O1 O1-T3 T3-Fp1 Fp1-F4 F4-C4 C4-P4 P4-O2 O2-T4 T4-Fp2 FZ-CZ CZ-PZ 高知大学 老年病科教室(症例No.1 ) 症例のまとめから推定される病名は? Central feature ・ 進行性の認知機能障害があり、通常の社会生活を送ることが困難。 ・ 経過中に明らかな持続性の記憶障害を伴う。 ・ 注意力、前頭葉・皮質下機能、及び視空間認知機能の低下が顕著である。 Core features ・ 注意力や覚醒度に著しい変動がある。 ・ 繰り返す幻視があり、 内容が明瞭で詳細なものが多い。 ・ パーキンソニズムがある。 Suggestive features ・ REM 睡眠期行動異常 ・ 重度の向精神薬への過敏性 ・ SPECTやPETで基底核のlow dopamine transporter uptake Supportive features ・ 転倒、失神を繰り返す ・ その他の幻覚 ・ 原因不明の一過性意識消失 ・ 妄想状態 ・ 重度の自律神経障害 ・ うつ状態 ・ CT/MRIで側頭葉内側部は比較的保たれている。 ・ 脳血流シンチグラフィーで後頭葉全体の取込み低下。 ・ MIBG心臓交感神経シンチグラフィーで取込み低下。 ・ 脳波で徐波化と側頭葉に一過性棘波を認める。 ( McKeith IG et al, Neurology 2005;65:1863-1872 ) 高知大学 老年病科教室(症例No.1 ) レビー小体病症例のまとめ • 2005年改訂版のレビー小体型認知症の臨床診断ガイドラインによると、本 例はCentral featuresのすべてを満たし、 Core featuresも3項目全てを満 たしており、またSupportive featuresのMRI、脳血流シンチ、MIBGシンチ、 脳波の所見も満たし、臨床診断としてprobable DLBと診断した。 • 本症例は、比較的初期より著明な起立性低血圧(自律神経障害)を認めた。 特に起立性低血圧による失神のコントロールに難渋し、外来での補液によ り症状が軽減されている。これまで、高齢発症のレビー小体型認知症12例 の検討では、5例に起立性低血圧を認め、他の6例にも失神の既往や起 立時のdizzinessなどを認め、高齢者では自律神経障害の頻度が高いこと が示唆されている。(Kuzuhara S et al. Dementia with Lewy bodies. New York: Cambridge University Press 1996:153-160) 高知大学 老年病科教室(症例No.1 ) 1-2 硬膜下血腫 (Subarachinoid Hemorrage) 症例報告(Presentation) • • • • 年 齢:82歳 性 別:女性 主 訴:もの忘れ、意欲低下 現病暦:68歳よりパーキンソン病にて近医通院加療していた。1年前より、 物忘れが目立つようになり、アルツハイマー型認知症と考えられ、治療を 行っていた。しかし、ADLは自立(Barthel index 満点)しており、家族 の食事の準備や畑仕事などこなしていた。これまでパーキンソン病が原 因と思われる2回の転倒歴があり、9月には道路脇の谷川に転倒転落し たこともあるが、同日の頭部CTでは異常所見は認めなかった。その後、 10月はじめより、物忘れや易怒性の増加、畑仕事などの意欲低下を認 めたため、11月10日当院紹介受診となった。 • 既往歴:パーキンソン病、アルツハイマー型認知症 高知大学 老年病科教室(症例No.2 ) 症 例 の 経 過 【身体所見】身長143cm, 体重39.2kg 血圧 160/80mmHg, 脈拍60/分(整) parkinsonism(右<左、Akinesia・rigidity) 認知機能障害:MMSE 22/30, HDS-R 20/30 【経過】 11月10日の頭部CTにて右前頭部の硬膜下 血腫を認めた。11月26日には血腫はほとんど吸収さ れていた。症状はしだいに改善され、一人で買い物な どができるようになった。 高知大学 老年病科教室(症例No.2 ) 症 例 の 画 像 11月10日 高知大学 老年病科教室(症例No.2 ) 症例のまとめ パーキンソン病による歩行障害・姿勢反射障 害のための転倒の既往のある認知症の82歳 女性で認知機能障害の進行を認めた症例であ る。転倒より約1ヶ月遅れて症状の進行が生じ ており、家族からの病歴の聴取が決め手となっ た。血腫の吸収とともに、症状の改善を認めた。 認知症患者の症状の進行では、他疾患につい ても留意すべきである。 高知大学 老年病科教室(症例No.2 ) 1-3 認知症で来院し慢性硬膜下 血腫が発見された 症例(認知症で来院し 慢性硬膜下血腫が発見された症例) ●年齢:81歳 ●性別:男性 ●主訴:物忘れ、ふらつき、徘徊 ●現病歴:2006年脳梗塞で左不全麻痺が後遺症として残った が杖歩行可能で、一人で病院を受診できていた。 2008年8月頃よりふらつき、物忘れ、理解不良、徘徊が急激 に悪化してきた為、近医より認知症・脳梗塞再発疑いで9月紹 介入院となった。 ●既往歴:高血圧、脂質異常症、脳梗塞後遺症(左不全麻痺、 うつ状態) CGAの結果 ●ADL:45/100 ●IADL:2/5 ●Coginitive Function:MMSE 18/30,HDS-R 9/30 ●Depression:GDS 14/15、Vitality Index 6/10 症例(認知症で来院し慢性硬膜下 血腫が発見された症例)の経過 ●血圧 102/62 mmHg, 脈拍 91/分 整, 体温36.4℃ 左不全麻痺所見(ぶん回し歩行、左上下肢筋力低下MMT4レベル) ●頭部CTで陳旧性脳梗塞、右硬膜下水腫、左硬膜下血腫 ●頭部MRI:新たな脳梗塞は認められず ●経過 ふらつきは強いが、頭部打撲があったかは不明。 慢性硬膜下血腫の診断がついた段階で、内服中のバイアスピリン、 プレタールを中止。1週間後の頭部CTで血腫の増大を認めたが、1ヵ 月後の血腫は横ばいで血腫除去術はしないこととなった。 家族と話し合い、梗塞の危険は高くなるが、出血の危険も高く、抗血 小板薬はふらつく間は使用を控えることとなった。 3ヶ月後、頭部CTで血腫は吸収傾向にあり、MMSE 22/30,HDS -R 18/30まで回復し、ふらつきは改善傾向にあり、慢性硬膜下血腫 が認知症の原因と考えられた。 症例(認知症で来院し慢性硬膜下血 腫が発見された症例)の特徴的画像 頭部CT(2008/09) 症例のまとめ ●認知症の鑑別診断 急に悪化した認知症の場合は、治療可能な認知症である慢性硬膜下血 腫を鑑別に挙げる必要がある。 ●脳梗塞二次予防の観点からは、バイアスピリン、プレタールを継続したい が、出血の危険も常に考えなくてはならない。 本症例では、ご本人・ご家族に抗血小板薬を中止することによる再梗塞 の危険性を説明した上で、慢性硬膜下血腫が改善するまで、中止すること に同意を頂いた。高血圧・脂質異常症のコントロールをより厳重にすること とした。 ●抗血小板薬・抗凝固剤を内服中の高齢者は多く、転倒しやすい患者への 投与は、今後検討すべき課題と考える。 症例のポイント (意見交換のためのグループワークのテーマ) ●認知症の鑑別診断(治療可能な認知症をみすごさない) ●認知症鑑別診断に必要な検査 ●抗血小板薬を転倒しやすい患者に投与するかどうか 1-4 神経原線維変化型 老年認知症 症例の提示(Presentation) ●年齢:84歳 ●性別:女性 ●主訴:物忘れ ●現病歴:4-5年前より人の名前、電話番号などを忘れるようになっ た。買い物にいって何を買うのかを忘れることや、時折道に迷うことが あった。 1年前位より長男が聞くと月日が分からない事があった。日常生活 はなんとかひとりしていたが説明されてもすぐ忘れたり記憶にない等 の症状があり長男が心配し08/1/15当科受診。2月12日、認知症の精 査に入院となった。 ●既往歴:23歳 副鼻腔炎OP、70歳 帯状疱疹、 81歳 白 内障OP CGAの結果 ●IADL:7/8 ●Coginitive Function: HDS-R/MMSE 25/30、26/30 ●Depression: GDS 15 9点 症例の経過(History) ●身長142 cm、体重47 kg (BMI 23.3) 〔神経学的所見〕 見当識障害あり。幻視なし。症状の日内変動なし。 [脳神経] 異常なし。[運動] MMT:全般5/5。[反射] 上腕二頭筋/上 腕三頭筋/膝蓋/アキレス腱:正常。[感覚] 触覚・痛覚:異常なし。[自 律神経] 膀胱直腸障害なし。 採血検査では異常は認められなかった。GDS 15 は9点と高く、10 点以上のうつ病診断には至らないが、今後うつ症状の悪化に留意す る必要があると考えられた。頭部CTでは軽度脳萎縮、年齢相応の虚 血性変化の所見が認められた。脳血流スペクトの結果は両側側頭葉 内側域の血流低下であり、典型的なADパターンとは言えなかった。 その後の半年に1度の物忘れ外来でフォローではMMSE 26と悪化 を認めず、日常生活は自立している。GDSの悪化も認めていない。 症例の特徴的画像(Findings) 脳溝の拡大が軽度見られるが、年齢相応。側脳室下角の軽度拡大 。 両側側頭葉内側域の血流低下 後部帯状回の血流低下は軽度 症例のまとめ(Summary) ●神経原線維変化型老年認知症は神経原性変化を生じるが、老人斑を欠く病理 学的特長をもつ。 ●臨床的特長としては発症年齢81歳から95歳、死亡時年齢は88-103歳と高齢 である。緩徐進行性の経過をたどり認知症の経過としては比較的軽い例がある。 ●この症例の場合は2003年の神経原線維変化型老年認知症の手引きでは記憶 障害、CTでの側脳室下角の拡大を認める。アルツハイマー型認知症除外に関し ては現時点ではスペクトでは典型的なアルツハイマー型認知症の血流低下を認 めず、神経原線維変化型認知症の可能性を考えた。 この症例は4年の経過としては認知症の経過としては軽度であり、今後の認知 症の進行と脳血流スペクトの経過を追うことが必要である。 アルツハイマー型認知症と神経原線維変化型老年認知症の鑑別には長い 時間がかかるが、比較的高齢発症であり、認知症の進行が遅い場合は診 断を考えてもいい疾患である。 1-5 独居高齢閉じこもり AD living alone 独居高齢閉じこもり症例 • 年 齢:88歳女性 • 主 訴:閉じこもり • 現病暦:2年前の高齢者健診には元気に受診し、社 会的活動も活発であったが、一昨年から急に外出 する頻度が減り、最近では閉じこもり状態となってい た。県外に住む息子夫婦が帰省した際にも、1日中 部屋にこもり、会話もせず、感情の表出もないことか ら、息子に連れられて受診した。 • 既往歴:とくになし。 高知大学老年病・循環器・神経内科学教室(症例No.2 ) CGAの結果 理学的所見には異常なし。明らかな麻痺、嚥下障害などはない。 採血スクリーニング検査では異常値はない。 • • • • • ADL:20/20 IADL:5/13(老研式) Cognitive Function:MMSE:11/30 Depression:GDS15:10/15 社会的要因:一戸建て家屋に独居、一人息子家族 は県外に居住。経済的に年金生活。 高知大学老年病・循環器・神経内科学教室(症例No.2 ) 独居高齢閉じこもり症例の経過 家族とともに来院後、すぐに専門医に紹介。病 歴や画像から、アルツハイマー型認知症およ びうつ病の合併が疑われた。専門医への通 院が困難なため、アリセプトを近医で開始・漸 増し、ケアマネージャーと相談の上、デイケア 等の社会的資源の利用や、息子夫婦の電話 連絡によるサポートを行ったところ、しだいに 閉じこもり状態が軽快し、物忘れはあるもの の、独居生活が継続できるようになった。 高知大学老年病・循環器・神経内科学教室(症例No.2 ) 独居高齢閉じこもり症例の特徴的 画像 高知大学老年病・循環器・神経内科学教室(症例No.2 ) 症例のまとめ 1)経年的に認知機能低下が見られた独居高齢女性 2)友達の転居とともに、閉じこもりとなった。帰省した 家族との交流が出来ないほど、認知機能やうつ が進行したように思われた。 3)しかし、CGAにより、BADLが保たれており、 MMSE得点の低下やGDSの高得点から、認知 機能低下にうつの合併が考えられた。 4)専門医受診とともに、アリセプト服用やデイケア利 用などの積極的な介入と介護環境の整備により 、状態が改善し、サポートを受けながらの独居が 継続できている。 高知大学老年病・循環器・神経内科学教室(症例No.2 ) 症例のポイント (意見交換のためのグループワークのテーマ) 1)地域在住高齢者の生活機能障害(ADL、認 知機能、うつなど)の早期の把握。 2)早期にケアマネージャーとの連携により、介 入とサポートが可能となる。 3)閉じこもり高齢者への対応 4)専門医に通院が不能な認知機能低下高齢 者に対してどのように対処するか。 高知大学老年病・循環器・神経内科学教室(症例No.2 ) 1-6 AD <基本-20> アルツハイマー型認知症の症例 73歳 女性 1年ほど前から前日のことを忘れることが多くなった。通帳や大切なものの しまい忘れがめだつようになり、物が見つからないときに夫のせいにする。 結婚した娘のところに何度も電話してくるが、前にかけてきたことを覚えてい ない。買い物へは行くが、同じものを大量に買ってきてしまい冷蔵庫内で腐 らせてしまう。料理もレパートリーが減り3日続けて同じ料理を作った。好き で通っていた書道教室へ最近いろいろ理由をつけて行かなくなった。 MMSE 23/30 (時間の見当識 1/5 場所の見当識 5/5 記銘 3/3 集中・計 算 5/5 再生 0/3 言語 8/8 構成 1/1) 今日は何月の何日ですか? 何月でしたっけ。夫のほうを振り返って尋ねる。今日は新聞もテレビも見て こなかったものですからと言い訳する。 <基本-21> アルツハイマー型認知症のMRI <基本-22> アルツハイマー型認知症のSPECT 脳血流シンチグラム 左脳表面 ①頭頂側頭連合野 左内側面 ②楔前部 ③後部帯状回 1-7 VaD <基本-25> 血管性認知症の症例 67歳 男性 平成○年1月12日 昨日のことも、今日のこともなんにもわか らないという。 前日話した内容を覚えていない。 身のまわりのこともできず尿失禁していた。 1月19日当科初診。その後も著明な健忘と傾眠傾向あり。 左半側空間無視あり。トイレの位置がわからず、洗面所で排 便したり、玄関で放尿してしまう。 デイサービスに行っているが行ったことや、そこでしたことを覚 えていない。 MMSE 16/30 (1/5, 1/5, 3/3, 3/5, 2/3, 6/8, 0/1) 頭部MRI上、両側被殻、左視床、両側皮質下白質にラクナ梗 塞多発し、中等度のPVHあり。海馬の萎縮は年齢相応。 1-8 FTD <基本-34> 前頭側頭型認知症の症例② 現病歴:これらの異常行動を夫が非難すると反抗的になり 暴力をふるった。 平成X+1年10月銀行から大金をおろしてしまいどこへしまった か わからない。部屋のなかは泥棒が荒らしたかのように散らかっ て いる。夫が片づけても再び散らかす。 平成X+2年1月当科初診 神経学的に特記すべき所見なし。 MMSE 19/30 (2/5, 4/5, 3/3, 1/5, 2/3, 6/8, 1/1) 病識は全くなく、夫のいっていることはすべて嘘であると <基本-33> 前頭側頭型認知症の症例① 70歳 女性 主訴:異常行動 家族歴:姉が認知症 現病歴:平成X年4月頃から不眠、7月ごろから無口 になった。本来は社交的でおしゃれな性格だった が家族とも口をきかなくかった。平成X+1年6月頃から 異常行動出現 1)安全ピンを1日に何回も買いにいき、お金を払わずに 帰ってくる。 2)スーパーのビニール袋を際限なく引っ張り出す。 3)全裸で洗濯物を乾かす。 4)ヘアドライヤーで洗濯物を乾かし続ける。 5)他人のゴミ袋に自分の家のゴミをいれる。 <基本-35> 前頭側頭型認知症のMRI画像
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