第9回 アセットライトと規模の経済 【事業システム 】 最終消費者に財やサービスを提供する際に、それに必要な全ての プロセスを単一の組織で行うのは 非効率的 である。 例えば、ある工業製品の全ての原材料を自社で採掘し、それを自社 の輸送機器と人材で運び、必要な部品や半完成品を全て加工し、 完成した製品を国内外の消費者が購入できるように 流通 ネット ワークを構築することは極めて非効率的である。 以下の図で示しているのは、従来型のセットメーカーを中心とした分 業構造である。最終消費者に製品が届くまでに、川上から川下まで に複数の段階が存在し、多様な 協力企業 が参画している。 1 【事業システムの定義】 • 加護野・石井(1991)では、国内の 酒類 の流通過程について、 酒造メーカーがどの程度までの垂直的な活動を自社で行い、どの ような活動を他社に任せているのかを明らかにしている。 • さらに、加護野・井上(2004、p. 47)では、このような分業構造を 事業システム と呼び、事業システムを「経営資源を一定の仕 組みでシステム化したものであり、①どの活動を自社で行うか、② 社外の様々な取引相手との間にどのような関係を築くか、を選択 し、分業の構造、インセンティブ・システム、情報、モノ、カネ、など の流れの設計の結果として生み出されるシステム」と定義している。 2 【アセットライトとは】 • 業務の一部を外部委託(契約)や市場経由での調達に切り替 え、操業に必要な経営資源を 圧縮 すること。 ※経営資源とは、ヒト・モノ・カネ・情報の4つに分類される。 • 業務に関して make or buy の意思決定を行い、必要な資 産の種類と量を決定する。 • 垂直的な事業範囲の選択の中で、部品や業務を 内製 する か、外部から購入(外製)するかの意思決定のことである。 ※競争が厳しく、変化が激しい市場環境ではリスクを小さくし、 経費削減に効果がある。 3 【内製(make)のメリット】 • 活動を内部で調整・最適化することが可能となり、 付加価値 の増加やコストダウンを実現することができる。 • 技術やノウハウを内部に 蓄積 しやすい。 ※例えば、自動車の場合高い品質が求められる。設計の段 階から各部品の調整を行い、間違いなく製造することが求 められる。 • しかし、企業内の技術が最先端で無い場合、ビジネス上の制 約となる場合がある。さらに自社製品向け部品だけでは 規模 の経済を追及できないこともある。 4 【外製(buy)のメリット】 • 企業がbuyを選択するメリットは、必要に応じて、品質・コスト・ 時間面などにおいて 優れた 部品やサービスを外部から調 達することができることである。 • 技術面やコスト・時間面で問題がある場合や リスク を回避 したい場合には、makeよりbuyを選択する方が有効である。 • しかし、社内での活動が少なくなり、社内で技術やノウハウが 蓄積できなくなり、価格交渉力が弱まるなどの危険性が増加す る。 ※必要に応じて、品質・コストにおいて優れた部品を市場から 調達し、組み合わせられるのは強みにも弱みにもなる。例え ば、PCは部品や周辺機器の組み合わせが自由。このタイプ の製品は モジュラー 製品と呼ばれ、差別化が困難にな る。 5 【製造設備の圧縮】 (ファブライトあるいはファブレス) 自社では製品の設計あるいは商品の受注だけを行い、実際の生 産は 他社(外部) に委託する。家電メーカーが工場や設備を 売却・閉鎖し、外部への委託生産に切り替えが増えている。その 背景には以下のような要因がある。 • コスト面で国際競争激化対策(差別化が難しくなった) • 設備投資負担と固定費の引き下げ(身軽になりたくなった) • デジタル技術 の進展(簡単に組み合わせ・組み立てること が可能になった) ※先進国企業の「アセットライト」が進む一方、台湾企業などの 製造受託会社(EMS)が巨大化している。 6 【物流業務の委託】 (3PL ;物流アウトソーシング) 輸送を専門の物流業者に 委託し、物流設備の売却 や人員を削減する。その 背景には以下のような要 因がある。 • コスト削減圧力(積載 効率低い←混載) • 資産圧縮 (車両と車 庫の処分) • ドライバーやトラックの 稼働率の低さ(新規顧 客開拓) • 専門性の欠如 【情報システムと関連業務 の委託】 情報システムの構築と運営を外部業 者に委託するのが一般的である。し かし、近年は情報教育をはじめ、情 報収集や分析まで外部に委託するこ とが増えている。その背景には以下 のような要因がある。 • 最新の情報技術に対応すること の難しさ(一般的にSE定年は40歳 と言われている) • 対応できる仕事と求められている 仕事の ミスマッチ 解消(技術 7 と量の面において) • インターネット技術の標準化に よって、自社開発の必要性縮小 【販売や窓口などのサービスの委託・外注】 派遣社員やパート・アルバイトなど 非正規社員 の比率が年々 高まっている。人件費の高騰を抑えられ、仕事の繁閑の差が大き い場合に有効に働く。その背景には、価格削減圧力、マニュアル化 の進展(誰でもできるようにする)、高齢化社会(新規雇用の制限) などがある 例)銀行の窓口のほとんどの人は非正規社員、コンビニやスーパーの店員は パートやアルバイトが中心。チェーン店でも同じ。 ※自前で揃えなくても、外部の力を上手に活用できれば、需要の変動があって も安定した利益を上げることができる。固定費(自前の経営資源)を変動費化 (他社・者を活用)することによって、リスクを回避しながら、 を向上させようとする。 仕事が多(少な)ければ 経営効率 ⇒ パート・アルバイトを増や(減ら)す ⇒ 外部委託を増や(減ら)す ※仕事量に合わせて、経営資源を柔軟に変化させることができ れば、経営効率が向上する。 8
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