初等解析学の講義を補完する 自習ウェブ教材の開発 寺尾敦・矢野公一・ 高村正志・伏屋広隆 青山学院大学社会情報学部 教材開発の必要性 • 中央教育審議会は,2012年の答申で,大学 教育の質的転換の始点を,「学生の十分な質 を伴った主体的な学修時間の実質的増加・ 確保」に置いた. – 新たな未来を築くための大学教育の質的転換に 向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育 成する大学へ~ • 半期2単位の標準的な科目では,授業以外 に60時間の学習が必要. • 数学の学習にあまり慣れていない学生が受 講する数学系科目で,授業時間外の学習を どのように支援できるだろうか? – 高校程度の数学のリメディアル教育 – 経済学部での数学教育 – 文系学生への統計学教育 • 授業の復習(予習)に使うことのできる学習教材 – Ustream での授業配信(チャンネル:aoyamassi) • 繰り返し行うことのできる問題演習 • 学習につまづいたときの個別支援 – 「数学質問部屋」の開設 • 自立した学習者となるための個別支援 – 認知カウンセリング 寺尾敦(2010)認知カウンセリングによる統計学のテキストの自学自習支 援と訓練 青山社会情報研究,2,1-15. • 青山学院大学社会情報学部での,高校数学 レベルの学習を行う2科目で,学習と問題演 習のためのウェブ教材の開発に着手した. • 授業を担当している数学教員3名(矢野・高 村・伏屋)と,認知科学・学習科学を専門とす る教員(寺尾)が協力している. 教科の論理 + 学習者の論理 開発しているウェブ教材 • 授業の復習に使うことのできる学習教材 – 通常のウェブページ(URL は論文集)として提供 – 数学教員が毎回の授業で作成しているレジュメ (B4サイズ1枚)をベースに,解説を加筆. • 繰り返し行うことのできる問題演習 – Moodle の小テストモジュール STACK を利用. – 数式での解答を自動採点.誤りに応じたフィード バックを与える. 学習教材での数式表示 • HTML5 と CSS3 のルールに従って書かれた文 書内に,MathML で数式を入れている. • MathML は HTML5 で正式にサポートされて いるので,HTML5 に対応したブラウザを使え ば,本来ならこれで数式が表示されるはず. • しかし,現状(2014年7月)では,まったく問題 なく数式を表示してくれるブラウザは存在しな い. • そこで,MathJax を利用して数式を表示させ ている. – MathML で書かれた数式を表示する JavaScript • 比較的新しいバージョンの Internet Explore, Firefox,Safari(iPhone,iPad で確認) では,問 題なく数式が表示されている. – Google Chrome で表示が乱れる? 問題点 • タブレット,スマートフォン,古い PC など,情 報処理能力の高くないデバイスでは, MathJax の処理に少し時間がかかる(10秒か ら20秒ぐらい). • MathML でのマークアップを直接にタイプする と,かなりの時間を要する. – Math Type など,簡単に数式入力ができ, MathML での出力をしてくれるソフトウェアを用い るべき. 学習教材の工夫 • 講義で配布されたレジュメにはなかった情報 を加えた. – 数学的内容に関する補足説明 – 学習方法のアドバイス • レジュメは講義の要約.学生は講義を聴いて ノートをとり,レジュメでは省略されている情 報を補い,知識構築を行う必要がある. • しかし,これができない学生は多い. – 学習意欲の不足? – 数学知識の不足? – 学習スキル(特に,数学でのノートテイキングの スキル)の不足? • 知識構築を支援するために,数学的内容に 関する説明を加筆した. – 例:関数の増減表を作成する手順を3ステップに 分けて解説.レジュメでは完成した増減表のみ. • 数学教員ではない者(寺尾)が加筆を行った ので,その内容は数学教員のチェックを受け た. – 内容の正しさが保証されていることは,(当然とは いえ)教材の重要な特徴のひとつ. 気になっていること • あまりに説明のていねいな教材を提供してし まうことは,授業を理解しようとする学生の動 機を下げてしまわないだろうか? – 学生の,自主的,積極的な知識構築を支援する ための教材として機能させるには,どうしたらよい のか? 学習教材の工夫 • 講義で配布されたレジュメにはなかった情報 を加えた. – 数学的内容に関する補足説明 – 学習方法のアドバイス • 高校数学を十分に学習していない学生は,数 学の学習スキルが十分でないことが多いよう に思われる. • 数学教員の経験や,認知科学の知見に基づ いた,学習方法のアドバイスを教材に入れた. 開発しているウェブ教材 • 授業の復習(予習)に使うことのできる学習教 材 – 通常のウェブページとして提供 – 数学教員が毎回の授業で作成しているレジュメ (B4サイズ1枚)をベースに,解説を加筆. • 繰り返し行うことのできる問題演習 – Moodle の小テストモジュール STACK を利用. – 数式での解答を自動採点.誤りに応じたフィード バックを与える. • STACK を用いることの最大の利点は,学習者 の解答に応じて,異なったフィードバックを返 すことができること. • この利点を生かして,あたかも Intelligent Tutoring System (ITS) のようにふるまう問題演 習システムの作成に取り組んでいる. – ITSのように問題を解いたり,学習者の知識状態 を推測したりはできないが,誤りに応じて「知的 な」フィードバックを返すことはできる. • 「知的な」フィードバック – 誤りの同定:どこが誤っているかを具体的に指摘 する. – 誤っている知識の同定:誤りをもたらしている知 識に言及する. – 適切なヒントを与える. 問題点 • 学習者の持つ誤った知識を同定するための, 認知的課題分析と,問題セットの検証ができ ていない. – 認知的課題分析:問題を解くために必要になる知 識の同定 – 問題セットの検証:ある問題に誤答したとき,誤っ た知識をなるべく小さな単位で同定できるかの検 証.「シンプルな」(≠ やさしい)問題群. 今後の予定 • 教材の完成 • 認知科学的な課題分析 – 知識診断のための適切な問題セットとなっている かを吟味する. • 学習者による評価実験 – 解説を改善する. – 主な誤答パターンにすべてに対して,適切な フィードバックを与えられるようにする. まとめ • 高校水準の数学の自習(授業の予習・復習) に使うことのできる学習教材 – 通常のウェブページとして提供 • 繰り返し行うことのできる問題演習 – Moodle の小テストモジュール STACK を利用. – 数式での解答を自動採点.誤りに応じたフィード バックを与えることで,疑似的な Intelligent Tutoring System として機能させる.
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