JAXAにおける宇宙用レーザの研究の紹介 (宇宙用レーザ技術分野) 経緯 地球観測や月・惑星探査用アクティブセンサ光源として必須な宇宙用高出力パルスレーザに 関する基盤技術のTRL向上を目指し、JAXA全体として取り組むべき戦略的重点研究に提案。 JAXA横断的な重点研究「宇宙用レーザ技術の研究」として採択され、平成23年度から3年間 で宇宙環境で動作する高信頼性の10W級出力レーザの実現を目指す。 信頼性が高く、メンテナンスフリーで 長時間(3年以上)稼働する 高出力パルスレーザの実現 宇宙利用ミッション本部 地球観測研究センター 境澤 大亮 2012年2月17日 ドップラーライダー検討会in 東大理学部 Clouds/Aerosol Tropospheric Winds Trace gas sensing Ozone CO2/CO/CH4 Water vapor Laser altimeter(Laser scanner) Biomass, surface Deep space exploration Guidance/Control Atmospheric composition Turbulence detection Wind shear detection Wake vortices Wind profiling for shuttle launch and landing 2 レーザ技術を用いたミッション・イメージ(月・惑星探査機搭載センサ) 周回軌道からの地形測定: 「かぐや」で実績があるが、レーザ出力低下 着陸時の遠距離から近距離までの高度測定: 「はやぶさ」で実績があるが、最大レンジは比較的短い 着陸時の近距離用障害物検出: 実績無し 米国ではFlashLIDARが開発されている 地上局-探査機間のレーザレンジング: 実績無し 米国LROが地上からの1way ranging LRO はやぶさ 宇宙機搭載システムとして実績のあるレーザ高度計 ただし寿命に関する問題は未解決 センサ稼働時間が SELENE2 かぐや 1年未満 3 背景 地球観測センサ方式の比較 パッシブセンサ アクティブセンサ (比較的水平プロファイル観測に有利) (比較的鉛直プロファイル観測に有利) 実績多数 光 学 高分解能イメージャ 分光放射計 LIDAR ~ 海外衛星の例 まだ実績が少ない 【実用観測実現よりまだ5年内】 - 諸外国で2例、(開発中3件) - 我が国では軌道上実績がない (開発中止1件、提案中1件) → 観測センサ方式の フロンティア 電 波 マイクロ波放射計 実績多数 レーダー 実績多数 光源技術がネックとなり、これまであまり実用化が進まなかった。 しかし、センサに対するユーザ要求は、高度化・高精度化する傾向。 ⇒ 光学センサのアクティブ化は必須。 4 背景:過去~未来のライダー地球観測ミッション 1990~1994 1995~1999 STS-64(LITE)/NASA 雲・エアロゾル観測 2000~2004 2010~2014 MDS-2 (ELISE)/NASDA CALIPSO/NASA-CNES 雲・エアロゾル観測 大気観測(abort) (2003) 1994/9 2005~2009 ADM/DLR 風観測 2006.Apr - Current ICESat /NASA 氷床観測 2015~2019 2013 ISS-JEM /JAXA 植生観測(提案中) 2015 2016 EarthCARE/ESA-JAXA 雲・エアロゾル観測 2003/1 – 2010/2 ICESat -II/NASA 氷床観測 2016 現在 • 複合観測センサ候補としてライダーミッションが期待される。 • 共通的に必要となる基盤技術:宇宙用パルスレーザ光源 ⇒ 高信頼性のレーザが必要とされる領域 背景/どういうパルスレーザ光源が必要か? 目標領域 目標1:平均出力10W級以上 CDL 30Hz 1550nm/2090nm 0.5J CO2 70Hz-pair 1572nm/2060nm 100mJ 次世代ライダー観測 に要するスペック ALADIN(ADM) 100Hz 355nm 150mJ 10W 級 Scanner 1300Hz 1064nm 10mJ 開発の方向性 1W級 GLAS(1 (ICESat)40Hz 532nm/1064nm 30mJ/100mJ mW級 ATLID(EarthCARE) 100Hz 355nm 19mJ 現在の技術 レベル CALIOP(2 20.16Hz 532nm/1064nm 110mJ/110mJ LALT 1Hz 1064nm 100mJ 目標2:寿命 100億ショット (=軌道上で3~10年以上動作できる) 1) J.B. Abshire et al. GRL (2005) 2) W.H. Hunt et al. Proc of 24th ILRC (2008) LALT, GLAS, CALIOP, ALADIN, ATLID: 商用で普及しているNd:YAG レーザを利用 CDL, DIAL : Nd:YAG レーザとは異なるレーザが必要 ICESat -> CALIPSO では与圧システムを採用しコンタミネーション起因のレーザ寿命低下を改善 ICESat は運用開始後約 1-2ヵ月程度でレーザ出力 60% 以下へ CALIPSO は運用開始後約 3年経過でも出力 96% 以上を維持(現在2nd レーザが稼働中) 6 宇宙用レーザのベンチマーク~消費電力・質量~ センサー名 (搭載衛星: 開発機関) 目標 BBM ATLID (EeathCAR E:ESA) ALADIN (ADMAeolus:DLR) (CALIPSO :NASA/CNES) (ICESat:NASA) 質量(kg) 50-60 35 51.5 35 15.2 3.7(※) 消費電力(W) > 200 300(†) 510 99 110 17.0(※) レーザ平均 出力(W) > 10-20W級 (> e-o効率 10%) 1.9 (3次高調波 として) 15 4.4 4.4 0.008 繰り返し周 波数(Hz) 100 Hz 100 100 20 40 1 大気・エアロゾ ル計測用後方 散乱ライダ 風向・風速計 測用ドップ ラーライダ エアロゾル計 測用後方散 乱ライダ 地球観測用 レーザ高度計 小惑星着陸 用高度計 2015 (予定) 2013(予定) 2006 2003 2003 ドップラー レーザスキャナ レーザ高度計 DIAL 用途 打上げ年度 - CALIOP GLAS ※ LIDAR機器としての質量・電力(他はレーザモジュールのみ) † 送信機全体(レーザ単体以外の消費電力も含む) LIDAR (はやぶさ :JAXA) 7 宇宙機(地球観測衛星/探査機)搭載レーザレーダ(ライダ) ~技術ブレークダウンストラクチャ(TBS)~ 送信部 ライダーシステム 受信光学系 :本研究の対象 10W級 パルスレーザ 高品質結晶の試作: RIKEN 結晶加工・品質評価 大口径受信鏡 伝導冷却技術の提供: NICT->JAXA モジュール試作品:RIKEN->JAXA 排熱(励起構造) 大型ミラーの研究/ 次世代の観測衛星 の研究で実施 低歪光学ベンチ 高安定共振器: JAXA 機構(アライメント、振動) 宇宙用高出力 LD スタック スキャン機構 宇宙用 EO デバイス 検出部 用途毎に R&Dを実施 検出素子 コンタミネーション抑制 放射線試験による 軌道上耐性評価: RIKEN/JAXA 不活性ガスのパージ/非パー ジシステムを用いた試験 狭帯域レーザ 信号処理 高精度波長制御 DIAL: Transmitter 10W級パルスレーザ LD stack module LD stack module LD stack module Cavity length Controller Narrow band laser 1 Narrow band laser 2 Reference gas Optical Switch 10W級パルスレーザ LD stack module LD stack module LD stack module LD stack module EO Cavity length Controller Isolator Doppler, DIAL, Scanner などに 共通するレーザ発振機 Optical Switch Doppler Transmitter LD stack module EO Isolator Narrow band laser 1 Send to detector as Local oscillator 8 本研究のレーザシステムとライダーシステムとの対応 技術的難易度(レーザ送信部) 高 Aerosol/Cloud Doppler CALIOP, ATLID GLAS, ATLAS ALADIN 非線形波長変換 DIAL N/A ダブルパルス SHG, THG SHG, THG OPO/OPA/OPG 高精度波長制御 1064 nm パルスレーザ(本研究の対象) 送信部 10W級 パルスレーザ 結晶加工・品質評価 排熱(励起構造) 機構(アライメント、振動) 宇宙用高出力 LD スタック 宇宙用 EO デバイス コンタミネーション抑制 9 重要技術課題 課題①: 排熱 『レーザ光源は原理的にエネルギー効率が悪い』 10Wのレーザ光源を作るには・・・ ・レーザ結晶から各20W×3~4個(合計で60~80W)の排熱。 ・発熱密度: 1W/mm3。 (→結晶の破壊や出力の不安定性の要因にも) ・励起用LDモジュールから合計で300~350Wの排熱。 ⇒排熱技術が非常に重要となる。 課題②: コンタミネーション 『高出力レーザ光源は特にコンタミに弱い』(通常は定期的にクリーニングを実施している) アウトガスによる分子コンタミの影響 ・光学素子の性能を劣化させ、出力低下・ビーム品質悪化を引き起こす。 ・光学素子の反射防止膜上で、高出力レーザによる焼損を引き起こす。 ⇒ コンタミの課題を解決することは必須。 課題③: 構造 『高出力レーザ光源は高精度アライメントが必要』 打上げ機械環境や熱歪みによるごく僅かなミスアライメントでも、出力低下・ビーム品質悪化に繋がる。 ⇒ 耐振動性の評価や発振器構造のロバスト性向上が必要。 ◆ 重要技術課題の解決に向けて以下の2つのアプローチで研究を進める アプローチ1 各課題個別の対策の検討 アプローチ2 各課題に対する対策の効果をレーザシステムとして組み上げた状態で評 価することも不可欠である。よって、BBMを早期に試作、環境試験等を通 じで、これらの有効性を評価し、早期に各検討にフィードバックを行う。 10 宇宙用高出力パルスレーザ技術 研究計画 ● BBMによりレーザ送信部のシステム成立性を確認するとともに、各種環境試 験を早期に実施し、宇宙用高出力パルスレーザ光源技術を短期で実現する。 1年目 レーザシステム及び 主発振器の設計 2年目 ○ 主発振器の筐体実装 → 実装性の確認 &環境試験による確認へ ○ 初段増幅器の実装 3年目 後段増幅器を実装、高出力化へ 光源筐体の内部構成(MOPA方式) 主発振器 初段 増幅器 レーザ光の流れ 進行状況 後段増幅器(2段) 筐体設置イメージ 光学定盤設置イメージ 主発振器(光学定盤設置) 20mJ x100Hz, 15-30ns [その他の研究計画] ○ 放射線耐性試験準備 ○ 過去のプロジェクトの lessons learned ヒアリング ○ システム熱制御の検討 主発振器(筐体設置) 20mJ x100Hz, 15-30ns 主発振器+増幅器(1段) 30-50mJ x100Hz,10-20ns [その他の研究計画] ○ BBM用レーザ結晶の試作(RIKEN) ○ 評価試験(放射線・寿命試験) ○ コンタミネーション抑制技術の研究 ○ システム熱制御 主発振器 +増幅器(計3段) 100mJ x100Hz, 5-7ns 主発振器 +増幅器(計3段) 150mJ x100Hz, 5-7ns 時間 [その他の研究計画] ○ 評価試験(放射線・寿命試験) ○ コンタミネーション抑制技術の研究 ○ システム熱制御 ○ 翌年度以降の展開検討 11 重要技術課題 LD pump power: 1.8kW Derated power: 1 kW LD pulse width: 200us Repetition rate: 100Hz Heat: 45 W Oscillator Pre amplifier LD pump power: 4.5kW Derated power: 2.4kW LD pulse width: 200us Repetition rate: 100Hz Heat: 110 W 主発振器 光源筐体の内部構成(MOPA方式) Post amplifier LD pump power: 6.0kW Derated power: 3.6 kW LD pulse width: 200us Repetition rate: 100Hz Heat: 160 W レーザ光学素子の破壊、劣化を抑えるため 発振器出力を低出力化 増幅器(プリアンプ、ポストアンプ)による出力調整 → LDを長く使うためのディレーティング。 機材の寿命に対して 光学素子の破壊、劣化 打ち上げ時の振動による光強度の減少 を解決した場合レーザシステムの寿命を決定する要因は LD の寿命 No. EOL (shot) パルス幅 : 200us 素子温度: 25 degC 1 Quantel-LD 補償値 0.5-10 billion ( 4-10 x 109) 2 Duty cycle 5% -> 2% 1.25-25 billion ( 10 - 25 x 109) 5% / 2% = 2.5 倍 3 温度変化 (1/2 @ +10 degC) 0.4-8 billion ( 3.2 - 8 x 109) + 3 deg -> 0.8 倍 (+10 deg → ½倍) 4 2 & 3 を考慮 1 – 20 billion ( 8 - 20 x 109) 2.5 x 0.8 倍 5 ディレーティング (x @ y %) ? X倍 6 推定される寿命値 (No.4 x No.5) ( 1 – 20 ) x X billion 9.5 x 109 shot(参考) ≒ 3年動作 EOL (shot) スタート時の出力と比較して 80% となる時間とする まとめ/今後の進め方 ○これまでの成果 宇宙用レーザシステム(BBM)全体の設計を実施した。 構成:主発振器+増幅器(MOPA方式)。 この 出力分担配分を決定。 目標である10W級出力・パルス幅5~7nsを得られる設計とした。 主発振器について、詳細設計を実施した。 有識者との議論およびメーカヒアリングを行った。 ○今後 光学定盤上で主発振器のレーザ発振。性能及び設計妥当性評価 筺体モデルへの移植に向けた設計 ⇒ 筺体へ移植、初段増幅器を設計&実装し、性能評価(来年度) 耐環境/寿命・信頼性評価及びコンタミネーション防止、 システム熱制御技術に関する詳細な研究実施。 14
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