第6章 文章理解と知識 - @niftyホームページ

市川伸一・伊東祐司(編)『認知心理学を知る<第3版>』おうふう
第6章
文章理解と知識
執筆者:伊東裕司
授業者:寺尾敦
atsushi [at] si.aoyama.ac.jp
Twitter: @aterao
この章で学習すること
• 文章を理解するために必要な知識は?
– 単語
– 文法(統語規則)
• 単語と文法の他に必要なもの
– スキーマ(フレーム):対象に関する一般的・抽象
的な知識.階層構造のようなまとまりをもつ.
– 目標と計画の知識
– スクリプト
1.スキーマ,フレーム
• 例文1:彼女は金髪の美人で,目は青く口は
大きめである.
• 「目」と「口」は,さいころの目や袋の口ではな
く,彼女の顔の一部であるとなぜわかる?
• 「彼女は金髪の美人で」という前半部分が,
身体スキーマあるいは顔スキーマを活性化さ
せる.残りの部分はそのスキーマを利用して
解釈される.
• スキーマ
– 対象についての一般的,抽象的な知識.
– 何らかの形で構造化され,他の知識と関連付け
られている.
• 例:顔スキーマは身体スキーマの下位スキーマ(部分
スキーマ)である.顔スキーマの下位には,目スキー
マや口スキーマがある.(図6-1 参照)
– 具体的対象の属性(スロット)とその値を記録する.
• 例:顔スキーマの輪郭属性の値は楕円.これはおそら
くデフォルト値.
警官が犯罪者を殴った.
「なぐる」スキーマによる理解
事実1:
ISA:事件
行為:なぐる
行為者:警官
受容者:犯罪者
命題ネットワーク表現
犯罪者
行為
受容者
行為者
警官
なぐる
何の話? -1• その手順はとても簡単である。はじめに,ものを
いくつかの山に分ける。もちろんその全体量に
よっては,一山でもよい。次のステップに必要な
設備がないためどこか他の場所へ移動する場
合を除いては,準備完了である。一度にたくさん
しすぎないことが肝心である。多すぎるより,少
なすぎる方がましだ。すぐにはこのことの大切さ
がわからないかもしれないが,めんどうなことに
なりかねない。そうしなければ,高くつくことにも
なる。
つづき
• 最初はこうした手順は複雑に思えるだろう。で
も,それはすぐに生活の一部になってしまう。
近い将来,この作業の必要性がなくなると予
言できる人はいないだろう。その手順が終
わったら,再び材料をいくつかの山に分ける。
そして,それぞれ適切な場所に置く。それら
はもう一度使用され,またこのすべてのサイ
クルが繰り返される。ともあれ,それは生活の
一部である。(Bransford & Johnson,1972)
何の話? -2• 新聞の方が雑誌よりいい。街中より海岸の方
が場所としていい。最初は歩くより走る方が
いい。何度もトライしなくてはならないだろう。
ちょっとしたコツがいるが、つかむのは易しい。
小さな子どもでも楽しめる。一度成功すると面
倒は少ない。鳥が近づきすぎることはめった
にない。
• ただ、雨はすぐしみ込む。多すぎる人がこれ
をいっせいにやると面倒がおきうる。ひとつに
ついてかなりのスペースがいる。面倒がなけ
れば、のどかなものである。石はアンカーが
わりに使える。ゆるんでものがとれたりすると、
それで終わりである。(西林, 2006)
2.目標と計画
• 文と文のつながりを理解するためには,しば
しば目標と計画に関する知識が必要.
– スキーマによる文章理解と考えてもよい.
• 例文2:彼女は激しい空腹を覚えた.そこで
バッグから旅行ガイドを取り出した.
• ここで使われる知識:「空腹を満たすためには,
食べ物がある場所を知り,そこにたどり着い
て,食べ物を食べればよい」
• さらに,「食べ物のある場所を知るためには,
それが記されている地図(旅行ガイド)を調べ
ればよい」「旅行ガイドには食べ物の場所が
記されている」という知識が使われる.
3.スクリプト
• スキーマの中で,一連のできごとに関するも
のをスクリプトと呼ぶ.
• 例文3:彼女はレストランに入るとロースト
ビーフを注文した.彼女はたいへん満足して
店を出た.
• 席に案内されたこと,勘定を払ったことなどは,
文には書いていないが理解できる.これはレ
ストラン・スクリプト(表6-1)のはたらき.
• 文,あるいは一連の文の一部から,特定のス
キーマ(スクリプト)が検索される.そのスキー
マを利用して文の理解がなされる.
• あいまいな部分や明示的に書かれていない
ことは,スキーマに合わせて理解される.
4.スクリプトの心理的実在性
• スキーマやスクリプトは,われわれの心の中
に実在するのか?
• もちろん,実在すると考えなければ,これまで
見てきたような文理解を説明できない.
• 実在性を示す実験的証拠もある.
• 単一の文化の中では,ほとんどの人が共通し
て持つ標準的なスクリプトが存在する.
– 「医者にかかる」などの状況でいつもきまって行
われる行為を挙げてもらうと,ほとんどの行為は
多数の被験者によって挙げられる.
– スクリプトにある行為は,提示した文章に書かれ
ていなくても,後の再認テストでは「読んだ」と判
断されがちであった. (Bower, Black, & Turner,
1979.テキスト p.75)
5.構成過程としての文章理解
• 文章を読み始めて何らかのスキーマが検索
され,それに基づいて文章理解が行われる.
• ただし,最初に呼び出したスキーマではうまく
文章理解ができず,スキーマの検索をやり直
すこともしばしば生じる(テキスト例文4).
• スキーマを利用しても,理解が難しいことはし
ばしば生じる.理解を構成する問題解決的な
過程が必要になる(テキスト例文4および5).