操縦性能について 目次 1. 2. 3. 操縦性能の概要 舵について 操縦性能の推定について 1、操縦性能の概要 操縦性能は次の3つに分けられる。 旋回性能 …少ない範囲で針路を変える性能 停止性能 …速やかに停止する性能 保針・変針性能 …針路を安定に保つ性能 旋回性能 「旋回性能」と「初期旋回性能」がある。 旋回性能 縦距と旋回圏 によって決まる。 2002年に改訂されたIMO基準では、最大舵角旋回試験において、 縦距<4.5L 旋回圏<5.0L と定められている。 初期旋回性能 10°Z試験の最初の10°回頭時点までに 航走する距離で決まる。 IMO基準では、2.5L未満 と定められている。 停止性能 停止距離を指標とする。 IMO基準では、緊急停止試験において、 停止距離<15L と定められている。 大型貨物船はプロペラ停止までに時間がかかるので、 特例として、最大20Lまで認められている。 保針性能(course keeping ability) 変針性能(yaw checking ability) …大型タンカーなどの肥大船で問題になる 船の保針・変針性能は定常旋回特性(スパイラル特性)のループ 幅やZ試験のオーバーシュートを指標として評価される。 これらの指標は針路安定性と舵力の両方を反映しており、操船の 難易度を表している。 IMO基準では、10°Z試験で、 第1オーバーシュート<10° (L/U<10s) <5°+0.5L/U (10s<L/U<30s) <20° (30s<L/U) 第2オーバーシュート<25° (L/U<10s) <17.5°+0.75L/U (10s<L/U<30s) <40° (30s<L/U) 20°Z試験で、第1オーバーシュート<25° と定められている。 Z試験 一定舵角±δを交互に とって、舵角と回頭角 を、時間を横軸にとっ てグラフ化する。 スパイラル試験よりも 簡単で実用的な試験。 スパイラル試験 定常旋回半径と舵角の関係を調べる試験。 試験の手順 最初に10°や15°といった大きめの舵角を与え、旋 回が定常になったときの角速度を計測する。その後、 舵角を減らしていき、おなじ手順を繰り返す。 この試験は、広い海域が必要、時間がかかる、精度 のよい計測が難しく熟練が必要 、などの欠点がある。 これらの欠点を解消できる方法として、逆スパイラ ル試験がある。 スパイラル特性 逆スパイラル試験 逆スパイラル試験は、名前の通り、スパイラル試験 とは逆に、旋回角速度を一定に保つように絶えず舵 を動かし、そのときの角速度と舵角の平均値を計算 するものである。 この試験は微小振動の平均値という形で値を求める ので、静的には不安定釣合となる不安定ループ内部 (S字部分)の特性を決定することができる。 また、スパイラル試験ではループ幅最大の部分で、 外乱により反対側の旋回に移ってしまうことがある が、この試験ではそれを防げる。 2.舵 多くの船では1軸1舵、2軸2舵が採用されている。 プロペラの背後に舵を置くことによって強いプロペラ後 流を受けることができ、効果が上がる。 舵の力は基本的に流速の2乗に比例しているので、低速 操船時は舵の力が小さくなって操船が困難になる。 舵の効きを良くする方法のひとつに、舵面積を大きくす ることが挙げられるが、その場合、推進性能は低下して しまう。 1 2 F ρSC LU 2 特殊な舵 港への出入りが多い内航船などで、操縦性を重視してよく使われる。 フラップ付きラダー 舵の後端に取り付けられたフラップが 主舵に連動して動く。 キャンバーが大きくなるので、高揚力 を得られる。 フラップを駆動する機構により複雑化 し、抵抗が増加するという欠点もある。 特殊な舵(2) シリングラダー 舵の断面がfish tail 型と呼ばれる 形状をしている。低速時でも大舵 角で大きな力を受けることができ る。 また、揚力を向上させるために上 下に端板が付けられている。 特殊な舵(3) ベクツインラダー プロペラ1基に対して、2枚 のシリングラダーを取り付け たもの。 ジョイスティックによる操作 で、105°まで舵角が取れ、 その組み合わせにより、普通 の舵ではできない全方向への 操船が可能になる。 3.操縦性能の推定について 操縦性基準が定められると、それを満たす船を作らなければ ならず、設計の段階で性能を推定する必要がある。 その方法として •過去の実船試験のデータベースに基づく方法 •模型試験に基づく方法 •シミュレーション計算に基づく方法 が挙げられる。 なかでもシミュレーション計算は、費用や時間の面で最も効 率が良い。 シミュレーション計算に基づく方法 シミュレーション計算によって操縦性能を推定する 場合、数学モデルと呼ばれる操縦運動を表す式が用 いられる。 操縦運動は、さまざまな流体力の総和によって生じ るので、数学モデルではこの流体力を精度良く表す ことが最も重要になる。 数学モデルでよく用いられるものに、MMGモデルが ある。MMGモデルでは流体力を、船体、プロペラ、 舵に単独に作用する流体力とそれらの相互の干渉力 からなるものと考える。 シミュレーション計算に基づく方法(2) 数学モデルで用いられる流体力の推定の仕方にもいくつかあり、 • 実船のデータベースを元に、船型要目をパラメータ とした式で表す方法 • 理論式から導く方法 • CFDによって船体まわりの流場を数値的に計算する 方法、などがある。 通常航行の状態だけでなく、低速航行時や大斜航時、浅水域や 狭水路の航行時など、状況によって流体力は変わるので、それ にあった数学モデルが必要になる。 まとめ 1. 旋回性能や停止性能は、名前の通り、旋回、停止に必要な距 離で基準が示されている。一方、保針・変針性能はループ幅、 オーバーシュートという船独特の指標が使われている。 2. 操縦性能向上のために、特殊な舵やその他の付加物(船尾 フィンやスケグ)を取り付ける場合は、推進性能の低下に注 意しなければならない。 3. シミュレーション計算による推定の精度向上のために、特に CFDを使った方法が期待されている。 参考資料 操縦性能研究の設計への応用 運動性能研究委員会 第12回シンポジウム 北海道大学の授業テキスト http://ocw.hokudai.ac.jp/Course/GraduateSchool/FisheriesSciences/MarineIndu stryScience/2006/page/materials/MarineIndustryScience-2006-Text-All.pdf ナカシマプロペラ http://www.nakashima.co.jp/products/ship/index.html ジャパンハムワージ株式会社 http://www.japanham.co.jp/service/index.htm 日本船舶海洋工学会 西部支部メールマガジン http://www.jasnaoe.or.jp/mailnews/west/015/article01.html CiNii-進路不安定船の新しい操縦性試験法 : 逆スパイラル・テスト http://ci.nii.ac.jp/naid/110003873705/
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