身心変容技法と マインドフルネス 高野山大学 井上ウィマラ 宗教学会 於: 同志社大学 2014.9.14 Mindfulness Based Stress Reduction proguram • 『マインドフルネスストレス低減法』 • Jon Kabat-Zinnが1979年にマサチュセッツ 大学医学部にMindfulness based Stress Reduction programを創始する。 • 一万八千人以上が8週間のプログラムを終了 • 治療困難な慢性疼痛から高血圧、摂食障害 、パニック障害などにも効果がある。 • 1995年からはCenter for Mindfulness in Medicine, Health care and Society. マインドフルネス瞑想とは • • • • 注意集中力を高めるための体系的訓練。 一つひとつの瞬間に純粋な注意を向ける。 今まで意識していなかったことを意識化する。 リラクセーション、注意力、自覚、洞察力をも たらし、その人の潜在的能力を活かし、人生 を上手に管理する能力を開発するための器。 • 思い込みの枠が外れ、全体性に触れることに より自然治癒力が高まる。 ある患者の事例 • 心臓疾患を抱えた実業家: 生きていても仕方ない。自分の人生は終わっ た。何をしても意味がない。楽しいことなど何 一つない。家庭も同様・・、希望もない。 ↓ • 仕事に没頭しているうちに人生を見失ってい たことに気づく。 • 家族への愛の大切さに気づく。 • 心臓疾患が治ったわけではないが、絶望した 患者ではなくなった。 • 目の輝きが戻り、健康そうで幸せに見えた。 • 病気や仕事を抱えながらも人生に喜びが感じ られるようになった。 • 自分を病人としてみるのではなく、一人の人 間として見られるようになった。 (言葉にされないスピリチュアリティの現れ) 第三世代の認知行動療法へ • 『マインドフルネス認知療法(MBCT)』 (シ ーガル、ウィリアムズ、ティーズデール) 「本書はマインドフルネス瞑想法と認知療法と いう、東洋の瞑想実践と西洋の心理学を結び つける最初の試みである」 • 「弁証法的行動療法(DBT)」 (M.リネハン) • 「アクセプタンス&コミットメントセラピー」 (S.C.ヘイズ) • 脱中心化・デフュージョン・脱同一化 • メタ認知 マインドフルネスの研究 • 注意訓練法 (Attention Training Technique) 選択的注意、注意の転換、注意の分割 (Wells, 1990) • Focused Attention と Open Monitoring (Lutz et. al. 2008) • 神経可塑性 (Lazar 2005) 右前島皮質、ブロードマン9番、10番で厚み が増していた。 PTSDの治療とマインドフルネス 「PTSDにおける脳科学研究の臨床への考察」 B.A.ヴァン・デア・コルク • トラウマを受けた人は、自分の内的感覚を意 識すると圧倒された気分になったり、内的自 己存在を否定することが多い。(この世・現在 で迷子になっている状態) • 肉体感覚や感情が常に変化していることを学 び、それらを体験しても安全であることを学ぶ と、「今・ここ」に目を開き、周囲にある喜びを 得る資源を見出すことができるようになる。 『Satipaṭṭhāna-sutta(念処経)』 • Sati < sarati (思い出す)。 • 念: 今ここを思い出し続け、忘れない心 →マインドフルネス→気づき。 • 1秒前、0.1秒前を思い出す思考実験。 • 記憶による“私”の認識が成立する以前 の純粋体験に触れる体験。 • paṭṭhāna (確立) upa(近くに)√thā:世話する、ケアする。 『気づきの確立に関する教え』 4つの対象領域: 1. 身体: 呼吸、姿勢、日常動作、身体部分、地水火 風の要素、死体の崩壊プロセス 2. 感受: 快・不快・中性の身体感覚 3. 心: 貪瞋痴に染まっているか否か、散乱・集中、 こだわり・解放 4. 法: 五蓋、五蘊、六感覚処、七菩提分支、四聖諦 3つの視点 (内、外、内外 → 自分、他者、自他) 1. 主観的観察: 自分の呼吸など 2. 客観的観察: 相手の呼吸など 3. 間主観的観察: 自他の間や場の呼吸など 呼吸の見つめ方 • • • • • 呼吸をコントロールしない。 そのときの呼吸の長短などを自覚する。 始まりと終わりに注目する。 全身で感じてみる。 身体(呼吸)の動きが静まってゆく。 • 比丘は森に行き、あるいは樹下に行き、あるいは静かなとこ ろに行って結跏し、身体をまっすぐにして念を対象に向けて 集中させる。そして正しい念をもって出息し、正しい念を持っ て入息する。長く出息すれば「私は長く出息する」と知り~短 く出息すれば~「全身を明確に知って私は出息しよう」と努め ~「身行を静めて私は入息しよう」と努める。 感情の見つめ方 • その感情がある状態とない状態を自覚する。 • 発生過程における魅力、ピークを過ぎた後の 落胆、消滅過程における寂しさなどに注意を 向ける。 • ここに比丘たちよ、内に怒りがあれば「私の内に怒 りがある」と知り、あるいは内に怒りがなければ「私 の内に怒りがない」と知る。また、未だ生じない怒り がどのように生じるかを知り、すでに生じた怒りがど のようにして捨断されるかを知り、捨断された怒りが 将来どのようにして生じないかを知る。 気づきの作法 修行中の雑念に気づくたびに 1. 何が起こっていたのかをありのままに確認 する。善悪は裁かない。最初は一言で確認 してみるとよい。 2. その想念が身体のどの部分にどのような影 響を与えているかを丁寧に感じ取ってみる。 3. 姿勢やバランスの崩れを確かめて、整え、 ゆっくりと優しい気持ちで呼吸に戻る。 気づきの確立がもたらす洞察 • 洞察1: 「あらゆる現象は、生起してくるもの であり、消滅してゆくものであり、生起と消滅 を繰り返すものである。」 • 洞察2: 「私」という観念は身体に基づき意識 によって構成されたものであり、見たまま・聞 こえたままの純粋体験に触れると「私」は氷 解してゆく。 • 洞察3: 日常的「私」意識と純粋体験の間を 意識的に往復できるようになると、自作自演 していた生きにくさから解放されてゆく。 悟りとは何か? 無常 すべてのものごとが変化し 一つのイメージ、概念、 続けていることへの洞察。 感情などに囚われない。 自分も相手も変わって ゆくことを許せる。 苦 あらゆる体験に伴う痛み 希望を持ちながらも期 や不満足性への洞察。喜 待に裏切られない生き びや快感も私有化し比較 方が可能になる。 することで苦となる。 無我 ものごとを私有化したり支 思い通りにならない人 配したりすることが不可能 生を試行錯誤しながら なことへの洞察。 生き抜く明るさと勇気。 聖なる流れに入る条件 1. 有身見を超える: 自分の身体が究極的に は自分の所有物ではないことへの洞察。死 の受容と生かされていることへの感謝。 2. 戒禁取見を超える: 儀礼や慣習へのこだ わりを超える。宗教的儀礼の本質(葬式法 事における悲嘆の仕事)を洞察し、必要に 応じて創意工夫できる。 3. 疑いを超える: 三宝、四聖諦、三世への疑 念を超える。外的権威に依存しない自己信 頼を獲得する。 よき看護者の5条件 律蔵「大品」より(gilānupaṭṭhāka) 1. 薬を調合したり、調達することが出来る。 2. 病気に良いことと悪いことがわかり、病状が悪化 するのを防ぎ快方に向かわせることができる。 3. 慈しみの心で看病し、見返りを求めない。 4. 糞尿や唾や痰や嘔吐物などを取り除くのを嫌がら ない。 5. 適当な時期を見て患者に法にかなった話をして、 理解してもらい、励まし、喜ばせることができる。 看病しにくい人の5条件 1. 快方に向かうことを実行しない。 2. 快方に向かうことだからといってやりすぎて しまう。 3. 処方された薬を服用しない。 4. 看病してくれる人に病気についてありのまま に報告してくれない。 5. さまざまな痛みを我慢することができない性 質である。 スピリチュアルな器としての マインドフルネス 俯瞰的視点 (離見の見) いのちのゆりかごとしての呼吸 Spīritus: 呼吸によって生かされているもの 見守る息づかい ケアの循環を作り出す チャイルド・ケア ターミナル・ケア 気にかける 大切に思う 好き 世話をする 専門的ケア グリーフ・ケア
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