少子高齢・ 人口減少社会への対応策としての大学修業

第49回日本老年社会科学会大会(2007年6月22日 札幌)
少子高齢・人口減少社会
への対応策としての大学
修業年数短縮
小田 利勝
神戸大学大学院人間発達環境学研究科
問題の所在
少子高齢・人口減少社会の到来
→ 年金財源問題-老後生活費
→ 労働力問題-労働力の減少
高年齢者雇用安定法改正(07年4月)
→老後生活費の確保と労働力の確保
人口高齢化と人口減少への対応策としての
移民受け入れのシナリオ(国連,2000年)
The Size of Replacement Migration, Annual Average Number of Net Immigrants, for 50
years beginning 2000 by Three Scenarios regarding International Migration (1,000)
based on medium
to keep total
to keep work-age
to keep agedCountry
level estimation
population
population
dependency ratio
annual
annual
annual
annual
total
total
total
total
average
average
average
average
France
325
7
1,473
29
5,459
109
1,792
36
Germany 10,200
204 17,187
344 24,330
487
3,630
73
Italy
310
6 12,569
251 18,596
372
2,268
45
Japan
0
0 17,141
343 32,332
647 10,471
209
Korea
-350
-7
1,509
30
6,426
129 102,563
2,051
Russia
5,448
109 24,896
498 35,756
715
5,068
101
UK
1,000
20
2,634
53
6,247
125
1,194
24
USA
38,000
760
6,384
128 17,967
359 11,851
237
Europe
18,800
376 95,850
1,917 161,350
3,227 27,139
543
EU
13,500
270 47,450
949 79,400
1,588 13,480
270
UN: Replacement Migration: Is it a solution to decrining and ageing population? (2000)
研究の目的
少子高齢・人口減少社会が抱える問題への
対策における もう一つの選択肢 として、
大学修学年数を現行の4年から3年に1年
短縮した場合に期待される効果を測定する
期待される効果
 労働人口と納税人口を早期に補充できる
 学生生活費の親の負担分が軽減される
 老後生活費を準備する時期を早くすることが
でき、貯蓄額が増加する
 奨学金をより多くの学生に貸与できる
 教育費の負担が減少することによって出生率
が上昇する
 消費が拡大する
分析モデルの骨格
方法
 卒業生数、学生生活費、老後生活費等の
基礎データの収集と分析
 教育水準を落とすことなく(単位数を減
らすことなく)修学年数を1年間短縮す
ることを可能にするカリキュラムと教育
体制の工夫
 システム・ダイナミックスによるシミュ
レーション・モデルの開発
学校教育法第五十五条の三に定められた
3年卒業の特例
大学は、文部科学大臣の定めるところにより、当該大学
の学生(第五十五条第二項に規定する課程に在学するも
のを除く。)で当該大学に三年(同条第一項ただし書の
規定により修業年限を四年を超えるものとする学部の学
生にあっては、三年以上で文部科学大臣の定める期間)
以上在学したもの(これに準ずるものとして文部科学大
臣の定める者を含む。)が、卒業の要件として当該大学
の定める単位を優秀な成績で修得したと認める場合には、
同項の規定にかかわらず、その卒業を認めることができ
る。
学校教育法施行規則第六十八条の三に定められた
3年卒業認定の要件
学校教育法第五十五条の三に規定する卒業の認定は、次の各号に掲
げる要件のすべてに該当する場合(学生が授業科目の構成等の特別
の事情を考慮して文部科学大臣が別に定める課程に在学する場合を
除く。)に限り行うことができる。
一 大学が、学修の成果に係る評価の基準その他の学校教育法第五十
五条の三に規定する卒業の認定の基準を定め、それを公表してい
ること。
二 大学が、大学設置基準第二十七条の二に規定する履修科目として
登録することができる単位数の上限を定め、適切に運用している
こと。
三 学校教育法第五十五条第一項に定める学部の課程を履修する学生
が、卒業の要件として修得すべき単位を修得し、かつ、当該単位
を優秀な成績をもつて修得したと認められること。
四 学生が、学校教育法第五十五条の三に規定する卒業を希望してい
ること。
カリキュラムの工夫による3年制の可能性
 学部教育が3年制の国-イギリス、デンマーク、
ノルウェー、フランス、インドなど。
 2006年EU共通の新制度(学士3年、修士2
年、博士3年)
 卒業に必要な最低単位数(124単位:大学設
置基準)を3年で取得可能なように工夫するこ
とは、それほど困難ではない
 3年で何単位まで取得可能かを検討
大学(学部)卒業者数と就職者数(1965年~2006年)
「学校基本調査」から作成
大学(学部)卒業者数の就職率(1990年~2006年)
「学校基本調査」から作成
90.0
80.0
就職率1(就職者)
就職率2(就職者+一時的就労者)
大学院進学率
81.9
81.0
70.0
69.0
67.9
63.1
67.1
60.0
65.6
60.0
61.1
59.6
60.3
66.7
63.7
60.1
50.0
61.2
63.3
55.8
57.3
56.9
55.0
55.8
59.7
40.0
30.0
10.1
10.7
10.8
10.9
11.4
11.8
12.0
12.1
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
6.8
9.4
1998
10.0
9.4
1995
20.0
1990
0.0
18歳人口の推移(2005年~2055年)
「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)」から作成
人
1,500,000
計
1,400,000
男
女
1,300,000
1,200,000
計 Y=1,334,652-15,012X
(110.8***)
(-32.2***)
R2乗 0.966, D-W 0.106
1,100,000
1,000,000
900,000
男 Y=684,328-7,698X
(111.1***) (-37.3***)
R2乗 0.966, D-W 0.113
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
女 Y=650,323-7,314X
(110.3***) (-37.1***)
R2乗 0.966, D-W 0.099
300,000
200,000
100,000
年
2055
2050
2045
2040
2035
2030
2025
2020
2015
2010
2005
0
大学(学部)進学率(1954年~2006年)
「学校基本調査」から作成
大学進学率の推計モデル(ロジスティック回帰曲線)

1
年次 
年次tの予測値 
 定数回帰係数 
(%)
 進学率の上限

1
 1
t
E (Yt )    0.112 0.949 
 60

定数のt値 14.4 * * *
係数のt値 445.8 * * *
R 2  0.915
1
修学年数を3年にしたときの各年の労働人
口増加分の推計に際しての仮定
 労働人口増加分
=卒業者数
-(大学院進学者数+臨床研修医+その他
の者+死亡・不詳)
=就職者 + 一時的就労者
 卒業者数=3年前の18歳人口×進学率×0.95
 進学率上限は60%(推計モデルのR2乗が最大)
 18歳人口は「日本の将来推計人口」に基づく
修学年数を3年にしたときの各年の労働人口増加分
の推計(2008年~2058年)
650,000
人
進学者数
3年前の進学者の95%が卒業
卒業者の60%が就職
卒業者の65%が就職
卒業者の70%が就職
600,000
550,000
500,000
450,000
400,000
350,000
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
2055
2050
2045
2040
2035
2030
2025
2020
2015
2010
2005
0
年
学生生活費と親の負担
老後の準備を考えた年齢と実際に始めた年齢
(小田利勝「「いまの高齢者は老後の準備を何歳頃に始めたか」『神戸大学発達科
学部研究紀要』11-1、161-172、2003)
%
漠然
と考
えた
年齢
真剣
に考
えた
年齢
実際
に始
めた
年齢
回答数
2,327
2,281
2,149
25.0
平均値
(歳)
57.6
62.1
62.8
20.0
標準偏差
(歳)
9.9
8.9
8.9
15.0
中央値
(歳)
60
63
65
最頻値
(歳)
60
60
60
最小値
(歳)
21
25
25
最大値
(歳)
90
90
90
35.0
老後の準備を漠然と考えた年齢
30.0
老後の準備を真剣に考えた年齢
老後の準備を実際に始めた年齢
10.0
5.0
80歳-
75-79
70-74
65-69
60-64
55-59
50-54
45-49
40-44
35-39
30-34
-29歳
0.0
老後の最低日常生活費(夫婦二人)
N
4,202
1,856
2,346
83
495
784
771
1,020
1,049
全体
性
別
男性
女性
10歳代
20歳代
30歳代
40歳代
50歳代
60歳代
年
齢
別
15万
円未満
3.3
3.4
3.2
2.4
4.0
2.9
1.9
2.8
4.6
ゆとりある老後生活費(夫婦二人)
N
(単位:%)
15~ 20~
20万 25万
円未満 円未満
7.9
8.7
7.2
8.4
8.5
7.8
6.9
6.9
9.2
27.1
25.6
28.3
12.0
22.0
31.9
29.2
26.8
26.0
25~
30万
円未満
30~
40万
円未満
40万
円以上
わから
ない
平均
(万円)
16.6
15.6
17.4
6.0
10.1
14.8
19.2
17.5
19.0
23.9
24.1
23.7
12.0
17.6
25.3
25.0
27.9
22.1
3.1
2.9
3.2
1.2
2.4
2.2
3.2
3.7
3.4
18.2
19.7
17.0
57.8
35.4
15.2
14.5
14.3
15.6
24.2
24.1
24.2
23.0
23.2
23.9
24.5
24.8
23.9
(単位:%)
20~ 25~ 30~ 35~ 40~ 45~
20万
50万 わから
25万 30万 35万 40万 45万 50万
円未満
円以上 ない
円未満 円未満 円未満 円未満 円未満 円未満
4,202 1.9
4.3
8.4
20.6 12.4 14.6
2.5
17.2
18.2
男性
1,856 1.9
5.0
8.5
18.9 11.7 14.3
2.2
17.8
19.7
性
別
女性
2,346 1.9
3.7
8.3
21.9 13.0 14.8
2.8
16.7
17.0
10歳代
83 1.2
6.0
3.6
9.6
8.4
6.0
2.4
4.8
57.8
20歳代
495 2.8
4.2
8.5
15.6
9.1
10.1
1.2
13.1
35.4
年
30歳代
784 1.3
4.7
6.9
22.1 13.6 17.2
2.6
16.5
15.2
齢
40歳代
771 1.0
3.1
9.1
21.1 13.4 16.1
2.3
19.3
14.5
別
50歳代 1,020 1.2
3.6
9.0
21.5 11.7 16.9
3.0
18.8
14.3
60歳代 1,049 3.4
5.2
8.6
21.4 13.3 12.1
2.8
17.5
15.6
生命保険文化センター 平成16年度「生活保障に関する調査」 (平成17年1月発行)
全体
平 均
(万円)
37.9
38.0
37.7
34.8
36.7
38.1
38.6
38.4
37.1
日本学生支援機構の大学奨学生
(JASSO年報、平成17年度)
 平成17年度大学奨学生新規採用数(4年貸与)
第一種 7万4,524人×5万円×4年=149億480万円
第二種 16万1,814人×5万円×4年=323億6,280万円
計
23万6,338人 472億6,760万円
 3年間貸与にした場合
第一種 9万9,365人×5万円×3年=149億480万円
第二種 21万5,752人×5万円×3年=323億6,280万円
計
31万5,117人 472億6,760万円
 4年制から3年制にした場合の増加分78,779人
大卒初任給額及び対前年増減率の推移
男性
千円
(%)
平成元
1989
160.9
5.1
2
1990
169.9
5.6
3
1991
179.4
5.6
4
1992
186.9
4.2
5
1993
190.3
1.8
6
1994
192.4
1.1
7
1995
194.2
0.9
8
1996
193.2
-0.5
9
1997
193.9
0.4
10
1998
195.5
0.8
11
1999
196.6
0.6
12
2000
196.9
0.2
13
2001
198.3
0.7
14
2002
198.5
0.1
15
2003
201.3
1.4
16
2004
198.3
-1.5
17
2005
196.7
-0.8
18
2006
199.8
1.6
賃金構造基本統計調査(厚生労働省)
年
女性
千円
155.6
162.9
172.3
180.1
181.9
184.5
184.0
183.6
186.2
186.3
188.7
187.4
188.6
188.8
192.5
189.5
189.3
190.6
(%)
4.4
4.7
5.8
4.5
1.0
1.4
-0.3
-0.2
1.4
0.1
1.3
-0.7
0.6
0.1
2.0
-1.6
-0.1
0.7
税収の見込額(初任給を195,000円、年収を14.5か月、
税率を10%とした場合の各年の収税額増加分)
億円
1,200.0
1,100.0
1,000.0
卒業者の60%が就職
卒業者の65%が就職
卒業者の70%が就職
900.0
800.0
700.0
600.0
500.0
400.0
300.0
200.0
100.0
2008
2010
2012
2014
2016
2018
2020
2022
2024
2026
2028
2030
2032
2034
2036
2038
2040
2042
2044
2046
2048
2050
2052
2054
2056
2058
0.0
年
結び
 18歳人口は減少し続けるが、進学率が上昇していけ
ば、大学の修学年数を1年短縮することによって、
2025年頃までは年間35万人、2050年頃までは25
万人から30万人の労働人口を1年早く補充できる
 そのことによって、家計への負担が大学生1人につき
150万円程度軽減される
 奨学生を8万人程度増加させることができる
 各年の収税額を2025年頃までは約千億円増加させ
ることができる