急性胆管炎・胆嚢炎の診療 ガイドラインの骨子 聖マリアンナ医科大学 消化器・一般外科 岸 真也,小泉 哲,大坪 毅人 内 容 • ガイドラインの主な改訂点 • 急性胆管炎 治療フローチャート 診断基準 重症度判定基準 • 急性胆嚢炎 治療フローチャート 診断基準 重症度判定基準 2013年に第2版がPublishされました!! 第1版(2005年) 第2版(2013年) ガイドラインの主な改訂点 • 急性胆管炎の診断基準 • 重症度判定基準→特に急性胆嚢炎ではほぼ全面改訂 • 中等症急性胆管炎の搬送基準: 初期治療に反応しない場合に搬送→中等症と判定されれば搬送 • 抗菌薬の選択基準: 市中感染と医療関連感染に分類して,重症度別に推奨抗菌薬を明示 急性胆道炎の診断 ・ 急性胆道炎診断フローチャート 急性胆管炎 急性胆道炎の疑い 診断基準 発熱,悪寒,腹痛,黄疸, 悪心,嘔吐,意識障害 急性胆管炎では, 胆石,胆道疾患の治療歴, 胆管ステント留置などの既往 急性胆嚢炎では, 右季肋部痛,右上腹部の圧痛, 胆嚢触知,Murphy’s sign 急性胆嚢炎 その他の疾患 急性胆道炎の診療 初期治療の 開始 重症度に 応じた治療 急性胆管炎 急性胆嚢炎 重症度判定 急性胆管炎の初期治療: 原則として入院の上,胆道ドレナージ術の施行を前提として,絶食の上で十分な量の輸液, 電解質の補正,抗菌薬投与,鎮痛薬投与を行う. 急性胆嚢炎の初期治療: 原則として入院,絶食の上,手術や緊急ドレナージ術の適応を考慮しながら,十分な輸液と 電解質の補正,鎮痛薬投与,抗菌薬投与を行う. 初期治療 • 原則として入院 • 絶食 • 十分な量の輸液と電解質の補正 • 抗菌薬投与 • 鎮痛薬投与 •急性胆管炎 定 義 胆管内に急性炎症が発症した病態であり,その発生には 1.胆管内に著明に増加した細菌の存在, 2.細菌またはエンドトキシンが血流内に逆流するような胆管内 圧の上昇, の2因子が不可欠となる. 主な改訂点(急性胆管炎) • 診断基準 Charcot 3徴を基本に,その限界を検査所見で補う診断法 → 全身の炎症性所見,胆汁うっ滞所見,胆管病変の画像所見 の3つのポイントによる診断法 • 重症度判定基準 重症(Grade III): 多臓器不全評価スコア(SOFA)の一部を取り入れ. スコア化された. 中等症(Grade II): 評価項目,方法が変更.(白血球数,年齢の追加と 腎機能,血小板数の削除(重症に移動).TBとAlb値 は基準値が変更.必要該当項目数が1→2) • 搬送基準: 中等症は直ちにドレナージ等が可能な施設に搬送 急性胆管炎の治療 ・ 急性胆管炎治療フローチャート 抗菌薬投与 終了 軽症 Grade I 初期治療 (抗菌薬投与など) 胆管 ドレナージ 中等症 Grade II 早期胆管ドレナージ 初期治療 (抗菌薬投与など) 成因が残存している場合 成因に対する治療 (内視鏡的治療, 経皮経肝的治療, 手術) 重症 Grade III 緊急胆管ドレナージ 臓器サポート 抗菌薬投与 抗菌薬投与開始前に血液培養を考慮し,胆管ドレナージの際には胆汁培養を行うべきである. 総胆管結石による軽症例に対しては,胆管ドレナージと同時に成因に対する治療を行ってもよい. 急性胆管炎診断基準 A.全身の炎症所見 A-1.発熱 A-2.炎症反応所見 B.胆汁うっ帯所見 B-1.黄疸 B-2.肝機能検査異常 C.胆管病変の画像所見 C-1.胆管拡張 C-2.胆管炎の成因: 胆管狭窄,胆管結石,ステント,など 疑 診: Aのいずれか+Bのいずれか+Cのいずれかを認めるもの 確 診: Aのいずれか+BもしくはCのいずれかを認めるもの 急性胆管炎診断基準 A.全身の炎症所見 A-1.発熱 A-2.炎症反応所見 BT > 38℃ WBC(/μL) <4,000,or >10,000 CRP(mg/dL) ≧1 B.胆汁うっ帯所見 B-1.黄疸 T-Bil ≧ 2(mg/dL) B-2.肝機能検査異常 ALP (IU),γ-GTP (IU),AST (IU),ALT (IU) >1.5× STD C.胆管病変の画像所見 C-1.胆管拡張 C-2.胆管炎の成因: 胆管狭窄,胆管結石,ステント,など 確 診: Aのいずれか+Bのいずれか+Cのいずれかを認めるもの 疑 診: Aのいずれか+BもしくはCのいずれかを認めるもの 急性胆管炎の重症度分類 ・ Tokyo Guidelines 2013 (TG 13) における重症度の概念 • 重症: 急性胆管炎により臓器障害をきたし,呼吸・循環管理などの集中管理 を要する病態である.Intensive care のもとに,緊急胆道ドレナージを 施行しなければ生命に危機を及ぼす. • 中等症: 臓器障害には陥っていないが,その危険性があり,緊急〜早期の胆道 ドレナージを必要とする. • 軽症: 保存的治療が可能で,待機的に成因検索とその治療(内視鏡的処置, 手術)を行いうる. 急性胆管炎重症度判定基準 重症急性胆管炎(Grade III) 急性胆管炎のうち,以下のいずれかを伴う場合は「重症」である. ・循環障害(ドーパミン≧5μg/kg/min,もしくはノルアドレナリンの使用) ・中枢神経障害(意識障害) ・呼吸機能障害(PaO2/FiO2 比<300) ・腎機能障害(乏尿,もしくは Cr>2.0mg/dL) ・肝機能障害(PT-INR>1.5) ・血液凝固異常(血小板<10万/mm3) 中等症急性胆管炎(Grade II) 初診時に,以下の5項目のうち2つ該当するものがある場合には「中等症」とする. ・WBC >12,000,or<4,000 ・発熱(体温 ≧ 39℃) ・年齢(75歳以上) ・黄疸(総ビリルビン≧ 5mg/dL) ・アルブミン(<健常値上限 × 0.73g/dL) 上記項目に該当しないが,初期治療に反応しなかった急性胆管炎も「中等症」とする. 軽症急性胆管炎(Grade I) 急性胆管炎のうち,「中等症」,「重症」の基準を満たさないものを「軽症」とする 急性胆管炎と診断後,診断から24時間以内,および24〜48時間のそ れぞれの時間帯で,重症度判定基準を用いて重症度を繰り返し評価する. ※ 重症(Grade III) 以下のいずれかを伴う場合は「重症 Grade III」である. ・ 循環障害 (ドーパミン≧5μg/kg/min, もしくはノルアドレナリンの使用) ・ 中枢神経障害 (意識障害) ・ 呼吸機能障害 (PaO2/FiO2 比<300) ・ 腎機能障害 (乏尿,もしくは Cr>2.0mg/dL) ・ 肝機能障害 (PT-INR>1.5) ・ 血液凝固異常 (血小板<10万/mm3) 中等症(Grade II) 以下の5項目のうち2つ該当する場合は「中等症 Grade II」である. ・ WBC >12,000,or<4,000 ・ 発熱 (体温 ≧ 39℃) ・ 年齢 (75歳以上) ・ 黄疸 (総ビリルビン≧ 5mg/dL) ・ アルブミン <健常値下限 × 0.73g/dL 加えて, ・ 初期治療に反応しなかった急性胆管炎も中等症とする. 急性胆管炎の治療 ・ 急性胆管炎治療フローチャート 抗菌薬投与 終了 軽症 Grade I 初期治療 (抗菌薬投与など) 胆管 ドレナージ 中等症 Grade II 早期胆管ドレナージ 初期治療 (抗菌薬投与など) 成因が残存している場合 成因に対する治療 (内視鏡的治療, 経皮経肝的治療, 手術) 重症 Grade III 緊急胆管ドレナージ 臓器サポート 抗菌薬投与 抗菌薬投与開始前に血液培養を考慮し,胆管ドレナージの際には胆汁培養を行うべきである. 総胆管結石による軽症例に対しては,胆管ドレナージと同時に成因に対する治療を行ってもよい. •急性胆嚢炎 定 義 定義: 胆嚢に生じた急性の炎症性疾患.多くは胆石に起因する が,胆嚢の血行障害,化学的な傷害,細菌,原虫,寄生虫 などの感染,また膠原病,アレルギー反応など発症に関与 する要因は多彩である. 成因: 胆嚢管閉塞(原因の90~95%が胆嚢結石) 機序: 胆嚢内胆汁うっ滞,胆嚢粘膜障害,炎症性メディエーター 活性化 主な改訂点(急性胆嚢炎) • 診断基準 大きな変更なし • 重症度判定基準 ⇒ ほぼ全面改訂 重症: 呼吸・循環管理などの集中管理を要する病態に限定し,胆管 炎と同様のスコア化. 中等症: 重篤な局所合併症を伴い,臓器障害に陥る危険性のある病 態に限定. • 治療フローチャート 「軽症例では早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術が第一選択の治療」となった. 急性胆嚢炎の治療 ・ 急性胆嚢炎治療フローチャート 急性胆嚢炎は原則として胆嚢摘出術の適応である. ただし,ドレナージで軽快した無石胆嚢炎では必須ではない. 軽症 Grade I 中等症 Grade II 初期治療 (抗菌薬投与など) 経過観察 早期 腹腔鏡下胆嚢摘出術 高度の内視鏡 外科技術を 有する場合 初期治療 (抗菌薬投与など) 緊急手術 反応あり 反応なし 重症 Grade III 抗菌薬投与 臓器サポート 抗菌薬投与開始前に血液培養を考慮 胆嚢ドレナージの際には胆汁培養 緊急 / 早期 胆嚢ドレナージ PTGBD,PTGBA,ENGBD, EGBS,EUS-GBDなど 待機的 腹腔鏡下 胆嚢摘出術 急性胆嚢炎診断基準 A.局所の臨床徴候 A-1.Murphy’s sign A-2.右上腹部の腫瘤触知・自発痛・圧痛 B.全身の炎症所見 B-1.発熱 B-2.CRP 値の上昇 (目安:3mg/dL以上) B-3.白血球数の上昇 (目安:10,000 /mm3 以上) C.急性胆嚢炎の特徴的画像検査所見 超音波検査: 胆嚢腫大(長軸径>8cm,短軸径>4cm),胆嚢壁肥厚(>4mm), 嵌頓胆嚢結石,デブリエコー,sonograhic Murphy’s sign,胆嚢周囲浸出液貯留, 胆嚢壁sonolucent layer,不整な多層構造を呈する低エコー帯,ドプラシグナル. CT: 胆嚢壁肥厚,胆嚢周囲浸出液貯留,胆嚢腫大,胆嚢周囲脂肪織内の線状高吸収域. MRI: 胆嚢結石,pericholecystic high signal,胆嚢腫大,胆嚢壁肥厚. 確 診: Aのいずれか+Bのいずれか+Cのいずれかを認めるもの 疑 診: Aのいずれか+Bのいずれかを認めるもの 注)ただし,急性肝炎や他の急性腹症,慢性胆嚢炎が除外できるものとする. 急性胆嚢炎の重症度分類 ・ Tokyo Guidelines 2013 (TG 13) における重症度の概念 • 重症: 急性胆嚢炎により臓器障害をきたし,呼吸・循環管理などの集中管理 を要する病態である.Intensive care のもとに,緊急胆嚢摘出術や緊急 胆嚢ドレナージを施行しなければ生命に危機を及ぼす. • 中等症: 臓器障害には陥っていないが,その危険性があり,重篤な局所合併症 を伴い,速やかに胆嚢摘出術や胆嚢ドレナージを要する. • 軽症: 上記以外の急性胆嚢炎. 急性胆嚢炎重症度判定基準 重症急性胆嚢炎(Grade III) 急性胆嚢炎のうち,以下のいずれかを伴う場合は「重症」である. ・循環障害(ドーパミン≧5μg/kg/min,もしくはノルアドレナリンの使用) ・中枢神経障害(意識障害) ・呼吸機能障害(PaO2/FiO2 比<300) ・腎機能障害(乏尿,もしくは Cr>2.0mg/dL) ・肝機能障害(PT-INR>1.5) ・血液凝固異常(血小板<10万/mm3) 中等症急性胆管炎(Grade II) 急性胆嚢炎のうち,以下のいずれかを伴う場合は「中等症」である. ・白血球数 >18,000/mm3 ・右季肋部の有痛性腫瘤触知 ・症状出現後72時間以上の症状の持続 ・顕著な局所炎症所見(壊疽性胆嚢炎,胆嚢周囲膿瘍,肝膿瘍,胆汁性腹膜炎, 気腫性胆嚢炎などを示唆する所見) 軽症急性胆管炎(Grade I) 急性胆嚢炎のうち,「中等症」,「重症」の基準を満たさないものを「軽症」とする. ※ 急性胆嚢炎と診断後,ただちに重症度判定を用いて重症度判定を行う. 非手術治療を選択した場合,重症度判定基準を用いて24時間以内に2回目 の重症度を判定し,以後は適宜,判定を繰り返す. 重症(Grade III) 以下のいずれかを伴う場合は「重症 Grade III」である. ・ 循環障害 (ドーパミン≧5μg/kg/min, もしくはノルアドレナリンの使用) ・ 中枢神経障害 (意識障害) ・ 呼吸機能障害 (PaO2/FiO2 比<300) ・ 腎機能障害 (乏尿,もしくは Cr>2.0mg/dL) ・ 肝機能障害 (PT-INR>1.5) ・ 血液凝固異常 (血小板<10万/mm3) 中等症(Grade II) 以下のいずれかを伴う場合は「中等症胆嚢炎 Grade II」である. ・ 白血球数 >18,000/mm3 ・ 右季肋部の有痛性腫瘤触知 ・ 症状出現後72時間以上の症状の持続 ・ 顕著な局所炎症所見 (壊疽性胆嚢炎,胆嚢周囲膿瘍,肝膿瘍, 胆汁性腹膜炎,気腫性胆嚢炎などを示唆する所見) 旧基準(第1版) 急性胆嚢炎の治療 ・ 急性胆嚢炎治療フローチャート 急性胆嚢炎は原則として胆嚢摘出術の適応である. ただし,ドレナージで軽快した無石胆嚢炎では必須ではない. 軽症 Grade I 中等症 Grade II 初期治療 (抗菌薬投与など) 経過観察 早期 腹腔鏡下胆嚢摘出術 高度の内視鏡 外科技術を 有する場合 初期治療 (抗菌薬投与など) 緊急手術 反応あり 反応なし 重症 Grade III 抗菌薬投与 臓器サポート 抗菌薬投与開始前に血液培養を考慮 胆嚢ドレナージの際には胆汁培養 緊急 / 早期 胆嚢ドレナージ PTGBD,PTGBA,ENGBD, EGBS,EUS-GBDなど 待機的 腹腔鏡下 胆嚢摘出術 推奨抗菌薬 医療関連感染 市中感染 Grade I 重症度 抗菌薬 ペニシリン ABPC/SBT+AGs CEZ CTM CTX CTRX セファロス (CXM) ±MNZ, CMZ, FMOX, リン系 CPZ/SBT カルバペネ (ETPM) ム系 モノバクタ 推奨なし 系 CPFX LVFX PZFX ニューキノ ±MNZ, ン系 (MFLX) Grade II Grade III PIPC/TAZ PIPC/TAZ PIPC/TAZ CTRX CTX CFPM CZOP CAZ CFPM CAZ CZOP CFPM CAZ CZOP ±MNZ, ±MNZ ±MNZ CPZ/SBT IPM/CS, MEPM, IPM/CS, MEPM, (ETPM) DRPM DRPM 推奨なし CPFX LVFX PZFX ±MNZ, (MFLX) AZT±MNZ AZT±MNZ 推奨抗菌薬,まとめると… • 軽症 Grade I: セフェム1~3世代など セファメジン,パンスポリン,セフメタゾン,フルマリン,クラフォラン, ロセフィン,スルペラゾン,ユナシン+AGs • 中等症 Grade II: セフェム3~4世代など ロセフィン,クラフォラン,マキシピーム,ファーストシン,モダシン, スルペラゾン,ゾシン • 重症 Grade III および医療関連感染: カルバペネムまで マキシピーム,ファーストシン,モダシン,ゾシン, チエナム,メロペン,ドリペネム 覚えておくべき重要な点 • 診断基準 胆管炎… 全身所見 ・ 胆汁うっ滞所見 + 画像 胆嚢炎… 局所所見 ・ 全身所見 + 画像 • 重症度判定基準 重症(Grade III) …共通のスコア 中等症(Grade II) …胆管炎,胆嚢炎それぞれのスコア • 治療フローチャート 症 例 • 51歳,女性 • 主 訴: 右季肋部痛 • 既往歴: 5年前に胃癌で手術(胃全摘) • 現病歴: 一昨日より右季肋部痛が出現.徐々に痛みが増してきた ため,来院.発熱はなし. • 理学所見: 右季肋部に圧痛を認め,Murphy’s sign も陽性であった. • 血液検査成績: WBC 13,700 血小板数 14.7万 Alb 3.4 Cr 0.6 T-Bil 0.6 AST 20 ALT 13 γ-GTP 16 AMY 45 CRP 3.2 画 像 手術所見 急性壊疽性胆嚢炎(中等症 Grade II) (第1版では重症に分類) 症 例 2 • 68歳,女性 • 既往歴: 特になし • 現病歴: 腹痛を主訴に来院.13年前から時々食後に上腹部痛があった. 前日の夕食後にも腹痛があった.来院時体温は37.4℃. • 右季肋部に圧痛を伴う腫瘤を触知し,WBC 12,500 CRP 5.8 症 例 2 • 68歳,女性 • 既往歴: 特になし • 現病歴: 腹痛を主訴に来院.13年前から時々食後に上腹部痛があった. 前日の夕食後にも腹痛があった.来院時体温は37.4℃. • 右季肋部に圧痛を伴う腫瘤を触知し,WBC 12,500 CRP 5.8 急性胆嚢炎 軽症(Grade I) (第1版では中等症に分類)
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